15 重要なルール
「ここが実技試験の会場となるトミワの森だ」
やはり、場所は王都からそう遠く離れてはいなかった。
トミワの森は王都から少し北に進んだ所にある森林地帯だ。
「今いる場所を中心として半径数キロメートルにわたり、結界が張ってある。その中から出れば、即失格とする」
実際に上を見上げると、うすい膜が張られているのが分かった。
その透明な壁は幻想的な輝きをまとっている。
この結界のなかで戦えということか。
出たら失格になるらしい。
まぁ、この結界を破って外に出れる奴なんていないだろうが。
「試験内容は先ほど伝えたとおり、プレートの奪い合いだ。プレートは体の見える位置につけなければならない。制限時間は2時間。その中で存分に奪い合ってもらう。魔法、武器の使用は自由だ。武器は後ろにあるものから好きに使ってくれ」
後ろを振り向くと長机に様々な武器が並んでいた。
どれも一般的に普及されているものばかりで、武器によって優劣は無さそうだ。
魔法の使用も自由らしい。
テイラさんは、『学院試験では魔法なんて、まだみんなまともに使えない』なんて言っていたが、どうやらそんな事はないだろう。
多分みんなある程度は使えると思う。
魔法ができないのは、もしかして俺だけか……。
なんとかするしかない。
そう腹をくくった。
「相手に無償でプレートを渡す行為は、禁止とする。ただし……」
と細かい説明が数分間続いた。
要点をまとめると、無抵抗の者に対しての殺傷行為の禁止。
戦闘中であっても、相手に致命傷を与えることは禁止。
「そして最後に、この試験で最も重要な事を発表する」
きたか、と思った。
やはり、単なるプレートの奪い合いではなかったようだ。
そう予測はしていたが、しかし、次に発せられた言葉は全くの予想外だった。
「これはチーム戦だ!! 今から君達には、即興で二人一組のチームを作ってもらう」
は?
はああぁぁぁぁ?
おいおいおいまじかよ。
そんな事、今更言うなよ!
混乱しているのは俺だけではないようで。
あちこちで困惑の色が広がっていた。
そんな俺達には気にもとめず、試験官の男は話をやめない。
「今から十分間で二人ペアを作れ。そして二十分後に試験を開始する。ペアを作れたものから、自由に森の中へ入っていって構わない。」
十分だと!?
いくら何でも少なすぎる。
大体、何を基準にペアを組めばいいんだ。
急に言われてもどうしょうもないぞ!
こんなとき、誰か知り合いがいたら良かったのにな……
そんな事を考えている間に、もう周りの奴らは動き出していた。
やばいやばい。
俺も誰か探さないと……
「あ、あの!」
ちょうど近くにいた人に話しかける。
銀髪で銀色の目をしていて、いかにも貴族っぽい男だ。
高級そうな服を着ていて、あまり運動するには向いていなさそうだ。
「何?」
と一言。
無愛想に返さえる。
腕を組んでいて、顔をそらし、目線をこちらに向けただけだった。
思わず、表情が強張ってしまう。
初対面の人にその態度はないだろうと腹を立てながらも、その気持ちをグッと堪えた。
「もしよかったら、俺と一緒にチームを組まないかな?なんて……」
「魔法は?」
「え?」
「だから、使える魔法。俺は炎魔法。ファイヤボールとか。で、お前は?」
「…………ええっと」
言葉に詰まりながら答える。
「……何も使えない」
「はぁ!? 頭おかしいんじゃないのか!そんなやつがこの試験にいるのかよ。ふん、雑魚は話しかけてくるんじゃねぇよ」
そう言うと、そそくさと俺から離れていった。
何だとこの野郎。
覚えておけよ。
絶対試験中に見つけたら容赦しないからな!
はぁ。
まさか最初に話しかけた奴があんな畜生だとは。
つくづく運がない。
そうだ。
転移魔法の際、冷静だった奴らに話しかけよう。
あいつらならきっとこの状況でも冷静な判断ができるはずだ。
辺りを見渡すも時すでに遅し。
そいつ等はすでにペアを見つけているようだった。
まじかよ。
かなりまずい事になった。
この様子だと魔法が何も使えない俺とペアを組んでくれる人なんて見つかるのか。
本当に見つからないかもしれない。
そんな俺の不安はよそに、周りはどんどんペアを作っていた。
どうしようどうしようどうしよう。
不安が表情にあらわれる。
一旦冷静になって、それから―――――
「おーい、ルカ君ーー!」
と俺の思考を遮るように、後方から聞き覚えのある声が聞こえた。
「おお! キアラ!」
振り向くと、そこに立っていたのは昨日道案内をしてあげたキアラ・ベレッラの姿があった。
キアラも同じく『1』の数字を引いていたのか。
慌てて駆け寄ってきたようで多少息が入れている。
「ルカ君はもうペアの人決まっちゃった?良かったら私と組まないかな?」
「え!?良いのか?」
それは願ったりかなったりだ。
「もちろんだよ! 実は、私とペアを組んてくれる人が全然見つからなくて……。それでキョロキョロしてたらルカ君を見つけたから」
おお!
どうやら運はまだ俺を見捨ててはいなかったようだ。
「それじゃあ、よろし……」
言いかけた所で口を閉じる。
ペアを組む以上伝えておかなければならない。
「実は、俺……魔法が使えないんだ。それでも良いのか?」
キアラにはちゃんと伝えておきたかった。
もし断られたら仕方がない。
他をあたろう。
だが、そんな俺の心配は杞憂に終わった。
「そーなんだ!」
嫌味を含まない元気な声が返ってきた。
「それじゃあ、私に任せて!」
そう言うと、キアラは大きく胸を張った。
えっへん、と自信げな顔は、とても優しかった。
ふっ、と微笑んでしまう。
まったく。
いい友達に巡り合えたものだ。
「改めて、よろしくな」
「うん! がんばろーね!!」
こうして、なんとか俺たちはチームを組むことができた。
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