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笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~  作者: マーキ・ヘイト
第八章 冒険編 狂乱の王子ヴァルベルト
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真緒 VS ハナコ(中編)

今回は中編となります。

 「…………あれ、痛くない?」


 ハナコの攻撃をまともに食らった筈の真緒だが、いつまで経っても痛みが来なかった。


 「いったいどうして…………?」


 真緒がハナコの方に目線を向けると、そこには…………。


 「マオさん、大丈夫ですか?」


 「マオ、遅れてすまんな……」


 「リーマ!フォルスさん!!」


 そこには、ハナコの両腕をそれぞれ受け止めるリーマとフォルスがいた。


 「二人供……その怪我!?」


 しかし真緒が見た二人は、傷痕が生々しい姿だった。


 「ああ、ちょっとばかし手こずってしまってな……」


 「でも安心して下さい。しっかりと倒して来ましたから……」


 息が荒く、満身創痍の二人。立っているのが不思議な位だ。


 「ほぉ……トサリとラミーを倒したか。中々やるようだな……」


 「ヴァルベルト様……」


 「おお、エル戻ったか」


 ヴァルベルトが真緒とハナコの戦いを眺めていると、肉人形のエルがエジタスとの出来事を終えて戻って来た。


 「お前も一緒に見ると良い。もうすぐお前への生け贄が揃う所だからな……」


 「はい……」


 エルは敢えてエジタスとの事を話さず、黙って真緒達の戦いを見届ける事にした。


 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 「これがあの、ハナコだって言うのか…………」


 「ハナコさん……」


 「全部私が悪いんです……」


 「「えっ!?」」


 突然自分が悪いと言い出す真緒、事情を知らないリーマとフォルスは驚きの表情を浮かべる。


 「ハナちゃんは、自分だけ成長が遅れている事に苦しみ悩んでいました。それなのに私は気づかずに…………こんなのではリーダー失格です」


 「マオさん…………」


 「マオ……」


 するとフォルスはマオへと近づき、パン!!と、手加減無しのビンタを食らわした。


 「!!?」


 「フォルスさん!!いったい何をしているんですか!?」


 突然起きたフォルスの奇行に、真緒は何が起きたのか一瞬分からず、リーマはビンタをしたフォルスに怒鳴った。


 「マオ、お前は何様のつもりなんだ。仲間の苦しみに気づけなかったからリーダー失格?ふざけた事を言うな!!」


 「フォルスさん……」


 「いいかマオ……そもそもリーダーなんて者は、パーティーの結束や指揮をする為の言わば象徴の様なものだ。この人がいるからこのパーティーは大丈夫。この人がいるからこのパーティーは強い……だがそれは、裏を返せばお互いを信頼していない証拠だ!!」


 「「!!!」」


 「本当にお互いを信頼し合っているパーティーに、結束を固めたり指揮を取る為のリーダーなんて必要か?いや、必要な訳が無い。信頼し合っているのなら、パーティーの安心や強さを分かっている筈だ。それをお前は……気づけなかったからリーダー失格だと!?それは遠回しにハナコの事を心の底から信頼していないと同じ事だ!!!」


 真緒は涙を流した。フォルスの言葉が深く心へと突き刺さったのだ。真緒はずっと、このパーティーは最高だと思っていた。だが心の何処かで、著しい成長を遂げる自分と他の仲間を比べて、パーティーは自分が引っ張って行かなくてはと、思う様になっていた。それが仲間を信頼していない事だと知らずに……。


 「フォルスさん!いくら何でも言い過ぎですよ!!」


 「ううん、いいんだよリーマ……」


 「でも、マオさん……」


 今の今まで膝を付いていた真緒だったが、ゆっくりと立ち上がる。


 「フォルスさん、私やっと気づく事が出来ました。パーティーの本当の意味、仲間を信頼する大切さ、そして本当のパーティーにリーダーなど必要無い事が!!」


 「…………ふっ、漸くいつものお前に戻ったか。そうでなくっちゃな」


 「でもー、さっきのビンタは痛かったですよー」


 真緒は叩かれた頬を擦りながら、フォルスへと詰め寄る。


 「あ、いや、あれはお前の目を覚まさせる為にだな……」


 「あー、痛い痛いとっても痛いなー」


 「フォルスさん、マオさんの信頼を取り戻すのには時間が掛かりそうですね」


 「あ、あははは……こりゃまいったな……」


 困った様に頭をかくフォルス。先程までの刺々とした雰囲気は無くなり、とても穏やかな雰囲気になった。


 「おやおや、仲間割れをしたと思って攻撃を止めたのだが……再開してもよろしいかな?」


 「ああ、すまなかったな。ウチの“リーダー”はちょっと感情の起伏が激しくてな……」


 「そうか、では遠慮無く……殺れ」


 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 ヴァルベルトの命令に再び活動し始めたハナコは、真緒達に向かって巨大な爪で凪ぎ払って来た。雄叫びしかあげないハナコだが、“絶望の爪”とスキルを唱えたかの様に爪が緑色に変色した。


 「皆、避けろ!!」


 「「!!」」


 寸前の所で回避に成功した真緒達だったが、ハナコの爪から緑色の液体が滴り落ちて、床を溶かした。


 「毒!?」


 「これは厄介だな……どうするマオ?」


 「決まってますよ……あの爪に当たらずハナちゃんを助け出しますよ!!」


 「相変わらず、無理難題を軽々と言うな……だが、マオらしい」


 かなりのSTRとVITを持つハナコの攻撃を、当たらずに助け出そうと無茶ぶりをする真緒に呆れるフォルスだが、その顔は何処か嬉しそうだった。


 「それじゃあ、私から行きますね!!」


 「リーマ、一番酷い怪我なんだから無理しなくてもいいんだよ?」


 「心配してくれてありがとうございます…………でも、私だってハナコさんを助けたいんです!!“スネークフレイム”」


 リーマの魔導書から、炎で形成された蛇が生み出され、ハナコに向かって放たれる。


 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 見事命中し、メラメラと燃え上がるがハナコは平然とした様子でいた。


 「そ、そんな!?」


 「次は俺だ!!悪いがハナコ、少し痛い目にあって貰うぞ!」


 フォルスは天井ギリギリまで飛び上がり、弓矢をハナコに向けて構える。


 「“ウインド”」


 フォルスの矢に風がまとわりつく……。強い力に、カタカタと震える弓矢をしっかりと指で押さえる。


 「さぁ、特と味わいな!“ブースト”!!」


 フォルスの弓から矢が放たれ、ハナコ目掛けて一直線に向かう途中、風魔法の力で加速して肉眼では追えない速さでハナコに当たった。


 「良し、命中し…………な、何!?」


 命中したと思われたフォルスの矢は、ハナコの筋肉に負けて突き刺さらなかった。


 「ふははは、そんな粗末な攻撃で倒される程、彼女は甘くは無いぞ」


 「く、くそっ!!」


 「それなら私が!」


 今度は真緒が、ハナコに向かって攻撃を仕掛ける。しかし今度のは前と違って迷いの無い本気で救おうとする攻撃だった。


 「スキル“ロストブレイク”!!」


 真緒の渾身の一撃が、ハナコへと放たれた。攻撃は見事命中した。


 「グォオオオ…………」


 「やった!効いていますよ!!」


 「ふふふ…………」


 「「「?」」」


 ヴァルベルトが不適な笑みを浮かべると、ハナコが負った筈の傷がみるみる内に塞がってしまった。


 「そ、そんな!!?」


 「言い忘れたが、我の眷属になった者は驚異の自己回復力を持つのだよ。倒したければ、回復力が追い付かない程の攻撃を叩き込まなければならないぞ……」


 トサリやラミーの時は、致命傷となる一撃を与えていた為倒す事が出来たが、ハナコの場合は殺さずにダメージを与えねばならない為、ほぼ不可能に近い。


 「そ、そんな……これじゃあ、いつまで経ってもハナちゃんを助けられない……」


 「マオ!危ない!!」


 「マオさん避けて!!」


 「!!」


 油断してしまった。受け入れがたい現実に気を取られ、目の前のハナコが爪を振り上げているのに気づかなかった。


 「し、しまっ……!!」


 これから来るであろう痛みに、思わず目を瞑る真緒。


 「…………あれ?」


 しかしまたしても、いつまで経っても痛みが来ない。リーマとフォルスは後ろにいる為、間に合う筈が無い。それなのに何故痛みが来ないのかが不思議だった。恐る恐る目を開けると……。


 「いや~、危機一髪って所ですかね~?」


 「し、師匠!?」


 ハナコから、かなり離れた位置に移動しており、真緒はエジタスに抱き抱えられていた。


 「遅れて申し訳ありません。“道楽の道化師”エジタス、只今参上!!」

ここで満を持してエジタス登場!!

次回もお楽しみに!!

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