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笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~  作者: マーキ・ヘイト
第四章 冒険編 オークと子供達
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ライトマッスルアーム

12時に投稿出来ました。

 クレバの荒地で真緒達は、オークに拐われた子供達を救うべく、オークがいるという東の洞窟に向かっていた。


 「子供達は無事でしょうか……」


 そんな弱々しい声が、真緒の口から発せられる。


 「心配していても事態が好転する訳じゃない。無事だと信じて、進むしかないだろう」


 「そんだぁ、悪い方へど考えないで良い方へど考えるのがいいだよ」


 「ネガティブはいけません。ポジティブに行きましょう!」


 「マオさ~ん、笑顔ですよ~笑顔。マオさんには笑顔が一番似合いますよ」


 「皆……うん!そうだよね、いつまでも暗いのは駄目だよね。明るく行かないとね!」


 仲間達の声援のお陰で、明るい表情に戻った。


 「……とは言うものの、オークは何の為に子供達を拐ったんでしょうか?」


 「それを確かめる為にも、そのオークに会いに行くんだろ?」


 「……もじ、ネキツざんの言う通り、食べるのが目的だっだら……」


 「やめて!」


 ハナコの言葉を、思わず遮る真緒。


 「だが実際の所、魔族って人間を好んで食べるんでしょうか?フォルスさんやハナコさんは、そういうのありますか?」


 「ある訳無いだろ、俺達亜人は基本的に、お前達と同じ食事を取っている」


 「そうだなぁ~、流石に人間は食べだごどはねぇがな~」


 「…………」


 フォルスとハナコが、亜人の食事方法について話している中、エジタスは魔王城での話を思い出していた。




***




 「え、人間を食べるか……だって?」


 エジタスが魔王であるサタニアに、食事について質問した。

 

 「はい、旅している途中で色々な噂を耳にしたのですが、その中でも、魔族は人間を好んで食べると聞きまして、果たして真相はどうなのかと思いましてね」


 「う~ん、説明が難しいな……と言うのも、僕達のような上級魔族は基本人間は食べないんだけど、その下の下級魔族は、どっちかと言うと動物に近いから、お腹が空いたら生き残る為に、目の前の生物を食べようとしちゃうんだ」


 サタニアの説明は、とても分かりやすく、エジタスは即座に理解できた。


 「成る程~、因みにサタニアさんは人間を食べようと思ったりするんですか?」


 「そんな事する訳無いじゃないですか!」


 ──以上が、エジタスがサタニアから聞いた、魔族の食事概念であった。




***




 「……さん……タスさん……エジタスさん!」


 過去の思い出に浸っていると、リーマの呼ぶ声が聞こえ、我に帰った。


 「ちゃんと聞いてましたか?」


 「あ~、すみません。少し考え事をしていました」


 「ですから、エジタスさんは、魔族が人間の肉を食べると思いますか?」


 エジタスは、リーマの質問にどう答えようか悩んだ結果……。


 「……そうですね~、私は……食べる者もいれば、食べない者もいるんじゃないかと思いますね」


 曖昧な答えを返した。それは、変な期待を持たせない為、ここで下級魔族以外は、基本的に人間の肉を食べないと言ってしまったら、希望を抱いてしまう。もしかしたら、子供達は生きているかもと……。拐ったオークが下級魔族か、上級魔族か、分からないこの状況でエジタスは、敢えて話さずお茶を濁した。


 「そうですか……」


 その時だった!エジタスの返答を聞いてる最中、突如背後から突風が突き抜ける。


 「きゃあ!」


 「な、なんだぁ!?」


 「いやっ!」


 「クソ!」


 「うわぁっととと!?」


 突然の出来事で反応することが出来ず、転んでしまう真緒達。いったい何が起こったのか、振り返ってみると……。


 「あなたは!!」


 そこにいたのは口角を上げ、横の歯を剥き出しにして、まるで人間のように笑って見せるカンガルー……ライトマッスルアームが立っていた。


 「ヴェー!」


 ライトマッスルアームが鳴く。


 「まさかここで、あのときの借りを返せるとはね!」


 「ここは、私に任せてください!私の魔法で倒して見せます!」


 そう言うとリーマは、魔導書を開く。


 「食らいなさい!“スネークフレイム”!!」


 

 リーマの魔導書から、炎で形成された蛇が生み出され、ライトマッスルアームに放たれる。そして見事、ライトマッスルアームに命中した。


 「どんなもん……で……え?」


 確かに命中した。しかし、炎に包まれながらも余裕の表情をする、ライトマッスルアーム。そして炎は次第に小さくなり、消えた。


 「そんな、どうして?」


 「おそらく奴には、火属性に対する耐性が、付いているんだろう」


 「それなら!“ウォーターキャノン”!!」


 リーマの目の前に大きな水の塊が形成され、その塊はライトマッスルアーム目掛けて飛んでいった。


 「行けーー!!」


 “ニヤリ” そう、ライトマッスルアームが笑ったように見えた。異常に発達した右腕を構え、飛んでくる大きな水の塊に拳を振るう。


 「ヴェー!」


           パァン!

 そんな音が響き渡ると、リーマが生み出した大きな水の塊が弾け飛んだ。


 「そ、そんな……」


 リーマはガクリと膝を着く。


 「今度は俺が殺る」


 フォルスは、武器である弓と矢を取り出した。

 

 「悪く思うなよ、スキル“ロックオン”、スキル“急所感知”」


 ライトマッスルアームの体に、ターゲットマーカーが表示され左腕に移動する。

 

 「じゃあな!」


 フォルスは、ライトマッスルアーム目掛けて矢を放った。放たれた矢は、急所である左腕に刺さる直前、右手で器用に掴み取る。


 「な、なんだと……」


 エジタスの時は、仕方ないと思っていた。それは、エジタスの方が自分より強者であり、スキルについて詳しかったからだ。それなのに、こんな魔物に意図も簡単に止められた。


 「ヴェー」


 ライトマッスルアームは、掴み取った矢と、フォルスの心を折った。


 「俺がやってきた事は、全て無駄だったのか……」


 フォルスはガクリと膝を着く。


 「皆、諦めないで!」


 「そうだよぉ、希望を捨でぢゃあいけない!」


 「諦めなければ、道は開かれるんですよ~」


 真緒達が、リーマとフォルスの正気を取り戻そうとすると……。


 「ヴェー!!!」


 今までの鳴き声より、大きく叫んだライトマッスルアームは少し後ろに下がり……ホップ、ステップ、ジャンプ!と、聞こえてきそうなリズムで跳んできた。


 「しまった!」


 反応が遅れた。ライトマッスルアームの右腕が振り下ろされる。


 「マオぢゃん、危ない!」


 ハナコはその間に割って入り、真緒を守ろうと、両腕を顔の前で立ててガードする。


 「うぐっ……」


 「ハナちゃん!」


 「ハナコさん!」


 「大丈夫か!?」


 ハナコが守った事により、リーマとフォルスが正気に戻った。そして、不思議な事にハナコは無傷だった。


 「オラなら大丈夫だぁ」


 「よかった……でも、いったいどうして?」


 「もしかしたら、そのガントレットのお陰じゃないか?」


 フォルスが示したのは、ハナコが装着している不壊のガントレットだ。決して壊れないその性能が、窮地を救ってくれた。ライトマッスルアームは興奮しているのか、右腕を振り回している。さらに右腕からは湯気が立っていた。


 「……ハナちゃん、ちょっと考えがあるんだけど、手伝ってくれないかな?」


 「いいだよ、オラに出来るごどなら何だっでやるざぁ」


 「それじゃあ……」




***




 「ヴェー!」


 ライトマッスルアームは、倒せなかったハナコに何度も、異常発達した右腕で殴り続けている。


 「うぐうぅぅっ……」


 「マオさん!ハナコさんに、何をやらせているんですか!?今すぐ止めさせてください!!」


 真緒の狙いが分からず、焦りを見せるリーマ。


 「こうなったら、もう一度私が……「やめでぐれぇ」……え?」


 助けようとするが、ハナコ自身に遮られる。


 「手出しは無用だぁ!オラだっで、皆の役に立ぢでんだ!!」


 「ハナコさん……」


 「ここは、マオとハナコを信じるしかない」


 「そうですよ~、家宝は寝て待てですよ~」


 リーマ達は、ライトマッスルアームの猛攻を食らい続けるハナコを、見守ることにした。そしてついに……。


 「も、もうダメだぁ……」


 ハナコは遂に、猛攻に耐えきれずバランスを崩してしまう。


 「ヴェー!!!」


 ライトマッスルアームが、叫び声を上げる。そして右腕を振り上げると、そのまま振り下ろそうとする。


 「結局役に立でながっだよ。皆ごめん……」


 「ハナちゃん、ありがとう……作戦成功だよ」


 真緒がそう言うと、ライトマッスルアームは右腕を上げたまま、前のめりに倒れた。


 「これは、いったい……」

 

 「脱水症状だよ」


 「脱水?」


 「あの異常に発達した右腕は、扱う度に相当の熱量と運動量を要するんだよ。湯気が出ていたのは、発せられた汗があまりの熱さで蒸発したからなんだ」

 

 真緒から語られる、ライトマッスルアームの意外な弱点。


 「それで、ハナコさんに頼んだ訳ですか……」


 「うん、あの攻撃に耐えられるのは、ハナちゃんのガントレットだけだと思って…………それで、ここからが重要なんだけど……リーマ、ライトマッスルアームを水属性魔法で助けてあげてほしい」


 「何でですか!?私達は殺されかけたんですよ!」


 ライトマッスルアームを助けようとする真緒に、理解が出来ないリーマ。


 「お願い……」


 「……どうなっても知りませんよ」


 リーマは水の塊を作り、ライトマッスルアームの頭に掛ける。


 「!!」


 ライトマッスルアームが目を覚ました。怯えた表情をしながら真緒達を見る。


 「大丈夫、怖がらないで……殺すつもりは無いから、だから貴方ももう私達を襲わないでね」


 「……………」


 無言のままライトマッスルアームは去っていった。

次回、オーク登場。


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