1巻発売記念SS「夜にやってくるあいつ」
書籍1巻が発売されました。
めちゃんこかわいい紫釉様のイラストにときめきまくりですので、紫釉様と飛龍のお話を書きました。
ちょっと未来のお話です。
「本日よりこちらでお休みいただきます」
十歳を迎え、皇族の成人年齢に達した紫釉は、今日から後宮ではなく宮廷の最奥にある場所に住まいを移した。
儀式、儀式、また儀式。
果てしなく続くかと思うような仰々しい儀式の連続に、心身ともに疲弊した後、ようやくゆっくり眠れるというのが今夜である。
「………………」
目が冴えてしまい、まったく眠れそうにない。
疲れているのになぜ……?と紫釉は寝台の上で天井を見上げてそう思った。
するとそこに、かすかな足音が聞こえてくる。
(あいつか)
自然に口角が上がる。
むくりと身を起こした紫釉は、長い髪を手で整えて寝台を下りた。
──カツン……
窓際で鳴った音。
後宮で暮らしていたときから変わらぬ合図だった。
紫釉は窓に近づくと、そっとそれを開ける。
「ここまで侵入するとは腕が上がったな」
そう言って笑う紫釉に対し、やってきた一人の少年はニッと笑い返した。
「紫釉様が寂しがってると思ったんだよ」
武官候補が住まう場所は、そう近くない。しかも闇に紛れてここまで見張りの目を盗んでくるのは、たった一人だった。
「飛龍、今日は何用だ?」
側近候補ではない飛龍は、武官を目指している。初めて会ったのは五歳のときだが、二年ほど前からたびたび夜に後宮へやってくることがあった。
側近候補とは明確な上下関係があるが、飛龍とは色々な縛りの外にある関係性を保っていた。
「あれあれ」
「?」
飛龍は、真上を指さしてそう言った。紫釉はそれにつられ、窓から少しだけ顔を出し上を見る。
そこには、真っ暗な夜空にいくつも流れる光の筋が走っていた。
「星が……?」
初めて見る流星に、紫釉は驚いて見入ってしまう。
「そうそう、流星。見に行こう?」
「行くって?」
「屋根の上」
「本気か?」
皇帝の寝所へやってくるだけでも見つかれば重罪、さらには勝手に連れ出そうなど正気ではない。
「さすがにダメだ。見つかった時に庇ってやれぬ」
紫釉は残念そうに首を振る。
しかし飛龍は、その腕を強引に取って言った。
「大丈夫だって。ちょっとだけ見逃してくれって頼んであるから」
「は?」
振り返った飛龍は、左手を上げて合図を送る。
その方向には、武官の服を着た長身の男がいた。
紫釉は呆れた顔で呟く。
「蒼蓮まで何をしておるのだ」
「ははっ、抜け出すのも皇帝の楽しみだってさ。どうせ眠れないんだろう?行こうよ紫釉様」
小さく息をついた紫釉は、窓枠に手をかけてひらりと外へ飛び出した。
トンッと小さな音が地面に響き、二つの足音が林の方へと移動する。
「あっちに梯子を用意してあるんだ」
「それは助かる」
「さすがに寝衣じゃ壁を蹴って登れないもんな」
「……我はそういうのは得意でない。そなたとは違う」
蒼蓮と合流し、三人になった人影は執政宮の一部に到着する。そこには、巻き込まれた秀英と麗孝が待っていた。
「今日だけだからな……!?」
兄に叱られるのは、もう何度目か。
秀英の苦言に、飛龍は「はいはい」となおざりに返事をした。
紫釉はそれを見てくすりと笑う。
「すまぬな。我のためと思うて今宵は許してくれ」
心のどこかで、「皇帝として成人を迎えればもう何もかも諦めなければいけない」と思っていた。だがさきほど飛龍がやってきたことで、そうではないのだと密かに安堵する。
「では、紫釉陛下。お気をつけて」
蒼蓮は、穏やかな顔つきでそう告げた。
紫釉は黙って頷くと、すでに梯子を上がっている飛龍の後を追う。
見上げれば次々と星が流れていて、とても美しい光景だと思った。
(星が流れるは不吉だと申す者もおるが、これほどに美しいならばきっとよいことがあるに違いない)
十歳にして皇帝歴七年の紫釉は、これからの日々に期待を膨らませるのだった。
5月17日発売!
「皇帝陛下のお世話係」ノベル2巻&コミックス1巻
ノベル版は半分くらい書き下ろしで、新しいエピソードが満載です♪
紫釉様の成長や凛風の仕事ぶり、蒼蓮の深まる愛情と不憫がより楽しめる内容になっております!
どうかお楽しみください!
漫画版では、吉村悠希先生の描く麗しい世界観が最高です。
お兄ちゃんと蒼蓮の不憫かっこいい姿よ……!( ノД`)煌びやかな中華の世界、詰まってます。
なお、小説版もマンガ版もずっと名前にふりがなついてます。読めない・覚えられないが解消されて、ストレスフリーな中華をお楽しみいただけます。
ありがとうございます、スクウェアエニックスさん…!
※アニメイトさんなどでの特典配布は、なくなり次第終了です。




