表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/300

海の男

更新が遅れて申し訳ありません。

今回は少し長めのお話です。

 「皆、ごめんなさい!!」


 「ライアさん?いったい……どうしたんですか?」


 クラーケンとの戦いを終え、休息を取っていた真緒達とジェドに対して、頭を下げて謝罪するライア。


 「やっぱり、皆にはきちんと話すべきだったと思う。私達人魚族の真実を……」


 「真実?」


 思い詰めた表情をするライアは、覚悟を決め話始める。


 「実は、私達は人魚じゃないの」


 「えっ…………それってどういう……」


 真緒達が不思議に思っていると、ライアが下半身の尾びれに手を掛けた。


 「この尾びれは偽物……只の装備品です」


 そう言うとライアは、手を掛けた尾びれを下に降ろし脱いで見せた。


 「「「「「「えぇぇーー!!?」」」」」」


 尾びれを脱ぐと、短パンを履いた白い綺麗な肌をした足が出てきた。


 「これ……え……うそ………え?」


 あまりの衝撃の出来事に、思考が追い付かない真緒達。


 「今まで騙していましたが、私達は皆と何も変わらない人間なんです」


 「……その尾びれはいったい……」


 「その事も踏まえて、ご説明します。まずは何故、水の都が生まれたのかお話しましょう……」


 ライアは海の遠くを眺めながら、語りだした。


 「あれは、今から約千年前の事です。私達の祖先は、他の村からの侵略で心体共に困り果てていました。そんなある日、ある高名な魔法使いが村にやって来ました。事情を聴き終わると、魔法使いは海の方へと向かい、魔法の実験を行いました。海の中でも呼吸が出来るのではないか……。そうして生まれたのが水の都なんです」


 「そんな出来事が……因みにその魔法使いというのは……」


 「詳しい事は分かりません。しかし、その魔法使いは“アーメイデ”と名乗っていたらしいです」


 「アーメイデ様!!?本当ですかそれ!!?」


 “アーメイデ”の名前に一番反応を示したのは、勿論リーマであった。


 「はい、アーメイデ様は私達の祖先に、自身の実験メモを託しました」


 「実験メモ?」


 「水の都の空気を循環させる方法や、空中に浮かび上がる方法が記されていました」


 「そうだ、その事を聞こうと思っていましたが……何故空中に浮く事が出来たのですか?」


 ジェドは、クラーケンとの一戦での出来事を思い出し、聞いてきた。


 「アーメイデ様の実験メモに風魔法の応用で、自分の体を空中に浮かび上がらせる為の技術があり、その空中で自由に動きやすくする為に考案されたのが、この尾びれなんです」


 「そうか……だから海の中でも呼吸ができ、人魚だけが泳げて俺達は走ってた訳だな」


 水の都で呼吸が出来たのは、そこに空気が存在し、そしてその時もライア達人魚は、空中を泳いでいたのだ。


 「でも、何でそんな紛らわしい真似をしていたんですか?」


 「それは、私達の祖先がある日、尾びれを着けた状態で地上の人に見つかってしまい、勘違いした人々が崇め奉り始め、お供え物として農作物を献上する様になりました……その事に味をしめた祖先が人魚の町を築き、常に尾びれを着けなければならない……という掟を定めたのです」


 「そんな事が……」


 「でもやっぱり、私は耐えられなかった。たとえ一族が生き残る為だとしても、人を……特に他人である私達を助けてくれた皆を、ずっと騙すなんて出来ない」


 ライアは、下唇を噛みながら俯いてしまった。


 「本当にごめんなさい……」


 「…………」


 真緒達は謝るライアを見ていたが、返す言葉は既に決まっていた。


 「別に気にしてないよ」


 「えっ……」


 「だって、ライアさんが騙そうと思った訳じゃないでしょ。だったら、私達が怒る理由は存在しないよ」


 真緒の言葉に同調して頷く仲間達。


 「マオさん……皆、ありがとう……」


 この時、ライアの罪の意識は解放されたのだ。


 「…………ライアさん、実は私も黙っていた事があるのです」


 ライアの告白に触発され、ジェドの口が開いた。


 「何が?」


 「私は……商人ではなく海賊なんです!」


 「あ、知ってたよ」


 「へぇ?」


 覚悟を決めて発したのだが、軽く流される返答をされた。


 「え!?し、知っていたんですか!?」


 「うん、だって商人なのに服装は海賊そのもので、口調も無理してる感じ、そして何よりも、船に海賊旗が付けっぱなしだよ」


 「え、あ!ほ、本当だ……」


 ジェドが見上げると、優雅で力強い旗が揺らめいていた。


 「だから、お互い様という事だよ」


 「そうだったのか……緊張して損した……でも、なら言える筈だ。ライア!!」


 「どうしたの?」


 「私……いや、俺……ライアの事が好きだ!付き合ってくれ!!!」


 お互い腹を割って話したお陰で、ジェドは勢いに任せてライアに愛の告白をした。


 「…………ごめんなさい、私他に好きな人がいるの」


 「そ、そんな…………」


 玉砕。ジェドの心はバキバキにへし折られてしまった。


 「その人はいつも臆病だけど、とても優しくて、一生懸命な人なんだ……」


 「臆病……まさか……」




***




 「はぁー、ジェド船長遅いなー。いつ帰って来るのかな……」


 水の都の船が停泊していた場所で、ルーはジェド達の帰りを待っていた。


 「…………あ、帰って来た!!」


 ルーがジェド達の帰りを待っていると、海の上から降りてくる船を見つけた。


 「ジェド船長!!ご無事ですか!?」


 船が停まると、ルーは急いで板を掛けて、甲板へと上がっていった。


 「せ、船長…………?」


 甲板の上にはジェドがいたが、その顔はいつもと違い険しく、片手にはカットラスが握られていた。そして、ルーが来たのを確認すると、予備のカットラスをルーの目の前に放った。


 「剣を取れ」


 「船長……いったいどういう事ですか?」


 「いいから早く取れ!!」


 ジェドの怒鳴り声で反射的に拾い上げる。


 「構えろ」


 「船長、本当にどうしたんですか!?」


 「いくぞ!!」


 「うわぁ!せ、船長止めてください!」


 突然切りかかるジェド。それを何とか避けたルーは、側にいたライアと真緒達を発見する。


 「皆さん、ジェド船長を止めてください!!」


 「それは出来ないよ……」


 「えっ……」


 必死の懇願に、否定的な態度を取る真緒達。


 「ど、どうして……」


 「オラッ!余所見してる場合か!!」


 「うわあああ!!!」


 ルーは、ジェドの斬撃から逃げ回る。


 「ルー…………」


 その光景を見ているライアだが、何故こんな事になってしまったのか。話はジェドの愛の告白に遡る。




***



 

 「……その好きな人ってルーの事か?」


 「えっ!?いや、ち、違うよ!な、何でわ、私がルーのこ、事を!」


 「冗談半分のつもりだったんだが……そうか、そうだったのか……」


 ルーの事を突然聞かれ、戸惑いを見せるライア。


 「あいつの事は、いつから好きになったんだ?」


 「…………初めて会った時から……」


 「!!……成る程、ルーが羨ましいぜ」


 ルーへの思いが、想像以上である事に驚きを隠せないジェド。


 「……だが俺は、ルーがライアに相応しいか不安が残る。そこで、アイツが本当に相応しい男か確かめさせて貰う」


 「えっ、なんでそんな……」


 「惚れた女には幸せになってほしいと思うのが、海の男の(さが)ってもんだ……」


 ジェドは何かを悟った様な目をしていた。


 「ルーとは、一対一の決闘方式で見極める。真緒達は手出しをしないでくれよ」


 「……分かりました。ジェドさんの覚悟、見届けさせて頂きます」


 「すまない……ありがとう」




***




 「逃げるな!海の男らしく戦え!!」


 「うわぁ!」


 ジェドの凄まじい猛攻に、逃げる事しか出来ない、ルー。しかし、それも終わりの時が近づいている。闇雲に逃げ回ったせいで壁に追い詰められてしまった。


 「もう逃げ場は無いぜ……」


 「あ……あ……」


 「死にたくなかったら、戦うんだ!」


 「や、止めてください船長……」


 「チッ、やっぱりお前は相応しくねぇ!!!」


 ジェドはカットラスを振り上げ、ルーに斬りかかろうとしたその時!


 「待って!!」


 「!!……何のつもりだライア」


 「ライアさん……?」


 二人の間に両手を拡げ、割って入ってきたライア。


 「もう……もう十分ですから……だから……」


 ライアの声は弱々しく、震えていた。


 「……そうか、分かった。ルー、ライアに感謝するんだな」


 そう言うとジェドは、背中を向け歩き出した。呆気に取られていたルーは、確かに見た。ライアの頬に涙が伝うのを……そして同時に初めて会った時の記憶が蘇る。




***




 「ううっ……」


 人魚の町の外れには、大きな岩が置かれている。その後ろで隠れるように少女が泣いていた。


 「どうしたの?」


 「きゃあ!だ、誰!?」


 「あ、ああごめんなさい!脅かすつもりはなかったんだけど……泣いている声が聞こえてきたから……どうして泣いているの?」


 少女が泣いていると、ある一人の少年が声を掛けてきた。


 「……私、他の人より頭が良くないんだ。考えもせずに行動しちゃうし、周りが見えてないから皆に、迷惑ばかり掛けちゃうの……」


 「そっか、それで泣いていたんだね」


 「私なんか生まれて来なきゃ良かったのかな……」


 「そんな事ないよ!!!」


 少女の暗い言葉に、少年が大声で叫んだ。


 「生まれて来ない方がいい人なんて、この世には存在しないよ。皆、何かしらの意味があって生まれてきたんだ!!それは、その人にしか出来ない事なんだと僕は思う!」


 「私にしか出来ない事……」


 「そうだよ!それに、考えずに行動するって事は、誰よりも行動力があるから、怪我や病気の人を早く助けられるって事だよ。君の様な人、僕はとても素敵だと想うな」


 「!!」


 顔が熱くなるのを感じる。海中である筈なのに、どんどん顔が赤く染まっていく。


 「あ、ありがとう……私、ライア。あなたは?」


 「僕はルー、ライアさんって言うんだ。これからも仲良くしようね」


 「う、うん!!」




***



 

 「ジェドーーー!!!」


 「!!?」


 ルーは、去っていくジェドに駆け寄り、剣を構えた。


 「ぼ、僕と戦え!!」


 「……ほぅ」


 「ちょっと!!何やってるのよ!?止めてよ!!危ない事はしないで!」


 ライアは、横からルーに声を掛け、説得してきた。


 「僕は……最低な男だ。ここまでされないと、君の気持ちに気づく事が出来なかった。でも、だからこそ確信した!僕はライアが好きだ!!」


 「!!」


 「臆病な僕をライアはいつも励ましてくれていた。それなのに僕は、弱い事を言い訳にして……だけど、この戦いだけは退く訳にはいかない!もうこれ以上ライアを悲しませたりしない為にも、絶対に負けない!!」


 「いいぞ!!それでこそ海の男だ!!愛する者の為、戦え!そしてその覚悟を俺に見せてみろ!!」


 「うおおおおお!!!ジェドーーー!!!」


 「来い!ルー!!!」


 一人の女に惚れた男と、惚れられた男。両者の剣がぶつかり合う。結果は……。


 「うっ……」


 「ルー!!!」


 ルーが膝を付いてしまった。


 「ふふ、どうやらこの戦い…………お前の勝ち……だな」


 ジェドのカットラスの刃にひびが入り、粉々に砕け散った。そしてそのまま仰向けに倒れた。


 「ジェドさんが負けた……」


 戦いの一部始終を見ていた真緒達は、驚きの表情を浮かべていた。


 「あのカットラスは、クラーケンとの戦いでかなりのダメージが蓄積していたからな……仕方の無い事だと言いたいが、それでも勝つとは思わなかった」


 フォルスが冷静に分析するが、勝つ事までは予想していなかった。


 「ライア……どう……だった、僕の覚悟は?」


 「バカよ、あんたは本当に大バカよ」


 「あはは、ライアに言われたらおしまいかな」


 「ちょっと、どういう意味!?」


 「ごめん、ごめん」


 そんな楽しそうな会話を、仰向けで聞いていたジェド。


 「大丈夫ですか、ジェドさん」


 そんなジェドを心配して、歩み寄ってきた真緒達。


 「ああ、体は何ともねぇ……けど心がな…………なぁ?」


 「どうしました?」


 「海の男が泣くのは、可笑しい事だと思うか?」


 「いえ、何も可笑しくありませんよ」


 「そうか……ならちょっとだけ泣いてもいいか?」


 「はい、いいですよ」


 「……ありがとう」


 ジェドは、片腕で目を覆い隠すように泣き始める。その泣き声はとても弱々しく、哀愁に満ち溢れていた。

ルーの主人公感が計り知れない……。

今回で第五章は完結です。

次回から第六章に突入、お楽しみに!


評価・コメントお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ