14 いざ実技試験へ
手ごたえは十分にあった。
分からない問題こそあったが、それ以外は結構自信がある。
そんなことを考えながら、俺は今朝貰ったサンドイッチを頬張っていた。
筆記試験が終わり、友達同士で問題の答え合わせをしている者もいた。
彼らの話を盗み聞きしている限りでは、どうやら俺の回答も間違ってはなさそうだ。
しかし、まだ安心はできない。
筆記試験の配点はたかが30%しかないのだから。
午後からの内容次第では逆転されかねない。
盗み聞きがマナー違反かどうかはこの際置いておくとして(聞こえてしまうのだから仕方ない)、俺は静かに昼食をとる。
150分間の試験を終え、頭の中は疲労が溜まっていた。
それが原因か、今朝食べたのと同じサンドイッチがさらにおいしく感じられた。
時刻は11時すぎ。
午後からの実技試験は12時半からなので、時間は十分にある。
空いた時間をどう過ごすかを考える。
実技試験の対策をしようにも、試験内容は直前に伝えられる。
おそらく、どういう形式かはわからないが戦闘をすることになると思うので、今から準備できることはなにもないだろう。
仕方なく俺は机にうつ伏せになる形で寝ることにした。
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3分前を告げる予鈴がなり、俺は身を起こした。
辺りを見渡すと、俺と同じく仮眠をとっていた奴らが次々に顔を上げていた。
ほとんどの受験生は席についている。
トイレにでも行っていたのであろう奴らが、遅れて教室後ろのドアから入ってきていた。
彼らが慌てて着席すると、ガラガラッと音を立てて、教室前方の扉も開いた。
ローブを羽織った初老の男を先頭に、数人の試験官が教室に入ってくる。
おそらく、全員がこの学校の教師か、それに準ずる実力者であろう。
ゴーン、ゴーン、ゴーン。
その時、ちょうどタイミングよく12時半を知らせるチャイムがなった。
「これより、実技試験の内容を説明する。みな心して聞くように」
ゴクリっと唾をのむ。
一体どんな試験になるのか。
「だが詳しい説明は現地に着いてからだ。まずはこれらを配る」
すると、ほかの試験官は何かを配りだした。
それが配られている間に思考を整理する。
『現地に着いてから』という発言からおそらく会場はラドフォーリア魔法学院のキャンパス内ではない可能性が高い。
もし校内なら、『現地』という言い方はしないだろう。
『移動してからだ』とか、『場所を移してからだ』、という言い方になるはずだ。
そして、今配られている物はきっと試験に関係している物なのだろう。
どうやら単純な試験ではなさそうだ。
俺の元へも試験官はやってきた。
配られてきたのは、一枚の紙と、握りこぶしほどの白いプレートだった。
全員に渡ったところで説明が再開された。
「諸君、まずは目の前の紙を表にしてくれ」
言われた指示に従う。
紙をめくるとそこには『1』という番号が書かれていた。
「紙には1から5まで、数字のいずれかが書かれている。その番号は試験を行う順番だ」
なるほど。
つまり俺は一番最初に試験を受けるわけだ。
ちらりと隣の席に視線を移すと、そいつは『3』の番号が書かれていた。
教室全体で配られた番号は違うようだ。
他の所にも目をやり、番号を確認する。
見る限りでは配られた番号に規則性はない。
「では各自、プレートを胸に付けてくれ」
何も書かれていないプレートを手に取る。
プレートには魔力が込められていて、服の近くに持っていくと自然に張り付いた。
「試験内容を説明する。プレートの奪い合いだ。以上」
「!?」
簡単すぎる説明に教室が少しざわめく。
言葉どうり、試験内容はプレートの奪い合いなのだろう。
だが、本当にそれだけではないだろう。
現に『詳しい説明は現地に着いてからだ』と言っていたのだから。
まだ、重要な要素がありそうだ。
受験生の対応能力を見るために、あえてこの時点では伝えないのだろう。
今の段階ではそれが何なのかは予想がつかない。
「1番と書かれていた者は、立ち上がり私についてきてくれ」
スムーズに進む進行に戸惑いながらも、約5分の一ほどの受験生が立ち上がった。
こいつらと俺は同じ試験を受ける。
軽く顔ぶれを確認した。
「一同、遅れずついてくるように」
テキパキと廊下に出ていくその男に、皆が慌てて後を追う。
俺もそれに続いた。
三分ほど歩くと、大きな部屋に案内された。
少し古めかしいその部屋には、しかし何の変哲もなかった。
いや、正確には何もなかった。
そこには机も、椅子も、何もなかった。
それが少し不気味さを感じさせる。
ここで一体何が起こるのか想像できない。
怖いことはやめてくれよ。
しばらくその部屋で待機していると、他の教室で試験を受けていて、『1』の番号を引いた受験生が次々に入ってきた。
このグループは一番乗りだったようだ。
俺らを含め5つのグループが部屋に入り終えると、それは突然に訪れた。
「「「おおっ!?」」」
見ると、床全体に魔法陣が表示されていた。
クルクルと回転しながら、強く光っている。
「慌てるでない」
そう諭す声が聞こえる。
次第にその魔法陣の光は強さを増していき、最終的に俺達全員を包み込んだ―――――――
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目を開けるとそこは森の中だった。
背の高い木は少なく、適度に日光が差し込んでいる。
植生を観察するに、どうやらそこまで遠くにとばされたわけでは無さそうだ。
しかし、今のはおそらく転移魔法。
俺も本で読んだことしかなかったが、実際のところ凄いものだな。
周りを見ると、大きく取り乱している者や、至って冷静な奴もいる。
ここで警戒をすべきは、冷静な奴だ。
明らかに、転移魔法について知っている。
ということは魔法にかなり精通している可能性が高い。
できるだけ顔を覚えておくことにする。
「では、これより実技試験の概要を説明する」
試験官の男がそう言うと、多くの視線が一点に集まった。
俺はこれから言われる内容に心を構えた。
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