第5話 遠足
ピーッ、ピーッ、と音がする。今日は燃やすごみの日だ。今日もちゃんと収集車が来た。でもゴメン、ゴミは出してないんだ。燃やすごみは世の中がおかしくなる前の日に出してしまって、プラと違って毎日どんどん溜まってさっさと手放したくなるほどではないから、毎回出してるわけじゃないんだよね。ところで、あの収集車って何処からきて何処へ行くのかな? ちょっと気になる……
「うっかりしてると、いつのまにか謎解きモードになっちゃってるんだよなあ。そんな事より今日は遠足だ!」
そうだ! 私に似合わず遠出をするぞ。こんな可笑しな世界がどこまで続いているのか、歩ける範囲で偵察をするのだ。とりあえず昼までは前進あるのみ! そのあと、どっかで食べて、もう疲れちゃってたらそこまでにして帰ればいいし、まだまだ行けそうなら冒険を続けてもいいだろう。運動は苦手だが歩くのだけは自信がある。昔はよく歩いていた。バスを使えばいい区間でも歩いて行けそうなら歩いたものだ。健康のためじゃなくて、ケチなだけなんだけどね!
「それじゃ盛り上がってきたところで、しゅっぱーつ!」
ちょっとまって。なんか足痛いんだけど。え、まだ二時間半しか歩いてないよ。そろそろ早めのお昼ってことにしても良いかもしれないけど、どうしてこうなった? 地球の重力が強くなった? そうかー、それでみんな逃げだしたのかー、なるほどなるほど。
「うー、現実逃避をしても気が紛れなくなってきた……もうダメかも」
はあー、もともと運動神経が無かったのに、そこからさらに無くなるとか許されないだろ……毎日ウォーキングでもするかー? 人目を気にしなくていいんだから、テキトーなカッコでテキトーにブラブラ歩けばいいでしょ……それより、もうどこかのお店に入ろう……
「あ……レストランとか……人いないんじゃ……」
いないね。注文できないし、多分作ってくれる人もいないね。しまった。うっかりしていた。これは……やはり頼れるモノはあれしかないのか……
「セルフレジ付コンビーニ発見! さいっこー! イェー!」
イートインを利用する日が来るとは……うっかりテイクアウトで買わないようにしないとな。あとゴミも……持ち帰った方が良いよね。テーブルも拭いて帰るか。誰も掃除しなくて虫とか湧いて、半年後に再び来たら魔境が……なんてことになったらヤバいし。面倒だなぁ……こういう時は人いてくれると助かるねえ。あのレストランには店員さんがいてほしかった。店員さんだけいて料理は出せないとか言われても困るけど。肝心のコックさんが、いなかったりしてね。
「足、少しはマシになったけど、もう帰った方が良いのかなあ……」
正直、ここまで自分が軟弱だとは思わなかった。これじゃ探索なんて、それこそ冒険になってしまう。リュックを背負って旅に出る? 多分二日目には足が死んでいるだろう。だいたい仕事はどうするんだ。ノマドワーカーにでもなれってか? 今も流行ってるのか? あれこれ準備しないといけなさそうで、そう考えるだけで既にメンドクサすぎる……
そこまでして可笑しな世界の果てに辿りつきたいとは思わない。そもそも、この世界は気に入っているのだ。わざわざ抜け出してどうする。もし帰ってこれなくなったら自宅まで失うかもしれないぞ。それでいいのか? そうだ、大事なことを見失っていた。青い鳥ってやつだ。青い鳥が自分を見失う話だっけ? そもそも読んだことが無いから、よくわからない。だけど大事なことは思い出した。帰ろう。
「見知らぬコンビニさん、大変お世話になりました。この御恩は忘れません」
あーもう! やっと家に着いた! 足死んだ! 楽しい遠足なんて言ってたのは、どこのどいつだ! こんなことなら普通にダラダラしてればよかったよ……世界が可笑しいからって、自分もつられて可笑しな事をしようだなんて、そんな事しなくていいんだよ……とても勉強になりました……足イタイ……