最恐最悪の生物
更新が一日遅れてしまい、申し訳ありません!!
言い訳がましいですが、長く話を書こうとしてら二日掛かってしまいました。なので、今回の話は長いです。
「まさか……あの黒い物体の正体が“魔食”だったとはね…………」
「ど、どうずればいいだぁ……」
“実験体M-001”その正体は、二千年前に初代勇者である“サイトウコウスケ”によって封じ込められ、そして二千年の時を経て、真緒達によって倒されたあの“魔食”だった。
「“魔食”は文字通り、魔力を食料とする生物なのよね?」
「ぞうだぁ……マオぢゃん達四人で何どが倒ず事が出来だげど、今回は二人じがいない……いっだいどうじだら……!!」
真緒達が倒した“魔食”は、二千年という時の流れですっかり干からびており、ほぼ屍に等しかった。しかし、今回の“魔食”は幼体で成長過程という事から、あの時の“魔食”とは比べ物にならない程に強い。そんな最恐最悪の生物を前に、絶望を感じるハナコと何かを頭の中で考え込むアルシア。
「ハナコちゃん、そんなに悩まなくても大丈夫よ」
「どうじで!?」
「忘れたの?あたしには、大量のMPを持つ相手に対して絶対的強さを持っているのよ」
「ぞれっで…………あっ!!」
ハナコが思い出したのは、アルシアと戦った時の記憶。アルシアのあるスキルが、この状況において最も効果的であった。
「あたしには……相手のMPを媒介にして、燃やし尽くす事の出来るスキルを持っているのよ!!スキル“大炎熱地獄”!!」
そう言いながら、アルシアは剣の先を“実験体M-001”に向けて、スキルを放った。すると瞬く間に“実験体M-001”の体は燃え上がった。
「やっだだぁ!!ざずがは、アルシアざんだなぁ!!」
「うふふ……面と向かってお礼を言われると、ちょっと照れ臭いわね」
勝利を確信した。魔力を食料とする魔食である“実験体M-001”は、アルシアのスキルによって燃え尽きた。そう、思っていた。
「…………えっ?」
その瞬間、アルシアの右腕が突如として消失した。突然、何が起こったのか理解する事が出来ず、しばらくその場で固まってしまった。
***
「…………いや~、その程度では“魔食”を元に造り出した“実験体M-001”は倒せませんよ~?」
新魔王城玉座の間。エジタスは“千里眼”によって、ハナコとアルシアの様子を伺っていた。
「……もし、“魔食”がその程度の実力だったのなら、初代勇者のコウスケさん達に倒されている筈です。しかし、実際は倒されずに封印という結果になった……それは何故か?……答えは簡単、“魔食”は封印以外では決して倒せない相手だからです…………」
エジタスは、“千里眼”で“実験体M-001”を見つめながら、過去の思い出を振り返っていた。
「あの時…………コウスケさん、アーメイデさんと供に“魔食”を倒そうと試みました…………しかし何度潰しても、何度切り刻んでも、何度消し炭にしても、“魔食”は再生して蘇った。それを見て私は、驚きと同時にとても興味が湧きました。この“魔食”を手懐けられれば、私の計画をより安心安全に進める事が出来ると…………」
そう言うとエジタスは、指をパチンと鳴らした。するとエジタスの右手に真っ黒な塊が握られていた。
「この“魔食”の一部を手に入れた私は、密かに研究を続けた。その内、“魔食”の可能性に気が付いた私は、培養して量産する事を思い付いた…………姿こそ変わってしまいましたが、その驚異的な生命力は当時そのもの……寧ろ、体がスライム状になった事で、ある程度の物理的攻撃なら受け流せる様になりました。まさに“実験体M-001”こそ、攻守共に“最恐最悪の生物”と呼ぶのに相応しい!!」
再びエジタスは、“千里眼”を使ってハナコとアルシアの様子を伺う。
「そんな最恐最悪の生物、最初の犠牲者となれるとは…………“何とも運が良いですね~”」
そう言うエジタスの表情は、仮面越しからでも分かる。非常に不気味な笑みを浮かべていた。
***
「アルシアざん!!!」
「こ、これは……いったい……あたしの右腕が!?」
ハナコが心配の声を呼び掛ける中、突如自身の右腕が消失した事に、戸惑いを隠しきれないアルシア。
ズリズリズリ………
「「!!!」」
何かが床を這う嫌な音。二人は、音のする方向へと顔を向ける。そこにいたのは、アルシアのスキルを食らって燃え尽きた筈の“実験体M-001”だった。“実験体M-001”は消失した筈のアルシアの右腕を喰っていた。それにより、一回り大きく成長した。
「あ……ああ……!!!」
「まさか……生きているとはね……さすがは“魔食”……恐ろしい生命力ね……油断してしまったわ……」
更に一回り大きくなった事で、動く度に床が擦れて、ズリズリという嫌な音を立てる。
「アルシアざん、右腕は大丈夫なんだがぁ!!?」
「えぇ……あたしはスケルトンだから、痛覚神経が無いのよ。だから痛みはあまり感じないわ」
アルシアは失った右腕を一度見た後、その右腕を喰っている“実験体M-001”に視線を向ける。
「でも……おかしいわね……MPの塊みたいな存在なら、確実に倒せると思ったのだけど…………」
「もじがじだら…………」
「……?」
「もじがじだら、空気中の魔力を食べでいるんじゃないだがぁ?」
「!!!」
アルシアは、エジタスとの会話を思い出した。マオ達が“魔食”を倒した時の会話を。
「成る程ね……あたしのスキルを受けて尚、生きていたのは……空気中の魔力を取り込んでいたからなのね」
「ぞれが事実だどじだら……どうやっで倒ぜばいいんだぁ!?」
絶望的状況。どんな手を使っても、“実験体M-001”を倒す事は出来ない。ハナコとアルシアが頭を抱える中、アルシアの右腕を喰い終わった“実験体M-001”が、二人目掛けて自身の体の一部を伸ばして、薙ぎ払う様に襲い掛かって来た。
「ハナコちゃん、飛びなさい!!」
「どわぁあああ!!?」
ハナコは、アルシアの叫びを聞くと慌てて飛び上がり、襲い掛かる“実験体M-001”の攻撃を回避した。しかし反応が少し遅れてしまい、ハナコの右足が鋭い刃物で切り裂いたかの様に傷ついていた。
「ぐっ……うぅ……!!」
「ハナコちゃん!!大丈夫かい!?」
「ご、ごれ位がずり傷だぁ……」
「……あんな柔らかそうな体から、想像もつかない程の斬激……あたしの右腕を持っていったのは、あの攻撃で間違いなさそうだね…………」
すると、“実験体M-001”は自身の体の一部を三箇所に分けて伸ばし、ハナコとアルシアの二人目掛けて、間髪入れずに襲い掛かって来た。
「また来た!!ハナコちゃん、動ける!?」
「も、問題無いだよぉ!!」
一発、二発目を避けた二人だったが、足を負傷したのにも関わらず急に無理な動きをしたハナコは、激痛に襲われ動けなくなってしまった。そんな動けなくなったハナコ目掛けて、最後の三発目が飛んで来る。
「危ない!!!」
咄嗟にアルシアは、両刀を残った左腕で握り締めて、ハナコの盾となって三発目を防いだ。
「アルシアざん!!?」
「ぐふっ…………!!」
しかし、成長した“実験体M-001”の攻撃は右腕を失ったアルシアには厳しく、体に相当なダメージを負ってしまった。
「アルシアざん!!大丈夫だがぁ!?すまないだぁ……オラのせいで……」
「き、気にしなくていいのよ……はぁ……はぁ……あたしが好きでやった事なんだから…………はぁ……はぁ……」
「アルシアざん…………」
そう言うアルシアの体は、満身創痍だった。スケルトンの為、血こそは出ていないが骨の殆どにひびが入っており、明らかに重症であった。
「(…………不味いわね……あっちは決して倒されない無敵の生命力に対して、こっちは少しずつHPを減らされていってる……やっぱり右腕を持っていかれたのが痛かったわね……このままじゃ、二人供確実に殺られてしまう…………何か……何か手は無いの!!?…………いえ、本当はもう分かっている筈よ……あの“実験体”を倒す唯一の方法…………)」
アルシアは分かっていた。“実験体M-001”を倒す唯一の方法。
「(でも……それは一歩間違えれば、あたしも一緒に死にかねない!!…………って、そんな悠長な事を言っている場合じゃ無いわよね…………何を怖がっているんだ“俺”!!…………死ぬのが怖い?あぁ、それもある!!スケルトンで既に死んでいるのかもしれないが、それでも死ぬのは怖い!!…………だけど……それでも“男”にはやらねばならない時がある!!只死ぬのでは無く、何かを成し遂げてから死にたい!!“ハナコ”……お前は俺に男としての在り方を思い出させてくれた……そんなお前を守る為なら、俺は喜んで命を差し出そう!!お前は……俺が……守る!!!)」
心の葛藤に打ち勝ったアルシアは、鼻から大きく息を吸い込み、口からゆっくりと吐いた。そして一本の刀を床に落とし、左手で残った一本を強く握り締める。
「アルシアざん…………?」
「ハナコ!!俺に考えがある!!お前はスキル“鋼鉄化”を使って、自身の身を守るんだ!!」
「ア、アルシアざん……男言葉……」
「いいから早くしろ!!」
「わ、分がっだだぁ!!スキル“鋼鉄化”!!!」
アルシアに言われるがまま、ハナコは全身を鋼鉄に変化させた。
「ぞ、ぞれで……いっだいどうずるんだぁ?」
「……この部屋が密閉されていて助かったな……」
「えっ…………?」
「もしもこの部屋に窓があったり、壁に穴が空いていたら、俺達に勝ち目は無かった…………そうなると、エジタスの唯一のミスとも言えるな」
「アルシアざん……な、何を言っでいるんだぁ?」
ハナコは、アルシアが何を言っているのか、まるで理解できなかった。
「…………“実験体”と、この部屋に漂っている空気中の魔力と共に、俺のスキルで全て燃やし尽くす」
「!!!」
ハナコはあまりの驚きに、空いた口が塞がらなかった。
「幸いこの部屋は密閉されていて、別の場所から魔力が流れてくる事は無い……だけど、部屋全体を燃やすとなると俺達も只では済まない。だからこそハナコ、お前はスキル“鋼鉄化”を使って身を守るんだ…………」
「ぞ、ぞれで、アルシアざんはどうするんだぁ!!?」
「……俺はスキルを放つんだ……身を守る余裕は無い……」
「ぞ、ぞんなの駄目だぁ!!アルシアざんを犠牲にずるだなんで、オラは絶対に嫌だぁ!!!」
ハナコは涙を流しながら、アルシアの考えを否定した。
「これしか方法が無いんだよ!!!あの“実験体”を倒すには、この方法しか無いんだよ!!!」
「!!!」
ハナコは理解した。アルシアが覚悟を決めた事を、この方法でしか“実験体M-001”を倒す事は出来ない。ハナコは、何もしてやれない無力で不甲斐ない自分に、涙を流しながら俯く事しか出来なかった。
「…………安心しろ……俺は必ず生き残って見せる……」
「…………」
気休めの言葉。一人、“実験体M-001”へと歩んで行くアルシアを、只見つめる事しか出来ないハナコ。悔しさから歯を食い縛る力が強くなる。
「さぁ……覚悟しろよ……スキル“大炎熱地獄”!!!」
アルシアは、閉じ込められ密閉されている部屋に漂っている、空気中の魔力を一気に燃やし始めた。すると瞬く間に部屋全体が炎に包まれた。
「ぐぅ……ああああ……!!!」
焼ける。傷ついた体が自身の放った炎で燃えていく。だが、それと同時に正面にいる“実験体M-001”も燃えていく。
「いける……この調子なら……俺より先に燃え尽き…………な、何!!?」
先に燃え尽きる。そう思っていた。しかし、“実験体M-001”は悶え苦しみながらも自身の体の一部を伸ばして、アルシアの体に突き刺した。
「ま、まさか……俺の僅かに残ったMPで生き残ろうとしているのか!?」
MPが吸われていく感覚。それによって、死にかけていた“実験体M-001”が元気を取り戻した。
「くっ……その何処までも生き残ろうとする執念深さ……尊敬に値する!!いいだろう!!俺の命が尽きるのが先か、それともお前の命が尽きるのが先か!!根気比べと行こうじゃないか!!!」
炎で焼かれ、骨が黒く変色し始める。骨が灰になりかけているのだ。だんだんと意識が遠退く。
「(ま、不味い……こ、このままでは…………)」
「だぁああああああああああ!!!」
「!!?」
その時ハナコが前に飛び出して、アルシアの体に突き刺さっていた“実験体M-001”の伸ばした一部を引き抜き、そして何と自身の体に突き刺した。
「うぐぅ…………!!!」
「おい!!お前何やっているんだよ!!どうして“鋼鉄化”を解いたんだよ!?」
見ると、ハナコの体は鋼鉄の銀色では無く、普通の毛と肌に戻っていた。その為、ハナコはアルシアのスキルによって焼かれていた。そんな状態で、自身の体に“実験体M-001”の伸ばした一部を突き刺したのだ。
「だ、だっで……“鋼鉄化”をじでいだら、体に突ぎ刺ぜないだぁ……」
「そんな事をして何になる!?死ぬつもりかぁ!!?」
「死なぜない……死なぜないだぁ!!オラがアルシアざんを守るんだぁ!!」
「守るって……これじゃあ無駄死……これは!?」
先程まで、アルシアのMPを吸い取って元気を取り戻していた筈の“実験体M-001”だったが、突然死にかけ始めていた。
「えへへ……オラ……MPなんて持っていないだよぉ……」
「ハナコ……お前って奴は…………うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ハナコが、身を呈して与えてくれたチャンス。アルシアは最後の力を振り絞って、空気中の魔力を燃やし尽くす。
「「燃えろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」
徐々に小さくなっていく“実験体M-001”、ハナコとアルシアの文字通り魂の叫びが、炎に包まれている部屋全体に響き渡った。
部屋全体が炎に包まれた。果たして生き残るのはどちらなのか!!?
次回もお楽しみに!!
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