表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

1話

 リガとミョルドの国境にある、サラジアという名の小さな村は、無法地帯と呼ぶに相応しかった。


 山の麓の大通りに面した地域は割合ましなほうで、しかしそこを少しでも外れると、山賊と骸ばかりの酷い有り様だった。


 山に囲まれたサラジアは、両国から見放されたように外来の人もなく、文化は衰退、人々は農耕か略奪によって生き延びようとしていた。


 その他には何も無かった。流通の為にサラジアを通る者は、いつも命懸けであった。




 そんな事情をまるで知らないまま、旅の若い女が一人、金の持ち合わせも大して無く、大通りから外れる脇道を歩き始めていた。


 リュイという名で、見た目は十六かそこら、長い髪に碧眼の美しい娘だった。しかし身なりは貧しく、褪せた色の布を被り、長旅の苦労が表れているようだった。


 リュイの旅は当ても無く、何時からとも無く続いていた。


 殆ど人の手入れのない悪路に、不穏なものを感じながら、彼女はそれを意に介さず、度々立ち止まっては木々や小動物などを眺めているのだ。


 少女の一人旅、その無警戒。傍目には愛らしくもあったが、異様でもあった。




 そして案の定、彼女は山賊に出くわす。と言うよりは、見かけない顔がこの辺りを通れば、あらゆる人は山賊になる。


 その男は普段、畑仕事や狩猟に従事するばかりで人を襲ったことが無かった。男の妻は数年前、略奪に遭い、死んだことになっていた。


 リュイと鉢合わせ、目が合った男は訝し気に

「おい、娘、こんな所に何の用だ」

と言った。いやに大きな声だった。


 しかし彼女は大して関心も無いといった様子で

「初めまして、わたしは旅の者でございます。この辺りは不慣れなものですから、それ故どうにも道を外れてしまったようです」

と返した。


 いやに古めかしい話し方だった。


「ふん……旅ねえ、じゃあ俺が案内してやろうか?どこに行きたいんだ」


「ありがとう、でもお構い無く。行き先は特に決めておらぬものですから」


「今日はもう直に暗くなる。うちに泊まっていったらどうだい」


「いえ、本当に、お気持ちだけで十分です。では」


 彼女がすれ違わんとした時、

「おい、ちょっと待ちな」と言った男の声は低く、鋭かった。


 刹那、リュイの表情から、愛想が消えた。


「金、金は持ってるよな」


「……ええ。ですが、今日の食べ物を買えば尽きてしまう程しか」


「嘘を言うな。そんなことで此処まで来られるもんか」


 男はリュイの衣を掴み、自らの元へ力任せに引きつけた。


 それが男の最期だった。


 懐に寄った彼女は、もう男の首筋から脳髄の向きへ短刀を突き立てていたのだ。


 その速きこと、柄の辺りまで深く刺さった刃。


 それを彼女は引き抜き、絶命した男がまだ立っているうちに、その服で血を拭き取った。鮮やかなものだ。


 男は漸く崩れ落ちた。彼女はその始終、無表情のままであった。


 リュイは倒れた男を調べ、見つかった僅かの金は懐の足しにした。彼女は殆ど金を必要としない。


 ただこうして、自分を襲う者からのみ奪うように心がけていた。それは日常の一部分と言ってしまってもよかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ