あきら君はお正月でも通常運転でお送りいたします
明けましておめでとうございます!
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
昭君のシリーズでは久々の短編です。
彼らの迎えるお正月、そしてもらっちゃうお年玉とは――?
1/3 誤字報告いただきました。ありがとうございます。
この作品はシリーズ物です。
読んで意味不明!という方は同シリーズの作品をご覧ください。
幼稚園の時、お年玉の話題になって先生が困った顔をした。
見たいのかと思って、そっと手を開いて乗せていた『お年玉』を見せる。
先生は更に困った顔をして、そっと手を閉じさせて言った。
「あきらくん、だめよ? お願いだから貴重品は幼稚園に持ってきちゃ、だめ。ね?」
先生を心底困らせた、幼稚園の一月。
何かを禁止するなら、理由もちゃんと説明するべきだと思った。
【 あきら君はお正月でも通常運転でお送りいたします 】
三倉家の一月一日、お正月は明けましておめでとうの一言で始まる。
日本のご家庭ならどこもかしこもそうだろうけれど、三倉家は家族全員が自主的に和装で部屋から現れるあたり、割と特殊なのではないだろうか。
父:大さんの和装は、金髪に着物なので見た目に違和感強めだったけれども。
全員が揃った、朝の食卓。
並べられたのはお屠蘇にお雑煮、お節のお重。お刺身の並べられた大皿。
どこから見ても伝統的な、日本のお正月が演出されていた。
ここで日本の未成年諸氏であれば、きっと心待ちにしているお正月最大のイベントが思い浮かぶことであろう。大人になればやる側だが、子供の内はもらう側。
――そう、お年玉である。
だが三倉家の子供達は、男児三人に限っては特に心待ちにもしていなかった。
むしろ上二人に至っては、遠い目をしている。
子供達の心情に、気付いているのかいないのか。
家族の揃った食卓で、ご満悦な一家の大黒柱:大さんは笑顔で宣った。
「さあさあ、可愛い子供達。今年もお待ちかねのお年玉をあげようね!」
「いや、父さん。前にも言ったけど、俺もう大学生だし。大学入ったらお年玉はもう要らねって前から言ってたろ。なんで俺にまで出そうとするんだよ」
「何を言ってるんだい。まだ働きにも出てないのに、貰えるものは貰える内に貰っときなさい。あって困るものでもないだろう。君達なんてお父さんから見ればまだまだまだまだまだまだまだまだ子供なんだから」
「まだが多いぜ父さん」
「むしろ少ないんじゃない?」
「とにかく、父さんがあげたいんだから。父さんの懐的にもあげて困るものじゃないんだから、素直に貰っておきなさい」
さ、手をお出し。
そう言って子供達に手を差し出させて、大さんは長男から順番にそれぞれの手にひとつひとつ落としていった。
何をって?
そう、お年玉を。
お正月の三が日も、風の如く駆け去り。
気付けばあっという間の新学期。
子供達には悲しい始業式がやって来た。
おはようと声を掛け合い、少年少女は席に着く。
寒い教室、凍える息。
冷たい椅子と机に不平不満をぶつけながら、HRが始まるまでの時間をそれぞれ思い思いに過ごす。
そして新学期真っ先に子供達の話題に上るものは?
冬休みは短い。
その間に起きた事柄に関する話題となると、自然にネタも絞られる。
だから男子の一人がこう言いだすのは、どう考えても時間の問題だった。
「なあ、お前らお年玉っていくらもらったー?」
ご満悦な顔でそう言うからには、きっと言いだした本人は一族郎党から結構な額をせしめたのだろう。
親戚が多かったのか、一人当たりの額が大きかったのかは謎だが、かなり懐が温まったに違いない。
だが隣の席からそんな話題を向けられて、昭君のお返事は単純明快に過ぎた。
「ん」
額を聞かれたはずなのに、それだけ言って、ポトンと。
聞いてきた男子生徒の目の前、机の上にハンカチを敷いて昭君が落としたもの。
それは。
「……なにこれ?」
「僕が今年貰った『お年玉』」
「お年玉って、これ……『玉』じゃん!?」
「それが僕の今年のお年玉の総額だよ。うち、お年玉がもらえる距離に親戚いないし」
昭君の親戚……
片や時空の彼方、平安時代(初期)に置き去りにされた一族(母方)。
片や青く荒れる広い海のどこかに潜む、人魚の一族(父方)。
それは確かに、お年玉も貰い様がない。
つまり三倉家の子供達にお年玉をあげるのは、毎年両親だけということで。
そしてご両親が子供達に渡すお年玉は、紛うことなき『玉』だった。
「いや、おいちょっと待て……」
困惑に固まる男子生徒の隣から、にゅっと出てきた後ろの席のクラスメイト。
陽光を受けて特徴的な光を放つその玉を、男子生徒はこう呼んだ。
「これ、玉っていうか……真珠じゃん!!」
そう、ただし玉は玉でも、『真珠』である。
「え、うそぉ!?」
「ちょっと待て、コレ、直径何ミリあるんだ……っ!?」
あまりにも毛色の違う『お年玉』に、一気に現場は騒然とした。
いつの間にか右目にルーペを装着し、白い手袋をはめた男子生徒が真珠の鑑定を始めている。
真剣な眼差しは、真珠の厚い層の向こうに何を見るのか。
「馬鹿な……この巻きあつに、傷がどこにもない……形も完璧なラウンド型だ……しかも本物の天然真珠だと!?」
「おい、なんで鑑定団が始まってんだ」
「しっ……ほら、アイツの家、質屋だから」
「三倉っ……これが本当に、お前の『お年玉』だっていうのか!?」
驚愕を顔に浮かべる鑑定n……クラスメイト。
彼に向って淡々と頷きながら、昭君は肯定した。
「うん。うちは毎年コレだよ」
「ま、毎年、だと……っ」
「そう、3歳からずっと」
「さ、3歳から!? じゃあ、お前の元には10粒のコレがあるとでも!? まさか、まさか全部同等の品質とか言わないよな!? 言わないよな!!? 言わないって言ってくれ!!」
「言ってほしいなら言ってあげても良いよ。偽りでも良いのなら」
「み、三倉……っ全部同品質なのか!? 全部、同品質なんだな!? 手元にある10粒全て!!」
「僕だけじゃなくて、僕の兄さん二人と妹も同じくらいの品質だよ」
「さ、さらに四倍、だと……っ!?」
「上の兄さんは金色系の真珠で、下の兄さんは黒真珠系、僕が青系の真珠で妹がピンク系の真珠をもらってるよ。毎年」
「しかも系統別に揃えてきただと!?」
「兄さん達はもっと換金しやすいお年玉にしてほしいって毎年言ってる。未成年だとどうしても換金しようとしたら窃盗とか疑われて大変だし、まず間違いなく保護者か警察呼ばれるからね」
「この真珠より換金しやすいお年玉ってなんだよ! お年玉の認識が俺達と違いすぎる!」
「子供に真珠渡されて『お年玉』とか言われてもね。価値がわからない小さな頃は、ビーズの変わり種かビー玉の小さいのくらいにしか思えないのが普通じゃない?」
「お、おい、待て、まさか……っいや、嘘だよな!? 俺の思い違いだよな!?」
「幼稚園にビー玉代わりに持って行って遊んで先生方を阿鼻叫喚に突き落とし、ついでに無くしかけて先生方が悲鳴交じりの大掃除を開始する羽目に陥らせるまでが三倉家の子供あるあるだよ」
「い、いやぁぁぁああああああああああああああ!!」
「うちの兄弟が通うようになってから、僕達が卒園した幼稚園ビー玉の類の持ち込み禁止になったらしいよ。僕達がビー玉の代わりに真珠で遊んだせいだね、きっと」
「ひ、ひぃぃっ!! お前ら鬼かよ!」
「そうは言われても、兄さん達だって幼稚園の頃は真珠の価値なんて知らないだろうしね。僕の時はとっくに持ち込み禁止になっていたから、『ビー玉としては』持って行かなかったけど」
「やめてくれ、それ以上は! 俺の心臓が不自然な脈立ててるから!」
「とりあえず換金は難しいし、毎年使い道もなく着実に溜まっていくばっかりなんで、あまり即物的な意味では有難みのないお年玉だね。妹は成人したら溜まった真珠でアクセサリー作ってもらう予定みたいだけど」
「み、三倉、お前は? お前はこの真珠、どうするつもりなんだ……?」
「僕は成人したら即換金して資金にするよ」
「何の……って、どうせゲームとかなんだろうなぁ」
「株の」
「って、株かよ!! いきなりイメージ外したとこついてきたなぁおい!!」
「兄さん達は換金するのは諦めて、将来結婚する相手に結納品として渡すつもりらしいけどね」
ざわ、
昭君が兄達の予定を口にした途端、真珠の登場で密かに昭君達の会話に耳を傾けていたクラスの女子たちが騒めいた。
昭君の下のお兄さんは、年代が近いことや部活動で活躍していることもあって昭君の同学年の少年少女たちの間でも割と知られたイケメン男子高校生である。
そんなイケメンが、将来結婚した暁には高品質な真珠(推定十数粒)を結婚相手に贈るというのである。
現金な女子生徒たちは、目を欲に眩ませた。
不穏な空気を察したのかそそくさと昭君が真珠を回収してガマ口にしまうまで、約三秒。
五秒後には、クラスの女の子たちが昭君の前に人垣を形成していた。
ちなみに直前まで昭君と会話を楽しんでいた男子生徒数名は、女子に押し潰されて可哀想なことになっている。
「三倉、お兄さん紹介して!」
「ううん、私! 私に先に紹介してくれない!? ほら……えっと、あ、次に日直一緒になった時、仕事全部あたしがするから!」
「なにせこいこと言ってるのよ! 三倉、次のテストでわからないとこあったら教えるよ! 私の成績、このクラスで三番目なの知ってるよね? だからさ、紹介……」
「ちょっと一人に紹介するとか言わないでしょうね!?」
「なによ、だったら全員にご紹介とでも言うの!?」
「むしろそっちの方が良いんじゃない? ねね、三倉ぁお兄さん学校に連れてきてよ」
殺到する、女子生徒達。
よくよく見れば、中には他のクラスの女子も沢山混じっている様子。
どうやら始業前の時間を使って、他のクラスから遊びに来ていた女子が多くいたようだ。
まるで獰猛な肉食獣が周囲から飛び掛かってくるような勢いに、昭君は「おおう」と僅か、口にして。
一秒ほどで考えを纏めると、淡々と鞄から携帯電話(ガラケー派)を取り出した。
ぱかり、開いてボタンを打って。
表示させた画面を、女子たちに突き付けた。
画面に映っていたのは、真っ白な鶏を抱えた金髪碧眼の凄まじい美少女(セーラー服)。
突き付けられた人外級の美貌を前に、女子たちが言葉を失い鎮まった。
その隙間に、淡々と昭君の言葉が入ってくる。
「こちら、僕の兄さんの片方に結婚前提でアタックかけてるお姉さん。しかも外国の良い家のご出身で正真正銘のお嬢様。うちの兄さん達に紹介するとなると、最低でもこのランクの美少女に太刀打ちしないといけなくなる訳だけど、それでも紹介……要る?」
昭君に突如襲い掛かった騒めきは、本格的に鎮まっていた。
戦う前に敗北を悟り、すごすごと引き下がる中学生の女の子たち。
その背中を見ながら、ふと昭君は思う。
下の兄さんの出会いを潰してしまったかもしれないな――と。
噂が回れば兄さんの出会いに関するとばっちりは、長々と尾を引きそうだ。
ふとそのことに気付きかけたのだが……
厄介事に巻き込まれるのが嫌だったので、昭君は気付かなかったことにした。
お正月らしい作品を書こうと思ったら、何故かこうなりました。
どうしてだろう?
それはきっと昭君達を題材にしたせいね――