ライトマッスルアーム
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クレバの荒地で真緒達は、オークに拐われた子供達を救うべく、オークがいるという東の洞窟に向かっていた。
「子供達は無事でしょうか……」
そんな弱々しい声が、真緒の口から発せられる。
「心配していても事態が好転する訳じゃない。無事だと信じて、進むしかないだろう」
「そんだぁ、悪い方へど考えないで良い方へど考えるのがいいだよ」
「ネガティブはいけません。ポジティブに行きましょう!」
「マオさ~ん、笑顔ですよ~笑顔。マオさんには笑顔が一番似合いますよ」
「皆……うん!そうだよね、いつまでも暗いのは駄目だよね。明るく行かないとね!」
仲間達の声援のお陰で、明るい表情に戻った。
「……とは言うものの、オークは何の為に子供達を拐ったんでしょうか?」
「それを確かめる為にも、そのオークに会いに行くんだろ?」
「……もじ、ネキツざんの言う通り、食べるのが目的だっだら……」
「やめて!」
ハナコの言葉を、思わず遮る真緒。
「だが実際の所、魔族って人間を好んで食べるんでしょうか?フォルスさんやハナコさんは、そういうのありますか?」
「ある訳無いだろ、俺達亜人は基本的に、お前達と同じ食事を取っている」
「そうだなぁ~、流石に人間は食べだごどはねぇがな~」
「…………」
フォルスとハナコが、亜人の食事方法について話している中、エジタスは魔王城での話を思い出していた。
***
「え、人間を食べるか……だって?」
エジタスが魔王であるサタニアに、食事について質問した。
「はい、旅している途中で色々な噂を耳にしたのですが、その中でも、魔族は人間を好んで食べると聞きまして、果たして真相はどうなのかと思いましてね」
「う~ん、説明が難しいな……と言うのも、僕達のような上級魔族は基本人間は食べないんだけど、その下の下級魔族は、どっちかと言うと動物に近いから、お腹が空いたら生き残る為に、目の前の生物を食べようとしちゃうんだ」
サタニアの説明は、とても分かりやすく、エジタスは即座に理解できた。
「成る程~、因みにサタニアさんは人間を食べようと思ったりするんですか?」
「そんな事する訳無いじゃないですか!」
──以上が、エジタスがサタニアから聞いた、魔族の食事概念であった。
***
「……さん……タスさん……エジタスさん!」
過去の思い出に浸っていると、リーマの呼ぶ声が聞こえ、我に帰った。
「ちゃんと聞いてましたか?」
「あ~、すみません。少し考え事をしていました」
「ですから、エジタスさんは、魔族が人間の肉を食べると思いますか?」
エジタスは、リーマの質問にどう答えようか悩んだ結果……。
「……そうですね~、私は……食べる者もいれば、食べない者もいるんじゃないかと思いますね」
曖昧な答えを返した。それは、変な期待を持たせない為、ここで下級魔族以外は、基本的に人間の肉を食べないと言ってしまったら、希望を抱いてしまう。もしかしたら、子供達は生きているかもと……。拐ったオークが下級魔族か、上級魔族か、分からないこの状況でエジタスは、敢えて話さずお茶を濁した。
「そうですか……」
その時だった!エジタスの返答を聞いてる最中、突如背後から突風が突き抜ける。
「きゃあ!」
「な、なんだぁ!?」
「いやっ!」
「クソ!」
「うわぁっととと!?」
突然の出来事で反応することが出来ず、転んでしまう真緒達。いったい何が起こったのか、振り返ってみると……。
「あなたは!!」
そこにいたのは口角を上げ、横の歯を剥き出しにして、まるで人間のように笑って見せるカンガルー……ライトマッスルアームが立っていた。
「ヴェー!」
ライトマッスルアームが鳴く。
「まさかここで、あのときの借りを返せるとはね!」
「ここは、私に任せてください!私の魔法で倒して見せます!」
そう言うとリーマは、魔導書を開く。
「食らいなさい!“スネークフレイム”!!」
リーマの魔導書から、炎で形成された蛇が生み出され、ライトマッスルアームに放たれる。そして見事、ライトマッスルアームに命中した。
「どんなもん……で……え?」
確かに命中した。しかし、炎に包まれながらも余裕の表情をする、ライトマッスルアーム。そして炎は次第に小さくなり、消えた。
「そんな、どうして?」
「おそらく奴には、火属性に対する耐性が、付いているんだろう」
「それなら!“ウォーターキャノン”!!」
リーマの目の前に大きな水の塊が形成され、その塊はライトマッスルアーム目掛けて飛んでいった。
「行けーー!!」
“ニヤリ” そう、ライトマッスルアームが笑ったように見えた。異常に発達した右腕を構え、飛んでくる大きな水の塊に拳を振るう。
「ヴェー!」
パァン!
そんな音が響き渡ると、リーマが生み出した大きな水の塊が弾け飛んだ。
「そ、そんな……」
リーマはガクリと膝を着く。
「今度は俺が殺る」
フォルスは、武器である弓と矢を取り出した。
「悪く思うなよ、スキル“ロックオン”、スキル“急所感知”」
ライトマッスルアームの体に、ターゲットマーカーが表示され左腕に移動する。
「じゃあな!」
フォルスは、ライトマッスルアーム目掛けて矢を放った。放たれた矢は、急所である左腕に刺さる直前、右手で器用に掴み取る。
「な、なんだと……」
エジタスの時は、仕方ないと思っていた。それは、エジタスの方が自分より強者であり、スキルについて詳しかったからだ。それなのに、こんな魔物に意図も簡単に止められた。
「ヴェー」
ライトマッスルアームは、掴み取った矢と、フォルスの心を折った。
「俺がやってきた事は、全て無駄だったのか……」
フォルスはガクリと膝を着く。
「皆、諦めないで!」
「そうだよぉ、希望を捨でぢゃあいけない!」
「諦めなければ、道は開かれるんですよ~」
真緒達が、リーマとフォルスの正気を取り戻そうとすると……。
「ヴェー!!!」
今までの鳴き声より、大きく叫んだライトマッスルアームは少し後ろに下がり……ホップ、ステップ、ジャンプ!と、聞こえてきそうなリズムで跳んできた。
「しまった!」
反応が遅れた。ライトマッスルアームの右腕が振り下ろされる。
「マオぢゃん、危ない!」
ハナコはその間に割って入り、真緒を守ろうと、両腕を顔の前で立ててガードする。
「うぐっ……」
「ハナちゃん!」
「ハナコさん!」
「大丈夫か!?」
ハナコが守った事により、リーマとフォルスが正気に戻った。そして、不思議な事にハナコは無傷だった。
「オラなら大丈夫だぁ」
「よかった……でも、いったいどうして?」
「もしかしたら、そのガントレットのお陰じゃないか?」
フォルスが示したのは、ハナコが装着している不壊のガントレットだ。決して壊れないその性能が、窮地を救ってくれた。ライトマッスルアームは興奮しているのか、右腕を振り回している。さらに右腕からは湯気が立っていた。
「……ハナちゃん、ちょっと考えがあるんだけど、手伝ってくれないかな?」
「いいだよ、オラに出来るごどなら何だっでやるざぁ」
「それじゃあ……」
***
「ヴェー!」
ライトマッスルアームは、倒せなかったハナコに何度も、異常発達した右腕で殴り続けている。
「うぐうぅぅっ……」
「マオさん!ハナコさんに、何をやらせているんですか!?今すぐ止めさせてください!!」
真緒の狙いが分からず、焦りを見せるリーマ。
「こうなったら、もう一度私が……「やめでぐれぇ」……え?」
助けようとするが、ハナコ自身に遮られる。
「手出しは無用だぁ!オラだっで、皆の役に立ぢでんだ!!」
「ハナコさん……」
「ここは、マオとハナコを信じるしかない」
「そうですよ~、家宝は寝て待てですよ~」
リーマ達は、ライトマッスルアームの猛攻を食らい続けるハナコを、見守ることにした。そしてついに……。
「も、もうダメだぁ……」
ハナコは遂に、猛攻に耐えきれずバランスを崩してしまう。
「ヴェー!!!」
ライトマッスルアームが、叫び声を上げる。そして右腕を振り上げると、そのまま振り下ろそうとする。
「結局役に立でながっだよ。皆ごめん……」
「ハナちゃん、ありがとう……作戦成功だよ」
真緒がそう言うと、ライトマッスルアームは右腕を上げたまま、前のめりに倒れた。
「これは、いったい……」
「脱水症状だよ」
「脱水?」
「あの異常に発達した右腕は、扱う度に相当の熱量と運動量を要するんだよ。湯気が出ていたのは、発せられた汗があまりの熱さで蒸発したからなんだ」
真緒から語られる、ライトマッスルアームの意外な弱点。
「それで、ハナコさんに頼んだ訳ですか……」
「うん、あの攻撃に耐えられるのは、ハナちゃんのガントレットだけだと思って…………それで、ここからが重要なんだけど……リーマ、ライトマッスルアームを水属性魔法で助けてあげてほしい」
「何でですか!?私達は殺されかけたんですよ!」
ライトマッスルアームを助けようとする真緒に、理解が出来ないリーマ。
「お願い……」
「……どうなっても知りませんよ」
リーマは水の塊を作り、ライトマッスルアームの頭に掛ける。
「!!」
ライトマッスルアームが目を覚ました。怯えた表情をしながら真緒達を見る。
「大丈夫、怖がらないで……殺すつもりは無いから、だから貴方ももう私達を襲わないでね」
「……………」
無言のままライトマッスルアームは去っていった。
次回、オーク登場。
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