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笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~  作者: マーキ・ヘイト
最終章 笑顔の絶えない世界
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はみ出し者と道化師(後編)

過去最高の文字数を記録しました!!

今回でエピロの過去は完結します!!

 「それで……具体的にはどの様にして、彼女をこちら側に引き入れるのですか?」


 引き入れる準備を整えると、エジタスに言われたラクウンだが、その具体的な方法については何も聞かされていない。


 「ラクウンさん、先程私が言っていた事を覚えていますか?魔法を扱える様になる為の条件…………」


 「はい、豊かな想像力と長く続けられる集中力です」


 「その通~り、エピロさんは心のストレスによって、その想像力と集中力が押し潰されています。つまり、その心のストレスが無くなれば、エピロさんも魔法が扱える様になるのです。そこで私達がエピロさんの心のストレスを取り除き、その恩を返して貰う名目で、こちら側に引き入れるのですよ~」


 「それで……具体的にはどの様にして、引き入れるのですか?」


 結局、最初に戻って来てしまった。ラクウンは改めて、エジタスに具体的な方法について尋ねた。


 「ラクウンさん、何も考えずに答えを求めていたら、いつまで経っても成長する事は出来ませんよ~?たまには自分自身で考えて見て下さ~い」


 「……申し訳ありません。私とした事が、事を急ぎ過ぎるあまり、大切な物事を見失っていました。どうか、不敬な私をお許し下さい」


 「別に気にしていませんよ~。誰だって、答えを早く知りたくなるものです。さすがに、ノーヒントでは難しいと思いますので、一つアドバイスを…………心のストレスを無くすのに、最も手っ取り早いのは何でしょうかね~?」


 「最も手っ取り早い…………」


 ラクウンは、エジタスから出された問題を真剣に悩み考える。


 「ラクウンさんが考えている間、私はエピロさんを引き入れる準備を整えておきます。答えの参考として遠くで見ていて下さいね~」


 「畏まりました」


 そう言うとエジタスは指をパチンと鳴らして、一瞬の内にその場から姿を消した。




***




 「行くぞー、それー!!」


 エルフの里にある広場。そこでは、先程までエピロを虐めていた同年代のエルフ達が楽しく遊んでいた。


 「待ってよー」


 「あははは、こっちこっち!!」


 「すみませ~ん、ちょっとよろしいですか~」


 「「えっ?」」


 エルフの子供達が楽しく遊んでいると、エジタスが声を掛けて来た。


 「……さっきまであんな人いたか?」


 「わ、分かんない…………」


 「少しだけお話、よろしいですか~?」


 「あ、あんた誰だよ?」


 只でさえ、怪しさ極まりない格好なのに突然現れた事により、エジタスはエルフの子供達に警戒される。


 「いや~、私実は旅人でしてね~。この里のエルフが、別の里のエルフを保護したという噂を耳にしまして、その噂が本当かどうか確かめに来ました~」


 「…………あんた、もしかして人間か?」


 「いえいえ、私は人間ではありませんよ~。第一、こんな奇妙な格好した人間など、いる筈が無いじゃないですか~」


 エルフの子供達の警戒心を解く為、エジタスは害が無い事を身振り手振りで、陽気に伝える。


 「確かに……人間だったら、大人達が黙っている訳が無いもんな…………」


 「それで、どんな事を確かめたいの?」


 「そうですね~、確かめたい事は多々ありますが……まずは、エルフの子供同士で虐めが起こっているのは、本当なのでしょうか~?」


 「「!!!」」


 その瞬間、エジタスの言葉によって場の空気が一変した。エルフの子供達は、気まずそうに目を反らし始める。

 

 「その様子、どうやら心当たりがあるみたいですね~」


 「「…………」」


 「もしかしてもしかして、あなた達が虐めていたとか~?」


 「「!!!」」


 「図星の様ですね~」


 エルフの子供達の驚きの表情を見て、エジタスは当たりを引いたと内心喜んだ。


 「それで、どうして虐めなんかしていたんですか~?」


 「だ、だってあいつエルフの癖に魔法が扱えないから…………」


 「それだけで、虐めていたのですか~?何とも心が狭い人達ですね~」


 「「…………」」


 「他にあるとすれば…………その子に恋心を抱いていたとか?」


 「「!!!」」


 「あらあら、これまた図星!?あっはははは!!!なんてまぁ、ウブな人達ですね~。好きな相手に構って欲しくて、虐めるだなんて…………あっはははははは!!!」


 エルフの子供達の淡い恋心に、エジタスは笑いが堪えきれなかった。


 「あなた達の本心はよく分かりましたが、だからと言って虐めて良い訳が無いでしょう!!」


 「で、でも…………」


 「本当にその人の事が好きなら、その人が傷つく様な事は決してしない筈ですよ。ましてや虐めだなんて……考えられません!!!」


 「「!!!」」


 雷に打たれた様な衝撃が、全身に伝わった。エジタスの正論がエルフの子供達の思考を正した。


 「俺達……取り返しのつかない事をしちゃった…………」


 「どうすればいいんだ…………」


 「若さ故の過ち、今ならまだ引き返せます。次その子に会った時、誠心誠意込めて謝りなさい。きっとその子も分かってくれますよ」


 「「…………はい!!」」


 「それでは、私はこれで……」


 「ちょ、ちょっと待って下さい!!」


 一つの目的を完了したエジタスは、次の場所へと向かおうとする。すると、エルフの子供達の一人に呼び止められる。


 「あ、あなたは……誰なんですか?」


 「…………私は、只のしがない道化師ですよ……」


 そう言うと、エジタスは広場を後にするのであった。




***




 「すみませ~ん!!すみませ~ん!!」

 

 広場を後にしたエジタスは、エピロの叔母さんが住んでいる家を訪れていた。エジタスは激しく扉を叩き、叔母さんが出て来るのを待った。


 「誰だい…………?」


 勢い良く扉が開くと、だらしない格好で下着姿の叔母さんが出て来た。


 「初めまして、私はエピロさんの友達のエジタスと申します」


 「へぇー、あの子にも友達が出来たんだ…………」


 「おや、何だか嬉しそうですね?エピロさんの事を、煙たがっていたんじゃないのですか?」


 「!!!」


 叔母さんが、エジタスをエピロの友達だと知った時、ほんの僅かだけ口角が上がったのをエジタスは見逃さなかった。


 「な、何を言っているんだい……こ、これはあれだよ。友達がいるって事は、完全に厄介払いが出来たって事だから、嬉しさのあまり喜んでいるのさ。これで、彼氏ともゆっくり同棲出来るからね」


 「へぇ~、それでその噂の彼氏さんはどちらに?」


 エジタスは、わざとらしく叔母さんの彼氏を探し回る。


 「家の中だよ。あいつ人見知りでさ、あたし以外の人とは、なるべく関わらない様にしているんだ」


 「嘘ですね。この家の中には、あなた以外誰も住んではおりません」


 「へ、変な言い掛かりは止めてくれ!!なんでそんな事が、あんたに分かるんだよ!?」


 叔母さんは、声を荒げながらエジタスに問い掛ける。


 「実は私、空間魔法に長けていましてね……訪ねる前に、この家の空間を調べさせて貰いました。すると家の中の生体反応は、一名しか見受けられませんでしたよ?」


 「…………っ!!」


 図星を突いたエジタス、叔母さんの雲行きが怪しくなる。


 「あぁー、止めた止めた。バレちゃ仕方ないね。そうだよ、あたしに同棲する彼氏なんか居やしないよ…………」


 「それでは何故、エピロさんを追い出す様な真似をしたのですか~?」


 「…………」


 「当てましょうか?あなたは、エピロさんが一人立ちしやすい様にわざと突き放す様な言動をした。違いますか?」


 「!!!」


 「当たっている様ですね~」


 これまた図星を突いたエジタス、叔母さんの雲行きがますます怪しくなる。


 「そうだよ……あぁ、そうだよ!!!姉さんや姉さんの旦那が死んで、あの子はあたしが育てる事になった。だけどあたしじゃ、姉さんの代わりは勤まらない!!あの子の母親にはなれない!!あたしが出来るのは、あの子が一人立ちしやすい環境を作り上げる事なんだよ!!!」


 「それで……敢えて嫌われる様に仕向けたと……?エピロさんが、未練無く一人立ち出来る様に……?」


 「あたしには、それ位しか出来ないんだよ!!文句あるかい!?」


 「えぇ、おおありですよ。何が嫌われる様に仕向けるですか、その軽率な行動がエピロさんを深く傷つけているって、何故分からないのですか!?姉さんの代わりは勤まらない……?当たり前じゃないですか、あなたはあなただ!!どんなに頑張っても、あなたはお姉さんになる事は出来ない!!だけど、それでも母親になる事は出来る!!愛情を持って子を育てれば、その人は立派な母親になれるんです!!」


 「!!!」


 エジタスの言葉に、叔母さんはその場に泣き崩れる。


 「一人立ちしやすい環境を作るのは構いませんが、もう少しあの子に愛情を注いでやって下さい」


 「こんな……こんなあたしでも……あの子を愛していいの……?」


 「……子を愛する事は、罪ではありませんよ」


 そう言いながら、エジタスは指をパチンと鳴らして、その場から一瞬で姿を消した。




***




 里の外れ、エジタスが転移して来ると見慣れない一人のエルフが待っていた。

 

 「さてと……これでほぼ全ての準備が整いました……後はよろしくお願いしますよ?」


 「へへ、金さえ貰えれば何だってやりますぜ…………」


 「では、手筈通りに…………」


 そんな二人の様子を伺いながら、ラクウンはエジタスの問題をずっと考えるのであった。




***




 エジタス様と別れた私は、逸早く魔法を扱える様になる為、心のストレスをどうやって無くそうか思い悩んでいた。


 「…………魔法が扱える様になると聞いて喜んだけど……今の里の状況じゃ、心のストレスを完全に無くすのは難しそうだな…………」


 私は、重い足取りで里の方へと足を運んでいた。


 「……あっ、そうだ……それにわたし一年間は家に戻れないんだった…………」


 叔母さんの言葉を思い出し、今後の一年間をどう過ごして行けば良いのか、頭を捻っていた。


 「いったいどうすれば…………ん?」


 その時、里の方から誰かの叫び声が聞こえて来た。


 「ぎょえええええ!!!」


 「この声って…………」


 その叫び声には聞き覚えがあった。私は急いで、里の方へと向かった。


 「ぎょえええええ!!!助けて!!」


 「オラオラ、どうした?まだやれるだろう?」


 「エジタスさん!!?」


 駆けつけると、里の入口でエジタス様が屈強なエルフに胸ぐらを掴まれていました。


 「お、おやエピロさん、さっき振りですね…………ごふっ!!」


 「オラオラ、余所見してんじゃねぇぞ!!?」


 私が声を掛けると、エジタス様が屈強なエルフにお腹を殴られてしまいました。


 「や、止めて!!エジタスさんを虐めないで下さい!!」


 私は必死に、その屈強なエルフにエジタス様を虐めるのを止める様にお願いしました。


 「あぁん?邪魔だガキ!!」


 「きゃあ!!」


 「エピロさん!!がふっ!!」


 「人の心配している場合か!?」


 だけど結果は空しく、魔法も扱えない私はその屈強なエルフに、弾き飛ばされてしまいました。その間にもエジタス様は、殴られたり蹴られたりしていました。


 「おうっ!!あがぁ!!」


 「や、止めて……お願い……」


 「オラオラ、まだまだ終わらねぇぞ!!」


 エジタス様が虐められるその光景に、私のストレスは溜まって行った。


 「他人を殴るのは堪らないねぇ!!」


 「止めて……止めて……」


 何も出来ない不甲斐ない自分に……私に笑顔と希望を与えてくれたエジタス様、そんなエジタス様を虐める屈強なエルフに…………心のストレスが少しずつ溜まって行った。


 「死ぬまで殴ってやるよ!!」


 「止めてーーー!!!」


 「「!!!」」


 そしてその瞬間、私の中にある心のストレスが爆発した。


 「エピロさん……?」


 バチバチという音を立てながら、私の体を電気が包み込んでいた。


 「な、何なんだこのガキは……」


 「エジタスさんを……」


 「ん?」


 「エジタスさんを虐めるな!!!」


 私の叫びと共に、屈強なエルフの体を鋭い電撃が貫いた。


 「がぁあああああ!!!……は、話が違う…………」


 屈強なエルフは、電撃に貫かれた事で真っ黒焦げになって死亡した。


 「エピロさん……そのお姿は……」


 「エジタスさんは、私が守ります…………」


 「エピロさん……ありがとうございます……実はあなたを虐めている同年代のエルフの子供達や、あなたの叔母さんにあったのですが、手痛く門前払いされてしまいましてね……力不足の私を許して下さい……」


 エジタス様の辛そうな雰囲気に、私は里全体に激しい怒りを覚えた。私の光であるエジタス様を蔑ろにするだなんて、許せなかった。


 「エジタスさん……いえ、エジタス“様”……安心して下さい。私が始末して来ます…………」


 「いいのですか、仮にもあなたの里ですよ?」


 「関係ありません。こんな里に未練なんてありませんから…………」


 「そうですか…………では、よろしくお願いしますね。エピロさん」


 「はい!!!」


 嬉しい。エジタス様にお願いされた瞬間、心の底から喜びを感じた。エジタス様のご期待に添える様に、里のエルフ達を一人残らず皆殺しに行った。



 

 “お、お前魔法が扱え……がはぁ!!!”


 “そんな……どうして……お、俺ずっとお前の事が……いやぁあああ!!!”


 “エピロ!?エピロなの!?あんた、その姿…………そっか、こんなあたしでも母親になれるかと思ったけど……どうやら、気づくのが遅すぎたみたいだね…………”




 里中から聞こえるエルフ達の悲鳴、エジタスはその悲鳴を聞きながら、鼻歌を歌っていた。


 「我が王……」


 「おや、ラクウンさんですか……もうすぐあの子は私達の仲間になりますよ……それで、分かりましたか?」


 遠くから、ずっと様子を伺っていたラクウンは、エジタスの元へと歩み寄る。すると、エジタスから返答を求められた。


 「はい……最も手っ取り早い方法……それは“ストレスの爆発”ですね?」


 「ピンポンピンポン大正解!!!心のストレスを無くすのに、虐めていた同年代や叔母さんを説得してからでは、とてつもない時間が掛かってしまう……ならばその虐めていた者達に対して、殺したい程の感情を芽生えさせて、実際に殺してしまえば悩みの種は無くなる。とても手っ取り早い方法という訳です」


 「…………我が王よ、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 「何ですか~?」


 ラクウンがずっと気掛かりだった事、エジタスの不可解な行動。


 「先程の、金で雇った屈強なエルフの手でストレスの爆発を誘うのだったら、別に同年代の子達や叔母さんに会う必要は無かったのじゃないですか?」


 「そうですね~、敢えて言葉で表すとしたら…………確かめたかったんですよ~」


 「確かめたかった……?」


 「エピロさんの様な、才能溢れる者を虐めるのは、いったいどんな奴なのか。少し興味が湧いたので確かめました。もしもエピロさんより才能があれば、そちらの方を引き入れるべきかなと思いまして……ですが、結果は最低……全員単なる性格を拗らせただけのいいこちゃんでした……それでは、私達の仲間には相応しくない……」


 「成る程、納得しました」


 エジタスの狂喜的な話を聞いても、ラクウンは驚きもしなかった。寧ろ納得してしまう程であった。


 「さて、そろそろ終わった頃でしょう……迎えに行きますか~」


 「はい」


 「きっと、エピロさんも気に入ってくれると思いますよ~。“人類統一化計画”を!!!」


 エジタスは、鼻歌を歌いながらラクウンを引き連れて、エピロを迎えに行くのであった。

エジタスの闇が全面に押し出される回となりました。

この出来事を切っ掛けに、エピロは闇へと落ちました。

次回、リーマ&ゴルガ VS エピロ

次回もお楽しみに!!

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