17 強敵
リゴドー達からプレートを奪った俺たちはすぐに場所を移した。
2つのプレートを俺とキアラで一個づつ分けた。
まだ魔力を消耗していないキアラと、全然疲労していない俺。
駆け出しは好調だ。
みんな魔法が使えるといっても全員がリゴドーなみの実力なら、この試験は簡単に乗り越えられるかもしれない。しかし油断は禁物だ。慎重にいこう。
具体的にプレートを何枚集めればいいのかは、はっきりと言及されていない。
なるべく多く集めるためにも、どんどんペースを上げていきたいところだ。
「やったー!これでプレート2つゲット~」
喜ぶキアラとハイタッチを交わす。
「それにしてもルカ君すごかったよ! 魔法なしであこまで戦えちゃうなんて!」
「あ、あはは」
別に大したことはしていないと思う。
まじで。
遅すぎるファイアボールをかわして、リゴドーに腹パンしただけだ。
「私、ルカ君と出会ったときから、なんだか只者じゃない感じがしたんだよねー」
「そう言ってくれると―――――――」
急だった。
その時、鋭い風の刃が、俺の頭部目掛けて飛んできた。
とっさに首を傾け、すんでのところでそれをかわした。
ドーーーンッ!!
後ろの木が鈍い音を立てて揺れた。
近くにいた鳥たちが一斉に逃げていく。
なんだ。
今のは…………
「大丈夫!」
「ああ。けがはない」
楽しく談笑している暇はなさそうだ。
前方から、男女のペアが歩いてくるのが見えた。
「驚いた! 今の攻撃をかわすだなんて!」
男の方がそう声を上げる。
「これは強敵だよ。ナーコ、気を引き締めていこう」
「了解」
強敵だよ、か。それはこちらのセリフだ。
「キアラ!」
「うん。分かってる! あの人達、相当強い」
段々その二人の姿が鮮明に見えてきた。
二人とも容姿が似ている。鮮やかな金髪に、吸い込まれそうなほどに深い緑の瞳。上品な刺繍が施された服は豪華だが、体を動かすのに支障をきたさない作りになっていることが一目で分かる。そして、その服には一切の汚れもない。
「初めまして。僕はルーメン・ギルバルト。こっちは僕のいことのナーコだ」
「ドーモ」
「俺はルカ・フルストだ」
「わ、私はキアラ・ベレッラよ」
「ふん。知らない名前だ。二人とも貴族ではないのか?」
「そうだ」
俺は小声でキアラに耳打ちする。
「こいつら有名な貴族か?」
「う、うん。とっってもね」
まじか。全然知らない。やっぱり少しは貴族のことについて勉強したほうがいいのか?いつか大失敗を犯す気がする。
「それに私、聞いたことがあるわ……今年のギルバルト家には『天才』がいるって」
なるほど。これが噂されるほどの天才か。さっきの攻撃に納得がいく。
「ルカ、といったか。君は何者だい? なぜあの攻撃をかわせた?」
「たまたまだ」
「ほう。まぁ、試してみればわかる。ナーコ、お前はもう一人の方をやれ」
「了解」
チーム戦ではなく、一対一でくるつもりか。
「ルカ君、ごめんだけど私勝てる自信ないよ……」
「分かった。とりあえず時間だけかせいでくれ。後で駆けつける」
「ありがと。私もできるだけ頑張る!」
それを言うとキアラは全速力で走り出した。
「追え、ナーコ!」
「ん」
ナーコと呼ばえている彼女がキアラを追いかけていく。
彼女もおそらく相当なやり手だろう。
キアラの無事を祈る。
さて、俺達も始めようか。
「『後で駆けつける』と言っていたが、それは僕を倒してか?」
「もちろんだ」
「フッ、面白い」
その言葉を合図に戦闘が始まった。
「まずは腕試しだ。疾風刃!」
最初に飛んでいたのと同じ風の刃が向かってくる。
しかも3つ。
頭、右腕、左足。
順々に動かし、それをかわした。
当たらずともその威力が分かる。一回でも当たったらかなりまずい。
「やはりまぐれではないようだ」
「……」
「では、これはどうかな?」
ルーメンが右手を振り上げた。その先から微かな風を感じる。次第にそれは強さを増し、渦を巻くように森全体を振動させる。
ザーーーッ!
ルーメンが発生させている風により、葉が舞い上がっていく。
まだ、ルーメンは右手を下げようとしない。
奴は何をしているんだ。
攻撃してくる気配がない。
分からん……
だが、奴がこないのならこっちから行かせてもらう。
今はチャンスだ。そう思い、足に強く力を込め、俺はルーメンに猛進する。
空気抵抗を減らすため、姿勢を下げた俺の突進を、しかし、ルーメンは見切っていた。
「そうだよね! そうくるよねー!」
ルーメンは空いている左手を前方に突き出すと、大きな風を発生させた。
「うっ!」
俺は大きな空気抵抗を受け、大幅に減速させられた。ルーメンはその反動で自分の身体を後ろへとばし、さらに俺との距離を取った。
「いい判断だ。だが、僕は実践経験も豊富だ。頭の良い連中は僕が右手を上げた瞬間に、君と同じように突っ込んでくる。その対処方も熟知しているよ」
くそ!
これじゃあ正面からの突破は難しそうだ。
全部さっきの方法で距離を取られる。
「さて、準備は整った」
「何?」
ルーメンはやっと右手を下ろした。
何かが始まる。
そんな予感がした。
辺りに漂う不気味な雰囲気。
「これは対処できるかな?」
まるで俺がチャレンジャーであるかのように、ルーメンは俺を試すような笑みを浮かべた。
パッ―――――――――――――
反射的に俺は身体を左に反らせた。
反応できたのは、ほぼ奇跡だ。
今、明らかに誰もいないはずの右側から疾風刃が飛んできた。
鍛え上げられた反射神経で、奴の攻撃を躱す。
今度は左。
スパン。
森の中から飛んできた疾風刃が俺のズボンをかすめた。
「!?」
何が起きている!?
「せいぜい、頑張ってくれ」
そう言って正面に立つルーメンは再びニコッと微笑んだ。
その2つの疾風刃に続いて四方八方から疾風刃が放たれる。
空気を切り裂く音とともに、それは雨のように降り注ぐ。
俺は身の軽さを駆使して、ギリギリのところでかわし続ける。
「はっはっは! 素晴らしい!」
致命傷は避けているものの、完璧にかわし続けることはできず、体にかすり傷が増えていく
疾風刃が地面に激突してはモクモクと砂煙を上げている。
それがさらに視界を悪化させる。
このままでは、じわじわと削られて負ける!
なんとかしてこの状況を打破しなくては。
俺はけがを覚悟して、自分の意識の半分を状況整理にあてた。
ルーメンが右手を上に上げてからだ。
あの時奴は何をしていた?
それがきっと鍵になる。
「ほらほらどうした? このままでは僕に勝てないよ」
ルーメンの言葉に思考を邪魔されないように、俺はさっきの状況を思い出す。
『ルーメンが右手を振り上げた。その先から微かな風を感じる。次第にそれは強さを増し、渦を巻くように森全体を振動させる。
ザーーーッ! ルーメンが発生させている風により、葉が舞い上がっていく……』
…………。
…………
…………
そういうことか!
ヒントは始めから、俺の周りにあったんだ!
俺はタイミングを見計らって、この周りから脱出するように森の中へと駆け出した。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
なれない戦闘シーンを書きました。
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