表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/300

宝物殿

今回はいつもより早く更新できました。

 「おおそうだ、私も聞きたいことがあった」


 カルド王との勝負を終えた聖一は、早速宝物殿へと向かおうとするが、呼び止められる。


 「いったいどんな事でしょうか?」


 聖一は、内容を聞く為にカルド王の方へと振り返る。


 「お前は“シーリャの事”をどう思っている?」


 「シーリャ……ですか?」


 カルド王は、シーリャの聖一に対する好意に気が付いている。いや寧ろ気が付かない方が無理な話である。いつもため息を吐いて、口を開けば聖一の事ばかり……これで気づかない人はいないであろう。しかし、カルド王が気になったのは、その聖一がシーリャの事をどう思っているかである。果たして、聖一の返答は……。


 「……とても可愛らしい“お人形”だなと思いますね」


 「ふふふ、そうか“お人形”……か」


 カルド王は含み笑いをすると、聖一の言葉を繰り返した。


 「質問は以上でしょうか?」


 聖一は何事も無かったかのように、国王に声を掛ける。


 「ああ、すまなかった。“くだらない”話を聞いてしまったな。もう行って良いぞ」


 「いえいえ、“気にしてません”ので……それでは失礼致します」


 そう言うと、聖一はカルド王の自室を出て行こうとする……と。


 「ああ、少し待て……。ラクウン、いるか?」


 「はい、ここにおります」


 「!?」


 いつの間にか聖一の隣に現れたラクウン。全く気配すら感じられず、聖一は少し恐怖を覚えた。


 「ラクウン、セイイチを宝物殿まで案内しろ」


 「畏まりました。それではセイイチ様、私について来てください」


 「は、はい……分かりました」


 そのまま聖一はラクウンの後をついて部屋を出て行った。


 「…………」


 部屋にはカルド王一人。そんなカルド王は椅子から立ち上がり、虚空を見つめ独り言を呟いた。


 「我が“バカ娘”ながら不憫(ふびん)だな…………くくくっはははは!!」


 カルド王は娘の哀れな姿を思い浮かべ、高笑いをするのであった。




***


 

 

 「こちらが宝物殿になります」


 聖一はラクウンに連れられ、城の宝物殿前まで来た。


 「ここが……」


 宝物殿の扉は他の部屋の扉と比べて、とても分厚かった。正面からでも確認できるその分厚さは、圧倒的存在感を放っていた。


 「少々お待ちください。今開けますので」


 「え、こんなに分厚くて重たそうな扉をいったいどうやって……?」


 聖一がそんな事を言っていると、ラクウンは宝物殿の扉の前で右手を後ろに、左手を前にして、右手の指を曲げる。


 「(あれは……発頸(はっけい)?)」


 中国武術における力の発し方の技術。聖一の元いた世界の発頸によく似ていた。


 「(あれで何をするつもりなんだ?…………まさか!)」


 聖一はラクウンがこれから行おうとする事を理解した、その瞬間!


 「ハア!」


 ラクウンの右手が、宝物殿の扉目掛けて放たれた。バゴン!けたたましい音を立てて、扉が開かれた。


 「さぁ、開きました。行きましょう」


 「(化け物か……)」


 聖一は分かっている。今の自分ではこの扉を開けるのは不可能だと……。それを容易(たやす)く開けてしまうラクウンは、自分よりも強者である。


 「どうしました?行かないのですか?」


 「あ、はい。今行きます」


 この時、聖一は決意する。必ずこの人よりも強くなってみせると!


 「……す、凄い」


 思わず声が漏れてしまった聖一だが、それも仕方ない。宝物殿の中は、壁から床まで全て黄金色で統一されていた。


 「こちらの壁や床は、王が修行の旅に出られていた際にお集めになられた金を溶かして、建造されました」


 よく見てみると、壁や床に細かな装飾が施されている。


 「こ、これは!?」


 次に聖一の目に留まったのは、黄金の壁に沿って飾られている多種多様な武器や防具である。


 「こちらも、王が修行の旅に出られていた際にお集めになられた、特殊な能力を秘めた武器や防具を飾った物になります」


 先程の壁や床もそうだったが、武器や防具には埃の様な汚れは一切見受けられなかった。


 「さて、セイイチ様。この中のどれか一つの武器をお譲りしてもよいと、王から伺っています。一つだけお選び下さい」


 「まさか……こんなに沢山あるなんて……」


 聖一は、あるとしても三、四個が関の山だろうと考えていた。しかし、その予想を遥かに上回る数がそこにはあった。


 「いったい、どれを選べばいいのか…………ん?」


 宝物殿を見て回っていると、一つだけ異常に目立つ武器に目が留まった。


 「これって……」


 それは、剣だった。しかしその刃の部分は真っ黒に染まっており、(つば)は四枚の葉の形をし、黒檀のように黒光りしていた。だが、何よりもその剣を見ていると、他の武器に目を向けることが出来なくなっていた。


 「あの、ラクウンさん……これはいったい?」


 「これは“フォアリーフ”別名クローバーと呼ばれる、この宝物殿の中でも一、二を争う強さを秘めています。しかし、それは余りお薦めはしません」


 「え、どうしてですか?」


 ラクウンの言葉に過剰に反応を見せ、理由を聞く聖一。


 「その剣は強すぎるのです。剣が所有者を依存させ、片時も離れられなくなってしまうのです。実際、王もその剣を持った時は片時も離れられず、食事の時は勿論、寝る時も、はたまた入浴の時までも離す事が出来ず、一ヶ月近く依存していたと話されておりました」


 「成る程…………」


 聖一はしばらく“フォアリーフ”を見つめていたが、何の迷いも無く手に取った。


 「セイイチ様!!」


 「ぐっ…………」


 手に取った瞬間、何かが心の中に流れ込んでくる。


 私を見て……。私を見て……。私だけを見て……。私のものになって……。


 ねっとりと、まとわりつくような幻聴が聞こえてくる。


 「…………」


 しかし意外にも聖一は冷静で、剣を天へと掲げ、語り掛ける。


 「いいよ、君だけを見よう。君だけの物になろう。その代わり、君も僕を見てくれ、僕だけを見てくれ、そして僕の物になってくれ!」


 カタカタと、まるで返事をするかのように剣が震えた。


 「……セイイチ様?」


 「……ほいっと」


 「な……!!」


 聖一は“フォアリーフ”を元あった壁掛けに戻した。


 「王でも依存から抜け出すのに一ヶ月を要したのに……それを一瞬で?」


 「うん、ちゃんと手からも離れる様になったみたいだね。ラクウンさん!」


 「は、はい!」


 「これ気に入りました。これがいいです。いや、これじゃないと駄目です!」


 再び聖一は剣を手に取った。


 「そ、そうですか……それではそちらを差し上げます……」


 「ありがとうございます」


 聖一は“フォアリーフ”を何度も光に当てて、その輝きを楽しんでいる。


 「(まさかあの剣を完全に使いこなす人がいるとは……。王が彼から目を離すなと言った意味が、ようやく理解できた気がする)」


 ここに来てようやく、聖一の秘めた危険性に気が付いたラクウンであった。




 聖剣 フォアリーフ (クローバー)


 ある一人の鍛冶師が、剣の製造途中で四つ葉のクローバーを誤って混入してしまい、剣と葉っぱの融合で生まれた突然変異の剣である。また、混入した四つ葉のクローバーの魂は清らかな物であった為、聖剣へと変異した。しかしその反面、一途すぎるその想いが所有者を依存させてしまうようになった。手放すには相当の精神の強さが必要不可欠である。因みに、四つ葉のクローバーの花言葉は『私のものになって』


 能力 所有者と相対した者が、所有者よりも高いステータスだった場合、相手のステータス分、自身のステータスに上乗せされる。

次回 番外編 完結!


評価・コメントお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ