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カルド王国国王

今回から番外編がスタート!

 真緒達がカルド王国を出発した同時刻。カルド城内では、聖一達が国王に謁見を果たしていた。


 「そなた達が異世界から転移してきた勇者か……」


 カルド城内“王の間”と呼ばれるこの部屋は、広い空間に少しばかりの階段の上に玉座が置かれており、常に謁見を求める人達を見下ろせるような構図になっている。部屋を支える為の柱が数本と、玉座の階段まで続く真っ赤に彩られた深紅のカーペットが敷かれているのが、この部屋の現状だ。


 「はい、この度はこの国の国王で在らせられるあなた様に、会える日を心よりお待ちしておりました」


 そんな王の間には、玉座の前で片足を一歩引き、片手を胸に当て(ひざまづ)いている聖一達と、玉座の両側にシーリャと見覚えのない初老の男性が立っている。そして、その玉座にはカルド王国現国王である“カルド・アストラス・カルド”が座っていた。


 「お世辞は不要だ。本来であれば国の王である私が、そなた達に顔を出さなければならないのだが、毎日が多忙な故遅れてしまった事を許してほしい」


 カルド王の容姿はとても若々しい。御年50を迎えたカルド王であるが、そんな事を思わせない位、体から生気が溢れ出ている。顔はとても凛々しく、唯一の顎髭がさらに引き立たせていた。豪華なマントに身を包み、隙間から見えるその肉体は引き締まっていた。


 「勿体ないお言葉でございます」


 「して、名を何と言う?」

 

 「はい、如月 聖一と申します。聖一とお呼びください」


 「……笹沼 愛子です」

 

 「……石田 舞子です」


 聖一は慣れているかの様に淡々と答える。それに対して愛子と舞子は緊張でガチガチになりながら答える。


 「ふむ、セイイチ、アイコ、マイコだな。私はカルド・アストラス・カルドだ。そなたらを歓迎しよう」


 カルド王は両手を広げ、歓迎の意思を見せた。だが、顔は笑ってはいなかった。


 「……これから他国での会合を控えているので、私はそろそろ失礼させて貰おう」


 そう言うとカルド王は立ち上がり、王の間を後にする。


 「陛下、お待ちください……」


 玉座の側にいた初老の男性が、カルド王の後を追いかけて行く。


          バタン!

 扉が閉まる音が聞こえると、聖一達はホッと息を漏らした。


 「あれが国王……なんかイメージと違うねー」


 「ほんとねー、もっと髭がボーボーのジジイかと思った」


 「それか、めっちゃ太ってるキモデブとか!?」


 「あ、わかるー!」


 「二人とも、そういう偏見は良くないよ」


 愛子と舞子がカルド王の話で盛り上がっていると、聖一が注意した。


 「皆様、お疲れ様です」


 そんな三人にシーリャが労いの言葉を掛けてくる。


 「ああ、シーリャ。……あの人がカルド王国の国王、シーリャのお父さんなんだね」


 「はい、父上は即位した当時から国民全員から慕われており、強さもこの国随一と言われるほどの偉大な国王です」


 「(確かに……あの目はただ者ではなさそうだ)」


 カルド王の目は、黒と灰色が混ざり合った様な素朴な色だった。しかしそこから伝わる闘志の炎は今まで見た誰よりも燃えていた。そんな目を見た聖一は確信した。この人は強い!と……。


 「そういえば、シーリャと一緒にいたあの初老の男性は誰なの?」


 「そうそう、私も気になってた!」


 愛子と舞子はシーリャと一緒に立っていた初老の男性が誰なのか、気になっていた。


 「あの人は“ラクウン”父上が即位するずっと前からこのカルド王国で大臣を勤めております。主な仕事は財務管理や書類整理など国の財政面であり、国王の右腕と称されるお方です」


 「へぇー、そうなんだ……そうだよね、なんか仕事の出来る男って感じだったもんね。それに凄くイケメンなのよねー」


 「それね、この異世界に来てから思ったけど、周りの人が皆美男美女で驚いたよね!」


 「ほんとね、特にさっきの国王とラクウン?さんはレベルが違ったよね!」


 「それそれ、私も思った!渋めの大人の男性って感じ?」


 カルド王と大臣のラクウンの顔は類を見ないほど凛々しく、町を歩けば十人中十人の女性が振り返るであろう程に整った容姿をしていた。


 「ほんとそれねー、異世界来てよかった!」


 「では皆さん、魔王討伐に向けて準備を整えましょう。その為にも一度自室へとお戻りください」


 「分かったよ、じゃあ行こうか二人供……」


 「はぁーい!」


 「分かりました!」


 聖一達とシーリャは自室へと戻って行った。




***




 「よろしかったのですか?」


 「なにがだ?」


 カルド王の自室。そこでは先程から騒がれている二人がいた。


 「あのような部外者を、城内に留めてよろしいのでしょうか?」


 「だからこそいいんじゃないか……」


 「え?」


 「あの“バカ娘”め、あれほど異世界転移は行うなと口を酸っぱくして言って聞かせたのに、私の許可無く行いよって……」


 “バカ娘”と吐き捨てるカルド王は、片手で頭を抱える仕草を取る。


 「あの……」


 「ん、何だ?」


 「伝えていないのですか?“あの事”は……」


 「ああ……“魔族との停戦協定”の事か?」


 「……はい」


 そう、現魔王であるサタニアの平和的解決の一つが、この停戦協定を結んだ事である。その内容は実にシンプルで、魔王軍に所属している魔族達には、人間を襲わないように抑える代わり、人間側は魔族の領地に足を踏み入れない様にする事。そしてこの内容を一部の者達に伝え、人間と魔族の間で友好的関係を築こうという物だ。


 「あの“バカ娘”に伝えた所で納得する筈がない」


 「そんな……話せば分かって頂けると思いますよ。親子なんですから……」


 「親子だからこそだよ。小さい時から面倒を見ているが、我が儘で、頑固で、それでいてプライドが高く、私の言葉には耳を傾けない。一人では何も出来なく、やろうという努力さえも見受けられない……そんな“バカ娘”に話す事などあるのか?」


 「……申し訳ありません。私が間違っていました」


 カルド王の話を聞き、自分が間違っていたと認識したラクウンは謝罪をした。


 「気にするな、あいつは人前では猫を被っているからな。見破れるとすれば私の様に幼少の頃から接している者か、それとも……先程の少年だけであろう」


 「少年……と言いますと、セイイチと言う少年の事ですか?」


 「ああ、あいつには目を離さない方がいいだろう……あの目、相当な修羅場を掻い潜ってきた目だ」


 カルド王は聖一の目を見て、長年の勘から確信した。この男は曲者であると……。


 「他の二人はどうでしょうか?」


 「ん?……ああ、あの女二人か。あいつらは気にしなくてもいい、あんなのは何の驚異にもなり得ない」


 「そうですか……それでつまり異世界の者達をこの城に留める理由は、勝手な行動を取らせないようにする為でしょうか?」


 「その通りだ。だが、必ず近い内にあの“バカ娘”が魔王討伐に三人を向かわせると言って来るだろう。それまでしっかりと目を光らせておけ」


 「は!畏まりました」


 二人の会話と思惑は結果、四人の監視という形で保留となった。

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