ハッピーエンド
今回で第八章は完結です。
「ええっ!?オラがマオぢゃん達の敵どじで戦っでいだぁ!?」
「うん、凄く強かったんだからね」
目を覚ましたハナコは、真緒からこれまでの経緯を説明された。ヴァルベルトがハナコを眷属にして真緒達を襲わせた事、そのハナコがヴァルベルトとほぼ互角の戦いを繰り広げた事、そしてエルとヴァルベルトの再会と別れの事を……。
「ぞっがぁ……オラが意識を失っでいる間にぞんな事が…………」
「でも、もう大丈夫だよ。ヴァルベルトさんも改心したし、終わり良ければ全て良しって事だね」
「君には多大な迷惑を掛けてしまった。本当にすまない!!」
ヴァルベルトは、ハナコに対して深々と頭を下げた。
「いやー、元々オラに心の迷いがあっだがらいげながっだんだよぉ」
ハナコは、自分にも至らない点があったとヴァルベルトの事を許した。
「ぞれにじでも、ヴァルベルトざんと互角がぁ…………えへへ」
「ハ、ハナちゃん!?突然どうしたの!?」
突如、ハナコの顔は緩み非常にだらしない笑みを浮かべた。
「えっ?ああ……いやね“一時的”どは言え、マオぢゃん達ど同じ位強ぐなれだ事が嬉じぐっで………」
「ハナちゃん……」
強さを求めていたハナコは、ヴァルベルトと互角で張り合える程強かった話を聞いて、喜んでいた。
「ん、“一時的”だと?君は何を言っているんだ?」
「「「「「えっ?」」」」」
ハナコの“一時的”という言葉に引っ掛かったヴァルベルトは、思わず声を掛けた。
「俺の“眷属化”を嘗めて貰っては困る。確かに姿こそ元に戻ったが、その内に秘めるステータスは今も健在だぞ」
「本当がぁ!?」
「ちょ、ちょっと調べて見るよ!スキル“鑑定”」
ヴァルベルトの言葉に、真緒は慌ててハナコのステータスを確認する。
ハナコ Lv50
種族 熊人
年齢 16
性別 女
職業 拳闘士
HP 480/480
MP 0/0
STR 1080
DEX 200
VIT 800
AGI 50
INT 0
MND 165
LUK 120
スキル
熊の一撃 インパクト・ベア 鋼鉄化
魔法
なし
称号
破壊者 大食い
「職業やスキルのいくつかは、眷属化が解けて消えてしまったが、ステータスは君自身の近い将来持つ筈だった力であり、消える事は無い」
「つ、つまり…………」
「あの時とほぼ変わらない強さを発揮出来る事だろう」
「やっ……やっだー!!」
「良かったねハナちゃん!!」
「ごれがら、もっどもっどマオぢゃん達の役に立っで見せるだよぉ!!」
「うん!頼りにしているからね!!」
あまりの嬉しさに、真緒とハナコは手と手を繋ぎ、跳び跳ねる。
「……これは俺達もウカウカしてられないな」
「ハナコさんに負けていられませんね!」
「う~ん、恐ろしい程の成長ですね~」
ハナコの驚異的な成長振りに、嬉しく思いながらも置いていかれない様にと、気持ちを一新する三人であった。
「ヴァルベルトさん!ありがとうございます!」
「ありがどうございまず!!」
「いや、俺は何も手を加えていない。その強さは、君自身が近い将来手に入れる筈だった力だからな」
眷属化は、その者の本来得るべき力を引き出させる。つまり、ハナコ自身のポテンシャルでありヴァルベルトは何も手を加えてはいないのだと言う。
「それより、君達はやはりこれから“クラウドツリー”に向かうつもりなのか?」
「はい、そこで私達を待っている人がいるらしいので……」
「そうか……よし!それなら今日は君達の旅立ち兼、俺の新しい人生への門出を祝してパーティーを開かせてくれ!」
「パ、パーティーですか?」
突然、パーティーを開くと宣言するヴァルベルトに真緒は戸惑いの表情を浮かべる。
「パーティーだがぁ!?ぞのパーティーには料理が出るんだがぁ!?」
「ああ、勿論だとも!」
「いやっだー!!ほらぞうど決まればマオぢゃん、早ぐ行ごう!!」
そう言うとハナコは、一人食堂へと駆け出した。
「もぉー、ハナちゃんは相変わらずだなー!」
「だが、それでこそのハナコだな」
「ですね」
「成長しても、その食欲は変わらないと……仕方ないですね~」
こうして真緒達は、旅立ちとヴァルベルトの新たな門出を祝したパーティーを大いに楽しむのであった。
***
「ヴァルベルトさん、昨日は本当に楽しかったです。ありがとうございました」
「いや、俺の方こそあんなに楽しい食事をしたのは久し振りだった。こちらからもお礼を言わせてくれ」
盛大な晩餐を過ごしたその翌日。ヴァルベルトは、真緒達が“クラウドツリー”へと向かうのを城の玄関で見送りしていた。
「この先を真っ直ぐ行けば、確実に“クラウドツリー”へと辿り着ける筈だ」
「ヴァルベルトさん、何から何までありがとうございます」
「いや、俺は何もしていないさ。君達の旅の無事を願っているよ」
真緒とヴァルベルトは、固い握手を交わした。
「ヴァルベルトさんもお元気で……」
「ヴァルベルトざん、色々どありがどうございまじだ!」
ハナコがヴァルベルトに、深々と頭を下げる。
「だから、俺は何も…………いや、そうだな人の感謝は素直に受け取らないとな……どういたしまして」
この時漸くヴァルベルトは、真緒達のお礼を素直に受け止めるのであった。
「さよなら!また何処かでお会い出来る事を楽しみにしています!!」
そう言いながら真緒達は、大きく手を振ってヴァルベルトの城を後にするのであった。
「…………また何処かで……か。また会えるといいな……」
真緒達を見送ったヴァルベルトは、城内へと戻って行った。
「さぁ、“クラウドツリー”は目前ですよ!張り切って行きましょう!」
「前衛はオラどマオぢゃんに任ぜでおぐれ!」
真緒とハナコは、軽い足取りでズンズンと前に進んで行く。
「ハナコさん、すっかり自信を取り戻した見たいですね」
「ああ、今の俺達なら乗り越えられない壁は無いな」
「そうですね」
真緒達の結束はより強固なものとなって、旅を続けるのであった。
「さて、俺はこれからどうするかな?生き続けろとエルには言われたけど、只ぼぉーと過ごすのも違うしな……趣味でも持とうかな?」
城内に戻ったヴァルベルトは、これからの人生をどう過ごそうか考えていた。するとその時……。
ガチャ
「ん、誰だ?」
城の玄関が開いたかと思うと、一人の男が入って来た。
「ああ…………君か……そうか、やはりお互い気になっていたんだな。ここで話すのも何だ、部屋でゆっくり話そうじゃないか」
そう言うとヴァルベルトは、男を後ろに連れて歩き始めた。
「……君の名前は“トサリ”と“ラミー”を通して知ったんだけどね、肝心の姿が分からなかったんだ……」
「…………」
「だから、君の名前を聞いた時は驚いた。信じられなかったよ、まさか君がゆう……!!!」
その時、ヴァルベルトを巨大な“何か”が襲った。
「がぁあああ!!?」
「…………」
それは男の腕だった。先程まで標準サイズだった腕は、体型に似合わない巨大な腕に変形して壁に押さえ付けられ、身動きが取れなくなってしまった。
「…………」
「がぁああ!!」
ミシミシと嫌な音を立てながら、ヴァルベルトの体が悲鳴をあげた。
「(ま、不味い!このままでは!一旦体勢を立て直すしかない!!)」
そう考え、ヴァルベルトは“霧化”を使って一時的撤退をしようとする。
「“霧……!!”」
しかしそれは出来なかった。スキルを唱えようとすると、男はもう片方の腕を巨大な腕に変形させ、ヴァルベルトの口を塞いでしまった。
「(口を押さえられた!!これじゃあ、スキルも魔法も唱える事が出来ない!!いや、その前にこれはいったい何だ!?これは“スキル”なのか!?それとも“魔法”なのか!?少なくとも俺はこんな“技”は見た事も聞いた事も無い!!)」
心臓が圧迫され、呼吸も出来ない。次第に意識が遠退き始める。
「(ああ……エル……どうやら……思った以上に早く……会いに……行く……事に……なり……そ…………う…………だ……………………)」
そうしてヴァルベルトは、抵抗する隙も無く殺されてしまった。
「…………」
男の巨大化した腕は、瞬く間に元の大きさへと戻った。
「ハッピーエンド…………」
そのまま男は城を後にした。ここ、“ピースマーシュ”には大きな大きなお城が建っている。しかし、そのお城には誰も住んでいない。何故なら皆、こことは違う“別の場所”で楽しく暮らしているのだから…………。
皆が幸せになるとは限らない…………。
次回は第九章に行く前に、番外編を差し込みます。
次回もお楽しみに!!
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