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企画参加作品(ホラー抜き)

シッポのないネコ

作者: keikato
掲載日:2023/12/16

 学校から帰ると、いつものように台所から、お母さんのあいさつがわりの声がとんできた。

「宿題、早くすませなさいよー」

「わかってるよ」

 恵太もいつもの返事を返す。

 五時から毎週みているアニメがあるので、それまでに宿題を終わらせるつもりだった。


 恵太はさっそく居間のコタツで宿題を始めた。

「テレビみながらじゃ、ダメよー」

 いつものようにお母さんの追いうちがきた。

「わかってるって」

 いつもの返事をする。

 と、そのとき。

 タマが居間にやってきて、テレビのリモコンでじゃれ始めた。

 これもいつものことである。そしてこれまたいつものように、テレビが大声でしゃべり始める。

 すぐさま、お母さんが居間にやってきた。

「どうしていつもこうなの。約束でしょ! 勉強しながらテレビはみないって」

「テレビ、タマがつけたんだよ」

「なにバカなこと言ってんのよ。タマがテレビみるわけないでしょ」

「だって、ほんとのことなんだからね」

「いいわけばかりして。さっさと自分の部屋でやんなさい」

 お母さんは信じてくれない。

 テレビを消して、さっさと台所にもどっていった。

――ほんとにみるんだから……。

 これまで何度も、そんなタマを見ている。だからタマのことを、まったくネコらしくないヤツだと思っていた。

 そのタマはコタツの横で丸くなっている。知らんふりを決めこんでいるようだ。

――眠ったふりをしやがって。

 けりとばしたい気持ちをこらえ、恵太は二階の自分の部屋に行った。

 勉強をやる気がまったくしない。

 恵太は宿題をほうってベッドに寝転がった。


 三カ月ほど前のことだった。

「ほら、見て! 買い物の帰りに、ネコがついてきちゃったの」

 お母さんの足にまとわりつくネコ……タマに、恵太はそのとき初めて出会った。

 タマは白と黒のまだらもよう。そこらのネコに比べると頭がずいぶん大きい。

 で、どうしてだかシッポがなかった。

「ねえ、お母さん。このネコ、シッポがないよ」

「あら、ほんとだわ」

 シッポのないネコは、お母さんの足にじゃれついていた。どことなくいやに人なつっこい。

 お母さんは大のネコ好きときている。

 さっそく家で飼うことになり、タマという名前をつけた。すごいかわいがりようである。

 ところがだ。

 タマはかげでいたずらばかりする。そのせいで恵太に、いつもとばっちりがかかった。

 まったく気にくわないネコだったのだ。

――タマのヤツめ。

 思い出すほど腹が立ってくる。

――とっちめる方法はないもんかな。

 あれこれ考えていると、そのタマがのこのこ部屋に入ってきた。

――なにをする気だろう?

 恵太は眠ったふりをしていた。

 タマは壁のカレンダーに向かって座った。なぜだか今日はみょうにおとなしい。

 と、そのとき、

「買い物に行ってくるんで、留守番、お願いねー」

 玄関からお母さんの声がした。

 お母さんがいなくなる。

 タマをとっちめてやる絶好のチャンスだ。

――じっとしてろよ。

 恵太はそうっとベッドからおりた。

 それからお道具箱の袋をつかんで口を大きく広げると、うしろからタマの頭めがけて一気にかぶせた。

 タマがすっぽり袋の中に入る。

――やったぞ!

 恵太は袋を下げて庭に出た。

 倉庫に閉じ込めてやるのだ。

 袋の中では、タマがニャーニャー鳴いている。


 倉庫の戸を開けようとしたときだった。

 なにかが背中に飛びかかってきて、恵太はおもわず前につんのめった。そしてそのまま、倉庫のかどにしこたま頭をぶつけた。

――いたっ!

 意識がうすらぐなか、恵太はタマとはちがうネコを見た。

 その猫もやはりシッポがなかった。


 恵太はなにやら話し声のようなもので気がついた。

「おっ、いま動いたぞ」

 また声が聞こえる。

 恵太が目を開けると、まわりに十匹ほどのネコの姿が見えた。

 どのネコもシッポがなく、しかも二本足で立っている。そして、そこにはタマもいた。

 タマが顔をのぞきこんでくる。

「おお、やっと気がついたな」

 タマがしゃべった。

 ネコのタマが口をきいた。

 恵太はあわてて起き上がろうとしたが、ベルトでベッドにしばりつけられていて、手も足もまったく動かせない。

 なぜか声も出ない。

――夢なんだ。

 恵太は夢を見ているのだと思った。

「目をさましたようです」

 タマが振り向いて言った。

「そのようだな」

 まっ黒なネコがうなずく。

 黒ネコは恵太のそばにやってきて、タマに向かって命令した。

「ジュン、起こしてやりたまえ」

 ジュンと呼ばれたタマがうなずき、それからベッドについたスイッチを押した。

 恵太はベッドごと起き上がった。

 黒ネコが恵太に向かって言う。

「ここは君のいる時代から、三百万年もあとの地球なんだよ。君にとっては未来になる」

 いきなりそんなことを言われたって……しかも、そう言ったのはネコなのだ。

――夢だ、これは夢なんだ。

 恵太はあいかわらず夢の中だと思っていた。

 正面の壁が明るくなり、そこに山や海の風景が映し出された。

「これは今の地球だよ。どうだい、君らの時代とそっくりだろう。ちがうのはこれからだ」

 風景が町に変わった。

 人間の姿がまったく見られない。かわりに二本足で歩く、シッポのないたくさんのネコがいる。

 そこは人間とネコがそっくり入れかわった、ネコの町のようだった。

「どうしてここにいるのか、知りたいだろう。ただその前に見てもらいたいものがある」

 黒ネコが手を上げた。

 四匹のネコが部屋から出ていき、それからすぐに大きなガラスケースが運びこまれる。

 それには人間の骨の標本が入っていた。

――あんなのにされてしまうんだ。

 恵太はおもわず息をのんだ。

 手足がかってにブルブルふるえてくる。

「こわがることはない。これは化石だよ」

 黒ネコがスティックを使い、骨の標本をさしながら説明を始めた。

「これと同じ化石が、三百万年前の地層から大量に発見されたんだ。ところがね、この化石にはシッポの骨がないんだよ。このことは当時の地球に、われわれ同様、シッポのない動物がいたということになる」

 黒ネコはここまで話すと、ふたたび部下たちに向かって指示を出した。

 ガラスケースが片付けられ、銀色の丸い物体が運びこまれてきた。それは車のようにも飛行機のようにも見えた。

 黒ネコが話の続きを始める。

「そこでね、このタイムマシンを使って調査をすることにしたんだよ。ただしこの場合、非常に注意をしなければならないことがある。それは過去があってこそ現在があるということだ。ヘタをすれば、今のわたしたちを滅ぼしかねないことになるからね」

 黒ネコはここまで話すとひと息ついた。

――たぶんタマをいじめたんで、こんなへんてこな夢を見るんだ。

 恵太は夢のせいにしたかった。

 けれど、夢にしてはあまりになまなましい。黒ネコの声もしっかり耳にひびく。

――夢じゃないんだろうか?

 目でタマを探した。

 タマは銀色の物体のそばに立って、こちらをじっと見ていた。

「われわれは、ここにいるジュン、いや失礼。君にとってはタマという名前だったな」

 黒ネコがタマを見やる。

 それにこたえるようにタマは小さくうなずいた。

「かれを調査団の代表として、三百万年前の地球に送りこんだんだよ。この続きは、実際に調査に行ったジュンから話してもらおう」

 黒ネコはここまでしゃべると、長いひげをゆっくりとなでた。

 タマが前に進み出る。

「おどろいたよ。ボクらと君たちがそっくり入れかわっていたからね。そしてすぐに、化石の正体が君たちだってわかったんだ。君たちにもシッポがなかったからね。

 ボクは町の中を歩いているうちに、もっとおどろくことに出あったよ。それは三百万年前にも、ボクらの祖先がいたことだ。

 調査を始めると、ボクらの祖先は君たちのペットになっていた。で、それを利用して、ボクは君の家に入りこんだというわけだ。

 たいそう都合がよかったよ。

 なんといっても食べ物にこまらない。それにいろんなことがテレビでわかるからね。

 ところがボクは、ひとつ大きなミスをおかしてしまったんだ。君をまだ子供だと思って、あまく見すぎていたんだよ。そしてそのことが、君をひどくおこらせることになってしまった。

 でもまさか、あんなことをするとは思いもしなかったけど……。

 あの日、君はボクを袋に入れて、倉庫に閉じこめようとしたね。

 ところがあの日は、仲間がボクを迎えに来る日だったんだ。だから君に、最後の別れをしようと……」

 タマは一気にここまで話すと、淋しそうな表情を浮かべた。

「それがあんなことになって。仲間は姿を見られてしまうし、ボクは以前から君に疑われていた。ヘタをすれば、正体を知った君が過去を変えないともかぎらないだろ。

 そこでね。やむなくここへ連れてきて、君の記憶の一部を消すことにしたんだ。君にはとてもすまないと思ってるよ」

 話し終わると、タマは深いため息をついた。

――夢じゃないんだ。

 タマを袋に入れる。

 それは恵太が現実にしたことである。

 目の前で起きていること。

 それが恵太には、ここにきて本当のことに思えてきた。さらに記憶が消されるという。

「心配しなくていい。記憶はほんの一部を消すだけだからね。それが終われば、君は三百万年前にもどることになる」

 だから安心したまえと言って、黒ネコは部下に向かって手を上げた。

 部下のネコたちが、あわただしくベッドのまわりを動き始める。

「最後にひとつ。今の地球に、どうして人間がいないかということだがね。実を言うと、まだわれわれにもわかっていないんだよ。ただ三百万年前、地球上からとつぜん消えたということだ。おそらく君たち人間に、なにか良くないことが起きたんだろうな」

 ベッドが倒れる。

 恵太はふたたび横になった。

「スイッチ、オン」

 黒ネコの声が聞こえる。

「さようなら。元気で!」

 タマの声を聞きながら、恵太の意識は少しずつうすれていった。


 恵太はお母さんの声で気がついた。

「ねえ。タマ、見なかった?」

 お母さんが部屋をのぞいている。

「知らないよ」

「そう、どこに行ったのかしら?」

 首をかしげ、お母さんは階段を降りていった。

 もうすぐ五時。

 いつもみているアニメが始まる。

 外では……。

 タマを呼ぶお母さんの声がしていた。


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― 新着の感想 ―
悪意たっぷりに見えたタマの所業が、まさか情報収集だっらたとは!? なるほど、それならテレビは効率的だ。 しかし、なにがあって人間はいなくなったのか……………。 ネコは滅びず人間が滅んだ理由はなんなのか…
[良い点] 「冬童話2024」から拝読させていただきました。 SF風味でしょうか。 最後にタマを探すお母さんはちょっとかわいそうですね。
[良い点] 「冬の童話祭」から参りました。 猫らしくないタマを思いながら恵太が見た夢なのか、本当にタマは未来から調査にやって来たのか、不思議なお話ですね。 三百万年後は進化した猫に支配されているとした…
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