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笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~  作者: マーキ・ヘイト
第六章 冒険編 出来損ないの小鳥
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フォルスの過去 幼少編

今回からフォルスの過去が明らかになります。

 「ピー、ピー、ピー!!」


 ヘルマウンテン麓の里に移住する前の里、そこは高い山脈に切り立った崖の上、地上の人達との連絡手段を一切断ち切っている。そんな山脈の里にある一つの民家から、一匹の雛の鳴き声が聞こえてくる。


 「あらあら、どうしたの?お腹が空いたのかな?」


 その雛の鳴き声に反応し、急いで駆け寄る少し色っぽい雌の鳥人が、抱き抱える。


 「ピー、ピー!!」


 雛はその答えを肯定するかの様に鳴く。

 

 「分かったわ、すぐに作ってくるわね」


 そう言うと色っぽい鳥人は、雛にご飯を与える為に調理し始める。


 「ピー、ピー!!」


 「はいはい、もうすぐ出来るから待ってて……それにしても、本当に良い声で鳴くわね。流石、私の息子“フォルス”だわ」


 そう、この雛こそ産まれたばかりのフォルスであった。そして、その雛であるフォルスのご飯を作っている色っぽい鳥人は、フォルスの母親である。


 「はい出来たわ。たんとお食べ」


 「ピー、ピー!」


 母親が作った離乳食を、フォルスは美味しそうに食べる。産まれたばかりとは言え、人間とは成長が異なる。その為既に、離乳食を食べる事や、速度こそ無いが歩く事も出来る。


 「はふぅ~、本当に可愛いわね。私のフォルス……」


 「ピー!」


 先程の色っぽい雰囲気はすっかり無くなり、とてもだらしない緩みきった笑みを浮かべる。


 「ちょっと、なんだいなんだい!そのだらしない顔は……」


 「!!」


 窓の所から声が聞こえた。母親が振り返るとそこにいたのは、眼光が鋭く見た目だけで威厳があり、そして少しばかり老けた鳥人がいた。


 「ちょっと、お母さん!!いつも言ってるでしょ!入る時は窓からじゃなくて、玄関から入って!」


 「あんたこそ何言ってるの、わしらは鳥人……空を飛べるんだから玄関なんか無いも同然なのよ」


 お母さんと呼ばれた鳥人は、フォルスの祖母に当たる人物だ。そんな祖母に母親は、顔を真っ赤にさせ注意する。


 「…………お母さん、その“わし”っていう一人称止めたら?男っぽいし、そんな歳取って無いでしょ」


 「わしは、この方が言いやすいんだよ。それに孫も産まれたから、十分立派なお祖母さんだよ」


 祖母は歳を取った事を嬉しそうに、微笑んでいた。


 「そっか…………というか、こんな所にいて大丈夫なの?」


 「何が?」


 「何がって、この前就任した新しい族長の教育係に、選ばれたんじゃないの?」


 先代が亡くなり、新しく就任した族長はまだまだ若者で、上に立つ者としての知識が不足していた。そんな知識不足を補う為に祖母が選抜された。


 「ああ、いいんだよ。あの若造、何かとすぐわしに聞いてくるんだ。少しは自分で考えろってんだい!」


 「そんな事言って……私知ってるよ、お母さんが里の皆から“神の頭脳を持つ女”って呼ばれているのを」


 そう、この祖母こそが後のトハその人である。


 「ふん、そんなの頭の硬い上の爺供が勝手にそう言ってるだけさ。わしは只、当たり前の事を教えているだけに過ぎないのさ」


 「もぉー、謙遜しちゃって……」


 自分の実力を頑なに認めないトハに、母親が呆れ果てる。


 「そんな事より、意外だったよ。あんたがあんな腑抜けた顔をするだなんてね」


 「い、いや……あ、あれは、自分の息子があまりに可愛くてつい……」


 だらしなく緩みきった顔をしていたのを、再び蒸し返されてしまった。


 「旦那が死んで一年か……時が経つのは早いもんだね……」


 「ええ、本当に……」


 母親の旦那は、フォルスが産まれる前に病気によりその命を落としていた。そしてその直後にフォルスは産まれたのだ。


 「あ、そうだ!お母さん、ちょっとフォルスの事見てくれない?」


 「別にいいけど……何かあったのかい?」


 「そろそろフォルスも、羽が生える歳だから、それに合わせて食事も変えないといけないから、その食糧調達に行きたくてね」


 離乳食では、十分な栄養を摂れない為、その分の食糧を調達しなければならないが、その間フォルスの面倒を見る人が必要である。


 「成る程……そう言う事なら任せておきな!!」


 「よかった。それじゃあ、頼んだよ」


 そう言うと母親は雛のフォルスを、トハに預けた。


 「行ってきます」


 「行ってらしゃっい」


 「ピー!」


 玄関先。助走をある程度付けるとそのまま、切り立った崖から飛び出す。そして、大きく翼を広げると大空へと羽ばたいた。


 「ピー、ピー、ピー!!」


 「フォルスちゃん凄いだろ、あれがあんたの母親なのさ……」


 母親の優雅な飛行に、興奮気味のフォルス。


 「さぁ、あの子が帰ってくるまでは、わしがお世話してやるからの」


 「ピー、ピー」


 母親の見送りを終えたトハは、フォルスを連れて家の中へと戻った。




***




 「ほーら、フォルスちゃん、いないいない……ばあっ!」


 「ピー!!」


 「ははは、楽しいかい?」


 トハがフォルスをあやして、しばらく時間が経った。すると…………。


 「トハさん!トハさんはいらっしゃいますでしょうか!?」


 一人の若い鳥人が、血相変えて駆け込んで来た。


 「そんなに慌ててどうしたんだい?」


 「ああよかった。今すぐ族長の家に戻って頂けませんか?族長がトハさんは何処だの一点張りで、里が機能しません」


 里の頭脳として働いていたトハが、急に抜けてしまった事で、族長はどうしていいのか分からず、困り果てていた。


 「無理だね。わしはこの子の世話で忙しいんだ。他を当たりな……」


 「そんな…………ではせめて、話だけでも聞いて頂けませんか?もしかしたら、我々だけでも何とかなるかもしれませんので……」


 「…………はぁー、分かった。知恵を貸す位ならやってやるよ」


 「本当ですか!ありがとうございます!!えっと、内密な話ですので、ここでは無くて玄関の方でも、宜しいでしょうか?」


 「はいはい、分かった分かった」


 トハは、若い鳥人の後に付いて玄関に歩いていく。それからすぐ、事件は起こってしまった。


 「ピー、ピー」


 雛であるフォルスが部屋を抜け出し、何処かへと歩いて姿を眩ましてしまった。そして一時間後…………。


 「いやー、ありがとうございます。これで今日一日は、何とかなりそうです」


 「全く……この位の問題、あんた達だけで解決しろってんだい!」


 里の問題を話し合っていたトハと若い鳥人は、部屋へと戻った。


 「あはは、申し訳ない……」


 「たくっ…………あれ、フォルスちゃんは?」


 部屋に戻ると、そこにいた筈のフォルスの姿は何処にも見当たらなかった。


 「フォルスちゃん!?、フォルスちゃん!?、フォルスちゃん!?」


 「ちょっとお母さん、そんなに騒いでどうしたの?」


 丁度その時、食糧調達に行っていた母親が帰って来た。


 「少し目を離したら、フォルスちゃんがいなくなってしまったんだよ!!」


 「え!?」


 母親は、あまりの驚きに持っていた食糧をバラバラと落としてしまう。


 「フォルス!?、フォルス!!」


 「ちょっとあんた!」


 「は、はい!!」


 母親が無我夢中でフォルスを捜す中、トハは若い鳥人に声を掛ける。


 「あんたは里の連中に捜す様に伝えてきな!もし、捜さないって言うんだったら…………もう一生あんた達に知恵を貸してやらないからな!!!」


 「は、はい!分かりました!!すぐに伝えて参ります!!」


 トハの脅しに、若い鳥人は直ぐ様飛んでいく。


 「フォルス!!、フォルス!!」


 「あんたも少しは落ち着きな!そんなんじゃあ、探せる物も探せなくなってしまうよ!」


 「で、でも…………」


 「フォルスちゃんは、歩けるとは言えまだ雛……そう遠くには行ってない筈だよ。手分けして捜すよ、わしはこっち、あんたはあっちを頼むよ!」


 「分かったわ!」


 トハの一喝により、冷静さを取り戻した母親は、言われた通りに手分けして捜し始めた。


 「フォルス!!、フォルス!」


 「フォルスちゃん!何処にいるんだい!?」


 二人が必死に探す中、フォルスはいったい何処に行ったのか。それは…………。


 「ピー、ピー!」


 切り立った崖の上にいた。母親の優雅な飛び姿を見て、自分も飛んでみたいと思ってしまったのだ。好奇心は、時に危険を伴う。


 「ピー……」


 母親を真似する様に、助走する距離を取る。お尻を振って、走る力を高める。そして…………!


 「ピー!!」


 勢いよく飛び出した!!…………しかし、ここで忘れてはいけないのが、フォルスにはまだ羽が生えていない。つまり、物理的に飛ぶのは不可能なのだ。


 「ピー、ピー、ピー!!」


 フォルスは一生懸命に翼を羽ばたかせるが、羽が無いので意味は無い。どんどん落下の速度が上がっていく。このままでは、地面に叩きつけられ即死するであろう。


 「ピー!、ピー!!」


 「フォルス!!」


 フォルスが落下していくその時だった。探している最中に、崖から飛び出して行くのが視界に入った母親が、瞬時に駆けつけ飛び降りた。母親は落下していくフォルスを掴み飛び上がろうとしたが、高度が足りない事を悟り庇うように抱き締める。


 「絶対……絶対離さないからね……大好きよフォルス……」


 フォルスを抱き締めながら、地面へと落下していく。そしてそのまま叩きつけられた。


 「………………」


 辺り一面に血が広がっていく。母親はピクリとも動かず、瞳孔は開いたままであった。


 「ピ、ピ、ピー!」


 抱き締める母親から、何とか抜け出したフォルスだったが、既に母親は動く事の無い只の屍だ。


 「ピー?、ピー!、ピー!」


 フォルスは、未だに状況が把握出来ず動かない母親を何度もつついた。


 「大丈夫かい!!?…………ああ……嘘だ……嘘だ……」


 騒ぎを察知してトハが飛んで来たが、そこには信じられない光景が広がっていた。


 「わしが……わしが……目を離さなければ…………わしが全部悪い……」


 ブツブツと、自分を責め立てる言葉を並べるトハの下に、若い鳥人が呼んだ里の者達がやって来た。


 「トハさん、見つかりまし…………ト、トハさん!!?」


 トハの容姿はこの数分で酷く変わっていた。羽のほとんどが抜け落ち、身体中シワが増え、まるで何十年も歳を取った様な姿になっていた。


 「わしが…………わしが…………全部悪いんだよ…………」


 こうしてフォルスが物心付く前に、母親を失った。

まだ、フォルスの過去は続きます。

次回はフォルスの青年編に突入します。


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