7話(完結)
「お終い。どうだったかしら」
「……リュイ、今のお話の死なない人と、会ったことがあるの?」
「まあ、これは誰かが作った話なんでしょうけど、ひょっとしたら本当にそんな人がいるのかも。どうなのかしらね」
「死ぬ、って何なのかな」
「私も、まだ死んだことが無いから、わかる訳じゃないけれど」
サキは神妙な顔で黙り込んでしまった。
その頭をリュイは、サキが眠るまでずっと撫でてやっていたが、髪は抜けたり力無く切れたりで、もう本当に死期が迫っていることを教えてくれるようだった。
時折咳き込むのも、体力を消耗してしまうようで、リュイは心底哀れんだ。
「お早う、サキちゃん。今日は街に行きましょうか」
「ふわわ……おはよ。街?でもねリュイ、街まではすごく遠いんだよ」
「私がおぶってあげるから。それでね、良いお医者様に診て頂きましょうね」
リュイはサキの体が冷えないよう毛皮を纏わせ、朝食の後、直ぐに発つことにした。
サキの他にも、食料と水袋、家に有った金目の物全てを背負っていた。
「リュイ、力持ちなんだね。お父さんでもきっと、こんなには持てないよ。一日はかかると思うけど、本当に大丈夫?」
「私ね、農家の生まれだから、こういうのは平気なのよ。寒くない?」
「あったかい、すごく。眠っちゃいそう」
「いいよ、山道は退屈でしょうし、寝ていればその間に着いちゃうからね」
リュイは歩き続けた。長い道、山賊には遭いたくないと思っていたが、今回ばかりは幸運であった。丸一日で街に出た。
これだけの重さを背負い、山道を不眠不休で歩くなど、誰にも出来ることではない。
「サキちゃん、起きてる?ほら、やっと街に来たみたいよ」
「ほんとだ。ああ、こんなに人が居るの、すごく久し振り」
「宿をとりましょうね。サキちゃんが休んでいる間に、お医者様を連れて来ますからね」
「ねえ、リュイ」
「どうしたの?」
「わたし、死んじゃったら、お父さんに会えるかな」
背中越し、その言葉が二人の間を舞った時の表情は、お互いに見えなかった。
「……どうかしらね。お父さん、どこかで会えるといいね」
二人の旅は、あと少しで終わるだろう。それは残酷と言ってしまっていいかも知れない。
それなのに、残酷にも、リュイの旅は終わらない。
(終わり)