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無礼な男【後】

 すれ違う武官や官吏はぎょっと目を瞠るが、誰も私を助けてはくれなかった。

 上級武官であることはわかるが、少しくらい誰か止めてくれたっていいじゃない!


 知らない男に抱えられるなんて、辱めが過ぎる。

 お願い、私だって気づかないで……!


 ぷらんと荷物のように小脇に抱えられながら、私は顔を両手で覆って項垂れた。


「ついたぞ」


 しばらくおとなしくしていると、離れのような宮に連れて来られた。

 ようやく床に下ろされ、私は半泣きで男を睨む。


 彼はこちらを振り向きもせずに、見るからに重い扉を右手で押し開けた。

 その中には、木製の箱に収められた二胡や鈴などいくつもの楽器が保管してあるのが見える。


 もしかしなくても、これは国宝級のものばかりなのでは!?

 恐れ多くて、私は一歩も動けない。


「さぁ、好きなものを選べ。といっても、さすがに数がありすぎるか」


 彼は、勝手知ったる場所のように奥へ進むと、茜色の筒を慣れた手つきで開ける。


「これはどうだ?」


 目利きができるのか、それとも偶然か。彼が私に差し出したのは、かなり上等の二胡だった。


「えっと」


 受け取ったそれを確認すると、手入れはされていることがわかる。

 床に座り、ためしでそれを弾いてみると、なめらかで心地よい音色がして、私が持ってきたものよりも柔らかな音がした。


「どうだ?」


 頭上から、彼の声がする。


「ありがとうございます。こちらをお借りいたします」


 そう言って見上げると、彼は満足げに微笑んだ。

 さっきは私に「皇后に選ばれたくて必死なのか」と嫌味なことを言い放ったのに、別人のような感じがする。


「さて、もう時間がない。戻るぞ」

「え?」


 彼は私の腕を強引にとり、その場に立たせた。

 嫌な予感がした私は、二胡を抱きかかえるようにして一歩下がる。


「もしかして、また私を抱えて運ぶつもりですか!?」

「時間がないと言っただろう」


 ひぃぃぃぃ!

 もう一度小脇に抱えられるなんて絶対に嫌!


 私は全力で拒絶する。


「歩けます!自分で走れますから、案内だけお願いします!」


「いいのか?女人は走らぬものだろう」


 確かに、せかせか走るのは小間使いの者だけだ。

 (リュウ)家の娘として、廊下を走るなんてよくないと自覚はある。

 けれど、見知らぬ男に運ばれるのはもっとだめですからね!?


 彼は私の「絶対に嫌」を感じ取り、くすりと笑って頷いた。


「わかった。では行こう」


 ご理解いただけて何よりだ。

 私は筒に入れた二胡を抱え、彼の後ろをついて足早に駆けていった。




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