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笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~  作者: マーキ・ヘイト
最終章 笑顔の絶えない世界
260/300

道楽の道化師(後編)

過去最高の文字量!!

今回、遂に決着!!

果たして、人類統一化計画は阻止出来るのだろうか!?

 真緒、サタニア、アーメイデの三人を助けに来た筈の六人はエジタスのスキルにより、その心を殺意で満たされてしまった。しかし、心が殺意で満たされ様とも、当初の目標は見失っていなかった。人類統一まで、残り十分。虚像の殺し合いを演じながら、九人全員がワールドクラウンを外しに掛かる。六人が殺し合っている中、真緒、サタニア、アーメイデの三人はクロウトが座っている玉座目掛けて走り出した。


 「“クリスタルウィップ”!!」


 「おや~、いいのですか~?“MP”が回復出来ないのに、魔法を使ってしまって~?」


 すると、アーメイデが先行して魔法を唱えた。アーメイデの右手に、結晶型の鞭が生成された。アーメイデは鞭を巧みに操り、エジタスの体に巻き付けて動きを拘束する。


 「捕らえた!!」


 「う~ん、残念!!」


 鞭が体に巻き付き、身動きが取れなくなったエジタスだったが、次の瞬間その場から姿が消えた。そして瞬く間に、アーメイデの背後へと姿を現した。


 「くっ!!やっぱり駄目か……ぐぁあああ!!」


 アーメイデは、背後から感じる気配に素早く振り返るが、間に合わずにエジタスの蹴りを食らってしまった。


 「アーメイデさん!!」


 「私に構うな!!あんた達は、あんた達の役目を果たしな!!」


 エジタスに蹴られたアーメイデを、心配する真緒とサタニアだったが、自分の役目を果たす様にと言い渡された。


 「「……はい!!」」


 アーメイデの言葉を受け取った真緒とサタニアは、そのまま足を緩める事無く、玉座へと走って行った。


 「はぁ~、お二人供……諦めが悪いですね~」


 玉座へと走って行く真緒とサタニアを見て、エジタスは深い溜め息を吐いた。そして転移によってその場から姿を消すと、瞬く間に二人の目の前へと姿を現した。


 「は~い、お疲れ様でした~」


 「マオ!!先に行って!!ここは僕が食い止める!!」


 「……任せました!!」


 サタニアの想いを汲み取り、真緒は二人を横切り先へと進んだ。


 「サタニアさ~ん、いい加減分かって下さいよ~。この世界から戦争や差別を無くすには、種族を……個性を統一するしか無いんですよ~」


 「それは違うよ!!確かに、この世界は戦争や差別が絶えない……でもだからと言って、種族を統一したり、個性を統一するのは……只の逃げだよ!!臭い物に蓋をしているだけだよ!!」


 「…………」


 「だから止める!!大切な人が道を踏み外しそうになっているのなら、僕が全力で止めて正しい道に戻してあげるんだ!!スキル“ブラックアウト”!!」


 サタニアの右手が黒く染まる。エジタス目掛けて、想いを乗せながら拳を振るった。


 「…………くだらない」


 するとエジタスは、一瞬でその場から姿を消した。


 「消えた……後ろ!?」


 「いいえ……上ですよ」


 予測したサタニアは素早く振り返るが、そこにエジタスの姿は無かった。するとエジタスは、サタニアの真上に姿を現し、サタニアの後頭部目掛けてかかとを振り下ろした。


 「がはぁ……!!」


 「只の逃げ?臭い物に蓋?大いに結構……この腐った世界を平和に出来るのなら、私は何度だって逃げましょう……臭い物に蓋をしましょう……」


 後頭部に強い衝撃を受けたサタニアは、その場に倒れ伏してしまった。


 「ふ~、やはり手加減しながらでは……加減が難しいですね…………両足を折りましょう」


 「!!!」


 「大丈夫ですよ、人類が統一されるまでの間だけですから、私の計画が無事に完了したら……ちゃんと直して差し上げますよ~」


 そう言いながらエジタスは、サタニアの両足を折る為に歩み寄る。


 「あ……ああ……」


 その場から離れ様とするサタニアだったが、後頭部を強く打った事で上手く動く事が出来なかった。


 「じっとしていて下さい……下手に暴れられると、余計な痛みを負う事になりま…………!!?」


 エジタスが、サタニアの両足を折ろうと近づいたその時、エジタスの真横に巨大な岩が迫っていた。


 「…………っ!!」


 しかし、そこは持ち前の反射神経で当たる直前に、転移を使って避けた。


 「この岩はいったい……」


 「そんな速度では、あたしを殺す事は出来ないわよ!!」


 「ウォオオオオオオ!!!ツギコソ、アテテミセル!!」


 するとそのすぐ近くで、ゴルガとアルシアの二人が殺し合いをしていた。


 「ゴルガ……アルシア……」


 「……くっ……時間を掛け過ぎた……先にあっちを処理するか……」


 そう言うとエジタスは、転移を使ってその場から姿を消した。


 「……ありがとう……ゴルガ、アルシア……」


 「礼には及ばないわ……早くクロウトちゃんを救いに行きましょう」


 「うん!!」




***



 

 一方、玉座に向かって走っていた真緒は、遂に玉座の前へと辿り着いた。


 「はぁ……はぁ……この王冠を取り外せばいいんですよね……」


 息を切らしながらも、真緒はクロウトが被っている王冠を取り外そうと、手を伸ばした。


 「おっと、そうは問屋が卸さな~い」


 「!!!」


 しかし、その腕を転移でやって来たエジタスに捕まれてしまった。


 「あ……が……!!」


 物凄い強い力。そのまま腕が折られてしまうのではないかと思ってしまう。


 「ふ~、危機一髪でした~。やはり取られない様に、両腕をへし折りますか~」


 「えっ!!?」


 サタニアの両足に続き、真緒の両腕までもが、エジタスに折られそうになる。


 「大丈夫ですよ~。痛みなんて……すぐに慣れてしまいますからね~」


 「ぐぅ……がぁ……ああ!!」


 ミシミシと、両腕から嫌な音が聞こえる。激しい痛みが、真緒に襲い掛かる。


 「“ウォーターキャノン”!!」


 「!!?」


 真緒の両腕が折れると思われたその瞬間、エジタス目掛けて水の塊が飛んで来た。突如として飛んで来た水の塊に対して、エジタスは思わず真緒から手を離し、転移を使って避けた。


 「…………」


 「くそー、ハナコさん。大人しく殺されて下さい!!」


 「ぞんな魔法、オラには通じないだよぉ!!」


 するとそのすぐ近くで、リーマとハナコの二人が殺し合いをしていた。


 「はぁ……はぁ……はぁ……」


 真緒は、折られそうになった両腕を垂れ下げながら、一旦玉座から離れた。


 「マオ、大丈夫!?」


 「サタニア……何とか……ね……」


 「エジタス!!逃がさないぞ!!」


 両腕を負傷した真緒の元に、サタニアとアーメイデが駆け寄る。そのすぐ近くでは、残りの六人それぞれが殺し合いを演じている。するとその時……。


 「……人類統一まで……残り……三分……」


 「「「!!!」」」


 玉座に座っているクロウトの口から、人類統一までの残り時間が告げられた。


 「遂に……遂にこの時が来ました……残り三分で、この世界は平和となる!!」


 「あんたの思い通りなんかには、させないよ!!“クリスタルソード”!!」


 アーメイデが魔法を唱えると、その右手に結晶型の剣が生成された。結晶型の剣を握り締め、エジタス目掛けて斬り掛かった。


 「あらよっと……」


 「!!!」


 そんなアーメイデの剣を、エジタスは食事用のナイフで受け止めた。


 「「今だ!!」」


 その隙を狙って、真緒とサタニアの二人が一斉に玉座へと走り出した。


 「おっと……忘れ物ですよ~」


 そう言うとエジタスは、アーメイデの腕を掴んで、真緒とサタニアに投げつけた。


 「「「うわぁあああ!!!」」」


 投げ飛ばされたアーメイデは、走って来た真緒とサタニアの二人にぶつかってしまった。


 「す、すまない……二人供……」


 「い、いえ……」


 「僕達なら……大丈夫です……」


 「……人類統一まで……残り……一分……」


 「「「!!!」」」


 残り一分。真緒、サタニア、アーメイデの三人はぶつかり合ってしまった事で、その場で倒れている。今から立ち上がって走り出したとしても、間に合わない。時間切れだ。


 「あぁ……漸くこの時が訪れた……さようなら旧世界……おはよう新世界!!」


 「(よし……ここまでは作戦通り……!!)」


 「(残り一分、勝利を確信して最も気が緩む時……!!)」


 「(頼んだぞ!!若き世代よ!!)」


 勝利を確信して、感情が高ぶっているエジタス。そんな中、真緒、サタニア、アーメイデの三人は残りの六人に全てを託した。


 「行くぞ!!シーラ!!」


 「いつでも来い!!」


 「うぉおおおおお!!!スキル“一点集中”!!」


 この時の為に、フォルスはギリギリまで時間を掛けて、ワールドクラウンに狙いを定めていた。


 「貫け!!」


 フォルスが渾身の矢を放ち、シーラがそれを避ける。放たれた矢はワールドクラウン目掛けて、肉眼では捉えきれない速さで飛んで行く。


 「「「(行けぇえええええ!!!)」」」


 「……もうすぐ……残り一分……だからこそ……最後まで油断は出来ませんよね~」


 「「「「「!!!」」」」」


 しかし、フォルスが放った渾身の矢はワールドクラウンに当たる直前で、エジタスに掴み取られてしまった。


 「私が気付かないとでも、思いましたか~?“一触即発”は、私のスキルなんですよ~。私自身がその欠点を見逃す訳がありませんよ~」


 全て見抜かれていた。虚像の殺し合いも、残り一分で仕掛けて来る事も、全てがエジタスの掌で踊らされていた。


 「……っ!!ゴルガ!!アルシア!!お願い!!」


 作戦が見抜かれてしまった以上、隠すのは無意味。サタニアは、残された希望に想いを託す。


 「ウォオオオオオ!!!」


 「おんどりゃあぁあああああ!!!」


 ゴルガの体を削り、作り上げた手頃な大きさの岩。その岩を、アルシア目掛けて投げ付ける。そしてアルシアは、投げ付けられた岩を両刀で、ワールドクラウン目掛けて全力で弾いた。弾かれた岩は、フォルスの矢よりも速い速度で飛んで行った。


 「…………ほい!!」


 「「!!!」」


 しかしその岩も、エジタスの食事用のナイフで弾かれてしまった。弾かれた岩は、見当違いの方向へと飛ばされてしまう。


 「まだです!!リーマ、ハナちゃん!!」


 正真正銘、最後の希望。これを逃せば、エジタスの勝利が決定する。真緒は、リーマとハナコの二人に最後の希望を託す。


 「はぁあああああ!!!“ウォーターキャノン”!!」


 リーマの魔導書から、巨大な水の塊が生成された。そして巨大な水の塊を、ワールドクラウン目掛けて放った。


 「大きいですね~。ですが先程の岩と比べれば、かなり遅いですよ~」


 エジタスは食事用のナイフで、迫り来る巨大な水の塊を斬り裂いた。斬り裂かれた巨大な水の塊は左右に分かれ床に落ちると、大きな水柱を上げた。こうして、最後の希望も潰えてしまうのであった。


 「そんな……」


 「これだけ手を尽くしたのに……」


 「くそっ!!もっと私が早くに決断していれば……すまない……コウスケ……」


 真緒、サタニア、アーメイデの三人は、エジタスの計画を止められなかった事に対して嘆き悲しむ。


 「……人類統一まで……残り……十、九、八、七、六…………」


 「これをもって……人類は統一される!!そして、世界は……“笑顔の絶えない世界”になるの……!!?」


 その瞬間、エジタスは目を疑った。リーマが放った巨大な水の塊によって出来た左右の水柱。その水柱を突き抜けて、突如一個の岩がエジタスの横を通り過ぎたのだ。


 「(な、何!?あの岩は……ゴルガさんとアルシアさんが投げた岩!?で、ですがあの岩は確かに……別の方向へと弾いた筈……)」


 決して、戻って来る筈の無い岩が戻って来た。エジタスが突き抜けた水柱の穴から、向こう側に目線を向ける。するとそこには……。


 「皆!!諦めぢゃ、駄目だぁ!!!」


 「「「ハナコ!!?」」」


 そこには、ハナコが立っていた。まさかの出来事に真緒、リーマ、フォルスは驚きの声を上げた。思い返せば、確かにリーマが“ウォーターキャノン”を放つ時、側にいなかった。あの時ハナコは、ゴルガの岩が弾かれるのを見て、咄嗟に動き出していた。そして水柱で死角になった所で、最後の悪足掻きとして岩を投げつけていたのだ。もしも、エジタスが岩を弾いていなかったら……もしも、ハナコが咄嗟に動いていなかったら……もしも、水柱が死角になっていなかったら……いくつもの偶然が重なり合い、奇跡を引き起こしたのだ。


 「(そんな……馬鹿な……こんな事が……くそっ!!間に合え……!!)」


 咄嗟にエジタスは、食事用のナイフで岩を弾こうとするが時既に遅し、ハナコが投げた最後の悪足掻きは、ワールドクラウンを貫いた。


 「!!!」


 貫かれたワールドクラウンは、数メートル先まで吹き飛ばされた。それを見て、エジタスは慌てて吹き飛ばされたワールドクラウンの元へと駆け寄る。


 「……人類統一まで……残り……残り……残……り……」


 「クロウト!!」


 一方、ワールドクラウンが取り外された事により、クロウトは力が抜けた様に玉座から転げ落ちる。そんなクロウトの元にサタニア、ゴルガ、シーラ、アルシアが駆け寄る。


 「クロウト!!クロウト!!」


 「魔王ちゃん落ち着いて、気絶しているだけよ」


 「そっか……良かった……」


 気を失っているだけと知り、ホッと一安心するサタニア。


 「あぁ!!そ、そんな!!こ、こんな事が!!」


 すると突然、エジタスが奇声を発した。今まで聞いた事の無い程に、慌てふためいていた。


 「師匠……」


 「エジタス……」


 「まだ大丈夫!!壊れた部品を組み合わせれば…………」


 エジタスはその場に座り込み、貫かれ穴の空いたワールドクラウンを恐る恐る触る。しかし触った瞬間、砂と化してしまった。


 「!!!あ……ああ……!!嘘だ!!嘘だ!!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!」


 エジタスは、一心不乱になって砂と化してしまったワールドクラウンをかき集める。しかし、手を動かした事で風が生まれ、その風に乗って辺り一面に散ってしまった。


 「あ……ああ……あああ……ああああ……あああああ!!!」


 「これが……あのエジタスなのか……?」


 エジタスの計画は阻止された。なのに素直に喜ぶ事が出来ない。エジタスの豹変振りに、戸惑いを見せる九人。


 「し、師匠……あの……「二千年」……えっ?」


 「……この計画を実行させるのに……二千年掛かったんだ……色んな国を巡り……裏から手を回し……万が一の時の為に……時間稼ぎ様の駒まで用意した……それなのに……こんな……こんな一瞬で終わってしまうだなんて……」


 エジタスは、二千年前と同じ様に失敗したとしても、再び六つの王冠に分かれると思っていた。そうしたら、また時間を掛けて集め直せば良い。そう思っていた。しかし、今回ハナコが岩で貫き穴を開けてしまったせいで、ワールドクラウン自体が分かれる前に壊れてしまった。そうなれば、もう二度と六つの王冠に戻る事も無ければ、ワールドクラウンになる事も無いのだ。


 「もう……この世界を……“笑顔の絶えない世界”にする事が出来ない……」


 「そ、そんな事無いよ!!ワールドクラウンを使わなくても……きっと世界を……笑顔の絶えない世界に出来る筈だよ!!」


 「…………」


 「だ、だからその……僕と一緒に……笑顔の絶えない……「何故」……えっ?」


 「何故……平和を望まない……」


 「エ、エジタス……?」


 エジタスは、サタニアの話を聞いていなかった。聞く耳すら持っていなかった。只ぶつぶつと独り言を発するだけだった。


 「戦争……貧困……虐め……差別……全てが無くなるというのに……何故受け入れない……何故否定する……」


 「こ、これは!!?」


 座っていたエジタスが、ゆっくりと立ち上がる。しかし、今までのエジタスとは明らかに違った。それは殺意。明確なる殺意が、エジタスから伝わって来た。


 「はぁ……はぁ……空気が……重い……です……」


 「オ、オラの毛が……恐怖で逆立っているだぁ……」


 「あぁ……俺も……鳥肌が止まらない……」


 「嘘だろ……この私が震えているのか…………」


 「コ、コレガ……キョウフナノカ……」


 「この……骨の芯まで伝わって来る威圧感……これがエジタスの実力……」


 エジタスから伝わって来る、明確なる殺意が六人を震え上がらせた。


 「……世界の平和を否定するあなた達は……“悪”だ……悪は滅ぼさなければならない……あなた達を滅ぼし……平和への糧としましょう…………」


 「師匠……」


 「エジタス……」


 「こうなってしまったら仕方無いよ、覚悟を決めな。今のエジタスは、私達を本気で殺しに掛かって来るだろう。油断してると……死ぬよ!!」


 人類統一化は阻止された。しかしそれによって、目覚めさせてはいけない怪物を、目覚めさせてしまった様だ。

見事、人類統一化計画を阻止!!

しかしそれによりエジタス、覚醒!!

次回、本気のエジタスが九人に襲い掛かる!!

次回もお楽しみに!!

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