第3話 コンビニ
気持ちよさそうな朝。静かだ。昨日と変わらない、日常とはちょっと違うような気がする一日の始まり。
「これはダメかも、わからんね」
いや、ダメどころか理想郷なのかもしれない。まわりに誰もいないのだから、争いなど起きるはずがない。つまりは平和しかない。世界平和なんて、こうなれば簡単に実現するのだ。だが……持続可能かどうかはまた別の話だ。
「電気と水は今のところ問題ないから、とりあえずは食料だな」
ネットを見ても昨日と変わらず、やっぱり何事も起きていないような風景がそこにある。昨日試しに、古くからある掲示板に『朝起きたら世の中俺一人だけになっているようなんだが』と投稿してみたものの、反応は芳しくない。くだらないネタですらない、哀れな小市民の遠吠えの扱いを受けてしまっている。まあ日常の私が見てもスルーするとしか思えないから、これは仕方がない。とにかく世間一般では異変など全く起きていないようだ。なんなんだろうね、これは……
「危険はなさそうだし、いつものコンビニに行くくらいなら、まあ大丈夫なんじゃないかな」
窓を開けても、毒を吸ってしまったりとか、部屋の空気が抜けたりとか、そういうヤバい状況にはならないので、外が人の住めない環境になっている、なんていうウルトラハードモードではないと思われる。そんなんだったら籠城して人生終わりっていうか、そもそも建物には隙間とかあるわけだし無理ゲーでしかないよね。なんかすごいチート能力に目覚めている可能性も無くはないけど、お腹が空いているので多分そんなことはないのだろう。食べ物のストックなんて昨日でさっさと底をついた。災害とかあったら困るじゃないか。ちゃんとしていてくれないと困るね、まったく。
「それじゃ、いってきまーす」
このくらい許せ! この惨状は誰にもバレていないのだから、全くもってセーフだ!
あー、気持ちいいなあ。朝に家を出るなんていつぶりだろう。たまにゴミを出し忘れそうになって慌てて飛び出すくらいか? あ、そういえばプラの日が明日だ……収集に来てくれるのかな……まあとにかく、これからは人の目を気にせず、いつでも好きな時に外出できそうだ。素晴らしい。
「おほー」
車が通ってないから車道の真ん中をスキップしながら歩ける。でも本当に誰もいないのかどうかわからないし、急に猛スピードで何かが突っ込んできたりしたら危ないから、あんまり無茶なことはしないでおいたほうがいいかな。
コンビニに着いた。営業はしているようだが、誰もいない。BGMの類も流れていない。商品は置いてあって、弁当とかパンとか、そういった類の消費期限の管理も特に問題は無いようだ。ただ、これでは噂の無人販売所ではないか……商品の安全は守られているのだろうか? 誰もいないから、悪さをする人もいなくて安全ということなのだろうか? 誰もいないのに、なんで売っているんだろうか? それは私が買うからですね。ありがとう。
「あって良かったセルフレジ」
文明の利器は素晴らしいね。犯罪をせず、ちゃんと商品を購入して帰ることが出来る。いくら性格が終わっているからって、人の目が無ければ罪を平気で犯す奴だとか思うな! 一応は働いているから、贅沢をしなければお金には困っていないのだ。ギリギリアウト寄りのセーフってことで、ひとつよろしく。コンビニじゃなくてスーパーに行けば、もっと節約は出来るんだろうけどさ……あ、人いないんだったら今度スーパーに突撃してみるのも良いのか……セルフレジあるかな……
「平気そうだから、ついでにドラッグストアにも寄って帰るか」