表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

最終話






 天使になるための試験、エンジェルエクサム。

 半年もの間に開催された試験に、見事合格したエリスは、

 これからはこの町を管理する天使となって、ひそかに

 人間達のために努力してくれるのだろう。

 それは、エリス達に関わった佐々木家の人間にとっては、

 とても嬉しい事に違い無かった。

 だけど、寂しい気持ちだけはどうしても残る。

 そんな調子で、世間で言うところのクリスマスイブの

 夜がやってきた。






     エンジェルレッスン  最終話

       『ハッピークリスマス』






「はいよ、完成かんせい!」

 12月24日。

 その日の夜、佐々木家では二人と一匹でクリスマスパーティが

 開催されていた。

 装飾は妹のミキが担当し、料理は圭太郎が担当する。

 折り紙の輪っかで飾り付けたり、少し小さめの

 クリスマスツリーがあるだけの装飾だったが、ミキが

 やったにしては上出来と言えるだろう。

 そして、圭太郎の料理。

 いつものそれよりも豪華なのは勿論のこと、リビングの

 テーブルの中央に置かれたものに、いち早くミキが反応する。

「あ、エンジェルケーキ!」

「折角だからな、作ってみた」

 あの忙しすぎた学園祭の日、圭太郎が大量に作らされた

 フルーツをあしらったオリジナルのケーキが、そこにあった。

「わ〜い! またお兄ちゃんのケーキが食べられる〜!」

 嬉しそうにするミキだが、摘み食いをするつもりは無いらしい。

 きちんとソファに座って、料理が全て運ばれてくるのを

 待っている。

「お、行儀が良いなミキ。偉いぞ」

「えへへ、あたしは最初から良い子だもん。ね、コジロウ」

「ワンッ!」

 ひと声鳴くコジロウも、その通りと言っているようだった。

 そんな一人と一匹のやりとりに笑顔になった圭太郎は、

 さっさと次の料理を持ってくることにする。

 なんだかんだで、さっきからミキの視線は料理の方に

 釘づけだったからだ。

 これ以上待たせていると、ぐずる可能性がある。

「ほい、これで最後だぞ」

 最後の料理を運んでから、圭太郎もミキとテーブルを挟んで

 真正面のソファへと座る。

 早く早くと急かすミキの視線に、やれやれといった

 様子ながらも圭太郎が音頭を取ることに。

「よし、それじゃあグラスを持て、ミキ」

「うん!」

 コジロウはそんな芸当出来るはずないので、その一部始終を

 見守っている。

 圭太郎もジュースの入ったグラスを持つと、座ったまま

 そのグラスを高々と掲げる。

 そして、お決まりの文句を叫ぼうとした、その瞬間。

ピンポーン

「ん?」

 家のチャイムが鳴った。

 こんな夜に誰だろうと不審に思った圭太郎は、グラスを

 テーブルに置くとミキに言う。

「ミキはここに残っててくれ」

「う、うん」

 警戒の意味もこめてのその言葉に、ミキは真剣に頷く。

 こんな夜中に、本当に誰だろう。

 改めてそう思った圭太郎は、受話器を取る。

「はい?」

『……』

 だが、受話器の向こうから聞こえてくるのは無言。

 いよいよ怪しくなってきたなと、圭太郎が眉を

 ひそめた時だった。

『……ぷっ』

『あ、こら笑うなっての!』

『だ、だって……だってぇ』

「……え」

 受話器越しに聞こえてくる、誰かと誰かの声。

 その声は、とても聞き覚えのあるものだった。

 すぐに受話器を切った圭太郎は、リビングに向かって

 声をかける。

「来いミキ、コジロウ!」

 そのまま一直線に、玄関へと向かう圭太郎。

 遅れてやってきたミキとコジロウは、何がなんだか

 わかっていない様子だった。

 そんな二人のことを考える余裕もなく、二人の到着だけを

 確認した圭太郎は、玄関の扉を開ける。

ギイィ……

 そして、その先にいたのは……。

「やっほ、少しだけ久しぶりね、あなた達」

 どこか茶目っ気のあるお姉さん、リーナ。

「いやぁ、なんか思ったより元気そうで何よりだぜ」

 小さいくせに態度は大きい、ムサシ。

 そして……。

「えっと……戻ってきちゃいました」

 少しだけ頬を赤く染めながら、そんな事を言うエリス。

 そんな三人が、佐々木家の玄関先にやってきていた。


 その後に始まったパーティは、大盛況といったところだろう。

 圭太郎は、まるでこうなることを予感していたかのように

 大量に料理を作っていたので、いきなり三人の来訪があっても

 料理が足りなくなることは無かった。

 しかもどういう成り行きからか、再びコジロウが喋れるように

 なっている。

 今はぷち久しぶりに再会を果たしたムサシと、また

 口論の真っただ中だろう。

「やれやれ、どこまでもいつも通りのやつらだな」

「本当ですね」

 そんな中、窓から庭へと揃ってやってくる圭太郎とエリス。

 リビングの中では、リーナまで混ざって何やら

 盛り上がっているようだった。

 先程までその輪の中にいたからか、圭太郎とエリスの

 頬が少し熱い。

 そして、12月の冷たい夜風がとても気持ち良かった。

「……それにしても驚いたよ」

 唐突に、圭太郎が切り出す。

 何の事かすぐにわかったエリスが、先に口を開いた。

「実は、リーナ様も上級天使になるための

 エンジェルエクサムを受けないといけなくて……私の

 正式な天使としての申請も、年明けぐらいにならないと

 おりないようなので」

「それで、一時的にとはいえ戻ってこれたのか」

 はい、と笑顔で頷くエリス。

 どうやらリーナは、今度は国単位で治安を守る天使に

 昇格するために、現在猛勉強中らしい。

 何の勉強かは見当がつかない圭太郎だったが、

 どんな勉強だったにせよ、あのリーナに勉強する姿

 というのは似合わないなと思っていた。

「だったら、もっと早めに戻ってきてくれれば良かったのに」

 そう愚痴をこぼす圭太郎に、苦笑したエリスが

 返事をする。

「それが……その、リーナ様が」

「リーナ様が?」

「……『この方がクリスマスプレゼントらしくて

 いいでしょう』って」

 ああ、とそれだけの言葉で納得してしまう圭太郎。

 確かにあのリーナならば、そういうタイミングで

 サプライズプレゼントをしたがるに違いない。

 本当に天使は面白い連中ばかりだなと、夜空を

 見上げながら圭太郎は笑っていた。

「あ」

 と、隣にいたエリスが何かを思い出したかのように

 声をもらす。

「どうしたんだ、エリス?」

「ちょっと忘れ物を。今とってきますね」

 言いながら、庭からリビングへと戻って行くエリス。

 一分もしないうちに戻ってくると、少し視線を

 はずし気味に、圭太郎にそれを差し出した。

「そ、その……これを」

「これ?」

 言われて、エリスが差し出してきたそれを見る圭太郎。

 綺麗な紙袋に、クリスマスらしくサンタクロースの

 シールで封がされていた。

「えっと……クリスマスプレゼントです」

「あ……え、お俺に?」

 はい、と小さく頷くエリス。

 一瞬ぼけっとしてしまった圭太郎だったが、すぐに

 我に返るとその紙袋を受け取る。

「あ、ありがとう」

「いえ、いえいえ、大したものじゃないですけど」

 そう言いながら、完全に視線をそらして俯いて

 しまったエリスは、物凄く恥ずかしそうだった。

 そんなエリスを見つめながら、そして紙袋へと

 視線を落とす圭太郎。

「これ、開けていい?」

「…………ど、どうぞ」

 長い沈黙の後、いっぱいいっぱいといった感じで

 エリスが呟く。

 とりあえずOKをもらった圭太郎は、

 サンタクロースのシールを剥がして紙袋を開けた。

「……お」

 そして、紙袋の中から出てきたもの。

 それは、青い毛糸で編まれたマフラーだった。

 しかもこの質感は、お店で売っているものではなく手作り。

 そこで圭太郎には、ピンとくるものがあった。

「まさか、学園祭前からエリスが寝不足気味だったのって」

「さ、最後の方は天界でしあげました! そ、それと

 ミキちゃんの分や、コジロウさんの分もあります!」

 早口にそうまくしたてるエリスに、思わず

 苦笑してしまう圭太郎。

 なるほど、こんなマフラーを三人分(二人と一匹分)も

 編んでいたのならば、あの連日の夜更かしも

 納得というものだろう。

「ありがとうな、エリス」

「い、いえ……本当に大したものじゃなくて……でも」

 更に小さな声で、エリスが呟く。

「無事にわたせて……良かったです」

「……だな」

 あの日、本当に最後の別れだと誰もが思っていた。

 もう会うことは無いだろうと思われたエリス達と、

 リーナのサプライズとはいえ再開できたのは素直に嬉しい。

 さすがは天使、と圭太郎は思った。

 本来の天使は、人間達の平穏な生活に貢献するそうだが、

 圭太郎の中での天使のイメージは少しばかり違っていた。

 いつも笑顔で、周りのために一生懸命。

 ちょっとばかり知識不足なところもあるが、誰のためにも

 一生懸命手助けをしてくれる、そんな健気な雰囲気。

 そう、今目の前にいるエリスのような印象を、

 圭太郎は持っていた。

「なあ、エリス」

 だから圭太郎は、そんなエリスに問いかける。

「はい?」

 少しでも、そんな優しい天使に恩返しするように。

「寒くないか?」

「そう言われると……やっぱりこの時期は冷えますね」

「そっか。俺も寒いし……それじゃあ」

 頷くなり、手に持っていたマフラーをエリスの首に

 巻きつける圭太郎。

「え……あ、あの、圭太郎さん」

「それで、これをこうして」

 言いながら、もう片方のマフラーの端を自分の

 首に巻きつける圭太郎。

 一つのマフラーを、二人で巻く。

「あ……」

「こうすれば、二人とも暖かいよな」

 マフラーがそれほど長く作られていなかったせいか、

 いつもより二人の距離は近い。

 そんな中で、頬を赤く染めたエリスは、小さく

 コクリと頷く。

 そんなエリスの返事に満足そうにした圭太郎は、

 やがて小さく呟いた。

「……今度は、いつ天界に返るんだ?」

 その言葉に、やや長い沈黙を作るエリス。

 そして、少しだけ寂しそうに言った。

「さっきも言ったかもしれませんけど……年明け

 ぐらいになるかと」

「そっか……だったらさ」

 言いながら、ちょっと照れ臭くなったのか夜空へと

 視線を向ける圭太郎。

「俺の我儘かもしれないけど……もし、天使の仕事で

 疲れたらさ、今までのリーナ様みたいに……その」

「ん?」

 きょとんと首を傾げるエリスに視線を向けないまま、

 圭太郎は口を開く。

「……たまには、うちに遊びに来いよ。休憩がてら」

「あ……」

 その言葉に、どこか嬉しそうな声がもれるエリス。

 最初から、そういう事を言っておけばよかったのだ。

 なのに今になってようやく出てきたということは、

 なんだかんだで、圭太郎も照れくさかったのだろう。

 天使相手とはいえ、女の子に『自分の家に来い』なんて

 言うことは。

「はい、遊びに来ます! ……だから、その」

「ん? なんだ?」

 視線を戻すと、至近距離にエリスの顔。

 一つのマフラーで結ばれた二人は、互いに笑顔で言う。

「これからも……よろしくお願いします、圭太郎さん!」

「あ……お、おう!」


 それからすぐ、リーナに呼ばれてリビングへと

 戻る事になった圭太郎とエリス。

 いつの間にかリーナがアルコール飲料を取り出して

 いたりと、パーティは波乱に満ちたものになっていったが、

 それが楽しいのだから困りものである。

 これまでみたいに、エリス達は毎日一緒にいるわけじゃない。

 でも、もう二度と会えないわけでもない。

 圭太郎とエリスは、約束したから。

 いつでも遊びに来て良いと、こっそりと約束したのだから。

 だから、ホワイトクリスマスでなくとも、佐々木家で行われた

 今日のクリスマスパーティ。

 それは、今まで圭太郎達が体験した中で、一番

 楽しい思い出になったのだった。

最後の最後でどうも、作者の鷹山孝洋です。

今回、思い切ってこのような場所に自分で執筆してみた小説を投稿してみました。


普段は恥ずかしがり屋で、表に出る事はあまりないのですが、今回は思い切ってチャレンジさんです。

今回のこの『エンジェルレッスン』ですが、実は剣と魔法のファンタジーな世界観でやる予定もあったんですよ。

ですがそれだと、天使の部分が際立たないということで、現代ものとさせてもらいました。

勉強したり奮闘したりと、色々な展開を作った本作でしたが、いかがでしょうか?

少しでも気に入ってもらえれば嬉しいです。

ちなみに作者である私のお気に入りは、やっぱり圭太郎くんですね……一家に一人ほしい家事っぷりですw


それでは〜っ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ