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空をなくした女 La virino perdintan cxielon
大火がせまっている。
幼いわたしは母に強い力で手を引かれ、裏の水路にうかべた舟にのせられた。
舟はいそいで岸をはなれる。
わたしはなんどもわが家をふりかえった。宝ばこをもちだせなかったことが気にかかる。
屋根裏部屋に、わたしの宝物を入れた罐がかくしてあり、そのなかには、わたしが青空の一部をちぎりとったものも入っているのだ。
だがおとなたちの必死な顔に、舟をもどしてとは言えなかった。
舟は水路から広い川に出、さらに海にむかって避難していく。
もうわが家のあたりは真っ赤だ。わたしは空を見すてた……。
これはむかし見た夢だ。じっさいには、そんな大火はおきなかった。
だがたとえ夢のなかであろうと、わたしは空を見すててはいけなかったのだ。
わたしの人生において、空はめったに青く広々とした姿をあらわしてくれなくなった。
わたしはもう青空にふれてちぎることはできない。
どうとりかえしたらよいだろう。どうあやまればよいだろう。
それがわからないまま、今夜もわたしは街の隅の暗い酒場で、空をなくした女の歌をうたっている。
Fino