表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

第九話






 突然二人に声をかけてきた、大人の女性。

 何事かと思って振り返った先にいたのは、ある意味この町の

 神様とでも言うべき存在だろう。

 だが、正確にはこの女性のことはこう言う。

 この町を管理する天使、リーナと。






     エンジェルレッスン  第九話

        『リーナ様降臨』






「り〜な様?」

 はて、どこかで聞いたことがあるような名前だなと

 圭太郎が首を傾げる。

 一方のエリスといえば、驚いた表情のまま固まっていた。

「ふふっ、相変わらず不意打ちには弱いのね、エリスってば」

 言いながら、つかつかと歩み寄ってくる、リーナと

 呼ばれた綺麗な女性。

「ど、どうして人間界に来てるんですか?」

「あら、天使だからって人間界に来てはいけないわけじゃないのよ」

 そう言って小さく微笑む姿は、本当に美しかった。

 エリスが可愛いというカテゴリーならば、目の前の

 リーナという女性は美しいというカテゴリーでぴったりはまる。

 そのぐらい、ある意味両極端な二人の存在だった。

「……えっと、エリス?」

 と、今まで会話に参加できずにいた圭太郎が、思い切って

 エリスに尋ねてみる。

 するとエリスは、ようやく冷静さを取り戻したように

 はっとした。

「ごめんなさい、紹介がまだでしたね。こちら、この町の

 管理を担当していて、私に天使のなんたるかを教えてくれた、

 リーナ様です」

「リーナです。よろしくね、佐々木圭太郎くん」

「あれ、俺の名前……?」

「エリスの生活環境を提供したのは私だからね、名前ぐらい

 きちんと把握してますよ」

 言ってまた、小さく微笑むリーナ。

 すっかりそんな大人の仕草にぼけっとしてしまった

 圭太郎だったが、ふと突然、あることを思い出した。

「ええっと、リーナ様、ですよね?」

「うん、何かな圭太郎くん?」

 一瞬尋ねるのに躊躇したものの、思い切って聞いてみる

 ことにした圭太郎。

 少しだけ間をあけてから、口を開いた。

「エリスが俺の家に最初にやってきた時、エリスは

 ダンボールの中にいたんですけど……」

 確かその方法を教えてくれたのは、この目の前にいる

 リーナという女性だとエリスが言っていた記憶があったのだ。

 ああ、と笑顔で納得した様子になるリーナ。

「効果はバッチリだったでしょ? あそこまでおおっぴらに

 拾ってくださいって書かれて、拾わない男の子はいないからね」

「……やっぱり、リーナ様が教えたんですか、あれ」

 まあね、と今度は少々可愛らしく微笑むリーナ。

「ついでに、私が見習い天使の時も同じ方法で居候先を

 見つけたわよ」

 もしやダンボールに女の子が入るのは、天使にとっては

 当たり前のことではないだろうか。

 眉間を指で押さえつつ、疲れた様子になる圭太郎。

「圭太郎さん? どうかしましたか?」

「あまりに見事な計画に、してやられたって顔してるのよ」

 リーナの言葉になるほどと頷くエリスだが、圭太郎は

 どちらかといえば呆れている。

「(天使って一体……)」

「さて、無駄なお喋りはこのぐらいにして、圭太郎くんに

 聞きたいことがあるんだけど」

 と、先程までとは違い、凛とした声で圭太郎に

 声をかけるリーナ。

「は、はい?」

「もうエリスから聞いたと思うけど、これは天使に

 なるための試験、エンジェルエクサムと呼ばれる

 ものなんだけど」

「え、えんじぇる……えくさむ?」

「『天使試験』の事よ」

 リーナの言葉に、はぁと曖昧ながら頷く圭太郎。

「それで、今回は私、エリスがどのくらい人間と

 接することができているか、圭太郎くんの

 率直な意見を聞こうと、こうしてやってきた

 わけなんだけどね」

「あ……そうだったんですか」

 少々おかしなところはある女性だが、きっちりと

 仕事はしているようである。

 その言葉を聞いて、真剣な面持ちになるエリス。

「中間発表、というわけですねリーナ様?」

 そういうことよ、と緊張気味のエリスに

 優しく微笑みながらそう言うリーナ。

「それで圭太郎くん。エリス、どうかしら?」

「ど、どうかしらって……」

 いきなりそんな事を言われても、しっかりと答えられる

 はずがない。

 確かにエリスとはずっと一緒にいたし、交友関係も

 それなりに把握はしている。

 だが、それを天使になるための試験(エンジェルエクサムと

 言うらしい)と重ねると、どうなるのだろうか。

 少しだけ言葉を選びながら、慎重に答えていく圭太郎。

「ええっと、転校してきた時も怖気づかずに対応してましたし、

 何より、俺も妹のミキも普通に接しているので……

 なんというか、接しやすい感じはしますね」

「つまり、明るくて良い子というわけね」

「……い、一応そうなるのでしょうか」

 圭太郎のそんな答えに、ふ〜んと考え込みながら

 隣のエリスの顔を覗き込むリーナ。

 無理をして笑顔を作っているようで、エリスの顔は

 ひきつっていた。

 そんな、いかにも緊張している様子のエリスを見て、

 また小さく微笑むリーナ。

「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。今すぐ結果発表という

 わけじゃないんだから」

「そ、そうですよねリーナ様! 私もっとがんばります」

 よしっ、と気合をいれてガッツポーズを取るエリスに、

 圭太郎は苦笑して言葉を投げかけた。

「俺としては、別に今のままでもいいと思うんだけどな」

「あら、それはどうして?」

 リーナの問いかけに、少々気恥ずかしそうに答える圭太郎。

「いや、大した意見じゃないんですけど……今のままの

 エリスの方が、俺としては接しやすいので」

 そんな回答に、きょとんと首を傾げるエリスに、

 なるほど顔で面白そうな笑みを作るリーナ。

「そうかもしれないわね」

「あ、あのリーナ様……それって、私がんばらなくても

 合格できるということでしょうか?」

「そんなわけないでしょ。あなたはもっとがんばりなさい」

 はぅ、と言われて残念そうに肩を落とすエリス。

 やれやれと苦笑するリーナだが、その視線が

 ある一ヶ所で止まる。

「リーナ様?」

 首を傾げるエリスだったが、そんなエリスに気付いた

 様子もなく、その一点をじっと見つめているリーナ。

 圭太郎も、リーナが見ている方へと視線を向けた。

「あれは……商店街の福引?」

「福引って、あのガラガラを回して玉を出すやつですよね?」

 エリスの言葉に、コクリと頷く圭太郎。

 そう、リーナが見ていたのは商店街の福引会場だった。

 今は誰もやっていないようで、スタッフものんびりしている。

「……これはチャンスかもね」

「チャンス?」

 何のことだろうと首を傾げる圭太郎に、ずいっと顔を

 寄せてくるリーナ。

「圭太郎くん、あの福引の券、持ってる?」

「え……あ、そういえば」

 と、先程ジュテームで貰って来た福引券をポケットから

 取り出す圭太郎。

 ジュテームを出る前に、愛からそれぞれに配られたものだった。

 ちなみに枚数の都合上、圭太郎とエリスはペアで一枚しか

 もらっていない。

「ナイスタイミングね圭太郎くん」

「あの……福引、やっていくんですか?」

 まあね、と圭太郎の言葉に得意そうに頷くリーナ。

 ピッと福引券を圭太郎の手から取り上げると、とても

 愉快そうな足取りで福引コーナーへと歩いて行く。

「ねえエリス、リーナさんってああいうの好きなの?」

「いえ、そういうわけじゃないと思いますけど……

 でも何だか、様子がおかしかったですね」

 おそらくはリーナともそれなりに付き合いが長いであろう

 エリスから見ても、おかしいととれるリーナの行動。

 だが、そこからリーナが行動を起こした瞬間、二人同時に

 納得してしまった。

「えいっ」

 少々可愛らしい掛声と共に、ガラガラを回すリーナ。

 そのリーナの手の中が、ぼんやりと白い光を

 放っていたのだから。

「ま、まさかリーナ様……」

 圭太郎の読みは、直後響いたベルの音で確信となる。

「わ……特賞、当てちゃいました」

 天使ってずるい、と心の底から思う圭太郎なのだった。


「というわけで、このご家族一向かっこペット持ち込み可の

 旅行にでも行って、ゆっくりしてらっしゃい」

 商店街の出口で、改めて特賞の祝儀袋を圭太郎に

 わたすリーナ。

「えっと……受け取っていいものなのか非常に悩みますが」

「いいのよ。エリスも旅行に行った方が、試験の評価も

 やりやすいし」

 社交性の問題よ、とリーナはつけたした。

 一応頷いた圭太郎は、隣で未だに苦笑している

 エリスに声をかける。

「だそうだから、旅行ではあまりハメをはずさないように

 しないとな」

「え……そ、そうですね。そうなりますね」

 どうやらこれは、リーナなりの天使の試験の一貫らしい。

 その事に改めて気付いたエリスは、複雑な胸中ながらも

 真剣な目を圭太郎へと向けていた。

「うんうん、仲良しね二人とも……ところで、私から

 一つ質問があるんだけど、いいかしら?」

 『はい?』と同時に首を傾げる圭太郎とリーナ。

 そんな二人に、少しばかり悪戯っ子のような笑みを

 浮かべながら、リーナは問いかける。

「もう二人は、キスとかしちゃったわけ?」

「ブッ!?」

 先に噴き出したのは圭太郎だった。

 いきなりの話題に一瞬きょとんとしたエリスだったが、

 すぐに会話の内容を理解すると慌てて両手を振る。

「そ、そんなのしてないに決まってるじゃないですか

 リーナ様! 私と圭太郎さんは別にそんな……」

「あらそう? 若い男女が一つ屋根の下で暮らせば、

 そういう関係になるって上級天使の人達が

 言ってたんだけど」

 本当に天使って何なんだろうと、真剣に

 悩み始める圭太郎がいた。

「そんな事を言ってたら、エリスが来る以前の

 俺の環境でだってそうなってますよ」

「あら、圭太郎くんは小学生のミキちゃんが好み?」

「そ、そうだったんですか!?」

 ズギャーン、と雷でも落ちていそうな背景を

 背負ったみたいに驚愕するエリス。

「違いますから!」

 そう力強く否定する圭太郎に、よかった〜と

 息を吐き出すエリスと、どこか残念そうな様子で

 圭太郎に耳打ちするリーナ。

「ほら、エリスの反応だって満更じゃないでしょ?」

「……あなた、俺達で遊んでますよね」

「あ、バレた?」

 言いながら、クスリと大人っぽく微笑みながら

 二人から距離をとるリーナ。

 そういう仕草がいちいち大人っぽいのだが、

 どうもこのリーナという女性、かなり茶目っ気の

 ある性格なのだなと圭太郎は思った。

 よくもまあこんなリーナが教授したエリスが、

 こんなに真っ直ぐな見習い天使に育ったものである。

「それじゃあ、中間報告も聞いたし、私はもう

 帰るわね」

「はい、ありがとうございましたリーナ様」

 いえいえ、とエリスに向かって小さく手を振るリーナ。

 圭太郎はといえば、複雑な心境でこう言った。

「この旅行券、イカサマものとはいえ大事に

 使わせてもらいますよ」

「うん、よろしく。じゃね」

 悪びれもせずにしれっと言うと、二人に背を向けて

 そのままどこかへと歩いて行ってしまうリーナ。

 その背中が見えなくなるまで見送ってから、

 圭太郎が呟いた。

「さて、帰って旅行の計画でも立てるか」

「はいっ!」

 こうして圭太郎とエリスは(イカサマで手に入れたとはいえ)

 旅行券の使い道をあれこれ考えながら、ようやく

 家路につくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ