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19 激闘の行方

 俺は防戦一方を強いられていた。


 ルーメンから放たれる強烈な突風が俺を襲う。

 それに足を取られバランスを崩したところに疾風刃(ウィンドブレイド)が飛んでくる。

 すかさず俺は腰に差した2本の短剣を取り出し、それをはじく。


 ギィィン!

 

 まるで金属同士の衝突音かと思うほどの鈍い音が鳴り響く。

 向こうは魔法なんですけどね。

 支給された短剣の方が負けそうになる。

 

 「ほらほら、どうした?」


 荒れ狂う風により、ルーメンに近づくことができない。

 戦いは激しさを増していく。


 「本気で行くぞ!!」


 瞬間、風が激しく舞い上がった。

 徐々に一点に集まり、力強い風がルーメンの周りを吹き荒らしている。

 

 木々がざわめきだす。

 その揺れ方から、この魔法が尋常ではないことが伝わる。


 おいおい!

 明らかに俺一人に使っていい魔法じゃないだろ!

 こいつ馬鹿か!


 気流が荒れ、その場に立っているだけでも力を使う。

 グッと踏み縛り、とどまる。

 俺はこれを受け止めきれるのか?

 不安が頭を埋める。


 しかし、やるしかない。

 そうだろ?

 乱れていた風がルーメンの手元に集中していく。

 次第にそれは渦を巻くようになり、まるでドリルのように回転し始めた。

 

 「行くぞ!! 疾風(しっぷう)(きば)!!」

 

 風のドリル魔法が荒々しく襲い掛かってきた。

 

 ふう、と一呼吸おいて。

 覚悟を決める。

 歯を食いしばった。

 

 俺は短剣を十字に構え、真っ向から迎え撃つ。


 ギギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!


 先ほどとは比べ物にならないほどの轟音が響き渡る。


 「う、おおおっ!!」

 

 力を振り絞った。

 受け止め切れてはいるが、ズルズルと後ろに後退していく。

 その破壊的な威力に両方の手が震えだす。

 気を付けば離してしまいそうだ。


 「……っ!」


 ま、まずい。

 体が浮き上がり始めた。

 周りの乱気流により、バランスが崩れる。

 踏ん張る足もとに力が入らなくなっていく。


 必死に抵抗するものの、体は言うことを聞かない。

 徐々に後ろへと引きずられていく。

 このままじゃ…………


 焦り始める俺。

 額から汗が零れ落ちる。


 一か八か。

 かけてみるか。

 それしかない。


 俺は()()()自分の足を地面から離した。

 すぐさま風の渦に巻き込まれた。

 そして勢いよく後ろに吹き飛ばされる。

 その中で()()()()()()()()を見つけ出した。

 

 ここか!


 その風に身をゆだねた。

 




 ―――――――瞬間、一気に上昇する。

 


 「うおおお!」

 

 その風は、俺の体を、瞬く間に上へと押し上げてくれた。

 間一髪。

 荒れ狂う疾風(しっぷう)(きば)を、俺は奇跡的に逃れることができた。

 

 よし!!

 うまくいったぞ!!

 

 足元から離れる地面を見下ろしながら、『疾風の竜巻』が地上の木を貫通していくのが目に映った。

 あんなの、まともにくらっていたら…………

 考えるだけで恐ろしい。



 俺は風にのり、上空に飛ばされている。

 風の中で自分の体の制御に努める。

 バランスを取り戻す。


 「はっはっは! 素晴らしい! この魔法をも、いなしてみせたか!!」


 ルーメンが高々と笑っている。

 しかし、運が良かった。

 

 「運などではない!! 君の、抜群の戦闘センスだよ!!!」

 

 上空に飛ばされている俺にも聞こえるような大声で。


 「この僕が!! ギルバルト家の名において認めよう!! 魔法なしで戦ったのなら、この試験において君の右にでる者などいないと!!!」


 興奮したような声でそう宣言した。

 俺も思わず胸が熱くなる。

 

 「……ありがとよ」


 余裕そうな声で答えた。

 実際、そんな余裕なんてない。

 

 こんな天才に認められるとは、純粋に嬉しいな。

 

 しかし。

 


 今の俺は初めての、こんな強敵に、少しハイになっていたのかもしれない。

 ルーメンの発言に一つ引っ掛かる。


 ()()()()()

 

 ()()()()()()俺が最強だろうよ!!



 体全身に重力を受け、一気に急降下していく。

 先ほどの荒れ狂う暴風により、地上には砂煙が充満していた。 

 つまり、俺にとっては()()()()()()()()だ。

 

 あんな大技を放った直後だ。

 ルーメンとてクールタイム無しに魔法を使用できないはずだ。

 そこを突く!


 速度を高め、地上の標点に迫った。

 立ち上る砂煙の中へと突っ込んだ。




 ――――ルーメン視点―――――



 ルカが上空から地上に接近してくる。

 おそらく僕のクールタイムを狙ってのことだろう。

 確かに今魔法を連発しては使えないが、それも数秒すれば治る。


 その間、攻撃を受けなければいい。

 

 視界は砂煙で遮られているが、それは奴も同じこと。

 

 その状況で僕を見つけられるわけがない。

 この勝負、僕の勝ちだ。


 ルカは砂煙の中に突入していき、


 



 そして



 着地――――――――したのか?






 彼の着地はまるで影のように音もなく、振動もなかった。

 あり得ない。

 そんなことが可能なのか?


 落ちつけ。 

 すぐさま魔力探知を開始した。

 しかし、何も反応しない。


 魔力を完全に消している!?


 まずい!

 この状況で、奴の居場所を把握できていない事が、最高にまずい!


 あと十秒だ。

 あと十秒しのげば、風魔法で砂煙をどかして、奴の居場所を特定できる。



 どこだ!

 どこにいる!


 いや、まて。

 もしかしたら逃げたのかもしれない。

 僕にはもう勝てないと見込んで逃げ出したのなら、すべてに納得がいく。

 

 そうだ。

 そうに違いない。


 でなければ、あり得ない。


 なんだ。

 そういうことか。


 焦る必要なんてなかった、安堵したその時――――


 奴と目が合った。


 ゾクリッ!!


 血も凍るような不気味さが背筋に走った。

 冷たい目。

 まるで感情などなく、ただ獲物を仕留めるためだけの――――


 まるで暗殺者―――――――――


 

 いる!

 


 まだこの砂煙の中で僕を狙っている!!

 

 

 逃げてなどいなかった!


 どこだ。

 奴は……どこにいる……

 

 

 あと、7秒。

 6、

 5、

 4、

 3、 



 

 2……


 

 瞬間、首筋に金属特有の冷たさを感じる。

 あっけないほどあっという間に、僕は背後をとられていた。


 ああ……

 殺される――――――――――――


 


 ―――――ルカ視点――――――



 短剣を首元に添え

 俺はルーメンのプレートに手を伸ばした。

 

 「な…!」


 

 しかし、外れない。

 その隙を、ルーメンは見逃さなかった。

 

 瞬時に風を展開し、俺から離れる。

 まずい。

 絶好のチャンスを逃した。

 もう奴に同じ手は通用しない。

 

 「はぁ…はぁ…」

 「なぜ……」

 

 なぜプレートが取れなかった。

 

 「ここは引き分けにしようじゃないか」


 息を整えたルーメンがそう呟く。

 

 「何?」

 「僕としても効率が悪い。もっと弱い奴らからプレートを奪っていったほうが、この試験においては正解だ。強者と戦う必要なんて、もとからない。それとも君が僕と最後まで決着をつけたいのなら話は別だが?」

 

 そのとおりだ。

 俺としてもありがたい。

 今ここで決着をつける必要はない。

 

 それにキアラのことも心配だ。

 

 「どう? 僕の提案、気に入ってもらえたかな?」

 「……ああ、そうしよう」

 「賢くて助かるよ」

 「最後に教えてくれ。なぜプレートが取れなかった?」


 まるで、ルーメンがつけるプレートだけ特別みたいに、引っ張っただけでは取れなかった。


 「ああ、これかい。分かった。教えよう。単純な話さ。このプレートには元から魔力が込められていて、服に近づけたら自然にくっついただろう? つまり魔力で引っ付いているだけだ。プレートに込める魔力を強くすれば、その分強くくっ付く」


 ああ。

 それは盲点だった。

 『もちろん本気で引っ張れば、はがせるけどね』と付け足した。

 

 「さて、ゆっくりしている時間はない。ナーコ、戦いは終わりだ、行くぞ!」

 

 キアラ達がいる方向に向かって大声で叫んだ。


 「呼んだ?」


 とナーコが一瞬で到着する。

 早すぎるだろ。


 「ナーコも手こずっていたみたいだな」

 「そんなことない。あとちょっとだった」

 「そうか。それは悪いことをしたな」

 「いい」

 

 ルーメンとナーコが会話を交わす。

 

 「彼女なら、あっちにいるはず」

 「そうか、ありがとう」

 「足を捻ったみたい」

 「!?」


 すぐに行こう。

 

 「待って」


 ナーコが引き留める。


 「厄介な奴に見られてた」

 「……忠告ありがとう」

 「うん」


 短い謝意を述べ、俺はキアラの下へ向かった。

 どうやら休んでいる暇はなさそうだ。

  

 「僕らも行こうか」

 「うん」

 

 ルーメンとナーコも歩き出す。


 「また会おう。決着はそのときだ」

 「そうだな」


 俺は振り返らずにそう答えた。


 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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