クリアビーチ
今回から真緒達の目線に戻ります。
「広い空、白い砂浜、そして見渡す限りの青い海!ここが、魅惑の海岸“クリアビーチ”なんですね!」
真緒達が現在いる場所は、“クリアビーチ”と呼ばれるこの世界で人気の高いスポットである。四季に関係なく同じ温度を保ち、気候に左右されず、毎日青天を拝むことが出来る。白い砂浜の砂はきめ細かく、掬い上げて落としても手には一粒も砂が付くことは無い。それは、手が濡れていても同じ事が言える。そして“クリアビーチ”最大の目玉である海は、とても透き通っていて、まるで鏡みたいだと言う人も少なくない。このビーチでは波は立たない。その為、海の美しさがより一層引き立っている。
「皆、早く早くー!」
真緒が少し遠くにいる仲間達を、手招きしながら呼んでいる。
「マオさ~ん、ちょっとはしゃぎすぎじゃないですか~?」
「でも師匠、こんなに綺麗な海なんですよ?私、初めて見ました!」
真緒は元の世界で、ここまで透き通った海を見た事が無かった。
「ハナちゃんもリーマも早くおいでよ、一緒に泳ごう!」
「いいだなぁ!」
「気分をリフレッシュです!」
真緒の誘いにハナコとリーマが走り出した。
「ちょっと、皆さん!そのまま泳ぐつもりですか~?着替えの服はあるのですか~?」
「大丈夫です!こんな事もあろうかと、さっき町で吸水性の高い服を買っておきました!」
真緒達は服を脱ぐとその下には、元いた世界で言う“水着”を着用していた。
「あ……そうですか、準備がよろしいようで……」
エジタスの心配を他所に、しっかりと準備を整えておいた真緒を見て、取り越し苦労だと知った。
「きゃあ、ハナちゃん冷たいよ」
「いきなり飛び込まないでください」
「ぷはぁ、気持ぢいいなぁ」
真緒達女性陣が海で楽しんでいる中、砂浜にいる男性陣のエジタスは、その場に座り込み、フォルスは腕組みをして立っていた。
「楽しそうですね~」
「そうだな……」
「フォルスさんは泳がないのですか~?」
「……俺は鳥人だ。泳げる体に創られてはいない。そう言うエジタスさんは、泳がないのか?」
「いや~、肌が焼けるのはちょっと……」
生物的に泳げないと言うフォルスや、日焼けをするのを嫌がるエジタスは、断固として海に入ろうとしない。
「というか、俺達がここに来た理由は“水の都”を見つける為だろ……こんな所で遊んでていいのか?」
「まあ、少しだけならいいんじゃないんですか?」
そう、真緒達がこの“クリアビーチ”に来たのは理由がある。それは今から三時間前に遡る……。
***
「ここが、港町“ポートタウン”ですか……」
真緒達はオークと子供達に別れを告げ、旅を再開した。クレバの荒れ地を越え、辿り着いたのが海の側にある港町“ポートタウン”だ。
「凄い賑わいだなぁ」
「カルド王国といい勝負です」
行き交う人々が皆、生気に満ち溢れており、忙しそうに駆け回っていた。
「ここ“ポートタウン”は、市場が盛んな町でほとんどの物が揃っていると言われているんですよ~」
「詳しいですね、師匠」
「ええ、以前一人旅をしていた頃に立ち寄った事がありましてね~」
エジタスは人差し指を立てながら、自慢げに語る。
「そうだったんですか、じゃあ案内は師匠にお任せしてもいいですか?」
「いいですよ~大船に乗ったつもりでいてください!」
右手で拳を作り、胸に叩きつける。
グゥ~
「あ、ハナちゃんのお腹が鳴った」
「もうお腹が空いたんですか?朝食べたばかりじゃないですか」
「いやー、恥ずがじいだぁー」
右手でお腹を、左手で頭を擦って顔を赤らめるハナコ。
「では、腹ごしらえも兼ねて酒場に行きましょうか」
「やっだー!ご飯だご飯!」
ハナコは、歩き出すエジタスのすぐ後ろをついていく。
「もぉー、食べ物の事になるとすぐ反応するんだから……」
「ある意味、才能の領域ですよね」
「ほら、無駄話してないで俺達も行くぞ」
フォルスに背中を押され、エジタス達の後を追いかける真緒達。
***
「ここです」
「うわぁー、大ぎいだなぁ……」
エジタスの案内した酒場は、“ポートタウン”の中でも一番大きな建物、海の恵み。看板にデカデカと描かれたビールジョッキの絵がとても印象的である。
「それじゃあ、入りますよ」
エジタス達は、胸の位置にある両開きのスイングドアを開けて入った。
「おお……中はもっとすごいですね師匠」
酒場の中は外よりも賑わっていた。男達が酒を飲み交わし、女達は酒場のウェイトレスとして働いている。そして奥のカウンターでは、店長らしき男が酒をブレンドし、カクテルを作っていた。
「そりゃあ、この町唯一の酒場ですからね。賑わうのは当然ですよ」
「ぞんな事よりも早ぐ、食事にするだぁ!」
ハナコはエジタスの腕を両手で掴みながら、引っ張っていく。
「あの、ちょっとハナコさん、あまり強く引っ張らないで……あー!」
「ハナちゃん、待ってよ」
引っ張られていったエジタスの後を追いかける真緒達。
「いらっしゃい」
真緒達は、店長らしき男の人がいるカウンターに座った。
「ご注文は?」
声は渋く、大人の男という感じだった。
「ごの“海の男ガツ盛りスペシャル”をぐだざい!」
「ほう……それを選ぶとは、嬢ちゃん……ただ者ではないな」
店長の目の色が変わった。
「他の人達は?」
「私は“プレミアム・スマイル”をください」
「私はまだ未成年なので“ライム100%搾り”をお願いします」
「私も同じ物をください」
「俺は“カミカゼ”を頼む」
ハナコ以外の人達は、飲み物を注文した。
「畏まりました。少々お待ちください」
注文を聞き終えた店長は店の奥へと入って行った。
「はぁー、お腹と背中がぐっづぎそうだよぉ……」
「すぐ出来るから、待っていよう」
「うー……」
それから十分位経った頃、店の奥の方からいい匂いがしてきた。すると店長が両手にトレイを持って戻って来た。
「待たせたな。まずは、飲み物のお客様からだ」
店長は左手のトレイをカウンターに下ろすと、それぞれの飲み物を配り始める。
「“プレミアム・スマイル”の人は?」
「は~い、私で~す」
「“ライム100%搾り”の人は?」
「はい、私と……」
「私です」
「“カミカゼ”の人は?」
「俺だ」
真緒達に配り終えた店長は、お腹が空きすぎてグッタリしているハナコの目の前に移動する。
「そして……これが、当店一押しの“海の男ガツ盛りスペシャル”だ!!」
店長は右手のトレイを両手で持ち、ハナコの目の前に置いた。
「これは……凄い量だな」
“海の男ガツ盛りスペシャル”は、海の幸を盛りに盛り込んだ海とは名ばかりの、山盛りのカレーであった。
「……ご飯?……ご飯!……いだだぎまず!!」
ハナコは目の前に出されたカレーの存在に気付き、無我夢中で食べ始める。
「いい食べっぷりだな。作ったこっちも気分が良くなる」
店長はハナコの豪快な食べっぷりに惚れ惚れした。
「それで……亜人を二人も連れているなんて、何が目的なんだ?」
真緒達に何気なく聞いてくる店長。
「私達は世界中を旅して、そこの文化に触れたり体験しているんです」
「へぇー、世界中を……ねぇー。ロマンチックじゃないか。じゃあ、あそこはもう行ったか?」
「え、何処ですか?」
「“水の都”だよ」
「何ですかそれは!?」
真緒はカウンターに上半身を乗せ、店長に詰め寄る。
「おお近いな……“水の都”ってのは海の底にあると言われる伝説の都市さ」
「そんなのが本当にあるんですか?」
「それは分からん。だが、そんな都市があるって信じたいじゃねぇか、違うか?」
「いえ、そんな事ありません!私もあるって信じます!」
真緒の熱い眼差しは店長の心に届いた。
「そうか……お前達なら行けるかも知れないな。この近くの海と言えば“クリアビーチ”になるだろう、行ってみるといいさ」
「“クリアビーチ”ですね、分かりました。店長さん、ありがとうございます。こちらお金です、お釣りは要りません!」
真緒は金貨を一枚置くと、カウンターの席から立ち上がり店の外へと走り出した。
「ほら、皆さん善は急げです。早く行きましょう」
「マオさん、ちょっと待ってくださいよ!」
「そんなに慌てるな」
「転んだら大変ですよ~」
走り去って行く真緒を追いかけるリーマ、フォルス、エジタスの三人。
「ガツガツガツ……あ、ぢょっど皆…………ご馳走ざまでじだ!!皆待っでぐれー!」
「……慌ただしい連中だったな。それにしても、まさか完食されてしまうとはな」
置いていかれたハナコは少し遅れながらも、真緒達の後を追いかけて行った。勿論“海の男ガツ盛りスペシャル”はしっかりと完食していた。
「店長……あの方々と何を話されていたんですか?」
その様子を遠くから伺っていたウェイトレスが、話掛けて来た。
「ああ、何でも世界中を旅しているらしくてな……せっかくだから“クリアビーチ”をお薦めしたんだ」
「何て所をお薦めしているんですか!?」
どういう訳か、ウェイトレスは凄まじい剣幕で店長を怒鳴った。
「だ、駄目だったか?」
「今あそこは危険地帯なんですよ!」
「何で?」
「なんでも“海賊”が出るらしいんですよ」
***
「きゃあ、もう冷たいって!」
「それそれ、さっきのお返しですよ」
「うひゃあ、冷だいだぁ!」
「よーし、それならこっちも……ん、あれ何?」
水を掛け合っていた真緒達が、地平線の向こうからやってくる、何かに気がついた。
「エジタスさん!」
「あれは~、船?」
浜辺にいるフォルスとエジタスも地平線から来る何かに気がつき、エジタスがその物体の名前を呟いた。
「あ、船の先端に誰かいる!」
真緒が指差す場所には赤いコートに身を包み、真っ赤な帽子を被る男がいた。その男が腰の武器“カットラス”を抜いて叫んだ。
「いいかテメーら、女は生け捕りにしろ!!」
「「「「「へい!!!」」」」」
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