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集合会食編

その場には全員がいた。

全員とはどのようなメンバーか。


プロ野球選手のOB、現役プロ野球選手、有名著名人、小中高生時代の学校の先生、友達、あずきバーさん、コーヒーレディ、地元のパチ屋の客、近所の大人、親戚、などなど俺の人生にかかわったと思わしき人物達が、全員この集合会食に出席していた。


多くの人が集まる中、今日は人生で唯一その人のための日というような、人生の答え合わせとなる特別な日であった。


その特別な日の主役となってしまったのが、何を隠そう俺ワトソンであり、渡辺祐樹である。


俺は全てを知られる事。


知る事を恐れた。


今までの人生。


自分の人生が。


いったい何の陰謀で周囲が動いていて。


何の目的で組織が自分を尾行していたのか。


自分には周りがどう見えていたのか。


周りには自分がどう見えていたのか。


それを自分も周りもお互いが確認しあう、言わば最後の『人生の答え合わせ』が今日の集合会食なのである。


渡辺祐樹に見えていたもの。


見せられていたもの。


その全ての視点の思いや思惑が今日、この集合会食によって明らかになる。


皆の衆は、小上がりの大広場に集まり、俺はその大広場のまさに中心の壁際に位置するテーブルに座り、マスクやアイマスクをして、耳を塞いで、あらゆる情報が入ってこないように、感覚器官を遮断していた。


そうして待っていると。


一同がその小上がりの大広場のテーブルに座り、その中でワトソンをよく思わない高専時代の友人島谷が席につくなり、怪訝な表情で、怒りを露わに、俺にこう言った。


「おい、渡辺。アイマスク、はずせ、喋れ」


一同がワトソンに注目する。


無理もない。


誰もがわかっている。


オレ自身も感じている。


今日の会食が誰のために用意されたのかを。


周りは俺以上に、周りの動きをわかっている。


みんなは社会の情勢を。


この用意された茶番を。


しかし、その本当の最後の答えを知らない。


最後の答えは、俺の中にあるからだ。


憤る島谷に俺は無言のノーリアクションを貫く。


その心理は。


行動は危険。


動作は危険。


情報を与えてしまう。


今まで守ってきたいくつもの事。


その全てを失ってしまうからだ。


すでにDTフィールドは解除してしまったし、その影響もあってか、あずきさんコヒレを始めとする綺麗な女性や、ワトソンとワンナイト希望の女性、不倫浮気希望の女性、ワトソンを彼氏にしたい可愛い女の子達が、ワトソンの事を知るために、その発言全てに大注目しているのだ。


俺は今まで、そういう女性の存在をずっと避けて生きてきた。


女の子からしたら、ワトソンという男は、いつになったらこの男女の社会生活のレールに参加するのか、それをずっと注目してきたようだ。


島谷はその事実にも、大きく苛立っていた。


島谷が学生告白した事がある女性、沙織もワトソンのことが気になっていて。


恋仇でもあるし。


小学校時代島谷はスポーツでやっていた空手でいつも渡辺祐樹に負けていた。


島谷は全てにおいてまじめである。


なのに渡辺祐樹という男は。


真面目にやっている時では、島谷に負けたことは一度もなく、高専時代の勉強では島谷に勝ったことはなかったが、不真面目の勉強もせず、最下位ばかりとっていた。


なのになのに。


島谷は言う。


「こいつはいつもズルいやつなんだ。


こいつはいつも本気じゃない


こいつの本気に俺は勝ったことがない


俺がこいつに勝てることで、こいつは本気になったことがない。


女性人気、運動競技、どれも俺はこいつに勝ったことがない。


それにこいつは、いつもズルく自分を隠す。


その癖人のことは聞きまくり丸裸にする。


全然フェアじゃない俺はお前を許さない」


怒りがおさまらない島谷はそう言い放つ。


俺はそこでマスクを少しずらし、言う。


「なに言ってるんだよ。俺ってオープンだったじゃん。俺あれだけ弱かったカープを一途に応援してたじゃん。めっちゃオープンにカープファンやってたじゃん」


それに対し島谷は言う。


「いやいや違う違う。お前は決まったポイントどころだけオープンで、秘密主義だった。お前は実はクラスのイケメンの保東や島以上にモテていたことを、お前は知らない」


俺は返す。


「モテていた? 俺が? 秘密主義?」


周囲の女子が言う。


島谷を振った沙織が。


「渡辺くんは、全然わからなかった。どういう人か。カープの情報だけで。」


その他の女子が。


「そうだよね。渡辺さん全然流行り物とかの話しないし、でも自分の晒せる好きなものだけは、カープのことしか言ってくれなかった」


すると学校の女性教諭佐藤先生が、

「みんな本当に好きなことを話たいけど、それが周囲の認知度からかけ離れてたら、素直になれないものなのよ。渡辺くんだけは、ある意味本当の自分を出しつつ、かつ、本物自分を隠してた最も魅力的で自分らしい生き方をしてたのよ」


そこで島谷は言う。


「そしてコイツはオタクを軽蔑していた。コイツもオタクなのに。コイツは世間が涼宮ハルヒの憂鬱一直線の時代の中で、コイツだけは時代に逆行していやがった。」


他の可愛いクラスの女の子も


「そうだよ。流行り物はみないのに、それの感想も情報も言わないのに、自分だけ本当に好きなもののことを語って生きてるなんて。それに、本当はどういう人なのかわからないし。だからズルいよ」


口々に多く女性が、ブーイングのように、ワトソンはズルいだとか、秘密主義だとか、本当の渡辺くんを知りたいとばかり言ってくる。


そこで俺が。


「俺は秘密主義なんかじゃないぞ」


すると高専時代の仲の良かった友達小野健太が、笑いながら


「ワトソンは、ぶっちゃけ、秘密主義だったよ」


他の男子も


「そうそう渡辺は秘密主義だった。人にものを聞く癖に、自分のこと全然話さなかった」


俺はそこでふと過去を思い返す。


自分という人間。


人間性を。


俺は確かに本当の自分をさらけ出して生きて来なかった気がする。


自分の中で、何か自分は特別であり、周囲との差異を意識し周りに合わせないで、自分勝手に生きていたかもしれない。


渡辺祐樹という男がどんな男なのか。


渡辺祐樹がどんな曲が好きなのか。


渡辺祐樹がどんなアニメが好きなのか。


渡辺祐樹という男の本当の姿はどんなものなのか。


何年も一緒にいたはずのクラスの女子ですら、渡辺祐樹という男がどういう人物なのかを掴むことが出来ていない、そういう現実が存在しているのだ。


島谷は言う。


「いい加減そのアイマスクをとれ。そして饒舌に喋れ。語れ。自分を曝け出せ」


すると女性陣達が


「そうだよ。渡辺くんのことみんな知りたいんだよ。ずるっこしないで教えてよ」


しかし俺は。


「・・・・・・」


ここで無言を貫く。


もしここで言葉を発してしまったら、今までの生存戦略で積み重ね自分を保ってきた全てを失ってしまうと思ったからだ。


そこで渡辺祐樹の兄渡辺耕平が言葉を挟む。


「だいたいみんな祐樹を秘密主義とか言ってて、ズルいとか言ってるけどさ、コイツにはコイツなりの我慢があるんだよ」


島谷が言う。


「我慢ってなんだよ」


渡辺耕平は言う。

「まず流行りに乗れないこと。世間で騒いでいる作品は全部駄目。お父さんの教育で『流行り物に乗るな』って言われて育っているから、それらに手を出せない我慢があるんだよ」


島谷が言う。

「それがコイツなりの我慢だと。」


渡辺耕平は言う。

「秘密主義で魅力的で美味しいどこ取りしているって言うけど、本当に美味しい所をあえて食べないのも、本当に美味しい所だけ食べるのも、結局一緒で、みんな開示する情報ポイントが違ってて、コイツだけは、凄く我慢しなきゃいけない、少数派の生き方をしていただけで、ズルいって言うのは違う話だと思うぞ」


誰よりも弟のことを理解している兄渡辺耕平の発言にみんな思わず納得してしまう。


可愛い女性陣達が。

「なるほど渡辺くん我慢しているんだ」


「なんか納得しちゃうな」


するとコヒレが

「我慢って、この子本当にこの年にもなって童貞なの?」


それに、小上がりとは別のテーブル席に座っていた女性あずきバーさんが口を挟もうとするが。


俺が慌てながら。

「ああーーーーーーーー言わないでーーーーーー」


と耳を塞ぐ中。


「その男は、本物の童貞よ」


まるで、全ての核心をつくかのように、あずきさんの容赦のない一言。


その言葉を聞いて、一気に俄然テンションが上がるコヒレと可愛い女の子の面々。


「嘘でしょー!? こんな可愛い男の子がまだ童貞なのー!」


「いいなぁ童貞食いたい」


「ワトソンくんの童貞欲しい」


そこでさらにあずきさんが、

「だってその子泌尿器科へ行った記録なかったもん」


とベテランが知る経験の中の、確かな情報とばかりに語るあずきバーさん。


「うう・・・・・」


たじろぐ俺。


うろたえる俺。


すると島谷は許さないとばかりに続ける。


「コイツはこのカワメンの童貞力を使って、女の子を引き寄せて置きながら、何もしないで逃げるっていうあり得ない羨ましいことばかりしていきてきた。俺は、ちゃんと勉強して就職して、出世して、お金稼いで、お金持ちになれば、コイツに勝てると思って社会人になって生活してきた。そんな時コイツは病気になって、ざまぁみろって思ったら、今度はコイツはパチスロで生活して、周囲の女性を釘付けにして、パチ屋の集客にも貢献して、そんなことしてまた貢献してるかと思いきや、今度はパチプロを辞めて奇怪な行動をとってパチ屋の駐車場を掃除したり、夜中パチ屋周辺の草むらで寝たり、夜のヤマダ電機の周辺を徘徊したりして、本当わけわかんねーよって思ってたら、最後は警察に捕まってざまぁー、コイツは金も社会的地位も全て失ったと思って優越感に浸ってたら、その矢先、俺は気づいて確信したけど、留置所の警察の取り調べの時には、金の概念消してやがった。じゃなきゃ、あんなリアクションは取れない」


すると小上がりの別席の鏡貴也先生が、


「ああー君もやっちゃったか~。まぁ知ってたけど、お金シュレッダーでスーパースターになる瞬間。あれやると脊髄変わったでしょ」


俺は鏡先生に

「そうですね。はい」


すると島谷が。

「そうですね。はい。じゃねーよ。なんでそんなことが出来るんだよ。理解出来ねーよ」


その場にいたフルメタル・パニック作者賀東招二先生が。


「まぁ一般人からしたら凄まじい所を通過したように、見えるけど、ソイツからしたら、それをしたい気持ちが通過したんだからどうしてもなにも、別に良いんじゃね? それより早く焼肉食おうぜ」


なんてことを淡々と言う。


島谷はさらに。


「とにかく今日は喋れ。自分を語れ。お前が金の概念を消したせいで、俺の完全勝利もあり得なくなったこんなしがないサラリーマンにも納得出来るように、全てを語って貰うからな。」


そんなことを言う。


「・・・・・」


だが俺は何も語らない。


組織の人間も。


その情報を必要としている周囲の人間も。


おそらくここにいるだろう。


会話は危険。


情報は危険。


そう考える俺は中々言葉を発しない。


すると島谷は。


最後の最終兵器とばかりに。


「お前が喋らないのなら、お前の人間性が絶対に垣間見える手段を取ってやるよ。おい、秋山、池田。お前ら二人で本音で喋って見ろよ」


そんなことを言い出す。


秋山と池田は高専時代の同僚だ。


俺は少しまずいと思った。


秋山は人は騙すし、人に嫌われているし、本音しか言わない。


池田は思いやりもあるし、周りに上手に合わせて世間をうまく渡れるタイプ。


同じグループとして行動してきた俺たちだったけど、本当は二人は馬が合わないはずの二人だった。


同じグループのもう一人の小野健太が。


「ワトソンはただ優しいだけだよ。それに」


そこで言葉を止める。


池田と秋山がお互い気に食わないことを、ワトソンが今後社会生活に入ってこれるようにと、本気で話す。


俺はそこで思う。


二人は俺のためにきっとこれから本音で話すんだ。


その目的はなんとなくわかっていたが、それをするとどうなるか、それを自分ではわかっているようで、わかっていなかった。


秋山が。

「池田お前みんなでマック食い行ったときお金勿体ないからってマックポークと水頼んでたの忘れないからな」


池田が言う。

「それのどこが悪いんだよ言ってみろよ」


普段二人は双方間で実は本音で話したことがなかった。


それには理由があった。


その理由はワトソンの中にあった。


二人が本音で話すとどうなるか。


それは。


実は。


いがみ合いに殴り合いを始める池田と秋山


誰かが言う。


「これってキレてるの?」


すると苦笑いの表情で渡辺耕平が。


「ガチでキレてる」


頷く。


すると。


小野を始めとする一同が。


「実は、、、、、、この二人が本音で話して殴り合いなると、、、、、ワトソンは、、、、、、、、、」


そこで。


言葉を止める。


その答えはわかっていた。


すると小野と一同が

「泣くんですよぉー!」


声を合わせて言ってくる。


二人が殴りあっている。


学生時代仲が良かった二人が。


俺は耐えられなかった。


二人が殴り合っていることに。


俺は辞めてくれと思いながら涙を流す。


涙は止まらない。


本当に凄い勢いで流れ出してきて。


二人が激しく殴り合えばあうほどに。


自分の胸も苦しくなる。


すると。


多くの女性陣が。


「すごーい渡辺くん泣いてるとこ初めて見たー」


あずきさんが。


「私は泣いた所見たことあるけどね」


そこであの曲が店内でかかる。


西野カナの「あなたの好きなところ」が流れてくる。


いつも一生懸命なとこ、意外と男らしいとこ


友達思いなとこ、トマトが嫌いなとこ


たまに馬鹿なとこ


それはまるで狙いすました西野カナのように、曲は流れてくる。


その曲を聞いて。


その目の前で殴り合いの喧嘩する池田と秋山を見て。


涙がやはり止まらなくなる。


そんなワトソンを見て。


コヒレの女の子の面々は、


「ワトソンくんってとっても友達思いなんだね」


小野は説明する。


「ワトソンがいたからいつも、池田や秋山は喧嘩せずに済んでたんだよ。ワトソンが友達を友達同士に繋ぎとめてたんだよ」


そんな事を言う。


ひとしきり殴り合いは終わり。


秋山と池田はようやく本音を語り合ったと満足げになる。


そして最後にコヒレと女の子達が壁際に座るワトソンを取り囲むように集まり。


コヒレが。

「私渡辺さん泣いてるところ初めて見ました。渡辺さんいつも人間的な素の部分を見せてくれないんだもの」


他の女の子が。

「私も渡辺さんこんな優しくて、友達思いだなんて知らなかったです。知れて安心しました。嬉しいです」


その後も多くの女の子達がワトソンを取り囲みアピール合戦。


すると、クラスの男子の誰かが。


「ワトソン今、すごい孤独な感覚しない?」


俺は答える。


「する」


「それって誰かを抱きたいって感覚じゃない? 抱きたい感覚なんだよ間違いなく」


言われて見ればそうかもしれないと思い。


そのクラスの男が。


「誰か抱いていけばいいよ」


そういってこのあとなんとワトソンを含めた合コンがセッティングされることになり。


その男が指揮をとって。


「はい、合コン出たい人?」


と募集を募るが


内心俺は思った。


こういう普通な人が参加するような晒し上げの行事にあずきさんはまず出席することはない。


断言出来る。


そう心の中で思った瞬間。


別テーブルに座っていたあずきバーさんが、なんと元気の挙手して参加の意向を示すのであった。

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