表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

4話

 翌日も、父親は帰って来なかった。


 その翌日も、その次も。


 リュイはそれが何故だかわからない、という表情をつくるのがつらかった。


 サキも心の何処かで、父親が無事では無いことを認めかけていた。


「……ねえ、リュイさん」


「なあに?どうしたの」


「また昔話、してほしいな」


「そんなに気に入ってくれた?」


「うん、だってリュイさん、わたしとそんなに歳も違わないよね?それなのに、いろんな事を知ってるし、お話もすごく上手なんだもん」


「そうね、私、そんなに若く見えるかしら」


「でも話し方は、なんだかお婆ちゃんみたいだね」


「……今日は、お話は無し」


「えっ、あ、ごめんなさい。怒ったの?……嫌だった?」


「ふふ、少しだけ。また水を汲んでくるから、少し待っててね」


「ごめんなさい。ほんとにごめんなさい。だからまた帰って来てね。一人にしないで」


「あら、ごめんね。冗談だから心配しないで。ちゃんと戻って来ますから」




 日に日に、サキの病状は悪くなっていった。


 リュイと初めて会った日から僅か半月で、肌は胸から首筋、下腹の辺りまで緑に変色してしまっていた。


 咳に血が混じり、眼は何時も虚ろになって、死を意識しては怯えるようになった。


「ねえ……リュイ」


「どうしたの?」


 リュイはベッドの側まで寄り、サキの手を優しく握った。冷たい手であった。


「わたし、死んじゃうのかな」


「……きっとね、お医者様でも、人が死ぬ時なんてわからないのよ」


「死んだら、お父さんに会えるかな」


「ひょっとしたら、そうかも知れないね。お父さまに会えるなら、怖がることもないね」


「……ねえ、また昔話、して」


「困ったわ、もう知っている話は大方話してしまったからね」


「やだ。リュイは何でも知ってるもん。聞かせてくれるんだもん」


「わかりましたよ、そうね……


じゃあ、こんなお話はどうかしら」


 リュイはサキの髪を優しく撫でながら、話を始めた。




 今よりずっと昔の話。一人の娘が、田舎の穏やかな村に生まれました。


 娘は良い空気の中、素朴な物を食べて、すくすくと育ってゆきました。


 娘はお爺ちゃんとお婆ちゃんが大好きでした。畑仕事で腰の曲がった二人。


 でも娘が八歳になった頃、お爺ちゃんはひどい風邪に罹って亡くなりました。


 その時、初めて、娘は人の死というものに触れ、それを怖れるようになりました。


「お婆ちゃん、お婆ちゃんも何時かは死んでしまうの?」


「そうですよ、私のようなお婆ちゃんだけじゃないの。人は誰でも自分の生きられるだけ生きた後は、生まれる前と同じように、何も無いところに帰るのよ」


「お婆ちゃん、私、どうしてか、それがすごく怖い」


「大丈夫、怖いことは可笑しくないの。


でも、それはね、どんなに逃げてみたって、きっと何時かは追いついて、私たちの肩を叩くのよ。


お婆ちゃんもそろそろ、逃げ足に自信は無くなってきたねえ。ちゃんと、何時でも杖を持っておかないとね」


 娘は怖がっていたけれど、お婆ちゃんはどうしてか、平気な顔をしていました。


 だんだん体が弱ってきて、食べるのも随分と小食になったけれど、やっぱり平気な顔でした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ