シーラ VS アルシア
今回は四天王同士の戦いがあります。
「はあ!はああ!!」
魔王城特別鍛練場。シーラは日課である毎朝の基礎鍛練に勤しんでいた。
「朝早くから精が出ますね~」
「うん?…………ああ、何だエジタスか…………はあ!!」
声がし横に目をやると、いつの間にかエジタスが立っていた。しかし、シーラはその事を気にせず鍛練を続ける。
「いつからこのような事を?」
「そうだな……確か…………魔王軍に入隊してからずっとだ」
「おや?最初から四天王では無かったのですか?」
「当たり前だ!本来、四天王になる為にはそれ相応の順序を踏む必要がある。入隊して、昇進を繰り返してようやく掴む事の出来る地位だ。私はその地位に登り詰める為、血が滲む様な努力を重ねて来た。お前の場合異例だがな!」
エジタスは、魔族のトップである魔王サタニアに気に入れられた事と、四天王の枠が一つ空いていた事が幸いし、何の苦労もせずに四天王になる事が出来たのだ。
「いや~、運が良かったんでしょうね~」
「相変わらず、癪に触る奴だな」
「でもですよ、シーラさんはもう四天王になった訳ですよね?だったら何故、未だに鍛練を続けるのですか?」
「四天王になったからと言って、日々の習慣というのは中々抜けない物だ。更に言えば、いつお前みたいに私を脅かす新人が現れないとも限らない。それも踏まえて鍛練は大切だ!…………はぁ、はぁ、はぁ」
シーラは会話をしながら、槍を振り回していた為、息を切らしてしまった。一旦鍛練を中断し、息を整える。
「…………それに私は、お前が入る一年前に四天王入りを果たした、新入りだからな」
「成る程~、そうだったのですね~。おや、でもそれだと何故、先輩であるクロウトさんやゴルガさんにはタメ口なのですか?新入りなのだから、先輩を敬うのは基本では無いですか?」
「ああそれは私の性格上、自分より戦力的に劣る相手にはどうしても、タメ口で話してしまうのさ」
「そう言う事ですか、納得です。…………ということは同じ四天王の中でも、唯一敬語で話しているアルシアさんは、シーラさんよりも強いのですか?」
シーラの性格を理解したエジタスは、いつも“さん”付けで呼んでいるアルシアの事を思い浮かべた。
「…………強いよ、私とゴルガの二人が束になって掛かっても、手も足も出ない」
「そんなにですか!?」
シーラやゴルガは決して弱くない。寧ろ、一人で最大規模の王国であるカルド王国を簡単に滅ぼせる程に強い。そんなシーラが手も足も出ないと言わしめるアルシアの強さは、想像もつかない。
「ああ、だって私過去に一度アルシアさんと戦って負けてるから」
「ええ、戦ったんですか!?その時のお話を詳しく聞きたいな~」
「…………分かった。特別に聞かせてやろう。そうあれは丁度一年前、まだ私が四天王に入ったばかりの頃だった…………」
***
当時の私は、四天王に入れた事で自分の強さに酔っていたんだ。
「お前がアルシアか?」
長い廊下を歩いているアルシアさんに、私が後ろから声を掛けると、静かに振り返った。
「あら?あなたは確か、数日前に新しく四天王に入隊した…………」
「シーラだ!覚えておきな!!」
「そうそう、シーラちゃん。知ってると思うけどあたしはアルシアって言うの。これから四天王同士仲良くしましょうね」
「“ちゃん”付けなんかするな虫酸が走る!それより、私とどっちが強いか勝負しないか?」
私は持っていた槍をアルシアさんに向けて、言い放った。今思い返すと消し去りたい黒歴史だ。
「どうしてそんな事をするの?」
「お前は、四天王の中でも最強と称されているらしいな。なら、私が勝ってその最強の称号を頂こうと思ってな」
魔王軍に入隊当初から有名な話だったが、四天王の中で誰が最も強いのかと聞かれたら、皆口を揃えて言っていたアルシアさんに決まっていると、それが当時の私には気掛かりだった。いつもおネエ言葉を多用する男か女かも分からない骸骨が本当に強いのか。私はその真相を確かめる意味でも、アルシアさんに勝負を申し出た。
「あら、最強の称号位ならあげるわ。周りが勝手に付けた物だから、愛着も無いしね」
「ふ、ふざけるな!そんなの勝った証明にはならない。今すぐ私と戦え!!」
「嫌よ。どうして仲間同士で争わないといけないのよ。それじゃあ、そろそろ失礼するわね……」
そう言うとアルシアさんは、私に背中を向け歩き出したんだ。
「私の事を嘗めてるな…………、スキル“リンドブルム”!」
本当にどうかしていた。頭に血が上っていたのか、私はアルシアさんに不意討ちをしてしまったんだ。その時使用したスキルは“リンドブルム”保有するスキルの中でも断トツの早さを誇っている。今まで誰にも破られた事は無かった。
「危ないわね、えい!」
「な、何!?」
だけどアルシアさんは、そんな不意討ちに動じる事無く、軽々と私の最高速の攻撃を弾き返した。
「そんなにあたしと戦いたいの?もう、しょうがないわねぇー。じゃあ特別に相手してあげるわ」
「お、おう、そうこなくっちゃな!!」
弾き返えされたのは偶然だと思い、槍を構え直した。
「遠慮なく行かせて貰う!スキル“滅龍生”!!」
今度のはリンドブルムよりも自信があった。何故ならスキルの中でも最も攻撃力の高い物を選んだからだ。弱点としては破壊力は抜群だが、素早さが壊滅的な事だ。
「(当たる!!私の勝ちだ!)」
アルシアさんは動かなかった。それどころか武器すら構えず、只立っているだけだった。絶対に勝てる、そう確信していた。
「あら、それってもしかして“ドラゴンスレイヤー”のスキル?」
「う、嘘だ…………」
当たった。確かにアルシアさんの鎧に命中した。だけど、傷一つ付く事は無かった。あり得ない、頭の理解が追い付かない。その時の私はそんな事を考えていた。
「成る程ねー、自分自身がドラゴンである事を利用し、常に攻撃力を倍にしているのね。やるじゃない」
「無傷だなんて…………そんな……あり得ない……」
「興味深い物を見せてくれたお礼に、あたしも凄いのを見せてあげる」
そう言うとアルシアさんは、左右の腰に付けていたそれぞれの刀に手を交差する様に添えた。
「スキル“等活地獄”」
「!!?」
寒気がした。全身の鱗が逆立ち、命の危険を感じた。怖い…………その言葉が脳内を支配する。アルシアさんの刀が抜かれ、こちらに斬り掛かって来る。凄くゆっくりに見えた、しかし体が動かない。このままでは首を切り落とされる。そう思って兎に角、体を動かそうと必死になった。その結果、私は尻餅をついて何とか避ける事には成功した。
「ちょっとー、大丈夫?少しやり過ぎちゃったかしら?」
「え…………あ……そ……」
その時には既に腰が抜けて、立ち上がる事は出来なかった。恐怖のあまり言語能力も低下していた。
「これに懲りたら、仲間同士で争わない事、いいわね?」
「は…………はい……」
「それじゃあ、あたしはこれで失礼するわね。今度またゆっくりお話でもしましょうね、シーラちゃん」
そう言ってアルシアさんは、刀を鞘に収めて去って行った。
***
「それからという物、私は自身の強さに酔いしれない様に心掛け、こうして鍛練も欠かさずに続けているのだ」
「流石はアルシアさん、かなりの実力の持ち主だったのですね~」
「あたしがどうかしたのかしら?」
エジタスとシーラが振り返るとそこには、話で持ちきりになっていたアルシアが、立っていた。
「「アルシアさん!」」
「あらあら、こんな所で何をしていたの?」
「私が四天王に入ったばかりの頃を、エジタスに話していました」
シーラは、アルシアに包み隠さず正直に話した。
「そうだったの…………それにしても懐かしいわね。一年前まではあんなにツンツンしていたシーラちゃんが、今ではこんなにも仲間思いになったんだから、いったい何があったの?」
「いやー……まぁ…………あは、あははは……それは色々とありまして……」
まさか、アルシアの気迫に恐怖して丸くなりました等と言える筈も無く、苦笑いを浮かべながら誤魔化した。
「エジタスちゃんも、シーラちゃんと仲良くしてあげてね」
「はい、勿論ですとも~」
「「「あははははは」」」
魔王城特別鍛練場に三人の笑い声が響き渡る。因みに約二名の笑いが引きつっていたのは、誰も知る事は無かった。
次回もお楽しみに!
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