本気のエジタス(中編)
シーラの槍に貫かれたエジタス。
このまま勝利を手にする事は出来るのだろうか!?
「……痺れを切らすのではないかと、十分間様子を見ていたのに……何故……私の位置が分かったのですか?」
「簡単だよエジタス。お前の殺意を感じ取ったのさ」
「さ、殺意ですって……?」
シーラの槍に体を貫かれながらも、エジタスは会話を続ける。
「お前の“迷彩”……姿を消す事は出来るが、気配までは消す事が出来ない様だな」
「!!!……た、例えそうだとしても……気配だけで私を突き刺すのは、不可能な筈です……この場には私だけで無く、他の皆さんの気配も存在しますからね……」
「そうだな、常人だったら不可能だろうな。だが生憎、私は生物界の頂点に君臨するドラゴン。その中でも、かつて世界の均衡を保っていた白銀のドラゴンの末裔……他の奴等と違って、感覚神経が数百倍鋭いのさ」
「白銀のドラゴン……これが報復と言う奴ですか……」
シーラの言葉で思い出されるのは、二千年前の出来事。受け継がれた血が、シーラに力を与えたのかもしれない。エジタスによって、人生を汚された白銀のドラゴン。そんな白銀のドラゴンの、二千年越しの報復が果たされた瞬間だった。
「昔から、敵の人数を探るのが得意だったものね」
「そうか……それを知っていたから、あんたはシーラに任せたのか」
「“あんた”じゃなくて、アルシアって呼んでね。フォルスちゃん」
「あ、あぁ……分かったよ……アルシア……」
アルシアの、濃い性格に押されながらもフォルスは、シーラに任せた理由を納得するのであった。
「つまりだ。私はお前の気配、主に殺意を感じ取って、的確な位置を割り出したのさ」
「殺意……あり得ない……殺意なら尚更あり得ない……この場にいる全員の殺意から、私だけの殺意を見つけ出すだなんて……目を瞑った状態で、そんな事が出来る筈が無い……」
「何言ってる。お前以外、誰も殺意なんて抱いていないぞ」
「!!!」
その時、初めてエジタスは驚きの表情を浮かべた。仮面越しの為、はっきりとは分からないが、狼狽えている雰囲気は感じ取れた。
「そうですよ師匠……私達は師匠を殺そうだなんて、思っていませんよ」
「辛い事や苦しい事があるなら、僕達に話して欲しい。僕達は……エジタスを助けたいんだ」
真緒とサタニアの言葉に、残りの七人も頷く。元より、エジタスに殺意など抱いていなかった。
「嘘だ……嘘に決まっている……マオさん……サタニアさん……私はあなた方を裏切ったのですよ……ナイフを突き刺し、重症を負わせた……そんな相手に……殺意を抱かない訳が無い……」
「嘘じゃありません!!」
「本心だよ!!」
「では、何故殺意を抱かないのですか!?裏切られ、仲間を傷つけられたのに、何故殺意を抱かないのですか!?」
「「えっ!?えぇ……と……それは……」」
殺意を抱かない理由をエジタスが問い掛けた瞬間、真緒とサタニアは言葉が詰まった。更に二人の頬が、うっすら赤く染まり始める。
「マオさん!!勇気を出して下さい!!」
「雰囲気はちょっとあれだが……まぁ、何とかなるだろ!!」
「マオぢゃんなら行げるだよぉ!!」
「魔王様の相手がエジタスって言うのは……ちょっと癪だが……ここは甘んじて受け入れます…………」
「ン?マオウサマノカオカラ、ネツヲカンジトレル……ドウシタノダ?」
「んもぅ、ゴルガちゃんったら鈍いわね!!魔王ちゃん、頑張って!!大切なのは気持ちよ!!」
ふわふわとした暖かい空。真緒とサタニアの言葉が詰まった瞬間、周囲の者達が応援を始めた。唯一、エジタスとアーメイデだけが首を傾げる。
「あ、あの師匠……じ、実は私……し、師匠の事が……」
「エジタス……僕……男だけど……実はエジタスの事が……」
うっすら赤く染まっていた頬は、いつの間にか顔全体に広がり、真っ赤に染まっていた。心臓の鼓動が速くなる。速すぎて痛い。正直、この場で言う意味があるのかどうか疑問視されるが、ここまで来てしまったら言うしかない。二人が秘めたエジタスへの想いを……。
「「大好きです!!」」
「「!!!」」
勇気を振り絞った二人の告白。エジタスとアーメイデは、しばらく固まっていた。
「あ、あはは……ま、まさかエジタスの事が好きだっただなんて……驚きだね……よ、良かったじゃないかエジタス、可愛い女の子二人?に告白されて……」
「…………」
突然の告白に、驚きと動揺を隠せないアーメイデ。対してエジタスは無言のまま、天井を見上げていた。
「……それは……つまり……“愛”という事ですか……?」
「は、はい……そうです……」
「う、うん……そう言う事だね……」
「………………くだらない」
「「えっ?」」
その瞬間、シーラの槍に貫かれていた筈のエジタスの姿が、瞬く間に消えてしまった。そして次の瞬間、シーラの背後に現れると顔面を殴り飛ばした。
「がはぁ!!?」
「“愛”……それはこの世で最も信用ならない感情です……」
「シーラ!!」
殴り飛ばされたシーラは、数十メートル先へと吹き飛び、壁に激突してめり込んだ。サタニアがシーラの安否を心配していると、エジタスが転移を使って目の前に現れた。
「愛は幻想……所詮、脳への伝達物質にしか過ぎない!!」
サタニアの目の前に現れたエジタスは、その足でサタニアの顎を蹴り飛ばした。顎を蹴り飛ばされたサタニアは、空中へと舞い上がる。
「ぐっ!!?」
「サタニア!!」
「そして……愛など……この世には存在しない!!」
「!!!」
サタニアの安否を心配する真緒。そんな真緒の目の前にも、エジタスが転移を使って現れた。そしてサタニアと同じ様に、顎を蹴り飛ばされた。
「うっ……あぁ!!?」
これまた同じく、顎を蹴り飛ばされた真緒は空中へと舞い上がる。
「マオさん!!」
「マオぢゃん!!」
「くそっ!!エジタスさん、止めるんだ!!」
「エジタスちゃん!!おいたが過ぎるわよ!!」
状況が二転三転する中、フォルスは、エジタス目掛けて弓矢を構える。アルシアは、エジタス目掛けて両刀を構える。
「“迷彩”」
「「!!!」」
しかしその瞬間、エジタスの体が徐々に薄くなり始め、その場から消えてしまった。
「しまった!!“三連弓”!!」
「スキル“大炎熱地獄”!!」
フォルスとアルシアは、慌てて攻撃を仕掛けるも時既に遅し、放たれた三連続の矢と、燃え盛る炎のスキルは当たらなかった。シーラと違って、フォルスとアルシアは感じ取れる程の感覚神経は、持ち合わせていない。
「いったい何処に!!?」
「「ぐぁあああああ!!!」」
「上よ!!」
空中へと蹴り飛ばされた真緒とサタニア。二人の悲鳴が聞こえ、急いで見上げると空中では真緒とサタニアが、透明になったエジタスの攻撃を食らっていた。攻撃を食らう度に、落ちかけていた真緒とサタニアは、空中に打ち上げられる。最悪のループであった。
「くそっ!!何処だ!!何処にいるんだ!!」
フォルスは、空中目掛けて弓を構えるが、透明になっているエジタスの姿を捉える事が出来なかった。下手に矢を放って、真緒やサタニアに当たってしまっては元も子もない。
「どうすればいいの……」
次第に傷付いて行く、真緒とサタニア。フォルスとアルシアは、只眺める事しか出来ない。
「…………」
そんな中、アーメイデは落ち着いた表情で冷静に眺めていた。
「…………見えた!!そこよ!!“クリスタルランス”!!」
すると、アーメイデの右手に結晶型の槍が生成された。結晶型の槍を握り締め、真緒とサタニアのいる空中目掛けて槍を投げ付けた。投げ付けた槍は、真緒とサタニアがいる空中へと真っ直ぐ飛んで行った。しかし、真緒とサタニアのいる空中に辿り着いた瞬間、槍の動きが止まった。そして百八十度方向転換して、先程よりも速い速度で投げ返された。
「な、なんですって!?ぐっ……きゃあああああ!!!」
自身の放った魔法を投げ返され、アーメイデはまともに食らってしまった。
「「…………」」
しかし、アーメイデの攻撃のお陰で時間が生まれた。それにより、真緒とサタニアが落下して来た。
「マオさん!!」
「マオぢゃん!!大丈夫だがぁ!?」
「マオ!!気をしっかり持つんだ!!」
「マオウサマ!!マオウサマ!!」
「魔王ちゃん!!酷い傷……早く回復させないと!!」
落下して、床へと叩きつけられる真緒とサタニア。その側に仲間達が駆け寄る。
「きゃあああ!!?」
「リーマ!?どわぁあああ!!?」
「これはまさか……ぐわぁあああ!!?」
真緒の安否を心配していると、リーマが突然後方へと吹き飛んだ。それに続き、ハナコとフォルスの二人も吹き飛んだ。
「ゴルガちゃん気を付けて!!エジタスちゃんが近くにいる……がはぁ!!?」
ゴルガに注意を促すアルシアだったが、言い終わる前にエジタスによって吹き飛んでしまった。
「アルシア!!クソッ、ウォオオオオオ!!!」
アルシアが吹き飛ばされるのを目撃したゴルガは、咄嗟に両手を振り上げて勢いのまま、床に振り下ろした。すると、床が砕けて衝撃波が生まれ、周囲の物を吹き飛ばした。
「コレナラ、チカヅケナイハズ……グゴッ!!?」
しかし、安心したのも束の間。ゴルガの体に強い衝撃が走る。確認すると、誰かに殴られたかの様な、拳の後が付いていた。
「マ、マサカ……グゴッ!!?ガァア!!?ウグッ!!?」
そして次の瞬間、ゴルガの体に無数の拳の後が付けられた。エジタスが何度も殴り付けているのだ。間髪入れずに何度も殴られるゴルガは、次第に空中へと舞い上がる。
「グッ……グハァアアアアア!!!」
何度も殴られ、空中へと舞い上がったゴルガは、最後の一撃を貰って数メートル先へと吹き飛んだ。床に落下した衝撃で、土煙が上がった。
「…………」
全滅。苦労して得た勝利が、一瞬の内に敗北へと変わった。真緒とサタニアが倒れる中、エジタスの体が次第に浮き出て来た。
「……これでも……私の事を愛せますか?」
勝利からの敗北。希望からの絶望。
エジタスの本気によって、全滅してしまった!!
起死回生の逆転劇は起こるのだろうか!?
次回もお楽しみに!!
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