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出会い(二回目)

今回はこの世界の基本情報の説明もあります。

 「これは……いったいどういうことなのでしょうか?」


 「私供も分かりかねます」


 異世界から来た筈の真緒のステータスが、とてもじゃないが信じがたく、シーリャ含め三人は困惑していた。


 「何々?どうしたの?あいつのステータスがどうかした?」


 愛子が戸惑っている三人に声を掛ける。


 「それが……マオ様のステータスが最高でも20しかありません」


 「あっはははは!!まじで!?」


 あまりの低さに笑いこける。


 「他に、他には何かないの?」


 「スキルや魔法なども一切ありません」


 「あっはははは!!」


 再び笑いこける愛子。必死に笑いをこらえる舞子が真緒に話しかける。


 「あんたって駄目な奴だと思ってたけど、異世界に来ても駄目なのねー」


 「……………」


 何も言えない。事実を突きつけられ落ち込みを隠せない。


 「粗悪品か…………でもまぁ、三人も勇者クラスがいるからいっか…………」


 小さく呟いたシーリャの言葉は真緒にだけ聞こえていた。


 「では皆さん、これからこの世界の事について説明させて頂きます」


 シーリャの言葉に四人は耳を傾ける。


 「まずこの世界には、大きく分けて二つの国が存在します。私達人間が治めるカルド王国。魔族が治めるヘラトス魔族国家。長らく人間と魔族の戦争は均衡を保っています。これも私達の努力の賜物でしょう。」


 真実を知らないとは何と恐ろしい事なのだろう……。シーリャは勘違いを加速させていく。


 「魔族には四天王と呼ばれる魔王の側近のような人達がいます。黒白のシーラ、両刀のアルシア、破壊兵器ゴルガ、そして狂乱の王子ヴァルベルト」


 当然のようにエジタスの名前は知られていなかった。


 「この四天王の上に君臨しているのが魔王、皆さんが倒すべき最終目標です」


 「質問いい?」


 「何ですか?」


 「その魔王ってどんなやつなの?」


 「それは不明です。しかし噂によると体長四、五メートルを越える巨大な魔族と聞いています」


 随分と誇張されたサタニアの情報である。


 「まじ!?おっかねー」


 「続いてスキルと魔法について説明します」


 「あ、それそれ。それ聞きたかったんだ。」


 「皆さんのステータスにも表示されていましたが、スキルとは、皆さんが今就いてる職業に応じて、取得できる技のことです。またレベルを上げていくごとに、より強いスキルを取得できます」


 「成る程、因みに王女様「シーリャ」……え?」


 「私のことは、シーリャとお呼びください、セイイチ様」


 「わかったよシーリャ。それで何だけど、途中で職業を変えることは出来るのかな?」


 「お役に立てず申し訳ありません。一度就いた職業は、どんなことがあろうとも変えることは不可能です」


 「……そうですか分かりました。」


 シーリャと呼び捨てにしたことで、それぞれ二人の女と二人の男から睨まれていたが、気づくことはなかった。


 「それでは気を取り直して、次は魔法について説明させて頂きます」


 「魔法ってあれでしょ、手から炎が出たりする……」


 「はい、魔法は大きく分けて二種類あります。攻撃系魔法と非攻撃系魔法です。攻撃系魔法は火、水、風、土、光、闇の六つに分かれます。魔法はスキルとは違い適正が存在します。それは、生まれながらにして与えられる恩恵であり、努力ではどうすることもできません。子供の頃から使える者もいれば、大人になっても使えない者もいるのです。また、魔法には多くの種類があり、どれに適正があるかは運次第なのです。一種類あれば儲けもの、二種類だったら奇跡、三種類は最早、英雄の領域です」


 「えー、じゃあ三種類ある聖一さんは、英雄っていうことですか?」


 「流石、聖一さん!」


 「止してくれ二人とも。英雄はなるものじゃない、周りの人から認められてなるものなんだ」


 かっこよく語っているがそれはつまり、周りから認められている聖一は、英雄であるという紛れもない証明であった。


 「でも待って、私の魔法は氷魔法になってるけど、さっきの説明に氷は入っていなかったよね」


 「はい、アイコ様のはユニーク魔法と呼ばれる、その人だけが扱える専用の魔法なのです」


 「そうだそうだ、そんなことさっき言ってた」


 「最後になりましたが、この世界の通貨をご説明させて頂きます」


 そう言うと、青いローブの男の一人が、シーリャに一枚の金色のコインを手渡す。


 「これがこの世界の通貨“カルドコイン”です。この国の他に、様々な町や村で使われています。価値の基準として下から銅、銀、金、白金、黒金になります。銅一枚で1k、銀一枚で1万k、金一枚だと100万kとなり、白金クラスになると一枚で1000万k、黒金一枚で1億kにもなります。それぞれの価値の差は銅一万枚で銀一枚、銀千枚で金一枚、金百枚で白銀一枚、白金十枚で黒金一枚と計算されています。…………ここまでで分からない人はいますか?」


 一人も挙手する者がいないところを見ると、一応全員理解は出来ているようだ。


 「それでは説明は以上になります。これから皆さんのお部屋を案内させて頂きます」


 シーリャは青いローブを着た二人の男達に目配せをすると、四人の前へと歩み寄る。


 「私について来てください。城の中は広いので、迷子になるおそれがありますので……」


 そう言うとシーリャは部屋を出ていく。それについていく四人だったが……。


 「マオ様。お待ちください」


 「え?」


 「マオ様のご案内は、我々がさせて頂きます」


 「え……あの……」


 声を掛けられている間に、シーリャと三人は歩いて行ってしまった。


 「こちらです」


 「あ……はい」


 二人はマオを連れて、シーリャ達とは逆の方向へと案内する。


 「…………」


 「…………」


 「…………」


 沈黙が流れる。しばらく歩いたが、誰一人として喋ろうとしない。しかし、沈黙に耐え兼ね真緒は口を開いた。


 「あ……あの……」


 「黙って歩け……」


 「!…………はい」


 先程までの丁寧な口調とは裏腹に、とても攻撃的な言葉に再び口を閉ざしてしまう。


 「…………」


 「…………」


 「…………」


 それからまたしばらく歩いていると、巨大な鉄格子の門が見えてきた。門の前には鎧を着た兵士が二人立っており、鉄格子は上がっていた。


 「さぁ、さっさと出ろ!」


 「え……あ、きゃあ!」


 いきなり背中を押され、城から追い出された。


 「あ……あの」


 「ほら、受けとれ」


 真緒が地面に倒れていると、目の前に小さな革袋が投げ捨てられた。中を確認すると、銀のカルドコインが五十枚入っていた。


 「それで数日は生きられるだろう。あとは勝手にしろ。門を閉めろ!」


 その瞬間、上がっていた鉄格子が降りてきて、完全に閉じた。


 「え、あの……これ……って……」


 「ん?何だお前まだいたのか?さっさと消えろ」


 「いや……だから……その」


 「ハッキリしない奴だな!何が言いたい!?」


 「ああ、そういうことか」


 青いローブの男の一人が、倒れている真緒に合わせてしゃがみ込み、鉄格子越しに言う。


 「お前はな、見捨てられたんだよ」


 「え?」


 「こっちも暇じゃないんでね、お荷物の世話なんて出来ないんだよ」


 「…………そんな」


 理解できなかった。勝手に連れてきて使えないと分かると、少しの手切れ金を渡して捨てるなんて……。青いローブを着た二人の男達は、絶望した私の顔を見ると鼻で笑い、その場を去っていった。追い出された私は、これからどうしていいか分からず、ふらふらと城下町の方へ歩いていった。


***


 「…………これからどうしよう」


 城下町に入ると、そこは活気に満ち溢れていた。色々な人の会話が聞こえてくるが、真緒には興味が無かった。路地裏の入口辺りに座っていると……。


           ポトッ


 「あ……」


 前を歩いていた男の人のポケットから、ナイフらしき物が落ちた。私は落ちたナイフを素早く拾い、その人に届けようとした。だけど…………。

 

 「えっ……と……あ……の……そ……」


 まただ。また声が上手く出せない。中腰になりながら、その男の人をつける形になってしまった。そして…………。


 「ん、どうしましたか?」


 「え……これ……は……ご……かいで……」


 また勘違いされる。異世界に来ても私は“泥棒”なのか……。そう思っていた。しかし……。


 「大丈夫ですよ。ゆっくり話してください」


 「え…………はい」


 初めてだ。いつもは「もっとハッキリ喋れ」などと言われていたのに、こんなにも優しい言葉をかけてもらったのは……。


 「…………これ……落とし……ましたよ」


 「え?」


 すると男は自分のポケットに手を突っ込み、探し始める。そしてないと分かると……。


 「お~!ありがとうございます!まさか拾って届けて下さるとは、感謝感激です」


 お礼を言われた。嬉しかった。これまで散々虐められてきた私だが、この感謝の言葉だけでもう思い残すことはない。


 「いや~本当にありがとうございます。よろしければ、お名前をお聞かせ願いませんか?」


 「えっ、あ、その……。さ、佐藤 真緒です」


 「マオさん!この度は本当にありがとうございます。私の名前は……」


 クルッと一回転すると手を顔の横にやり小刻みに振る。


 「“道楽の道化師”エジタスと申しま~す」

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