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笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~  作者: マーキ・ヘイト
第四章 冒険編 オークと子供達
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オークと子供達

早くに投稿出来ました。


今回で第四章は完結です。

 「フォルスさん!」


 フォルスはネキツの不意打ちにより、倒れてしまう。


 「お(かしら)、お疲れ様です!」


 「命拾いしました」


 「ちょっと、あんた達~何ちんたらやってるのよ待ちくたびれちゃったわ……」


 ネキツは、倒れたフォルスを手下である元村人の一人に、新たな人質として捕らえさせた。


 「へへ、すいません。つい調子に乗っちゃって……」


 「あの女があまりに間抜けで、からかっていました」


 「もう~、しょうがないわね~。次からは気を付けなさい」


 「うぐっ……」


 殴られた事で一時的に気を失っていたフォルスが、意識を取り戻した。


 「あら、起きたのね。どう~希望が絶望に変わった気持ちは?」


 「くっ!」


 「もしかして、気づかれてないとでも思ったの?ざ~んねん、あんたが私達の正体に気づいた事なんて始めっから分かってたわ」


 「何……だと……」


 「当たり前でしょ~、これでも奴隷売買の元締めよ。そういうのには敏感なの」

 

 「クソッ……泳がされていたのは俺だったのか……」


 「ああ~、いいわ~その顔。優位に立った者を一気に叩き落とす、止められないわ~」


 ネキツはフォルスの表情を見て興奮を抑えきれないでいた。


 「皆……」


 「ああ、そうだ。忘れるところだったわ……二日ぶりね、確か~マオ……だったわよね」


 ネキツはわざとらしく首をかしげ、真緒に目線を向ける。


 「どう~?信じていた者達に裏切られる気分は~」


 ネキツは真緒の周りをぐるぐると歩き始める。


 「『どうか……どうか……子供達を救出し、このアウトク村をお救いください!』……名演技だったでしょ?あなたみたいなミルク臭いお子様には効果的なのよ」


 ネキツは真緒の目の前で両手を大きく広げ、高笑いをする。


 「……るさない」


 「何ですって?」


 「許さない!あなた達の様な人の心を(もてあそ)ぶのを私は、絶対に許さない!!」


 真緒の目に決意の炎が宿る。武器を構え、ネキツに向ける。


 「おっと、動かない方が身の為よ!こっちには人質がいるんだから!」


 「……っつ」


 仲間が人質に取られている以上、真緒は手を出す事が出来ない。


 「マオぢゃん!オラ達に構わず殺っでぐれ!」


 「そうです!こんな奴等の言いなりになる事ありません!」


 「殺れ!マオ!」


 「私達は、マオさんがどんな選択をしようと恨みませんよ~」


 ハナコ達は、真緒に気にせず戦うよう声を掛ける。

 

 「黙ってろ!」


 「皆に、乱暴しないで!」


 「止めなさいあなた達!」


 「お頭……しかし……」


 「私の言う事が聞けないのかい!!」


 「す、すいません!」


 ネキツは手下である元村人を怒鳴り付けた。


 「ど、どうして……」


 「“どうして止めさせたのか”私だって心が無い冷血人間じゃないの。だからねマオ、そちらにいるオークと子供達を引き渡せば、あなたの仲間達を返してあげるわ」


 「騙されるな!引き渡しても返す訳が無い。目撃者は皆殺しにするつもりだ!」


 「そんなことしないわ!私は約束を守る女よ!さぁマオ、どうするの?」


 ネキツはこっそり背中で片手の人差し指と中指をクロスさせて、“指十字”を作った。


 「あいつ!マオ!騙され……ムグッ……」


 「おいおい、今良いとこなんだから邪魔しちゃ駄目だろ……しかし、お頭の演技力には流石としか言いようが無いな……」


 フォルスが真緒に騙されている事を伝えようとするが、元村人に口を塞がれてしまった。そう、フォルスはあの“指十字”の意味を聞いた事があった。それは、聖職者が嘘がバレないようにと願う時に行うジェスチャーなのだ。つまり、ネキツの先程の言葉は嘘である。


 「さぁ、どうするの?」


 「…………」


 再びネキツが真緒に聞く。果たして、真緒の出す答えは……。


 「……悪いけどオークと子供達を引き渡す事は出来ない」


 「なんですって……」


 「この子達を守ると、私はオークと約束をした。あなたが約束を守る女であるならば私も約束を守ります!」


 「それが……あなたの答えなの?」


 「……はい!」


 「そう……なら仕方ないわね……」


 ネキツは真緒の答えを聞くと、徐々に鋭い目付きへと変わっていった。


 「おい、あんた達!人質を殺しちまいな!」


 「「「「へい!」」」」


 「!!」


 ネキツの無慈悲な言葉が元村人達に告げられる。真緒は驚愕の表情を浮かべている。


 「あは、あは、あはははは!!あんたが悪いのよ。あんたの選択した結果がこれよ!恨むんなら自分の早計さを恨むのね!!あはははははは!!!」


 「!!!」


 しかし、真緒の表情は変わらない。目を見開き瞬きは一切無く、口は開きっぱなしだ。


「……何よその顔、大切な仲間が殺されるんだから、もっと絶望した顔を見せなさいよ」


 「!!!!」


 しかし、真緒の表情は変わらない。目を見開き瞬きは一切無く、口は開きっぱなしだ。


 「……ねぇ、いつまでその顔をしてるのよ、いい加減止めてちょうだい!」


 しかし、真緒の表情は変わらない。だがここでネキツに疑問が生まれた。いつまで経ってもハナコ達の悲鳴が聞こえてこないのだ。


 「ちょっと、あんた達!何で早く殺さない……の……よ……え?」


 ネキツが振り返ると、手下の元村人達も同じように振り返っていた。何故なら、そこには真緒が驚いている原因がいたからだ。


 「あ、あなたは……」


 真緒の口から言葉が漏れる。そこに立っていたのは、見覚えのある灰茶色の体色に、見覚えのある尾の先は黒色、立ち上がると二メートルにもなりそうな身長、そして、はち切れんばかりに膨れ上がった右腕。左腕と比べるとその差は五倍近くある。そうあの“カンガルー”だった。


 「ヴェー!!!」


 「ヒィ、な、何だこいつは!!?」


 「く、来るな!!」


 「助けてくれーーー!!」


 ライトマッスルアームは次々と、元村人の連中を自慢の右腕で殴り飛ばしていく。勿論、人質として捕らえられていたハナコ達は無傷である。


 「そんな魔物一匹に何をやってるの!早く殺しなさ……い?」


 そう言い終わった時には既に決着はついており、ネキツの目の前には、ライトマッスルアームが立っていた。


 「い、いや……」


 上から睨むように、ライトマッスルアームは右腕を構えた。


 「た、たすけ!」


 助けを求める前にライトマッスルアームの右腕で殴られた。


 「ヴェー!!!」


 ライトマッスルアームの鳴き声が洞窟内全体に響き渡る。こうして、ネキツ率いる過激派奴隷商人は終幕を迎えた。




***




 「本当にありがとうございました」


 洞窟の入り口を少し出た所で真緒達、オークと子供達、そしてライトマッスルアームが集まっていた。その中で、オークが真緒達にお礼を述べて頭を下げていた。


 「そんな……お礼ならライトマッスルアームに……あれ?」


 真緒が目をやると、隣にいたはずのライトマッスルアームがいなくなっていた。


 「あ、あぞご!」


 ハナコが遠くへと去っていく、ライトマッスルアームを見つけた。


 「ちょ、ちょっと待って!!」


 「…………」


 真緒が呼び止めると、ライトマッスルアームは無言のまま振り返った。


 「あの……助けてくれてありがとう!!!」


 「ヴェー」


 真緒がお礼を述べると、今までとは違う優しい鳴き声を発して去っていく。それはまるで、『借りを返しただけだ』と言ってるように真緒は感じた。


 「それでオークは、ごれがらどうずるづもりなんだぁ?」


 ハナコは、驚異が取り除かれた今、オークに今後をどうしていくか聞いてみた。

 

 「そうだな……あの村でこの子達と一緒に孤児院を建設しようかなと思っている」


 「孤児院……いいですね!」


 「勿論、一筋縄では行かないことは分かっている。しかし、この子達と一緒ならどんな困難にも立ち向かえる気がするんだ」


 「私、応援します!」


 「オラも!」


 「私もです!」


 「俺もだ」


 「私も~私も~」


 「貴殿達……本当にありがとう!」


 この時オークの目から涙が流れる。


 「?……おーくさん、ないてるの?」


 「わたしがなおしてあげる!いたいのいたいのとんでけー!」


 「……ああ、ありがとう。お陰で痛みがひいてきた」


 「えへへ、よかった!」


 オークは腕で涙を拭うと、真緒達に問い掛けた。


 「それで、こいつらはどうするつもりなんだ?」


 オークの視線の先には縄でぐるぐる巻きにされて気絶しているネキツ達。そう、ライトマッスルアームは殺さなかったのだ。それは真緒に助けられた事が影響したのであろう。


 「それは……」


 「私に任せてくださ~い」


 真緒が悩んでいると、エジタスが声を掛けてきた。


 「師匠にですか?」


 「はい、私には“転移”があるので、この人達をカルド王国に引き渡して来ますよ」


 「それなら安心ですね」


 この場に放置するのは流石に心が痛む真緒だったが、王国に引き渡すとなれば一安心である。


 「それじゃあさっそく行ってきますね~。皆さん、暫しのお別れです」


 エジタスはネキツ達の縄を持つと、“パチン”と指をならしその場から消える。


 「……………あ!」


 その光景を見ていたリーマがふと思い出した。


 「どうしたのリーマ?」


 「エジタスさんは“転移”が使えたんですよね……それなら人質として捕らえられていた時、抜け出すことが出来たんじゃないですか?」


 「「「あ……」」」


 今気づいた事実。しかしあの時はそんなことを考える余裕が無かった。エジタス本人以外は……。


 「それだっだら、もっど早ぐに助がっでだなぁ」


 「し、し、し、師匠ーー!!」


 真緒のエジタスに対する叫びが、荒地中に響き渡った。




***




 「ふぅ……そろそろあちらでは私が“転移”で抜け出せた事がバレた頃ですかね。こうでもしないと、マオさんはいつまで経っても成長しませんからね……」


 エジタスは縛っているネキツ達を見た後、静かに空を見上げ“ボソリ”と呟く。


 「……人間と魔族、“真の悪”はいったいどちらなのでしょうね~」


 エジタスの呟きは気絶しているネキツ達に聞こえることは無く、周囲の空気に溶け込んだ。

次回は第五章……ではなく、番外編です。

そういえば、あの“三人組”は今頃何をしているのでしょうか……。


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