「生活魔術師」はホワイトです!
“生活魔術師"
それは水等の生活に必要な資源を生み出す魔術師であり、資源に乏しいこの国にとって必要不可欠な魔術師である。この国では、少しでも魔術の適性があればに「生活魔術師になりませんか?」というニュアンスの手紙が届く。
子供の頃に両親をが死に、ボロ屋で生活しながらどうにかして食い繋いできた俺にとってその手紙はまるで救世主のようだった。早速中身を確認してみると、そこには仕事場の位置と、「ホワイトな生活魔術師になってみませんか!」と書いてある紙が入っているだけだった。
正直怪しいが、生きる為には行くしかないのだ。
「本当にこれなのか…?」
そう呟いてしまうほど、目の前の物は国が運営している、しかも生活魔術師が働いている仕事場には見えなかった。建物の形はしているものの、見るからにボロく、強い衝撃が加われば崩れそうだ。
辺りを見回していると、男に声をかけられた。
「生活魔術師を希望の方ですか?」
「そうだが…。あの建物が仕事場か?」
「ええ、そうです。国が運営している割にはボロっちいんですけどね。」
男が笑いながら言う。その後も話すと、この男は生活魔術師を希望している人物に仕事場を案内するのが仕事らしい。俺は案内してもらうことにした。
「これが生活魔術師の仕事その1です。国民の飲み水はここで作られているんですよ。」
仕事場を見渡せる高い通路をゆっくり歩きながら、男はそう言った。じっくり見ると、魔術師達は談笑しながら水を生み出している。
「随分と楽そうな仕事場だな。」
「ええ、ここはホワイトな仕事場ですから。」
思わず出た言葉にも男は反応した。確かにここだけ見るならホワイトと言えるだろう。次の仕事場でもこのくらいであればいいのだが。
「次の仕事場に向かいますね」
と、俺に声をかけ、男は先に進んでいった。
だが、ここで安心して一緒に奥に進んだことを、俺は後悔するのだった。
「ここが…2つめの仕事場なの、か?」
そこは地獄だった。働いている魔術師達は何人も倒れており、少しでも楽をしようとすると監督しているであろう者から鞭と怒号が飛び、極限まで働かされていた。
「ええ、ここが2つめの仕事場で、ランプを作っているところです。どうです、ホワイトでしょう!」
男は至って真面目に、誇らしげに話した。俺は冷や汗がドッと出るのを感じた。ここはヤバイ。
「ささ、次の仕事場に行きましょう。」
そんな俺の心の内を知ってか知らずか、男は先に歩いて行った。
その後の仕事場も、全て地獄だった。今思えば、最初の仕事場は餌だったのだろう。ここはホワイトだと見せかけて、奥に連れて行くための。
最後の仕事場を案内し終えた後、男は振り返って話しかけてきた。
「どうです!ここはホワイトだったでしょう?是非、入りませんか?」
男は満面の笑みで、まるで断られるなど考えていないような顔で肩を握ってきた。
「すいません、お断りー」
握る力が強くなった。
「痛っ」
「すいません、聞こえなかったので、もう一度返答お願いします」
笑顔だった。恐怖が俺の心を埋め尽くし、膝をガクガク震えさせた。そこからはもう、無心だった。
「うわあぁぁぁあー!」
俺は肩の手を振り払い、男に全力でタックルを仕掛けた。男がよろめいたのを見て、ボロい壁を突き抜ける。相当な高さだったようで足が折れたような音がしたが、恐怖が痛みを上回ったのか、何も感じなかった。そして俺は、逃げ出した。
そうしてこの日、1人の若者がこの国から消えた。