13 試験当日
というわけで。
俺は試験の前日に正式な配点を知ったのだった。
はっきり言って論外だ。
自分の甘さに心底嫌気がさす。
しかし、昨日はぐっすりと眠ることができた。
なんかもう……仕方ないか!
と吹っ切れた。
おかげで緊張せずに十分な睡眠をとることができた。
マイナスなことだけではなかったのだ!
そう思うことにする。
でなければ、やっていられない。
今日は試験当日だ。
朝は目覚まし時計を設定しておいた時刻よりも、数分早く起きることができた。
部屋の窓からは適度な光が差し込んでいた。
俺はその窓に近づき、日光をあびる。
外は晴れた青空が広がっていた。
現在の時刻は6時30分。
試験は8時30分から始まるので、最低でも7時50分には出発したいな。
朝食は宿のロビーでとろうと思う。
今日は試験日ということもあり、無料でサンドイッチを配ってくれるらしい。
なんとも気が利く宿だ。
俺は素早く着替え、さっそくロビーへ向かった。
まだ、朝早くということもあり、廊下はしんと静まり返っていた。
廊下を抜け、階段を降りるとロビーが広がっている。
ちらほらと、俺と同い年くらいの男女がサンドイッチをほおばっていた。
おそらく彼らも今日の試験を受けるのだろう。
お互いに頑張ろうな。
心のなかでそうエールを送った。
俺が見知らぬ他人に聞こえない声援を送っている時、背後から声を掛けられた。
「おや、あんたも今日の試験を受けるのかい?」
振り向くと、サンドイッチをいっぱいにのせた皿を両手で抱えた、ふくよかな女性が立っていた。
この宿の女将だろう。
「はい!」
「お、元気な返事だねえ。緊張していないのかい?」
『あはは……』と笑ってごまかした。
こちとら前日まで配点を知らなかったんだ。
緊張なんてどこかに吹き飛んだよ……なんて恥ずかしくて言えたものではない。
「なんだ、余裕ってことかい!」
その逆、超やばいんですよ。
「気に入った!このサンドイッチ、好きなだけ持っていきな!」
「あ、ありがとうございます……」
なんか誤解をしているようだが、ご厚意には甘えておこう。
俺は皿から3つのサンドイッチを手に取った。
「そんだけでいいのかい。最近の若い子は少食だねえ。もっと取りなよ。ほれほれ」
そう言って、さらに3つ渡してきた。
「おっと」
半ば強引に渡してきたそれを、俺は落とさずに受け取った。
こんなに食えないよ……。
半分はお昼ご飯にしよう。
「今日は精々頑張るんだよ!」
大声でそう言った後、女将は宿のキッチンへと戻っていった。
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朝食を食べ終わると、俺はすぐに自分の部屋に戻った。
そして荷物の確認をする。
昨日詰め込んだ物を再び全部取り出し、忘れ物がないかを入念に調べる。
筆記用具と受験票、あとそれから……
全部そろっていることを確かめ、順にカバンに詰めていく。
最後にさっき貰ったサンドイッチを入れた。
現在の時刻は7時半。
ラドフォーリア魔法学院までは、ここから徒歩で15分ほど。
今出発すれば、相当早く到着してしまうが、空気感に慣れるためにも会場入りは早い方がいい。
そう考え俺は宿をでた。
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ラドフォーリア魔法学院の付近は馬車でいっぱいになっていた。
そのほとんどが、王都や地方の貴族たちだろう。
朝から馬車でくるなんて、さすがお貴族様だ。
そのせいか、正門の前は人だかりであふれかえっていた。
友達と一緒に来ている者もいれば、家庭教師と思われる人物が自分の生徒を送り出している姿も見える。
中には両親と涙の別れを交わしている姿も見える。
なにもそこまでする必要もないだろう……
それを横目に俺は真っ直ぐと歩き出す。
なんとか人混みを抜け、キャンパス内に入ることができた。
やはり早めに宿を出て正解だった。
ここからさらに混んでくるのだろう。
校内に入ると目の前に大きなホワイトボードがたてられていた。
遠くから目を凝らして、書かれてある文章を読む。
どうやら、受験番号ごとに試験を受ける教室が違うらしい。
まぁ当然か。
この膨大な数の受験生を一つに収めるほどの教室なんてあるはずがない。
カバンから受験票を取り出し、自分の教室を確認する。
K200という教室らしい。
ご丁寧に案内板が近くにあった。
一通り道を覚えて俺は歩き出した。
ふと昨日出会ったキアラの姿が頭の中に浮かんだ。
教室までたどり着けるのだろうか、と。
最悪、人の流れについていけば、どこかの教室にはつくだろう。
幸運を祈る。
K200の教室にはすぐに到着することができた。
ドアを開けると、すでに5割近くが着席していて静かに勉強していた。
余裕そうにしている者や、焦っている様子の人もいる。
全体的に会場は緊張感で満ちていた。
ピリついた空気を肌で感じながら、俺も自分の席に座った。
カバンから本を取り出し、勉強を始めた。
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大きく深呼吸をする。
これまで自分が積み上げてきた努力を思い出し、心を落ち着かせた。
そして、目の前に配られた問題用紙と向かい合う。
「始め!!!!」
その声を合図に、筆記試験が開始された。
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