2.玲央奈と真紀
玲央奈と真紀は小学校からの幼馴染だ。
小学3年の時に真紀の一家がこの街に引っ越してきた。
それから小中と6年と半年の期間を共に過ごし、結局は高校も同じと相成った。
真紀は推薦入試で早々と入学を決め、玲央奈は1日12時間の猛勉強の末にここ北縁高校に入学した。
高校入学前に真紀は再び引っ越しをしたが、今も北縁高校近くの駅までは2人で帰っている。
「やだなー期末。なんかテストばっかりしてる気がする。真紀は試験勉強してる?」
「してないよ。なんとかなるでしょ。」
「いいよね。真紀は頭いいからさー。悩みとかなさそう。」
「なにそれ。」
高校から駅までは歩いて15分ほどの距離だが、その途中にある梅田屋という小さな個人商店に立ち寄るのが二人の日課となっている。
「梅田のおばちゃん!」
店の奥で駄菓子の在庫を整理していた店主に玲央奈が声をかけた。
「おや、レオちゃんマキちゃんいらっしゃい。今日も四つ葉サイダーかい?」
「うん、1本ね!」
「マキちゃんは?」
「私はいいです。」
「たまには真紀も飲みなよ。美味しいよ、四つ葉サイダー。」
「この真冬に外でサイダー飲むのは玲央奈くらいでしょ。」
「あはは、そうなのよ!レオちゃんが買ってくれなかったら冬は店に置けないわねえ。」
「えー、困ります!私、学校ある日は毎日買いに来ますからね!」
「ありがとさん。今夜は雪が降るみたいだから二人とも気を付けて帰るんだよ。」
「うん、またねー。」
笑顔で手を振った玲央奈は、振り向きざまにサイダーの栓を開けゴクゴクと飲み始めた。
「ありがとうございます。」
真紀は軽く会釈をして、歩き出した玲央奈についていった。
北縁高校は小さな高台の上にあり、駅までは緩い下り坂だ。二人が帰る頃にはまだ日が差しているが、もうすぐ夕日が差すだろう。
坂道の先に郊外の小さな駅舎が見えてきた。
「明日、雪だって!」
玲央奈が思い出したように口に出した。
「電車大丈夫かなあ。」
「よかった。真紀にも心配事とかあるんだって分かったよ。」
「なにそれ。」
二人は駅で別れを告げ、それぞれの家路に着いた。
「ただいまー。」
「おかえり。外は寒かったでしょう。」
母親が娘をいつものように迎えた。
玲央奈はリビングのソファに荷物を置くやいなや、リモコンを手に取って、録画しておいた今朝のフィギュアスケートのビデオを熱心に見返し始めた。
どれほど経ったろうか。ちょうど高梨マリの得点が発表されたころ、父の仁志が帰ってきた。
「ただいま。お、またフィギュアか。もう何回見たんだ?」
「おかえりー。まだ全然見てないよ。これからあと100回は見るからよろしく!」
「おいおい、野球が始まったら勘弁してくれよ。それまではあきらめるからさ。」
ほどなく食卓には裕子が用意した食事が並んだ。サーモングラタンの湯気の中で仁志が来シーズンの東京
レインボーズの展望を披露した後、玲央奈が今日の出来事を報告した。
「真紀は何にも気にしてなさそうなのに、明日の電車のことを心配してて笑っちゃった。」
「真紀ちゃんだって年頃の女の子ですもの、悩みの一つや二つあるわよ。それに、もう降り始めてるわ。玲央奈も明日は足下に気をつけてね。お父さんに車で送っていってもらってもいいのよ。」
「私は大丈夫。」
「たまには父さんを頼ってもいいんだぞ。玲央奈は小さいころから甘え下手だからな。」
「玲央奈の心配事は何なんだ?」
「えー、私?今は期末試験かなー。」
「おう、そうか。進級はしてもらわないと困るぞ。中間試験は生物の点数がだいぶマズかったみたいだからな!」
「サイアク!なんで知ってんの!?もう。」
「ごちそうさまー。」
ちょうど夕食のグラタンを平らげた玲央奈は、サッと自分の使った食器を片づけると、足早に2階にある自分の部屋に駆け上がっていった。