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笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~  作者: マーキ・ヘイト
第八章 冒険編 狂乱の王子ヴァルベルト
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無情な現実

今回は、かなり衝撃的な内容になっていると思います。

 「~~♪~~~~♪」


 陽気な鼻歌が城中に響き渡る。エジタスは、真緒に頼まれた禁じられたアイテムである、大きな古時計を探していた。


 「さ~てさて、いったい何処にあるのでしょうかね~?」


 分かりましたと言って探し始めたが、肝心の場所が分からない以上、手当たり次第に部屋を廻って行くしか無い。


 「う~ん、この部屋では無いですね~?」


 エジタスはいくつかの部屋を見て廻るが、どの部屋にも大きな古時計は無かった。


 「ありませんね~、何処にあるのやら…………ん?」


 次の部屋へと向かおうとするエジタスの目線の先に、見覚えのある女性が立っていた。


 「エジタス様……」


 「これはこれはエルさん、このような場所で何をしているのですか~?」


 「それはこちらの台詞ですよ」


 エルは冷たい目線で、エジタスを見つめる。


 「すみませんね~、実は今大きな古時計を探していまして……何処にあるのか知りませんか?」


 「教えると思いますか、“肉人形”の私が……」


 「へぇ~、自覚はあるのですね~?」


 禁じられたと言っても所詮アイテムはアイテム。感情を持つなどあり得ないと考えていたエジタス。


 「勿論です。私は誰の心にも寄り添える様にと作られた存在です。いざとなれば、怒る事や泣く事だって出来ますよ」


 「ほぉ~、では自分がヴァルベルトさんの婚約者、エルさんでは無いと認めるのですか?」


 「はい、どう足掻いても所詮は人形……本物にはなれません。しかし、私は本物以上の魅力があると自負しております」


 本物にはなれない。しかし、本物以上の力を持っていると自信満々で宣言した。


 「成る程……肉人形としての自信という訳ですか」


 「その通りでございます。それで……エジタス様は本当にあの大きな古時計を壊すつもりですか?」


 「いや~、私的には別にどうでもいいんですが……マオさんからの頼み事なのでね~」


 「……どうか考え直して貰えないでしょうか…………」


 エルがこちらへと歩み寄って来る。目と鼻の先という所まで近づくと、耳元でそっと話し掛ける。


 「もし、考え直して下さると言うのなら……エジタス様が望む姿になりましょう」


 「生憎ですが、そう言った人は思いつかないので無理ですね~」


 「……本当にそうでしょうか?」


 不適な笑みを浮かべながら、エジタスを見つめるエル。


 「実は私にはそっくりになれるだけで無く、その人の記憶から最も会いたいと思う人物を読み取れるのですよ」


 「!!?」


 「だから……この様に、エジタス様が最も会いたい人物になる事が出来ます」


 そう言うとエルの顔や体型が徐々に変化して行き、そこに立っていたのはエルとは全く違う別人だった。白髪に二本の角を生やし、少し年老いた笑い(じわ)が特徴的な老婆であった。


 「さぁ、思う存分甘え……がぁあ!!?」


 謎の老婆に姿を変えた肉人形だったが、突如エジタスに片手で首元を持ち上げられた。掴む力が強く、上手く呼吸が出来ない。必死に抵抗するがビクともしなかった。


 「何のつもりだ…………?」


 「がぁあ…………」


 首を絞められ、言葉すら発せられない。酸素を取り込むのが精一杯である。


 「私は言いましたよね……“どうでもいい”と……あなたがどうなろうが、ヴァルベルトがどうなろうが、私にとっては全てどうでもいいんですよ……」


 「がぁ…………」


 「だけど、その姿で私の名前を呼ぼうと言うなら……古時計の代わりにお前自身を壊してやろうか…………」


 いつもの陽気な声や、たまに出る独り言ではない。今までに無かった、殺意が滲み出る声…………肉人形が初めて感じる感情、それは“恐怖”。人形である筈なのに死の恐怖を感じていた。


 「今すぐ元に戻れ…………」


 「がぁ…………!!」


 再び顔や体が変化して行き、エルの姿へと戻った。


 「…………」


 それを見届けたエジタスは、首を絞めていた手を離した。


 「……かはぁ!!……はぁ……はぁ……はぁ……」


 「十秒以内にどっかに行け……さもないと今度こそお前を粉々に砕いてやるからな……」


 「!!!」


 エルはふらふらになりながらも、急いでエジタスの側を離れ去った。するとエジタスは、エルの首を掴んでいた手を見つめて呟いた。


 「…………はぁー、何やっているんだろう……“俺”」


 エジタスの声は虚しく、城に響き渡った。その時、近くの扉が少し開いており隙間から中の様子を伺えた。


 「ん……?お、おお~!!これはこれは……漸く見つけましたよ~」


 その部屋はヴァルベルトの自室であり、中には目当ての大きな古時計があった。


 「大きなノッポの古時計~♪お爺さんの時計~~♪」


 エジタスは、歌を口にしながら部屋の中へと入って行くのであった。




***




 「この廊下を真っ直ぐ行った先が、玉座の間です!!」


 真緒達はハナコを救出する為、生け贄が行われる玉座の間へと向かっていた。因みにその場所は、ハナコを捜す中で何回か入っていたので知っていた。


 「もう少し、もう少しの辛抱だからね。必ず助けるから……」


 「ん……?何だあの部屋は?」


 真緒達が、玉座の間に行こうとするその先に一つの扉があった。


 「確か、食堂の筈です!」


 「食堂なら、玉座の間まではもうすぐだ!!」


 「突入するよ!!」


 真緒達は勢い良く、食堂の扉を開けた。中に入るとテーブルや椅子は無くなっており、家具が何も置いてない広い部屋となっていた。そんな部屋の真ん中に一人の悪魔が立っていた。


 「はいはーい、待ってたよー!」


 「お前は…………?」


 「俺はヴァルベルト様の眷属、“トサリ”って言うんだよろしく!!」


 眷属であるトサリは、敵である真緒達に対して気さくに話し掛ける。


 「つー訳で、ここから先には行かせないよー」


 「「「!!!」」」


 「くっ、急いでいるのに……」


 「マオさん……先に行って下さい」


 思わぬ者に行く手を阻まれ、時間を取られると思った矢先、リーマは真緒達を先に行かせ様とする。


 「リーマ…………!?」


 「ハナコさんを助けるんですよね。安心して下さい、私も終わったらすぐに駆けつけますから……」


 「…………ありがとう。行きましょうフォルスさん」


 「ああ…………」


 リーマの言葉を信じた真緒達は、リーマ一人を残して先を急ぐ。


 「おっと、そう簡単には行かせな……「“スネークフレイム”!!」……!!」


 突然、トサリに向かって炎の蛇が襲い掛かって来た。それに素早く避けたトサリだが、代わりに真緒達を取り逃がした。


 「あなたの相手は私です!!!」


 「…………」




***




 「ヴァルベルト様……どうやら、奴等がこちらに向かっている様です」


 玉座の間。ヴァルベルトはハナコを生け贄にしようと、準備をしていた。


 「ほぉ……あのゾンビ達を退けたか……」


 「万が一を考えて、私も防衛の配置に戻ります。ヴァルベルト様も、もしもの時に備えて“例のアレ”を用意した方が良いと思われます……」


 「そうだな……念には念を入れないとな……」


 そう言いながらヴァルベルトは、気絶して横たわるハナコを見つめるのであった。




***




 「あの部屋です!!」


 玉座の間へと急ぐ真緒達の目線の先に、一つの扉が見えて来た。その扉こそが玉座の間の扉である。


 「良し、もうすぐだ!!…………あれは!?」


 しかし、その扉からある一人の男が出て来た。


 「私はヴァルベルト様の眷属、“ラミー”この扉より先はヴァルベルト様が待つ玉座の間、通す訳には行かない!」


 「あとちょっとなのに…………」


 「マオ……先に行け」


 またも行く手を阻まれた真緒達だが、今度はフォルスが真緒を先に行かせ様とする。


 「フォルスさん……でもそんな……」


 「リーマも言っていただろう?ハナコを助けたいのなら、先に行け。なぁに、すぐに倒して追い付いてやるさ……」


 「…………分かりました。フォルスさん、絶対無事でいて下さいね!!」


 そう言うと真緒は、フォルスを残して玉座の間へと入って行った。


 「止めないんだな…………」


 「止める必要は無い。何故なら、あの女はもう一人の眷属によって殺されるのだからな……」


 「まだいたのか!?」


 「ああ、とびっきりのがな…………」


 そう言うラミーの顔は、とても邪悪な笑みを浮かべていた。


***


 「ようこそ、愚かな小娘よ……」


 「ヴァルベルトさん……」


 玉座の間。真緒の目線の先には、玉座に腰を掛けて足を組むヴァルベルトがいた。


 「まずはおめでとう、よくぞあのゾンビ達を打ち倒しここまで来た」


 「そんな事より、ハナちゃんは……ハナちゃんは何処ですか!!?」


 「まあまあ、そう慌てるで無い。今すぐ呼んでやる」


 するとヴァルベルトは、指をパチンと鳴らした。その瞬間、大きな地響きが真緒を襲った。それはまるで巨大な“何かが”こちらに向かって来る様だった。


 「えっ…………」


 「さぁ、感動の再会と行こうか?」


 姿を現した“それ”は、体長約三メートル。ガントレットが弾け飛んでしまうのではないかと思わせる程、柱を彷彿(ほうふつ)とされる太い腕と足。膨れ上がった筋肉に全身を覆い尽くす剛毛。歯茎を剥き出しにして、口から泡や涎が滴る。かつてのつぶらな瞳はもはや存在せず、血走った(まなこ)が光っていた。


 「ハナ…………ちゃん…………?」


 「グォオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 現実はいつも無情である。

まさかのハナコが敵になってしまった!!

次回もお楽しみに!!

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