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笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~  作者: マーキ・ヘイト
第八章 冒険編 狂乱の王子ヴァルベルト
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血に飢える者は思い出す

異様な変貌を遂げたヴァルベルト。果たしてその強さとは……。

 「ゲヒャヒャヒャヒャ!!血だ!血だ!血を寄越せ!!!」


 「ヴァルベルトさん……いったい……どうしたと言うのですか?」


 ハナコとの戦闘で、圧倒的な力の差を見せつけられたヴァルベルトだったが、突如として全身から血を吹き出してカラカラのミイラとなった。


 「血が……血が足りない……」


 ヴァルベルトは、辺り一面に広がる自分の血を舐め回した。


 「駄目だ……古い……古すぎる……新鮮な……新鮮な血が欲しい……」


 うわ言の様にぶつぶつと呟くヴァルベルトは、目の前にいるハナコが目に入った。


 「新鮮な……新鮮な血だーーー!!!」


 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 発狂したかの様に、ヴァルベルトは四足歩行でハナコへと襲い掛かる。迫り来るヴァルベルトに対して、自身の危機を感じたハナコは本能に赴くまま、ヴァルベルトに向かってインパクト・ベアを放った。


 「クヒヒ!!」


 「グォオオオオ…………!!」


 するとヴァルベルトは、自身の体を回転させて放たれたハナコの両腕の間をすり抜けて見せた。そして……


 ガブリ!!


 「グォオオオオ!!!」


 「ハナちゃん!!」


 「な、何をしているんだあいつは!?」


 ハナコの体にしがみつき、首元に噛みついた。深く突き刺さったヴァルベルトの歯からハナコの血が吹き出した。


 「ギャハハハハハ!!ウメェ!ウメェ!新鮮な血は最高だー!!」


 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 「キヒヒ!!」


 首元に噛みついたヴァルベルトを引き剥がそうと、ハナコは絶望の爪を発動させるが、凄まじい反応速度で首元から離れて回避した。


 「もっと……もっと血を寄越せー!!」


 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 ミイラの様な姿になる前よりも、早い速度でハナコに襲い掛かる。鋭く尖った歯がハナコの固い皮膚を突き破り、出血させた。


 「どうしよう……このままじゃ、ハナちゃんが殺られてしまいます!」


 「それだけで済めば良いんですがね~」


 「どう言う意味ですか……?」


 「ヴァルベルトさんは、“その後の被害を気にしない”と言っていました。その事を察するに、ハナコさんや私達が殺られてしまったとしても血の渇きは収まらず、近くの村や町にも被害が及ぶかもしれないという事です」


 「「!!!」」


 獣を越えた存在のハナコを圧倒できる技、それを今まで使わなかった理由を理解した真緒達。


 「そんな……そんなの絶対に駄目です!!」


 「何かあいつを倒せる方法は無いのか!?」


 「…………」


 エジタスはしばらく無言で考え込むと、真緒達に顔を向けた。


 「無い訳ではありませんが……」


 「本当か!?頼む!教えてくれ!!」


 「師匠!!お願いします!!」


 「…………正直言って、マオさんの技のほとんどはヴァルベルトさんには効かないでしょう。しかしマオさん、あなたにはまだ一度も使った事の無い技がある筈ですよ?」


 「一度も使ってない……それってもしかして……!!」


 何かを思い出したか、真緒はスキル“鑑定”を発動して今の今まで、その存在すら忘れていたスキルを鑑定した。




スキル 過去への断罪


過去での過ちを悔い改めさせる技。心の闇が深ければ深いほどダメージ量が増える。逆に心に闇を抱えてない人には効果はない。




 「“過去への断罪”…………」


 「彼はエルさんに対して、異常な程の愛を抱いています。もしも彼の過去に何かがあり、その心の闇が深ければ倒せる可能性はあります」


 「じゃあ早速「しかし」……えっ?」


 希望が残されている事に喜ぶ真緒が試みようとしたが、エジタスに遮られてしまった。


 「マオさん、あなたは負傷してまともには動けません」


 「…………」


 「それに、必ずしも成功するとは限りません…………それでもやりますか?」


 「……例え、残された可能性がほんの僅かだったとしても、私はその可能性に掛けます!何もせず諦めるのだけは、嫌なんです!!」


 真緒の目には決意の炎が灯っていた。


 「……仕方ありませんね。こうなったら最後まで付き合いましょう!!」


 「師匠!!」


 「俺も手伝うぞ!」


 「フォルスさん!!」


 「それじゃあ、ハナコさんが殺られてしまう前に作戦会議を済ませましょうか」


 「「はい!!」」


 こうして、真緒達は最後の希望を胸に作戦を練り始めるのであった。




***




 「それではマオさん、準備はいいですか?」


 「いつでも大丈夫ですよ!」


 「俺達ならきっと出来る!」


 作戦会議が終わり、準備を整える三人。あとは真緒の合図を待つだけだった。


 「よし……行きましょう!!」


 「「おう!!」」


 「作戦開始!!」


 真緒が合図を送った瞬間、エジタスとフォルスは未だに戦っているヴァルベルトとハナコの下へと走り出す。


 「ゲヒヒ……ナンダ?」


 「後ろの正面だ~れ?」


 「!!?」


 迫り来るエジタス達に疑問を抱くヴァルベルトだったが、突然エジタスが転移を使って背後へと回り込んで来た。


 「ギヒ!!」


 咄嗟の判断で、その場から離れるヴァルベルト。


 「おぉ~、凄まじい反応速度ですね~しかし、そっちが安全とは限りませんよ~」


 「貰った!!貫け“三連弓”!」


 「ゲヒャヒャ!!?」


 逃げた先には、フォルスが弓矢を構えて立っており隙を与える事無く、矢を放った。


 「ギヒー!!」


 しかし、それすらも凄まじい反応速度を用いて、空中へと逃げ出した。


 「…………ふっ、作戦通りだ」


 ヴァルベルトは空中へと逃げるが、それこそが真緒達が狙っていた事だった。ヴァルベルトの目の前には、“虚空”の力を使って同じ様に飛び上がる真緒がいた。


 「ギギャ!!?」


 「これでチェックメイトだよ!!」


 完全に決まった。逃げ場の無い空中に追い込めた時点で、真緒達の作戦は成功していた。真緒は純白の剣を持ち、ヴァルベルトに向かって“過去への断罪”を発動しようとする。


 「ザーンネーンでした!!」


 「えっ!?」


 しかし、ヴァルベルトは目の前にいる真緒を踏み台にして更に上へと飛び上がった。当然、踏み台にされた真緒は地上へと落下する。


 「そ、そんな…………」


 「作戦失敗ですね~」


 「(そんな!ここまで来たのに!嫌だ!諦めたくない!!)」


 その時、落下する真緒の背中に誰かが手を添えて来た。


 「ハ、ハナちゃん!?」


 それはハナコだった。柱を彷彿とさせる両腕に背中を支えられた真緒。


 「グォオオオオ……マ…………オ……ちゃ……ん」


 「ハナちゃん……」


 獣を越えた存在。もはや理性など残っている筈が無いのに、確かに“マオちゃん”と話し掛けて来たのだ。


 「お願い!私をヴァルベルトさんの所まで飛ばして!!」


 「止めろマオ!!何を考えているんだ!?」


 「もう時間が無いんですよ!!油断している今なら、上手く行く筈です!!」


 真緒がこれから何をしようとするのか、フォルスでも想像出来た。しかしそれはかなり危険な賭けとなる。


 「その前にお前の体が壊れてしまう!!お願いだ!止めてくれ!!」


 「フォルスさん…………ごめんなさい!ハナちゃん!!やって!!」


 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 「止めるんだ!マオーーー!!!」


 インパクト・ベア。ハナコの両腕から放たれた強烈な衝撃は、真緒へと伝わりそのまま勢いに乗せてヴァルベルト目掛けて、吹き飛ばされた。


 「ぐっ……!!……おおーーー!!!」


 「ナ、ナニーー!!?」


 全身が引き裂かれてしまいそうな、激しい痛みに襲われるも必死に耐え抜き、戸惑いを見せるヴァルベルトに最後の希望をぶつけた。


 「スキル“過去への断罪”」


 真緒のスキルが放たれた。すると、ヴァルベルトの体は白い球体に包み込まれた。


 「(な、何だこれは……いったい何が……こ、これは!!)」


 白い球体に包み込まれた瞬間、ヴァルベルトの脳裏に今まで起こった全ての出来事が走馬灯の様に甦る。血の渇望で変化した事、大きな古時計を壊された事、真緒達がこの城に足を踏み入れた事、四天王だった頃の事、次々と過去の出来事が脳裏に甦る。そして、エルとの出来事も甦る……肉人形では無い本物のエルとの出来事を…………。


 「ヴァルベルト……ヴァルベルト……」


 「(その声は……エル……君なのか……?)」


 とても懐かしく、優しい声が耳元に聞こえて来る。


 「ヴァルベルト……ヴァルベルト!ヴァルベルト!起きなさい!!」

次回、ヴァルベルトとエルの過去が明らかとなります。

お楽しみに!!

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