表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~  作者: マーキ・ヘイト
最終章 笑顔の絶えない世界
248/300

二頭のドラゴン(前編)

今回から、ラクウンの過去が明らかとなって行きます!!

 光も届かない暗い闇の洞窟。その奥深く、一頭のドラゴンが住み着いている。冷たく黒い瞳に、体全体を覆ってしまう程巨大な翼、そして全てを飲み込む様な真っ黒な鱗、そんなドラゴンが安らかな表情を浮かべながら、寝息を立てていた。


 『(…………んっ……誰か来たな……)』


 するとドラゴンは突然目を覚ました。入口方面から近づいて来る、何者かの足音が聞こえて来たのだ。


 『(足音から察するに人数は“一人”…………嘗められたものだな)』


 我は“漆黒のドラゴン”、名前は存在しない。その圧倒的な強さから、全種族の頂点に君臨している。そんな全種族の頂点に君臨している我だが、無謀にも挑戦して来る輩は後を絶たない。人間、亜人、魔族、ありとあらゆる種族が我を倒そうと画策して来た。そして今日も、我を倒そうとする者がやって来た。


 『さて……今回はどんな無謀者だろうか…………?』


 漆黒のドラゴンはゆっくりと体を起こし、やって来る無謀な挑戦者を待ち構える事にした。


 「………………」


 『(何だ……あの“奇妙な格好”の者は……?)』


 現れたのは道化師だった。全身の肌を覆い隠す奇抜な衣装に身を包み、顔にはいやらしく細みがかった目付きと、口角を限界まで伸ばしたにやけた口を持つ仮面を被っていた。


 『(別に問題は無い……例えどんな相手だとしても、いつも通り消し炭にするだけだ…………)』


 漆黒のドラゴンは、やって来た道化師の元へと歩み寄る。一歩、一歩と足を踏み出す度に大地が揺れる。


 『よくぞ来た挑戦者よ。我は漆黒のドラゴン。全種族の頂点に君臨する者だ。貴様、名を何と言う?』


 すると道化師は、両手を拡げ顔の横にやり、小刻みに振る。


 「ど~も初めまして“道楽の道化師”エジタスと申しま~す」


 『…………』


 あまりに陽気な自己紹介に、一瞬呆気に取られてしまった漆黒のドラゴン。しかし、直ぐ様気を持ち直す。


 『エジタス……か……よかろうエジタス!!貴様の全力で、我を倒して見ろ!!』


 「…………えっ?」


 漆黒のドラゴンの言葉に、戸惑いの色を見せるエジタス。


 『来ないのか?ならば、こちらから行かせて貰う!!』


 「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さいよ~!?」


 戦おうと足を踏み出した漆黒のドラゴンに対して、エジタスは両手を必死に振って戦おうとするのを止める。


 『…………何だ?』


 「私は別に、戦いに来た訳ではありませ~ん」


 『……それじゃあ、何しに来たのだ…………』


 「実は……あなたとお話しがしたく、やって来たので~す」


 エジタスは、大きく両手を広げながら公言した。


 『話だと……(成る程、こいつも力では無く頭を使った戦いをするタイプか。大方、我の油断を誘って寝ている隙に殺そうとしているのだろう。残念だが、そうした輩には既に何度か出会っている)……いいだろう、話してみろ』


 「あっ、その前に座りませんか?いや~、ここに辿り着くのにずっと歩き続けていましてね~。もう足がパンパンなんですよ~」


 そう言いながらエジタスは、その場に座り込んで両足を広げると、楽な姿勢を取った。


 「実はこの前、宮廷道化師に着任しましてね~。これがまた楽な仕事でして、国王や女王の前でちょっと踊るだけで、もう大爆笑。国王や女王が笑いながら、金貨を投げてくれるんですよ~」


 『…………そうか』


 「それでですね、どうやら近々魔王を倒す為に異世界から人を呼び出して、戦力を増加させようとしているみたいなんですよね~」


 『…………成る程な』


 「宮廷道化師は、こうした国家機密を気軽に聞けるので、素晴らしい職業に就けたなと、染々思っている訳ですよ~」


 『…………それは良かったな』


 エジタスがペラペラと喋るのに対して、漆黒のドラゴンはエジタスの話を適当に聞き流していた。


 「しかし、そうは言っても宮廷道化師も中々難儀な仕事でしてね~。例えばこの前なんか…………………………」


 『…………』


 それからエジタスの話は、永遠と夜中まで続いた。


 「さて、それではそろそろ私は帰りますね~」


 『そうか…………』


 そう言うとエジタスは、スキップをしながら洞窟の出口へと向かった。


 『(全く……何だったんだあいつは……質問する訳でも無く、只延々と喋り続ける……まぁ、どうせ我が眠りについた頃に再びやって来るだろう……そうしたら、一瞬で息の根を止めてやる……)』


 そう心で思いながら、漆黒のドラゴンは眠りについた振りをして、エジタスが来るのを待った。しかしその日の夜中に、エジタスが現れる事は無かった。




***




 「それでですね、最近躍りのバリエーションが減ってきたな~と、感じていたのでいくつか新しい躍りを考案したんですけど、これがまぁ~酷い酷い」


 『…………』


 あれから数週間、エジタスは何度か洞窟に足を運んで、漆黒のドラゴン相手に延々と喋り続けていた。毎日では無いが、二日に一回のペースで会いに来ていた。


 「おっと、もうこんな時間ですか。それではそろそろ帰ります」


 『…………』


 そう言いながら、エジタスはいつもの様にスキップをしながら、洞窟の出口へと向かった。


 『(くそっ!!いったい、いつになったら殺しに来るんだ!!待てども、待てども、全くと言っていい程に殺しに来ない!!)』


 漆黒のドラゴンは、苛立ちを感じていた。自身の予想とは反して、夜中エジタスは殺しに来なかった。また、夜中に来るであろうと寝ずに待っていた為、少し寝不足であった。


 『(あー!!イライラする!!こんな時は“あいつ”の所にでも行って、気持ちを落ち着かせるか!!)』


 すると何を思い立ったのか、漆黒のドラゴンは体を起こして、洞窟の外へと向かった。


 『さて……ここからなら、約三十分位かな…………』


 外に出た漆黒のドラゴンは、折り畳まれた大きな翼を広げると、翼を羽ばたかせて空高く舞い上がった。


 『待ってろよ…………』


 空高く舞い上がると、北方面に向かって目にも留まらぬ速さで飛んで行った。




***




 天高く聳え立つ山。太陽の光を最も浴びるその頂上には、一頭のドラゴンが住み着いている。暖かく白い瞳、巨大な体には似つかわしくない小さな翼、そして全てを跳ね返す様な白銀の鱗、そんなドラゴンが安らかな表情を浮かべながら、寝息を立てていた。


 『…………あれ、珍しいね。君がここに来るだなんて……』


 するとドラゴンは、突然目を覚ました。飛んで近づいて来る漆黒のドラゴンの気配に気がついたのだ。


 『別に……ちょっと話がしたくなっただけだ…………』


 『君が?…………ふっ、あははははははは!!』


 『な、何がおかしいんだ!!』


 『ごめんごめん。まさか君からそんな言葉が聞けるだなんて、思っていなかったからね……“漆黒のドラゴン”さん?』


 『ふん!!相変わらず、嫌味な雌だな!!“白銀のドラゴン”さんよ!?』


 そう言うと漆黒のドラゴンは、白銀のドラゴンと呼ばれる雌の側に座った。


 『それで……話って?』


 『…………実は……』


 漆黒のドラゴンは、これまでの経緯を白銀のドラゴンに話した。エジタスの事、延々と話すだけで全く殺しに来ない事、そのせいで寝不足になっている事、漆黒のドラゴンは不満を全て吐き捨てた。


 『…………全く!!いったい何なんだ!!あの道化師は!!殺しに来るなら、早く来い!!』


 『…………ふふ』


 『何だよ…………』


 『んー、何か……新鮮だなーって……』


 『…………はぁ?』


 白銀のドラゴンの言葉に、理解する事が出来ない漆黒のドラゴン。


 『だって、いつもだったら殺した種族の事を自慢気に語ったり、カッコつけたりするから、こうした愚痴を聞くのは初めてだから……凄く意外』


 『いや、我は別に愚痴なんか…………』


 『でも…………私は好きだよ。君のそう言う所』


 『!!!きょ、今日は気分が優れない!!これで帰らせて貰う!!』


 そう言うと、漆黒のドラゴンは慌てて立ち上がり翼を広げた。


 『えぇー、もっとゆっくりしていけばいいのに……もっと君の話、聞きたいな……』


 『ま、また今度な…………』


 『約束だよ』


 『あぁ……約束だ……』


 約束を交わすと、漆黒のドラゴンは翼を羽ばたかせて、空高く舞い上がった。そしてそのまま元来た道を引き返すのであった。


 『……約束……だからね……』


 そう呟く白銀のドラゴンの顔は、とても穏やかな表情を浮かべていた。





























 「見ぃ~ちゃった~、見ぃ~ちゃった~、く~だらぁない愛を~」


 そんな二頭の様子を物陰からじっと覗く、一人の道化師がいた。

甘酸っぱい青春を送る二頭のドラゴン。そんな二頭の様子を物陰からじっと覗く、一人の道化師。果たして、二頭の運命は!?

次回もお楽しみに!!

評価・コメントお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ