宝物殿
今回はいつもより早く更新できました。
「おおそうだ、私も聞きたいことがあった」
カルド王との勝負を終えた聖一は、早速宝物殿へと向かおうとするが、呼び止められる。
「いったいどんな事でしょうか?」
聖一は、内容を聞く為にカルド王の方へと振り返る。
「お前は“シーリャの事”をどう思っている?」
「シーリャ……ですか?」
カルド王は、シーリャの聖一に対する好意に気が付いている。いや寧ろ気が付かない方が無理な話である。いつもため息を吐いて、口を開けば聖一の事ばかり……これで気づかない人はいないであろう。しかし、カルド王が気になったのは、その聖一がシーリャの事をどう思っているかである。果たして、聖一の返答は……。
「……とても可愛らしい“お人形”だなと思いますね」
「ふふふ、そうか“お人形”……か」
カルド王は含み笑いをすると、聖一の言葉を繰り返した。
「質問は以上でしょうか?」
聖一は何事も無かったかのように、国王に声を掛ける。
「ああ、すまなかった。“くだらない”話を聞いてしまったな。もう行って良いぞ」
「いえいえ、“気にしてません”ので……それでは失礼致します」
そう言うと、聖一はカルド王の自室を出て行こうとする……と。
「ああ、少し待て……。ラクウン、いるか?」
「はい、ここにおります」
「!?」
いつの間にか聖一の隣に現れたラクウン。全く気配すら感じられず、聖一は少し恐怖を覚えた。
「ラクウン、セイイチを宝物殿まで案内しろ」
「畏まりました。それではセイイチ様、私について来てください」
「は、はい……分かりました」
そのまま聖一はラクウンの後をついて部屋を出て行った。
「…………」
部屋にはカルド王一人。そんなカルド王は椅子から立ち上がり、虚空を見つめ独り言を呟いた。
「我が“バカ娘”ながら不憫だな…………くくくっはははは!!」
カルド王は娘の哀れな姿を思い浮かべ、高笑いをするのであった。
***
「こちらが宝物殿になります」
聖一はラクウンに連れられ、城の宝物殿前まで来た。
「ここが……」
宝物殿の扉は他の部屋の扉と比べて、とても分厚かった。正面からでも確認できるその分厚さは、圧倒的存在感を放っていた。
「少々お待ちください。今開けますので」
「え、こんなに分厚くて重たそうな扉をいったいどうやって……?」
聖一がそんな事を言っていると、ラクウンは宝物殿の扉の前で右手を後ろに、左手を前にして、右手の指を曲げる。
「(あれは……発頸?)」
中国武術における力の発し方の技術。聖一の元いた世界の発頸によく似ていた。
「(あれで何をするつもりなんだ?…………まさか!)」
聖一はラクウンがこれから行おうとする事を理解した、その瞬間!
「ハア!」
ラクウンの右手が、宝物殿の扉目掛けて放たれた。バゴン!けたたましい音を立てて、扉が開かれた。
「さぁ、開きました。行きましょう」
「(化け物か……)」
聖一は分かっている。今の自分ではこの扉を開けるのは不可能だと……。それを容易く開けてしまうラクウンは、自分よりも強者である。
「どうしました?行かないのですか?」
「あ、はい。今行きます」
この時、聖一は決意する。必ずこの人よりも強くなってみせると!
「……す、凄い」
思わず声が漏れてしまった聖一だが、それも仕方ない。宝物殿の中は、壁から床まで全て黄金色で統一されていた。
「こちらの壁や床は、王が修行の旅に出られていた際にお集めになられた金を溶かして、建造されました」
よく見てみると、壁や床に細かな装飾が施されている。
「こ、これは!?」
次に聖一の目に留まったのは、黄金の壁に沿って飾られている多種多様な武器や防具である。
「こちらも、王が修行の旅に出られていた際にお集めになられた、特殊な能力を秘めた武器や防具を飾った物になります」
先程の壁や床もそうだったが、武器や防具には埃の様な汚れは一切見受けられなかった。
「さて、セイイチ様。この中のどれか一つの武器をお譲りしてもよいと、王から伺っています。一つだけお選び下さい」
「まさか……こんなに沢山あるなんて……」
聖一は、あるとしても三、四個が関の山だろうと考えていた。しかし、その予想を遥かに上回る数がそこにはあった。
「いったい、どれを選べばいいのか…………ん?」
宝物殿を見て回っていると、一つだけ異常に目立つ武器に目が留まった。
「これって……」
それは、剣だった。しかしその刃の部分は真っ黒に染まっており、鍔は四枚の葉の形をし、黒檀のように黒光りしていた。だが、何よりもその剣を見ていると、他の武器に目を向けることが出来なくなっていた。
「あの、ラクウンさん……これはいったい?」
「これは“フォアリーフ”別名クローバーと呼ばれる、この宝物殿の中でも一、二を争う強さを秘めています。しかし、それは余りお薦めはしません」
「え、どうしてですか?」
ラクウンの言葉に過剰に反応を見せ、理由を聞く聖一。
「その剣は強すぎるのです。剣が所有者を依存させ、片時も離れられなくなってしまうのです。実際、王もその剣を持った時は片時も離れられず、食事の時は勿論、寝る時も、はたまた入浴の時までも離す事が出来ず、一ヶ月近く依存していたと話されておりました」
「成る程…………」
聖一はしばらく“フォアリーフ”を見つめていたが、何の迷いも無く手に取った。
「セイイチ様!!」
「ぐっ…………」
手に取った瞬間、何かが心の中に流れ込んでくる。
私を見て……。私を見て……。私だけを見て……。私のものになって……。
ねっとりと、まとわりつくような幻聴が聞こえてくる。
「…………」
しかし意外にも聖一は冷静で、剣を天へと掲げ、語り掛ける。
「いいよ、君だけを見よう。君だけの物になろう。その代わり、君も僕を見てくれ、僕だけを見てくれ、そして僕の物になってくれ!」
カタカタと、まるで返事をするかのように剣が震えた。
「……セイイチ様?」
「……ほいっと」
「な……!!」
聖一は“フォアリーフ”を元あった壁掛けに戻した。
「王でも依存から抜け出すのに一ヶ月を要したのに……それを一瞬で?」
「うん、ちゃんと手からも離れる様になったみたいだね。ラクウンさん!」
「は、はい!」
「これ気に入りました。これがいいです。いや、これじゃないと駄目です!」
再び聖一は剣を手に取った。
「そ、そうですか……それではそちらを差し上げます……」
「ありがとうございます」
聖一は“フォアリーフ”を何度も光に当てて、その輝きを楽しんでいる。
「(まさかあの剣を完全に使いこなす人がいるとは……。王が彼から目を離すなと言った意味が、ようやく理解できた気がする)」
ここに来てようやく、聖一の秘めた危険性に気が付いたラクウンであった。
聖剣 フォアリーフ (クローバー)
ある一人の鍛冶師が、剣の製造途中で四つ葉のクローバーを誤って混入してしまい、剣と葉っぱの融合で生まれた突然変異の剣である。また、混入した四つ葉のクローバーの魂は清らかな物であった為、聖剣へと変異した。しかしその反面、一途すぎるその想いが所有者を依存させてしまうようになった。手放すには相当の精神の強さが必要不可欠である。因みに、四つ葉のクローバーの花言葉は『私のものになって』
能力 所有者と相対した者が、所有者よりも高いステータスだった場合、相手のステータス分、自身のステータスに上乗せされる。
次回 番外編 完結!
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