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第六話






 日曜日の、佐々木家総動員の買い物が終わった翌日、月曜日。

 当然のように学校があり、圭太郎とエリス、ミキの三人は

 学校へと向かった。

 そして、その日のホームルーム。

 重大なイベントがある事を聞かされるのだった。






     エンジェルレッスン  第六話

        『人間達の日常』






「それじゃあ、もうすぐ期末試験があるから、各自

 気を抜かないように、以上」

 担任教師のその言葉に、日直が号令をする。

 すぐさま担任教師が出て行き、入れ替わりに今日最初の

 古文担当である教師が入ってきた。

 そんな教室前の様子を見ながら、圭太郎は机の上にいる

 物体に問いかける。

「なあ、天使になるための試験って、こういう期末試験も

 成績に響くのか?」

「さぁな、何しろ審査員がリーナだし」

 答えてくれたのは、日曜日の時同様、圭太郎達にしか

 姿が見えないように霊術を施された妖精、ムサシ。

 どうやら家にいるのは退屈だったようで、今日は珍しく

 学校についてきていた。

 もっとも、ムサシが学校に来た所で意味は無いのだから、

 結局暇をもてあますことになるのだろうが。

「ふ〜ん……てことは、可能性はゼロじゃないってことか」

「多分な。ちなみにエリスは、一通りの勉強はできるはずだぜ」

「そうなのか?」

 コクリと頷くムサシ。

 だが、次の瞬間には呆れたような笑みを浮かべて言った。

「ただ、英語がちょっと……いやかなり……いやいや、

 壊滅的に……」

「ダメなのか」

 はぁ、と溜息をつくムサシである。

「なんで他の勉強があれだけ出来て、英語だけダメかなぁ

 エリスのやつ」

「……ふむ」

 今まで、エリスの学力なんて詳しく知らなかった圭太郎。

 だがムサシの言葉を信じるならば、英語以外はそれなりに

 良い成績をとれる自信はあるのだろう。

 逆を言えば、英語が致命的とも言える。

「これは何とかしてあげないとな」

「期待しないで待ってるぜ」

 そう言うなり、興味でも湧いたのか古文の授業をする

 教師へと視線を向けるムサシ。

 圭太郎もそれにならって、授業を真面目に受けることにした。


 そして、その日のお昼休みのことである。

「ねえエリスさん、そのベーコン巻きちょうだい?」

「ダメです。折角圭太郎さんが私のために作ってくれたんですから」

 言われて、ガックリと肩を落とすのは黒場修一。

 そんな修一を呆れた顔で見つめながら、高峰愛が言葉を発する。

「やっぱり自力でお弁当作るしかないってことよ。ね、エリス」

「そうですね……えっと」

 と、そこで言葉に詰まって、きょとんと首を傾げるエリス。

 どうしたのだろうかと、修一と愛も首を傾げていた。

 唯一人、冷静だった圭太郎が三人に向かって口を開く。

「お前達、まだ自己紹介してないだろ」

「ああっ!」

 ポンと、本当に忘れていたように手を打つ愛、というか

 確実に忘れていたに違いあるまい。

「そ、そうでした。あの、お二人のお名前、聞いてもいいでしょうか?」

「いいよいいよ。僕は黒場修一、何かわからない事があったら

 何でも言ってよ……何でも、ね」

 何故か後半のセリフは含み笑いまで含まれていた、修一の自己紹介。

 首を傾げるだけのエリスだったが、修一の情報網の恐ろしさを

 身をもって知っている圭太郎と愛は苦笑していた。

「次にあたしね。高峰愛、可憐で清楚なうら若き乙女ですっ」

 などと、わざわざポーズを作りながら言う詐欺師愛。

「あ、その真逆が愛の本性だから、間違えないように。

 ここ試験に出るからね」

ガシッ

 物には言い方というものがあるだろうに、わざと愛を煽るような

 補足をしてしまう修一。

 案の定、背後から伸びてきた愛の手が修一の頭部を鷲掴む。

「あ、ぎゃああぁ〜!?」

 このクラスにとってはお馴染みの、されど決して慣れることの

 できない修一の断末魔の声が響き渡る。

 否、恐らくこの声が学校中に響いていることだろう。

ドサッ

「あ、あわわわわわ……」

 修一が教室の床に横たわるのを見て、ガクガクブルブルと

 震えだしてしまうエリスだった。

「ふぅ、邪魔者の駆除も完了……えっと、どこまであたし

 自己紹介したっけ?」

「も、もう充分わかりましたから大丈夫です、高峰さん!」

「愛でいいわよ。そっちの方が気楽だし」

「ぼ、ぼく、も……しゅういち、で……」

「あら、まだ生きてたの? ていっ」

ドスッ

 何の躊躇いも無く、虫の息だった修一にトドメの蹴りを

 くらわせる愛。

 今度こそ、修一はピクリとも動かなくなった。

「おっかねぇな、この女」

 ちなみに今のセリフはムサシのものなので、愛と修一には

 聞こえてなかったりする。

「それにしても、羨ましいわね〜エリスってば」

「はい?」

 と、変わり身の早さで羨望の眼差しを向ける愛。

 その視線の先には、エリスがつついている弁当があった。

「ケイの手作りのお弁当が食べられるなんて、絶対に

 幸せ者よあなた」

「えっと……そうなんでしょうか?」

「これが作り手がエリスで、ご相伴にあずかってるのが

 圭太郎だったら恋愛ものっぽいんだけどな」

 ちなみにこれもムサシの言葉なので聞こえていない。

「別に、俺が作る弁当なんて普通だよ」

「いいや、圭太郎のお弁当を食べて三年目になる

 あたしが言うんだから間違いないわ。圭太郎の作る

 お弁当は、確かに美味しい」

 全部隙を見ての摘み食いだけどな、とは言わないで

 おくことにした圭太郎は、ある意味正しいと言えよう。

 妙な事を言って愛を刺激すれば、先程修一がくらっていた

 あれを今度は圭太郎が味わうことになるのだから。

「ということは……えっと、愛さんは」

「『さん』付けも禁止よ、エリス」

 はぅ、とちょっと恥ずかしそうにしながらも、

 改めて言い直すエリス。

「あ、愛は、圭太郎さんの家にお嫁にいきたいんですか?」

「ブッ!?」

 思わず飲みかけていた水筒の水を吹き出しそうに

 なる圭太郎。

 それに対して、愛は笑顔で手をひらひらと振る。

「違う違う、要はあたし、美味しいものが食べられたら

 それで幸せなわけ。特にケーキとか」

「ケーキ、ですか?」

「あ、そうだエリス。今日帰りに喫茶店寄って行かない?」

 と、いきなり極上スマイルになった愛が身を乗り出す

 ようにしてエリスにずいと迫る。

「は、はい? ……喫茶店って、コーヒーとか

 紅茶とか、パフェとかが出てくるあの?」

「実は商店街に、美味しいケーキのある喫茶店があってね、

 今日はなんだか食べたくなっちゃったから、エリスも

 誘って是非と思って」

 おそらく、愛は思いつきでそんな事を言っているのだろう。

 どうしましょうかと視線を圭太郎へと向けるエリス。

 そんなエリスに、圭太郎はアッサリと返事をした。

「いいじゃないか、行ってこいよ」

「え?」

「まあ、お互いに親睦を深めあう意味もこめて、な」

 その言葉を聞いて、一瞬驚いた表情をした後、なるほどと

 納得した顔になるエリス。

 そもそもエリスは、人間達と仲良くなるために、

 正式な天使になるための試験に合格するためにここにいるのだ。

 この誘い、受けないわけにはいかないだろう。

「それじゃあ愛、お言葉に甘えさせてもらいます」

「よ〜し決まった、それじゃシュウ、今日はアンタの

 奢りにするけどいいわね?」

 愛のその問いかけに、当然先程から沈められて微動だにしない

 修一は返事をしない。

「返答無しは肯定の意として受けとめられるのが日本のしきたり。

 というわけでシュウの奢りだから、皆でいっぱい食べましょうね」

「あ、あはは……」

 さすがのエリスも、これには苦笑で返すしか方法が

 思い付かなかったらしい。

「(相変わらず強引で傍若無人な性格してるよ、高峰ってば)」

 願わくば、いつかその的が自分に向けられないようにと、

 心の中で祈る圭太郎だった。


 そして放課後、下校時刻になる。

 商店街方面に馴染みの二人とエリスとムサシ、そして圭太郎の

 五人で歩いてい時のこと。

「え? どうして僕が奢ることになってるの?」

 早速昼休みにあった会話を修一に聞かせると、案の定

 全く意味がわからないという返答があった。

「まあ、普通はそういう反応するだろうな……だけど、

 オレも初めて見ただけだけど、あの愛って女に

 勝てる奴なんているのか?」

 近くを飛んでいるムサシに、静かに首を横に振る圭太郎。

 やっぱりなと笑って見せたムサシは、最終的には

 エリスの肩の上に落ち付いた。

「ちなみに、発案者は高峰だ」

「何か文句があるのかしら、シュウ?」

 言いながら、右手をわきわきとさせながら修一へと

 近づいて行く愛。

 明らかに攻撃態勢に入っていた。

「い、いや文句っていうか……本当に覚えてないってだけで」

「じゃあ、奢ってくれるのよね?」

「いや、それとこれとは話が……」

「お・ご・っ・て・く・れ・る・わ・よ・ね?」

 コキリと、どこか小気味よい音を響かせる愛の右手。

 完全にその右腕の射程圏内に入ってしまっていた修一は、

 ひきつった顔のまま何度も首を縦に振ることしかできなかった。

「よろしい」

 満足そうに手を引っ込める愛と、ガックリと項垂れる修一。

「あ、あの修一さん、本当にすみません」

 と、罪悪感からか修一にペコリと頭を下げてそんな事を

 言うエリス。

 逆に修一の方が慌ててしまっていた。

「い、いや頭をあげてよエリスさん、僕だってそこまで

 嫌いってわけじゃないんだし」

 なんだかんだで、黒場修一も男の子。

 可愛い女の子の沈んだ顔は、見ていて非常に申し訳ない

 気持ちになるようだった。

 そしてそれは、圭太郎も同じようで。

「そうだぞエリス、今日は修一のためにも、夕食が

 食べられなくなるぐらいケーキを食べなきゃな」

「は、はいっ、がんばります」

「……あはは」

 もう怒る気も突っ込む気も起きない修一だった。

「こいつら見てるとすっごい面白い」

 そんなムサシの言葉は、今度は圭太郎にも

 エリスにも聞こえていなかった。


 そして、やってきたのは商店街。

 入口から少し進んだ所に、目当ての店があった。

「えっと……『ジュテーム』?」

 目の前の看板を見ながら口を開くエリス。

「もとはケーキ屋一筋だったお店なんだけどね、

 改築してテーブルとかを設置して、喫茶店に

 したみたいなの。あ、ちなみに動物の入店も可よ」

「ホントか? じゃあ今度コジロウも連れてこないとな」

 愛の言葉に、たまには留守番ばかりのコジロウも

 フォローしてやらないとなと、嬉しそうな顔になる

 圭太郎。

からんから〜ん

 心地良いベルの音を響かせて、店内へと入る四人(と一匹)。

 いらっしゃいませ、という店員の挨拶を聞いてから、

 四人席に陣取って早速、愛が語り出す。

「もとがケーキ屋だけあってケーキの味はすっごく

 美味しいけど、飲み物もなかなかのものよ。特に

 コーヒーなんか絶品なんだから」

「あ、あの……私は苦いのは苦手なので紅茶で」

「そう? あ、でもエリスとかだったらコーヒーに

 ミルクを入れてる雰囲気あるわね。それっぽい」

 そんな会話をしている女の子二人。

「……あのさ、僕今日あんまりお金持ってきてないんだけど」

「安心しろ修一、いざという時のためにとっておきの

 方法を教えてやる」

「え? もしかして食い逃げ?」

「いや、料金分キッチンで皿洗い」

「……鬼だよね、圭太郎も」

 そして、そういう会話をしている男の子二人。

「でさ……注文しないわけ、あんた達?」

 唯一人、否一匹だけまともな意見を呟くムサシだったが、

 やはり誰にも聞こえていないようだった。

 はぁ、と溜息をつくムサシ。

「(でもま……エリスもそれだけ、人間と仲良く

 なってきてるってことか……そうしとこう)」

 天使になるための試験の監視役としては、これは良い傾向。

 そう結論付けることにした、ムサシなのだった。

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