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笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~  作者: マーキ・ヘイト
最終章 笑顔の絶えない世界
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執念深い者

勝利したのも束の間、結晶化した筈のエジタスがアーメイデの背後を取って、右腕で腹部を貫いた!!

果たして、本当にエジタスを止められるのだろうか!?

 「くそっ!!いったい、どうしたらいいんだ!?」


 「落ち着きなさい!!焦ってもどうにもならないわ!!」


 アーメイデの出来事が起こる約数分前、肉の壁の外側では取り残された七人が、何とかして中に入ろうと試行錯誤を繰り返していた。


 「何とかしてこの肉の壁を突き破って、中にいる二人を救い出したいけど…………」


 「オレタチノコウゲキハ、スベテウケナガサレテシマウ……」


 「この肉の壁を突き破るには、最低でも、受け流せない程の攻撃をしなければいけないと思われます……」


 「だげど、オラ達の力を合わぜでも……肉の壁は突き破れながっだだぁ……」


 「私達じゃ、力不足って訳かよ……」


 やりきれない思い。七人の力を持ってしても、たった一人の道化師に太刀打ち出来ない。そんな辛い現実が、七人に重くのしかかる。


 「今は、あの二人を信じて待つしか無いわ……」


 「……だから……だからと言って、何もせずにじっとしている訳には……!!?」


 その時だった。それまで全く反応の無かった肉の壁が、徐々に結晶化し始めた。


 「こ、これは!?」


 「な、何が起こっているんですか!?」


 あまりに突然の出来事に戸惑い、混乱して動揺してしまう一同。


 「分からない……分からないが……中で何かが起こっている……」


 「この“結晶”って……もしかして……」


 何かに気が付き始めるリーマだが、情報が少ない現状において、ドーム状の肉の壁が結晶化して行くのを、只見守る事しか出来なかった。


 「あっ!!み、見て下さい!!あれ!!」


 「「「「「「!!?」」」」」」


 それは結晶化した肉のドーム状の頂点、その頂点に、小さなヒビが入っていた。小さなヒビは、次第に大きく広がり始めた。そして、結晶化した肉の壁全体に、ヒビが広がったその瞬間。

 

          パリン!!


 それはまるで、ガラスが砕け散った様な音だった。結晶化した肉の壁全体に、ヒビが広がった瞬間、脆く砕け散って雪の様にヒラヒラと舞い落ちる。


 「な、何がどうなっているんだ……?」


 「突き破れないと思っていた肉の壁が、あんなにあっさりと砕け散った……」


 「やっぱり……この魔法は……」


 「そ、それよりサタニア様達は、無事なのでしょうか!?」


 自分達が突き破れなかった肉の壁が、意図も簡単に砕け散ったのに対して、少しばかり自信を無くしてしまった。そんな中、クロウトが中にいる筈の真緒とサタニアの安否を心配する。そして、結晶化して砕け散った肉の壁の中心に真緒、サタニア、そして死んだ筈のアーメイデに、その腹部を貫いているエジタスの計四人が立っていた。また、エジタスは元の大きさに戻っていた。


 「「「マオ!!」」」


 「「「「魔王様!!」」」」


 「「あっ、皆!!」」


 肉の壁が砕け散った事で、自由に動ける様になった真緒とサタニアは、七人の元へと駆け寄る。アーメイデは、エジタスに腹部を貫かれたまま、硬直状態が続いていた。


 「良かった!!無事だったんだな!!」


 「う、うん……何とかね……」


 「それはそうと、これはいったいどう言う状況なんですか!?どうして死んだ筈のアーメイデさんが、生き返っているんですか!?そしてどうしてエジタスさんに、お腹を貫かれているんですか!?」


 当然の疑問だった。少し離れている間に、死んだ筈の人間が蘇っていた。何も知らない七人は、頭がパンクしそうになっていた。


 「えっと……何て説明したら良いんだろう……」


 「取り敢えず、掻い摘まんで説明すると……エジタスの骨肉魔法によって、ゾンビ状態になって復活出来た……って所かな……」


 「そ、そうだったのか……」


 説明している時間が無い中、サタニアは要点だけをまとめ、全員に説明をした。


 「それなら速く、アーメイデさんを助けましょう!!」


 「リーマの言う通り、皆助けに行こう!!」


 「「「「「「おぉ!!!」」」」」」


 こうして八人が再び合流を果たした。そして腹を貫かれたアーメイデを助ける為、息を整えながら硬直状態の二人の元へと走って行く。




***




 「……どうして……確かに……全身を結晶化させた……避けられる筈が……無いのに……」


 一方、硬直状態の中でアーメイデとエジタスは話をしていた。腹を貫かれているのに対して、アーメイデは痛がる素振りを全く見せない。ゾンビの様な状態で蘇ったアーメイデにとって、痛みは既に感じる代物では無かった。その為、腹を貫かれても尚、冷静に会話する事が出来ているのだ。


 「間抜けな魔法使い……良い事を教えてやろう……お前が肉の壁を結晶化させている間、危機感を覚えた俺は、全身の殆どの肉を外の地面に逃がしたのさ……そして予想通り、お前は俺の体を結晶化させ始めた。だがそれは、表面上だけの中身の無いダミーさ!!」


 「ダ、ダミー!?…………いえ、そんな筈は無いわ!!あの時のあんたは、確りと喋って動いていたじゃない!!」


 アーメイデの言う通り、もしも中身の無いダミーならば動く事は愚か、喋る事も出来ない筈である。


 「…………」


 するとエジタスは、アーメイデの目の前に、自身とそっくりな人形を生成した。


 「こ、これは!?」


 「これは、あの時と同じ中身の無い表面上だけのダミーだ……確かに……普通なら動く事も、喋る事も出来ない……だが……」


 すると、エジタスそっくりな人形の目が不規則に動き出し、右腕を前に突き出しながら、下顎をガクガクと揺らし始めた。


 「!?」


 「「骨肉魔法を持ってすれば、こうやって俺の動きを、完全に真似してくれるのさ……お前は、俺の腹話術にまんまと嵌まったと言う訳さ!!」」


 前と後ろ。前後から、エジタスの声が聞こえて来る。完全にハモっている二つの声が、ゾンビ状態のアーメイデに恐怖を掻き立てる。


 「…………うっ!!」


 するとエジタスは、アーメイデの腹部から自身の右腕を引き抜いた。アーメイデは、腹部に空いた穴を押さえながらその場に膝を付く。空いた穴からは、青白い光が大量に漏れ出る。そして目の前にいる人形も、エジタスに合わせて突き出していた右腕を下ろした。


 「「…………だが、残念ながら所詮は中身の無い表面上だけのダミー……こうして……」」


 エジタスは、ダミーの人形の頭を軽く叩いた。同様に、ダミーの人形もエジタスの頭を叩こうとするが、それよりも先に肉片となって崩れ落ちた。


 「こうして……衝撃を与えれば、簡単に肉片になってしまう……それをまぁ、御丁寧に結晶化してくれたもんだ……」


 「…………ぐっ」


 皮肉を効かせたエジタスの言葉に、アーメイデは俯き、黙り込んでしまった。否定する事の出来ない事実であるからだ。


 「スキル“一点集中”!!」


 「!!!」


 その時、フォルスがエジタス目掛けて肉眼では捉えきれない速さの矢を、勢い良く放った。しかし、エジタスは冷静にそれを回避する。


 「スキル“大炎熱地獄”!!」


 「!!!」


 すると回避した直後、背後に回っていたアルシアが、エジタス目掛けてスキルを放った。


 「遅い!!」


 しかし、そこは規格外のステータスを用いて、常人離れしたバク宙で華麗に回避した。


 「“ウインドカッター”!!」


 「!!……小癪な!!」


 すると今度はリーマが、バク宙するエジタス目掛けて鋭い風の刃を放った。しかしエジタスは、バク宙からの高速な横回転によって風の刃を受け流した。


 「ウォオオオオオ!!!」


 「な、何!?…………ぐっ!!」


 受け流した瞬間、エジタスの元にゴルガが急接近する。そして有無を言わさず、巨大な拳をエジタス目掛けて突き出した。そんな拳に対して、エジタスは自身の右腕を巨大化させ、迫り来るゴルガの拳にぶつける形で突き出した。


 「隙ありだぁ!!スキル“インパクト・ベア”!!」


 「ぐはぁ!!?」


 拳と拳がぶつかり合う中、エジタスの真横に現れたハナコは、エジタスの横腹目掛けてスキルを放った。そして遂に、怒濤の攻撃に対処し切れ無くなったのか、ハナコのスキルをまともに食らってしまったエジタス。そのまま勢い良く横に吹き飛ばされる。


 「まだまだ終わりじゃねぇぞ!!スキル“バハムート”!!」


 「シーラ様、お手伝いします!!“ダークエンチャント”!!」


 攻撃は続く。吹き飛ばされたエジタスに重なる様に、翼を広げて空を飛んでいたシーラが、槍先から巨大な火の玉を生成する。そして更に、地上からクロウトがシーラのスキルに闇魔法を付与し、強化を施した。そんな強化された巨大な火の玉が、エジタス目掛けて放たれる。


 「糞が!!」


 それに対してエジタスは、右腕を自身の体に思い切りぶつけた。それにより、吹き飛ばされる方向が強制的に変わり、シーラのスキルを直前で回避した。


 「ここに来ると思っていましたよ!!師匠!!スキル“ロストブレイク”!!」


 「僕達は、エジタスの事を信じていたからね!!スキル“ブラックアウト”!!」


 「!!!」


 しかし、吹き飛ばされた先には真緒とサタニアが先回りしていた。エジタスの事を心の底から想っている二人だからこそ、エジタスが何処に回避して来るのか、予測する事が出来た。


 「げはぁ!!!」


 気が付いた時には遅かった。突然の連続攻撃に反応が遅れてしまい、最終的に真緒とサタニアの攻撃を、まともに食らってしまった。


 「「「「「「「やったぁ!!!」」」」」」」


 二人の攻撃を、まともに食らってしまったエジタスは、遠くの方へと吹き飛ばされる。何度も地面に叩き付けられる事で、何とか止まった。そんな光景を見て、七人は歓喜に震えた。


 「あ、あんた達……」


 「アーメイデさん、お怪我は……ありますよね……そりゃあ、お腹を貫かれて怪我が無いなんてあり得ませんものね……」


 リーマがアーメイデの安否を心配する中、アーメイデは真緒達、サタニア達の見事な戦い振りに呆気に取られていた。


 「今の攻撃は、中々効いたんじゃないか!?」


 「流石に、あれだけの攻撃を食らえば、それなりのダメージは入っているだろう……」


 「当たり前じゃない!!完璧な不意討ち連続攻撃、例えエジタスちゃんでも無傷で済む筈が無いわ!!」


 「オラ達、出来る限りの事はじだだよなぁ?」


 「はい、今の攻撃は私の見た限り、最高位の攻撃です」


 「「…………」」


 達成感。あのエジタスに、これまで感じた事の無い手応えを感じた。そんな手応えの良さに、七人は大いに喜んだ。しかし、約二名程がその手応えに納得していなかった。


 「……嫌な予感がする……」


 「…………僕もそんな予感がする」


 「「!!?」」


 その瞬間、地面から大量の死肉と遺骨が柱の様に飛び出して来た。しかも一本、二本では無く、百本近い死肉と遺骨の柱が飛び出していた。


 「こ、これは!?」


 「どうやら……まだ終わりでは無いみたいですね……」


 「そ、そんな…………」


 「あれだけの攻撃を食らって、まだ戦えると言うのか……何て執念深い……」


 「それが、エジタスちゃんの恐ろしい所なのかもしれないわね……」


 「コノタタカイハ、イツニナッタラ……オワルンダ……」


 「それは勿論……どちらかが倒れるまで……じゃないでしょうか……」


 「…………」


 そんな中、アーメイデはエジタスの言葉を思い出していた。


 “お前が肉の壁を結晶化させている間、危機感を覚えた俺は、全身の殆どの肉を外の地面に逃がしたのさ……”


 「……あれはエジタスの、ほんの一部だったのね……」


 自身の未熟さを痛感しながら、地面から飛び出て来る死肉と遺骨の柱を、じっと見つめるのであった。


 「ここからが……正念場です!!」


 「最後の最後まで、気は抜かない!!」


 気合いを入れ直す真緒とサタニア。そんな中、地面から飛び出て来る百本近い死肉と遺骨の柱は、倒れているエジタス一ヶ所に集まって行く。そして徐々に、あの巨大な姿を取り戻すのであった。

絶望、希望、そしてまた絶望。

物語は始まりがあり、そして終わりがある。

延々と続くこの戦いも、いよいよ決着が付く!?

刻一刻と終わりの時が近づく。

次回もお楽しみに!!

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