贈り物
今回はアーメイデの最終試験を終えた次の日となっています。
「…………ゃん……オぢゃん!」
「う、うーん…………」
声が聞こえる。聞き覚えのある声が真緒の眠りを妨げる。
「朝だよ!起ぎるだぁ!」
「うーん……」
真緒がゆっくりと目を開けるとそこには、上から覗き込むハナコが目と鼻の先にいた。
「マオぢゃーん!」
「うわぁあああ!?」
真緒は目の前にいるハナコに驚き、慌てて起き上がった事で覗き込んでいたハナコとおでこがぶつかってしまった。
「痛てて……」
「痛だだ……」
お互い、ぶつかったおでこを擦りながら痛みが引くのを待った。
「マ、マオぢゃん……おはよう……」
「お、おはよう……」
次第に痛みが引いていき、真緒とハナコは改めて朝の挨拶を交わした。
「他の皆はもう起ぎで、朝食を食べ始めでいるだぁ。マオぢゃんも早ぐ食べに来るだよぉ」
「あっ……うん……」
そう言うとハナコは、真緒の部屋を後にする。その光景を見ながら真緒は昨日の出来事を思い出していた。
「そっか……負けちゃったんだ…………っ!!」
悔しい。握る力が強く、掌に爪が食い込み血が滲み出る。真緒はあの時、本気で勝てると思っていた。皆で力を合わせれば今までの戦いの様に上手く行く筈だと…………実際上手くは行った。アーメイデのウォーターカーテンを突き破り、渾身の一撃を叩き込めた。しかしそれで手に入れたのは勝利では無く、最終試験合格だった。
「…………皆の所に行こう……」
これ以上待たせて、皆から心配されてはいけないと真緒は悔しい気持ちをグッと心の奥底に抑え込み、皆が待つ食堂へと向かった。
「皆……おはよう……」
「マオさん、おはようございます!」
「やっと起きて来たか、悪いが先に食べてるぞ」
「マオさ~ん、今日の朝御飯は納豆と味噌汁ですよ~」
真緒が食堂に足を運ぶと、仲間達は既に朝食を食べ始めていた。真緒が来た事に気が付いたリーマ、フォルス、エジタスは朝の挨拶を交わした。因みにハナコは朝食を食べるのに夢中で会話どころでは無い様子だった。
「……皆……ごめん!!」
「マオさん……?」
「何を謝っているんだ?」
突然頭を下げた真緒に、首を傾げて不思議に思うリーマとフォルス。
「アーメイデさんに負けちゃったから……その……」
「何だ、そんな事を気にしていたんですか?」
「勝負には負けたが、こうして全員が合格出来たんだからそれで良いじゃないか?」
仲間達に申し訳ない気持ちでいっぱいだった真緒だが、仲間達はそこまで落ち込んではいなかった。
「二人は……悔しく無いんですか……?」
「…………そりゃあ、悔しいですよ……」
「俺達が全力を出し切ったとしても、勝てないと知ってしまったからな……」
リーマとフォルスは、見た目こそ平然を装っているが内心では悔しくて悔しくて堪らない。
「リーマ、フォルスさん……」
「だけど、いつまでもくよくよしたって何も始まりませんよ!」
「それに、まだ諦めた訳じゃ無いぞ。次戦う時に必ず勝って見せる!」
「その意気だよ」
「アーメイデさん……」
真緒達がリベンジの話をしていると、その相手本人が真緒の食事を持って台所から姿を現した。
「その折れない根性さえあれば、どんな敵にだって立ち向かえる。あんた達のリベンジ、楽しみに待っているからね」
「アーメイデさん……ありがとうございます……」
「さぁ、お腹が減っただろう?まずは食事を済ませるとしようかね」
「はい!」
仲間達の元気な姿や最後まで諦めていない姿を知ると、今まで落ち込んでいた感情が嘘の様に、消えて無くなった。あるのはアーメイデへのリベンジという闘志だけであった。真緒はリベンジを果たす為、出された朝食を食べ始めるのであった。
***
「はぁー、食べた食べた」
「もうお腹いっぱいですよ……」
「かなり食べたな……」
「オラはまだ腹八分目だげど……あんまり食べ過ぎも良ぐ無いがら、この辺にじでおぐだぁ……」
「さ、さすがは大食いのハナちゃん……」
朝食を済ませた真緒達。リベンジに燃えて勢いを余って食べ過ぎてしまったが、ハナコは余裕の表情を見せる。
「そうだ、あんた達に贈り物があるんだよ」
「「「「贈り物?」」」」
食事を終えたアーメイデは、部屋から四つの箱を持って来た。
「これはあんた達が最終試験に合格した言わば、祝いの品の様な物だ」
「い、いいんですか!?」
「あぁ、遠慮無く受け取ってくれ。まずはハナコ、あんたにはこれをやるよ」
「あ、ありがどうございまずだぁ!」
ハナコがアーメイデから箱を受け取ると、中身を確かめる。
「ごれは……服?」
中には今着ているタンクトップと、殆ど変わらないデザインのタンクトップが入っていた。
「その服にはね、私の魔法が施してあるから鎧並みの防御力を持ちながら、今までの服と変わらない重さなんだよ」
「凄いだぁ!!オラ、家宝にするだよぉ!!」
優れた性能を持った服に、ハナコは嬉しさのあまり貰った服を抱き締める。
「次はフォルス、受け取ってくれ」
「ありがとう……これは、スカーフか?」
フォルスが貰った箱の中には、赤色のスカーフが入っていた。
「そのスカーフにも私の魔法が施してあって、次に吹く風の向きが事前に分かる様になっているのさ」
「凄いな……これなら、空を飛ぶのが楽になる……助かるよ」
フォルスは、早速貰ったスカーフを首元に巻き付けた。
「似合ってるじゃないか。さて次はマオ、あんたの番だ。受け取ってくれ」
「アーメイデさん、ありがとうございます」
真緒がアーメイデから箱を受けとると、中身を確かめる。
「これは……盾ですか?」
中に入っていたのは、古ぼけた盾だった。お世辞にも綺麗とは言えず、所々傷が付いていた。
「その盾はね……初代勇者が持っていた盾なんだ……」
「えっ!?初代勇者が…………」
「詳しい能力は分からない。何せあいつは、自分が持っていた装備に全て呪いを掛けてしまったんだからね……」
「それって……この剣と一緒ですよね!?」
そう言いながら真緒は、腰に差していた純白の剣をアーメイデに見せた。
「やっぱり……何処かで見た事のある剣だと思っていたけど……やっぱりあいつのだったのか……」
「あの……アーメイデさん……どうして初代勇者は、自分の装備に呪いを掛けたのですか?」
「…………それは…………あー、忘れちまったね!」
「えっ!?」
「さすがに二千年も生きていると、物忘れが酷くってね……」
「そ、そうですか……えっと、この盾ありがとうございます。大事に使わせて頂きます」
何か引っ掛かる真緒だが、これ以上の詮索は失礼だと思い聞くのを止めて、お礼を述べた。
「あぁ、そうしてくれると嬉しいよ。さて……最後になったけどリーマ、受け取ってくれ」
「はい!アーメイデさんからの祝いの品。ありがたく使わせて頂きます!」
リーマがアーメイデから箱を受けとると、中身を確かめる。
「…………えっ?」
中に入っていたのは、一枚の紙切れだった。
「まさか……これって……」
「あんたが一番欲しがってるであろう……“アーメイデの魔導書”の引きちぎられたページだよ」
「あ……あ……あ……」
「良かったね、リーマ!!」
「まさか本人が持っているとはな」
「リーマぢゃん、やっだだなぁ!!」
「リーマさ~ん、おめでとうございま~す!」
リーマは、慌てて魔導書を取り出して引きちぎられたページを合わせる。すると、魔導書は眩い光に包まれて引きちぎられたページは元通りになった。
「アーメイデさん!ありがとうございます!!」
「何を言っているんだい。お礼を言いたいのはこっちの方だよ。引きちぎられた魔導書を、こうして完成させてくれたんだからね」
「えっ、それってつまり……この魔導書は完全に元に戻ったって事ですか!?」
「あぁ、そう言う事さ」
リーマは完成した魔導書を撫でながら、思わず笑みが溢れる。
「よーし!魔導書完成の祝いだ!エピロ、料理をじゃんじゃん作っておくれ!!」
「はーい!分かりましたー!」
アーメイデは、自身の魔導書が完成した高揚感からエピロに再び料理を作る様に指示をした。
「ちょ、ちょっとアーメイデさん!私達もうお腹いっぱいですよ!!」
「オラは全然行げるだよ。少し休憩じだがら、お腹が空いでるだぁ」
「えっ、えぇー!?」
「相変わらず底無しの胃袋だな……」
「マオさん……ここは腹を括るしかありません……」
「そ、そんな……」
まさかの食事、第二ラウンドに真緒達は絶望を感じていた。約一名、喜びを感じているが…………。
「エピロさ~ん、私も調理を手伝いますよ~」
「エジタスさーん、ありがとうございますー」
「えっ!?まっ、待って下さい師匠!!師匠が手伝ったら、料理が倍に……師匠!?師匠ーー!!」
エピロの調理を手伝う為、台所へと向かうエジタスを止めに向かう真緒だった。
たまにはこうした平和な回も必要ですよね。
次回、第九章、完結!!
次回もお楽しみに!!
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