ゴブリン
更新が遅れて申し訳ありません。
今回から第三章突入です。
カルド王国草原地帯。天気は良好、気温も暑すぎず、寒すぎず、丁度いい。心地よい風が肌を擽る中、真緒達は世界各地を巡る旅に出た。
「いや~、遂に私達の旅が始まるんだね」
真緒は手足を大きく振り、元気よく歩いていた。
「ごれがら、どんな困難が待ぢ受げでいるのが、楽じみだぁ」
ハナコも真緒のマネをするように、手足を大きく振り、並んで歩いて行く。
「困難が来たら駄目じゃないですか?」
リーマは二人のすぐ後ろを、更にその後ろでは、フォルスとエジタスが一緒に歩いていた。
「…………楽しそうだな」
「そうですね~」
真緒達の会話は、三時間以上前から続いている。フォルスとエジタスの二人は、真緒達のテンションに少し疲れていた。
「フォ、フォルスさん!」
「どうした!何かあったのか!?」
楽しげな雰囲気だった真緒が、突如大きな声を張り上げた。一大事と判断したフォルスは素早く弓矢を抜き、駆け寄る。するとそこには…………。
「見てください。綺麗な野花が咲いていますよ」
「うわぁー、綺麗だなぁ」
「本当ですね」
「……………」
心配するんじゃなかった。そう思うぐらい、フォルスは肩を落として弓矢を仕舞う。
「大変ですね~……」
「同情は要らない……」
エジタスの下へと戻り、しばらく歩いていると…………。
「し、師匠!」
「どうしましたか?何かあったのですか!?」
再び、楽しげな雰囲気だった真緒が、突如大きな声を張り上げた。これは一大事と判断したエジタスは駆け寄る。そしてそこには…………。
「見てください、四つ葉のクローバーです」
「オラ、初めで見だだぁ」
「良いことが起こりそうですね」
「…………」
エジタスは無言のまま、フォルスの下へと戻った。
「…………大変だな」
「同情は要りませんよ~」
このやり取りが数十回にも及び、だんだんと慣れてきた二人。
「師匠!フォルスさん!」
楽しげな雰囲気だった真緒が、突如大きな声を張り上げた。どうやら今度は二人を御所望のようだ。
「今回は何を見つけたんですか~?」
「綺麗な野花か?それとも四つ葉のクローバーか?」
「敵です!」
「「!!」」
真緒の言葉と同時に、緩んでいた気持ちを引き締め、戦闘体勢に入る。
「どうやら、既に囲まれてしまっているようです」
「少なぐども二十人近ぐいるなぁ……
真緒達を取り囲んでいるのは、全身が緑色で、目は黄色く光っている、腰蓑一枚のやつらだった。
「下級魔族のゴブリンじゃないか」
「ゴブリン?」
真緒は知らない単語に、耳を傾ける。
「ああ、魔族には上級魔族と下級魔族の二種類がいる。ゴブリンはその中での、下級魔族に分類される。下級は知性に乏しく、どちらかというと獣に近い」
「へえー…………うわっ!?」
納得していると、いきなり一匹のゴブリンが襲ってくるが、ひらりと回避して切り伏せる。
「マオぢゃん、大丈夫だがぁ!?」
「うん、何とか……」
「……どうやら、話をしている場合ではな無いようですね」
ジリジリと近づいてくるゴブリン達に、真緒は剣を構え直す。
***
そこからは一方的だ。ゴブリン達が襲い掛かる度に回避し、カウンターを決めた。その中でも一際目立ったのが、真緒だった。
「はぁあ!!」
真緒がゴブリンを切ると、紫色のオーラが純白の剣に吸い込まれていく。
「凄いな、敵を切っていく度に威力が増してるじゃないか」
「えへへ、実はこの剣は切った相手のステータスを、ランダムに一つ奪って自分の物に出来るんですよ。鞘に納めると元に戻っちゃうんですけどね……」
「成る程、つまり敵が多ければ多いほど、その真価を発揮できる訳か」
「その通り…………ん?」
答えに納得したフォルスを余所に、他のゴブリンとは違う見た目のゴブリンがいた。
「ギッシャシャシャ、随分派手に殺ってくれたな~」
「しゃ、喋った!?」
「どういうごどだぁ!?」
「あいつはおそらく、知性を持った魔族──上級魔族だと思います」
少し黒っぽい肌に左手には七色に輝く玉、右手には黄金のナイフを装備していた。とても気になる外見に真緒は思わず鑑定をしてみる。
「スキル“鑑定”」
ハイゴブリン シーフ Lv25
種族 魔族
年齢 不明
性別 男
職業 盗賊
HP 85/85
MP 20/20
STR 90
DEX 80
VIT 60
AGI 180
INT 0
MND 20
LUK 30
スキル
シャドウスティール
魔法
なし
称号
略奪者
真緒は思った、そんなに強くない。しかし、油断は禁物と武器を構える。
「おー、オー、血の気が多いナ~。分かっタ、俺達の負けだ、降参すル」
ハイゴブリンは右手の黄金のナイフを仕舞った。それを見た真緒は警戒心を解き、剣を鞘に納めた。
「バカめ!引っ掛かったな!スキル“シャドウスティール”!!」
ハイゴブリンの影から腕が伸びてきて、真緒達に迫ってきた。
「くっ!」
真緒は再び剣を抜いて構える。
「狙いはオメーじゃねぇよ!」
影の腕は真緒の目の前で急に方向を変え、リーマに襲い掛かる。
「え?」
「リーマ!」
ハイゴブリンの影がリーマの影と重なる。しばらくすると、影は元に戻った。
「リーマ大丈夫!?」
真緒達がリーマの側に駆け寄る。
「う、うん。何ともないよ」
リーマの体には、傷一つ付けられてはいなかった。
「どういうごどだぁ?」
「何をしたんだあいつ?」
「……スティールっていうことは、何か盗まれたんじゃないですか~?」
エジタスの言葉で皆がハッと、顔を見合わせる。
「何か盗まれていない!?」
「え、ええっと、帽子はあるし、マントもある。本もずっと持っていたし…………まさか!」
何かに気がついたのか、リーマは袋の中をチェックする。すると……。
「ああ!やっぱりありません!おじさん達から頂いたポーションが、全部盗まれています!」
「「「「!!」」」」
真緒達が、ハイゴブリンの方に振り向くと、既に地平線の彼方へと走っていた。
「ジャーな~、バカども!ギッシャシャシャ!!」
***
「ご、ごめんなさい……私のせいで大事なポーションが……」
「何言ってるんですか、あの状況じゃ仕方ないですよ」
「マオぢゃんを狙っでるど思っでだがらねぇ」
「お前の責任ではない。敵が一枚上手だった。それだけだ。」
「そうですよ~落ち込んだって戻っては来ないんですから、今は先に進むことを考えましょう」
「皆…………ありがとう!」
皆の励ましの言葉に元気を取り戻したリーマ。
「それにしても、あのハイゴブリン……今度会ったら絶対に逃がさない!」
「うんだ、油断ざえじなげれば恐れる必要ばねぇ」
「その通りだ」
各々がハイゴブリンへの怒りに燃えていた。
***
「…………あれからしばらく歩いたが、いったい何処に行くつもりなんだ?」
ハイゴブリンの一件から数時間後、ずっと歩きっぱなしに、フォルスが聞いた。
「え?目的地なんかありませんよ?」
「…………はい?」
まさかの返答に反応が遅れた。
「行き当たりばったりの旅なんですから、無い方が良いかなって?」
「…………」
あまりの計画性のない旅だと知ると、深いため息が漏れる。
「……しょうがない、この近くに村があるはずだから、今日はそこまで歩くとしよう」
「分かりました」
「流石だなぁ、フォルスざん」
「頼りになります」
「ご足労お掛けします」
お礼の言葉を述べる女子三人と、労いの言葉を贈る道化師を後ろに引き連れて歩いていく。
あれからまた数時間ほど歩くと、いくつかの住居が並んでいるのが見えてきた。
「あ、もしかしてあれがそうですか?」
「ああ、あそこが“オオラカ村”だ」
「…………ん?何がやっでるみだいだよ」
「何?」
フォルスが見ると、村の真ん中に巨大なステージと垂れ幕が飾ってあった。
「こ、これはいったい?」
フォルスが呆気に取られていると、ステージの上から高らかな声が聞こえてきた。
「それでは皆様、お待たせいたしました。“第一回アメリアを笑わせましょう大会”開催でございます!!!」
「はぁ?」
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