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三、海釣り開始

 再び玄海海上温泉パレアの駐車場に戻ると、ちゆるたち三人は玄海海上温泉パレア横の波止にやってきた。そこではすでにちらほらと釣り竿を手にした釣り人の姿が見られる。

「結構、人がいるもんだね」

「まぁ、この辺じゃ比較的有名な釣り場だからね。常夜灯もあるから、夜釣りもできるし」

 ちゆるの呟きに、海咲がぼそりと言った。

 樹希が先行者の人と挨拶を交わし、ちゆるや海咲もそれに倣う。

「じゃ、私らは他の人の邪魔にならないよう、この辺で始めようか」

 樹希が他の釣り人との距離を測りながら、足を止めた。

「では、さっそく準備とセッティングを始めよう」

「おー!」

「ちゆる、私のがセッティング終わったら手伝うよ」

 元気に返事をするちゆるに、海咲が自分の釣り竿を収納袋から取り出しながら言った。

「ありがとう。でも今回は自分一人で組み立ててみるね」

 ちゆるは着ていたコートを脱ぎ、ジャケットの上からライフジャケットを装着する。海咲も心得たように頷いた。

「わかった。途中、わからなくなったら聞いてね」

「うん!」

 ちゆるも釣り竿収納袋から釣り竿を取り出すと、さっそくセッティングに入る。

 用意する道具は、釣り竿(ロッド)、リール、糸類(道糸・ハリス)、仕掛け、餌の五つ。

 まずは竿にリールをセットする。竿のリールシートという部分に、リールの上の足からはめ込み、リールシート下部のねじ部分を回し上げて下の足も固定する。

「よし! 次は糸っと……」

 しっかりリールを竿に固定できたら、次は糸を通していく。

 竿の先に付いているカバーを外し、リールの糸を糸留めから外す。糸をリールのベールの下から外に出し、そのままリールのベールを起こして糸が自由に出る様にする。竿のガイド(輪っか)に下から順番に糸を通していく。

「ちゆる、糸を通す作業の時は、竿をもう少し横にしながら作業するといいよ」

 海咲が自分の竿に糸を通しながら、ちゆるに言った。

「竿先を上に立てながら糸を通していくと、間違って糸を手放した時に、ガイドに通した糸が下へ抜けちゃうから。そうなるとまた最初からやり直し」

「うん、わかった! ……こう?」

「ん、そんな感じ」

 竿に糸を通したら、今度は仕掛けに釣り糸を結び付ける。

仕掛の端に付いている「サルカン」と呼ばれる金具に糸を結びつける。まずはサルカンに糸を通し、糸の端を十センチ程度折り返す。折り返してきた糸を元の糸に五、六回巻き付け、糸の端を折り返し、サルカンに一番近い糸の輪に通す。さらに上にできた大きな輪に糸の端を通し、通した糸の端が抜けないように人差し指と親指でつまんでおく。同じ手の小指で仕掛の方の糸を握り、結び目付近を固定する。そうして、ゆっくりと結び目を引き締めていく。最後までしっかりと締め込み、結び目から飛び出ている糸の端をカットする。

「海咲ちゃん、結び方、これで大丈夫?」

 ちゆるが差し出す結び目を見下ろし、海咲はしっかりと頷いた。

「大丈夫だよ。ちゃんと出来てる」

「これ、結ぶの難しくて苦手なんだよねぇ……」

「回数こなせば慣れてくるから。焦らず、気長にやろう」

 仕掛けに糸を通し終えたら、今度は竿を伸ばしていく。リールのベールが起きていて糸が自由に出る状態か確認した後、竿の先の方から順番に伸ばしていく。全ての竿を伸ばして、最後にリールのベールを倒したら完了だ。

「竿の準備、OK!」

「おっ、早いじゃん。だいぶ慣れてきたね」

 得意げに笑うちゆるに、樹希が笑った。海咲がちゆるの竿に通った糸とガイドを確認している。

「うん、大丈夫。この段階でガイドが全て同じ方向を向くように調節しておくといいよ。バラバラに向いていると糸が巻きにくくなったりしてトラブルの原因になるから」

「ああ、あと……最後にリールのベールを倒した時、ラインローラーに糸が通っているかも必ず確認ね。もし通っていなければ糸が巻けないから、最初からやり直す必要があるよ」

「うん、気をつけるね!」

 ちゆるはうずうずとした様子で海咲と樹希を見た。

「それじゃ、仕掛けの釣り針に餌を付けようか」

「はーい!」

 待ってました、とばかりにちゆるはごそごそとリュックを漁り、事前に買っておいた餌入りのタッパーを掴み取る。そこにうごめいていたのは青イソメ(虫餌)だった。何の躊躇もなくタッパーの中に手を突っ込み、うごめく青虫を一匹引っ張り出す。

 ちゆるの行動を眺めていた樹希が小さく笑った。

「つくづく、ちゆるんは怖い物知らずだよね。初めて釣りに誘ったときも、素手で平然と触ってたし……」

「え? 変かな?」

 目を瞬かせるちゆるに、海咲も微笑む。

「変ではないよ。ただ、釣り初心者の人はだいたい、生き餌を見たら触るのを嫌がるから」

 海釣りで使用される餌には大きく分けて三種類ある。

 生き餌(活き餌)死に餌(冷凍餌)人工餌(配合餌)である。

 生き餌は文字通り、生きている状態の餌を指す。釣り針に刺したり、仕掛けに縛ったりして使用し、最も自然に近い状態のものであることから魚の食いの良さが特長だ。代表的なものは青イソメ等の虫餌で、他には海老やカニ等の甲殻類、小魚、貝類などがある。

 死に餌は生き餌を釣り針に刺すことに抵抗がある人向けの餌である。生き餌に比べると魚の食いの良さという点で劣るが、餌を生かし続ける必要がある生き餌に比べ、死に餌は保存という点においてあまり気を使わずに済むという長所(メリット)がある。代表的なものはオキアミなどの甲殻類や、時に魚の切り身などを用いる。

 人工餌は死に餌と同じく、人が加工を施した餌だ。中でも生物以外の化合物が使用されたものを差すため、死に餌とは区別される。人工餌は様々な材料を粉末化させ、これらを何種類も配合してできていることから、配合エサとも呼ばれている。人工餌には魚の嗅覚、味覚、視覚を刺激することで集魚効果を促進させる役割があり、魚の食いを高める効果がある。

 海釣りでは、海水で練り合わせて団子にしたり、他の死に餌と混ぜて撒き餌(コマセ)にするなど、集魚目的で使うことが多い。時に、刺し餌(練り餌)として使うこともある。人工餌はビニールパックなどに入っているものがほとんどで、必要な量だけ使えば残りは長期保管しておける。そのため、死に餌ともどもコストパフォーマンスがいいことが特徴だ。

 実際に釣りを行う際は、それぞれの餌の特徴を生かし、釣りたい魚に合わせて使い分けていく。

「ごはん、ごはん!」

 ちゆるは右手の親指と人差し指で釣り針の根本を摘まむ。反対の手で同じようにつまんだ青イソメの端を持ち、先から釣り針を餌と平行に下へ動かして滑らせるように刺していく。餌が釣り針の半分位の所まで来たら針先を餌の胴体から出し、餌と釣り針がまっすぐになる様に整えれば完成だ。

「できたよ!」

「こっちも準備OK!」

「さっそく、始めようか」

 三人は思い思いに餌を海へと投げ入れる。

 海面に小さな飛沫が飛び、すぐに波音だけが辺りに響いた。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2023

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