黒兎①
紫釉様は、いよいよ明日六歳をお迎えになる。
宮廷も後宮も華やかに飾り付けられ、光燕各地の有力貴族はもちろん、諸外国の使者も続々と集まってきている。
後宮の塔の上からあまたの人の行列を見た紫釉様は、きっとその中に泉国からの一行もいるのだと思って口を開いた。
「母上は文を読んでくれただろうか?」
「……ええ、きっと」
その言葉には、返事は来るだろうかという期待が込められていた。
私は、返事がきてほしいという願いを込めて答える。
紫釉様が母君に文を出し、もう四ヶ月ほど経つ。
表向きはやりとりができないため、蒼蓮様が秘密裏に配下の者たちに届けさせたと聞いている。
「紫釉様のお心は伝わっておりますよ」
私には励ますことしかできないけれど、どうか紫釉様が喜ぶような返事が来てほしい。
小さな手に握り締めた文箱には、雪梅妃が残した文が入っていた。
ふとここで、背後から低い声がかかる。
「紫釉陛下、ここにおられましたか」
「蒼蓮」
振り返った紫釉様は、すっかり心を許した叔父・蒼蓮様のお姿を見てうれしそうな顔になる。
私たちはいっせいに礼の姿勢を取り、蒼蓮様をお迎えした。
「紫釉陛下、春とはいえここはまだ冷えます。蒼蓮と共に、生誕祭のお衣装を見に、中へ入りませぬか?」
「それは、明日着るという衣か?」
「はい。ぜひ着てみせてください。お父上が幼い頃に着ておられた衣と、似た形で作らせましたので」
「父上の?」
「はい、きっとお似合いになります」
若くして亡くなられた先帝様と、紫釉様はよく似ておられたらしい。
蒼蓮様がきっと似合うとおっしゃるなら、そうなのだろう。私も楽しみに思った。
でも、今は何よりやることがある。
──よかった。これでひとまず紫釉様より先に贈り物を確認する時間が取れる。
生誕祭までに、たくさんの贈り物が近隣諸国から届いている。その中には、紫釉様の母君である雪梅妃のいる泉も当然あって……。
もしも文のお返事があるなら、ひそかに届いているかもしれない。
私たちは、絶対に見つけなければと意気込んでいた。




