12 試験前
王都に到着し三日たった。
こっちに着いてからは勉強したり、体を動かしに外へ出たりと、そういう生活を送っていた。
比較的グランメルの雰囲気には慣れた。
しかしキナノ村とは異なることが多い。
例えば、グランメルでは、さすが王都というべきか、街中で普通に魔法や最先端の技術が使われている。
特に魔力で扱う道具が多い。
ランプやペンなど魔力を込めて使うものが多い。
使いかたは徐々に覚えていこうと思う。
宿にはキッチンがないため、食事は近くのレストランで済ませた。
安いレストランでもなかなかうまい。
やはり都会のレストランはレベルが高い。
いや、レベルが高い所しか生き残れないのか。
競争相手が多いほど自分のレベルも向上するのかもしれない。
それは俺にも言えることだ。
学院に合格すれば高めあえる仲間ができるだろう。
今日は試験の前日だ。
明日にはラドフォーリア魔法学園、そして明後日にはクライナート魔法学園の試験がある。
二日連続で試験だ。
体力が持つか心配ではある。
どちらの学園も試験内容はほぼ同じ。
朝早くから始まり、午前中は筆記試験、午後からは実技試験となる。
テイラさんの情報によると筆記試験が70%、実技試験が30%、という配点らしい。
つまり、午前中が大切だということだ。
早寝早起きを心がけよう。
そんなわけで、当然お昼過ぎの今は明日の勉強をすべきなのだが、宿にいてもなんとなく集中できない。
なんかソワソワする。
明日から始める試験に緊張しているのだろうか。
確かに間違いなく、俺の今までの人生の中では一番のビックイベントだろう。
適度な緊張感を持つことは大切だ、そう自分に言い聞かせた。
というわけで俺は今、町を歩いていた。
宿にいても勉強する気にもなれず、かといって試験の前日に遊ぶ気にもなれない。
気分転換に俺は外に出た。
しかし、目的もなく外出したのではない。
今日は試験会場の下見をしようと思う。
学園がそのまま試験会場になっている。
大体の場所は把握していたが、実際に自分の目で二つの学園を見たことはなかった。
先にラドフォーリアの方に向かう。
その間、道に迷う受験生はいないだろう。
なぜなら、遠くからでも見えるあの高い塔が目印になっているからだ。
その塔のてっぺんにはラドフォーリア魔法学園を示す、鳥の紋章が描かれた大きな旗が刺さっていた。
上空をふく風が、旗をたるませずにピンと伸ばしていて、その紋章がはっきりと見える。
俺はその方向に向かって真っすぐに進んでいた。
「あ、あの!」
丁度、細い道を抜けたところでそう声を掛けられた。
俺は立ち止まって、声のした方に視線を向けた。
「み、道に迷ってしまって……」
そこに立っていたのは、俺よりも頭一つ分身長の低い少女だった。
いたいけな童顔の彼女は、少し照れているような表情を見せていた。
道に迷ったのか。
俺も王都にきてまだ間もない。
期待に応えられるかは分からないが一応話だけは聞いてみよう。
「えっと、どこまで行かれるのですか?」
「ラドフォーリア魔法学園です」
「……」
うん。
先ほどの思い込みを撤回しよう。
道に迷う人もいるらしい。
「ていうことは君も明日受験するの?」
「はい!」
「実は俺もなんだ。よかったら、一緒に……」
俺が最後まで言い切るまえに
「え!いいの!ありがとうございます」
そう言って、ペコっと頭を下げた。
「私、ちょっとだけ方向音痴なんだ……」
『あはは』と軽く笑った。
ちょっとどころではないだろうが、それは黙っておこう。
「キアラ・ベレッラよ。よろしくね、えっと……」
「ルカ・フルストだ。よろしく」
短い自己紹介を交わした後、俺たちは二人で歩き出した。
「それにしても、よかった。こうして同じ受験生と知り合うことができて。私、一人だったから心細かったんだー」
「俺も。キナノ村っていう小さな村出身だから頼れる人とか、知り合いとか全然いなくて」
「キナノ村!?すっごく遠いじゃん!」
「知ってるのか?」
「地図を広げたら、一番端っこに載ってる村でしょ」
「ああ」
王都グランメル中心の地図を広げると、一番右の端っこにポツンと書いている。
なんなら地図によっては、端っこ過ぎて載っていない物もあるくらいだ。
よく知っているなぁと感心する。
俺がもしキナノ村出身じゃなかったら、絶対にそんな村知らないぞ。
どうやらキアラは方向音痴だが、地図はよく覚えているらしい。
「それにしても、なんかすごいね。こうして国中のいろんな所から集まってくるなんて」
「なんか、感慨深いよな」
「私は王都から比較的近い町の出身なんだけどね。王都まで受験しに行く友達はだれもいないの」
お互いに一人というわけだ。
少しだけ親近感が湧いてきた。
「明日はお互い頑張ろうな」
「うん。そうだね!同じ試験に挑む仲間同士、頑張ろうね」
『仲間』か。
彼女は俺を受験の『ライバル』ではなく『仲間』と捉えているようだ。
そこに彼女の性格の良さがうかがえる気がした。
他の受験生はもっとピリピリしていると思っていたが、どうやらそんなこともなさそうだ。
「私、実技試験が不安なのよね……。今年はどんな内容になるんだろ」
実技試験の内容は毎年異なる。
自分にとって有利な内容になる時もあれば、逆に不利になることもある。
それは完全に時の運だ。
「でも、実技試験の配点は全体の30%だけだろ。そんなに考えすぎなくてもいいんじゃないか?」
と、軽い気持ちで言ったのだが
「え?」
そう言ってキアラは立ち止った。
何かまずいことでも言ったか?
こちらを見つめて顔を引きつらせている。
「あははっ、冗談……だよね……?」
冗談など言っていないが。
もう一度、自分の発言を言い直す。
「筆記試験の配点が70%、実技試験の配点が30%だろ?」
「……」
返答が返ってこない。
数秒ほどの沈黙が流れた。
そして、キアラが口を開く。
「そ、それは……10年以上前の話だよ……」
は?
「…………今はその逆、筆記試験が30%、実技試験が70%……だよ」
「……」
「……」
「えええぇぇぇぇぇぇ!!!」
俺もテイラさんから聞いただけで、自分で確認したわけではないが……
田舎は情報が遅れているのか?
待て、落ち着け。
それこそ、面白い冗談だろう?
いや、冗談であってくれ。
「……本当だよ」
うん。
詰んだ。
試験終わったかも…………
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