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笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~  作者: マーキ・ヘイト
番外編 魔王城のとある一日
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料理対決(変貌編)

今回で料理対決は完結します。

 「オレダ…………」


 「ゴルガ様ですか……」


 正直、今回の料理対決において一番の不安対象は、ゴーレムであるゴルガだ。常に破壊を口にし、細かい物事を考えるのが苦手な彼がどんな料理を作るのか、クロウトは不安に駆られていた。


 「コレガ、オレノリョウリダ!」


 ゴルガは、出来上がった料理をクロウトの前に差し出した。


 「こ、これは…………!」


 それはステーキだった。しかし、普通のステーキとは明らかに違う所があった。それは、限りなく薄い状態だった事だ。


 「カンゼンニ、ハカイシテヤッタゾ」


 「…………」


 クロウトがステーキを刺して持ち上げると、あまりの薄さに肉越しに景色が見れてしまう程であった。


 「い、いただきます……」


 そしてクロウトは、極限まで薄くなったステーキを口にした。


 「!!お、美味しい!」


 信じられない美味しさだった。限界まで押し潰され、薄くなっていた肉は肉汁を完全に閉じ込め、噛み砕いた瞬間一気に溢れだし味覚を刺激した。


 「オマエノミカクヲ、ハカイシタゾ!」


 「…………まさか、ゴルガ様にこの様な料理の腕をお持ちだったとは……サタニア様の言う通り、意外な発見がありましたね」


 クロウトがサタニアの方に目をやると、サタニアは得意げにピースサインを送った。


 「さて……最後に残ったのは.シーラ様だけでございますね」


 「おう、ようやく私も料理が完成したぜ!」


 料理対決最後の一人であるシーラが、満を持して料理を完成させた。


 「さぁ、私の初めての料理を味わって食ってくれよ!」


 そう言うと、クロウトの前に出来上がった料理が差し出された。


 「…………!!」


 言葉が止まってしまった。目の前に差し出された料理を見て、クロウトは驚愕の色を隠せないでいた。


 「…………これは……」


 それもその筈、シーラが作った料理はこの世の物とは思えなかったのだ。スープをベースに構成されているのだが、色は真っ黒で何かの生き物の頭蓋骨が具材として浮かんでおり、それほど熱く無い筈だがまるで沸騰でもしているのか、ブクブクと泡が吹き出していた。


 「ちょっとばかし、蒸す時間を間違えてしまったんだが……味に変わりは無いから安心しろ」


 「(蒸す!?このスープ料理の何処に蒸す要素があるのだろうか……!!)」


 シーラは、恐る恐るスプーンをスープの中に入れた。するとどうだろう、泥々した感触に掻き回す度に色が黒から赤、赤から青に変化していくではないか。


 「遠慮せず食べてくれ!何たって、私の好きな物ばかり入れ込んだスペシャルな料理だからな!」


 「…………ち、因みにシーラ様、味見の方はされたのでしょうか?」


 「いや、してないぞ?一番最初は、お前に食べて欲しかったからな!!」


 「…………くっ!」


 純粋。何の悪意も無く、只美味しい物を食べて欲しいという穢れの無い心が、逆にクロウトを苦しめている。ここで食べなければシーラが悲しむのは間違いない。それを防ぐ為には、食べる以外の選択肢は残されてはいない。


 「…………い、いただきます!!」


 クロウトは覚悟を決めて、シーラの料理を口にした。


 「…………」


 スープを口にした時、クロウトの動きがピタリと止まった。そして次の瞬間…………!!


 「!◇‡☆§?」


 突然クロウトの頭が擬似的爆発を起こし、白い煙が発生した。


 「ク、クロウト!!」


 「クロウトちゃん大丈夫!?」


 「……シーラさ~ん、何か変な物でも入れたんじゃないんですか~?」


 「ノウヲハカイスルトハ、ザンシンダナ……」


 「そ、そんな!!私は只、美味しい料理を食べて欲しかっただけで……」


 擬似的爆発にサタニア達は、急いでクロウトへと駆け寄る。


 「クロウト……クロウト……しっかりして!!」


 「…………サタニア様」


 サタニアがクロウトの肩を揺らすと、ゆっくりと目を開けて意識を取り戻した。


 「よかった!無事だった「サタニア様!!」……な、何?」


 「このスープ…………すごーく美味しいですよー」


 「クロウト!?」


 「離れて魔王ちゃん!!何だか様子が変だわ!」


 アルシアがサタニアを後ろへと移動させると、クロウトがゆっくりと立ち上がる。目は虚ろで、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら頬が赤く染まっていた。


 「もしかして、シーラさんの料理が何らかの化学反応を引き起こしたのではありませんか~?」


 「私の料理は劇薬か何かなのか!?」


 「サタニア様ー、サタニア様も一緒に飲んでみて下さいよー」


 そう言うとクロウトは、シーラの料理を持ち上げて近づいて来た。


 「皆、魔王ちゃんを連れてここから離れて!!」


 「で、でもアルシアはどうするのさ!?」


 「あたしは、ここでクロウトちゃんを止めるわ!」


 「そんな、駄目だよ!!皆で逃げよう!」


 「早く連れて行って!!」


 アルシアの言葉にゴルガはサタニアを担ぎ上げて、エジタス、シーラと供に走り出した。


 「アルシア!!必ず、生きて帰って来てね!」


 「勿論、そのつもりよ」


 サタニアの声援を受け、アルシアがクロウトと対峙する。


 「…………今のクロウトちゃんに勝てたらだけど……」


 「えへへ、もぉーサタニア様ったら遠慮なんかしなくてもいいのにー」


 クロウトは、左右に揺れる動作をしながら近づいて来る。


 「悪いけど、しばらくの間気絶して貰うわよ!!」


 アルシアの拳が、クロウトの腹に向かって放たれる。そして、当たると確信したその時…………。


 「ひょおい!」


 「そんな!?」


 「アルシア様もどうぞー」


 「し、しまっ…………!!」


 アルシアの拳を避け、持っていたスープをアルシアの口に流し込んだ。


 「!!!ご、ごめんなさい皆……」


 味覚を感じない筈のアルシアだが、強烈な劇薬料理に耐えきれず気絶してしまった。


 「あらあら、あまりの美味しさに気を失ってしまったみたいですねー。…………待ってて下さいねサタニア様、すぐ美味しいスープを飲ませてあげますからねー」


 クロウトは新たにスープをよそうと、サタニア達を追いかけて行った。




***




 魔王城の廊下を走っているサタニア達だったが、何処に逃げていいのか分からず立ち尽くしてしまった。


 「アルシア…………大丈夫かな?」


 「あのアルシアさんなんですから、きっと大丈夫の筈です」


 自分の作った料理のせいで、こんな事態を招いてしまい責任を感じているシーラは、何とかサタニアを安心させようとする。


 「サタニア様ー、何処ですかー?」


 「「「「!!!!」」」」


 遠くから、クロウトの声が聞こえてくる。その声はまるで、酔っているかの様にゆっくりとした喋りだった。


 「どうやらアルシアさんは、やられてしまった様ですね~」


 「そ、そんな…………」


 「…………お前ら、魔王様を連れて逃げろ。私がなるべく時間を稼いで見せる!!」


 シーラは愛用の槍を持ちながら、決意した。


 「駄目だよ!アルシアだけじゃなく、シーラまで失ったら僕は…………」


 「元々、私の料理が原因なのです。私に始末をつけさせて下さい……」


 「シーラ…………分かった。絶対生きて帰って来てね!!」


 シーラの強い意思を見て託す事を決めたサタニアは、ゴルガ、エジタスと供に走り出した。


 「……さぁーて、どのくらい稼げるかな!!」


 「あー、シーラ様、はっけーん!!」


 シーラとクロウトは、互いに凄まじい速度で駆け寄り、戦いが始まった。




***




 「サタニアさんは、しばらくここに隠れていて下さいね」


 魔王城玉座の間。最終的にここまで逃げて来たサタニア達だったが、追い詰められている不安を拭う事は出来なかった。


 「エジタス達は?」


 「私達は、シーラさんの援護に向かいますよ。今のクロウトさんは、危険ですからね~」


 「クロウト、ハカイスル」


 「駄目!行かないで!!」


 サタニアは行くのを防ごうと、エジタスに抱きついた。


 「アルシア、シーラがいなくなった今、ゴルガやエジタスまでいなくなったら僕は……僕は…………」


 「…………サタニアさん」


 エジタスは、抱きついているサタニアの頭に手を乗せる。


 「心配しないで下さい。こちらは二人係なのですから、大丈夫ですよ~」


 「でも…………」


 「それに、死ぬ訳じゃありません」


 そう言うとエジタスは、サタニアを体から引き剥がした。


 「それじゃあ行きましょうか、ゴルガさん」


 「ハイ、センセイ」


 「ゴルガ、エジタス!!」


 出ていこうとする二人に、声を掛けるサタニア。


 「絶対…………絶対生きて帰って来てね!!」


 ゴルガとエジタスは、親指をグッと立てて玉座の間を後にした。


 「お願い…………皆無事でいて……」




***




 あれから何時間たったであろうか。待てど暮らせど、一向に帰って来ないゴルガとエジタス。


 「…………やっぱり、僕も行った方がいい気がする!!」


 四天王の安否を心配したサタニアは、エジタスとの約束を破り、玉座の間から出ていった。


 「…………皆?」


 いつもと変わらない魔王城。その筈なのに、今日は不気味な雰囲気を漂わせていた。


 「皆…………何処にいるの?」


 サタニアは怯えながらも、真っ直ぐ歩いて行く。外では雨や風が吹き荒れていた。


 「みん……な…………!!そんな……」


 そこで目にしたのは、俯せで倒れているシーラだった。


 「シーラ!!」


 サタニアは急いで駆け寄り、必死に体を揺するが返事はなかった。


 「…………悲しんでいる場合じゃないよね」


 自分の不甲斐なさに悲しんでいたサタニアだったが、他の四天王であるゴルガ、アルシア、エジタスの安否を確かめる為さらに奥へと進んで行く。


 「他の皆は無事なのかな…………」


 サタニアが向かっているのは、全ての始まりである調理室だ。

 

 「着いた……あれ、確か閉じて出て行った筈だよね?」


 サタニアの目線の先には、閉じた筈の扉が開きっぱなしになっていた。


 「クロウトが開けて行ったのかな…………嘘!?」


 サタニアが調理室に入ると、三つの人影に気がついた。


 「アルシア、ゴルガ、エジタス!!」


 そこにはシーラ以外の全四天王が、俯せで倒れていた。


 「そんな…………こんな事って……」


 「サタニア様ー…………」


 「ひゃ!!?」


 入って来た扉の方に目を向けると、服は乱れ、あられもない姿で常に左右に揺れる動作をしているクロウトが立っていた。


 「見つけましたよー!」


 「!!、シーラ!」


 クロウトの肩には先程、廊下で倒れていた筈のシーラが担ぎ上げられていた。


 「あー、やはり食事は皆でした方が良いと思いまして、ここまで運んで来たんですよ。ゴルガ様なんか、凄く重くて大変でしたよ。そして……サタニア様もきっと来てくれると思っていましたよ」


 「ク、クロウト…………」


 担ぎ上げていたシーラを床に下ろすと、ゆっくり扉を閉じて鍵を掛けた。


 「さぁ、サタニア様…………食事は始まったばかりですよ。たっぷりと、楽しみましょう……」


 「い、いやぁぁあああ!!!」


 サタニアの悲鳴が鳴り響く中、外では雷が落ちるのであった。

…………ホラー回になってしまった。

まぁ、何はともあれ次回で番外編は完結です。

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