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笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~  作者: マーキ・ヘイト
第七章 冒険編 極寒の楽園
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我が儘

今回も後半でエジタスが暴れます。

 「でも、いったいどうやってあの兄妹を助けるつもりなんですか?」


 真緒達は、林から小屋まで歩く途中でケイとイウの兄妹を救う為の策を練っていた。


 「そ、それは…………」


 「何も考えていなかったんだな……」


 無計画の真緒に、呆れた様子で頭を押さえるフォルス。


 「うー、取り敢えず行動しなくちゃ、と思って……」


 「はぁー、それならしょうがない。一度エジタスさんの所へ戻って……「駄目!!」」


 来た道を戻ろうと提案するも、それを否定する真緒。


 「何故だ?」


 「あんな大口叩いた手前、やっぱり出来ないだなんて言えません……」


 「そうは言ってもな……何の考えも無く行っても意味が無いぞ?」


 「分かっていますけど……」


 良い解決策が思い付かず、悩んでいるとハナコが口を開いた。


 「マオぢゃん、オラに良い考えがあるだよぉ!」


 「えっ、本当!?」


 「うん、マオぢゃんが持っている“純白の剣”を使えば良いんじゃないがなぁ?」


 「成る程……呪いや悪霊が原因では無いとすると、ステータスの異常低下かもしれないな」


 「ちょっ、ちょっと待って下さい!ステータスの低下で、目が覚めなくなる事なんてあるんですか?」


 勝手に納得してしまう仲間達に、真緒が慌てて問い掛ける。


 「ああ、ステータスの中でも“LUK”が極端に低いと、自身が想像もつかない様な不運に見舞われると言われているんだ」


 「そんな事があるんですか……」


 ステータスの重要性を再確認する事が出来た真緒。


 「可能性としては、それしかありませんね」


 「そうだな……残念だが、これ以上は思い付きそうに無い」


 「大丈夫だよぉ、ぎっどあの子は目を覚まじでぐれるだぁ」


 「よし、行くよ!!」


 「「「はい!!」」」


 真緒達は意を決して、ケイ、イウ、二人の兄妹が待つ小屋へと足を運ばせるのであった。




***




 「まだいるかな?」


 真緒達が小屋の中を覗くと、先程と変わらぬ様子で妹を看病するケイがいた。


 「ん?何だ……またお前達か、さっきも言ったが俺は謝りに行く資格が無いんだ」


 真緒達の存在に気が付いたケイが、歩み寄って来た。


 「違います。今回の私達は、ケイさん達を助けに来たんです!」


 「俺達を助ける……どういうつもりだ?」


 「別に見返りを要求しようという訳ではありません。もしかしたら、イウさんを目覚めさせる事が出来るかもしれません」


 「な、何!それは本当か!?なら、早くこっちに来てくれ!!」


 「え、あ、そんな強く引っ張らないで下さい……」


 目覚めさせられるかもしれないと聞いて、ケイは急いで真緒を妹の寝床まで腕を引っ張って行く。


 「それで……どうやって目覚めさせるんだ?」


 「それはこの“純白の剣”を使います」


 真緒は腰から光輝く、真っ白な剣を抜いて見せた。


 「“純白の剣”?」


 「この剣には、相手の補正効果を全て無効にする能力が備わっているんです。この能力を使って、イウさんの目を覚まして見せます!」


 「補正効果を無効?いったいどういう事だ?」


 「簡単に説明する」


 フォルスは、ここまでの経緯を手短にそして分かりやすく、ケイに伝えた。


 「……成る程な。“LUK”の極限的な低下、それは盲点だった」


 「はい、試す価値は十分あると思います」


 「分かった。ここはお前達を信じて任せる。妹を、イウを救ってやってくれ!!」


 「そのつもりです…………“純白の剣”!!」


 息を整えた真緒は、剣を前にして寝ているイウに構え、力を解放した。すると剣が真っ白に光輝き出した。


 「おお……こ、これなら、もしかすると……」


 ケイの顔に期待の色が浮かび上がる。


 「行けーー!!」


 しかし、次第に剣の光は弱くなっていき、遂には収まってしまった。


 「ど、どうだ……?」


 ケイが急いでイウの顔を覗き込むが、いつまで経っても目覚める気配は無かった。


 「駄目だったか……」


 「…………ありがとうな、わざわざ俺達兄妹の為に一肌脱いでくれて、お前達の気持ちは伝わったよ……」


 「ケイさん…………」

 

 「まだです!まだ諦めてはいけません。他に方法がある筈です!!」


 重たい空気の中、真緒だけが未だに諦めずその場をウロウロと歩き回りながら、考え始めた。


 「……なぁ、何でお前はそこまでして頑張るんだ?友人や家族でも無い、只の他人なのに……」


 「理由なんてありませんよ!」


 「えっ…………?」


 「人助けに理由なんか不要です!」


 あれこれと歩きながら考え、ケイの問いに平然と答える真緒だったが、動きを止めて顔を見合わせる。


 「そうですね…………無理矢理理由を付けるのであれば、単なる私の我が儘です」


 「わ、我が儘だと?」


 ケイは驚いた。さっきまで妹を真剣に助ける姿をしていたまるで、ヒーローの様な人が自分の我が儘で人助けをしているのだ。


 「私は、幼い頃に母を亡くしました。勿論、家族が亡くなったのは凄く悲しかったです。でも……何よりも悲しかったのは、死に行く母に何もしてあげられなかった事です」


 「!!!」


 「惨めだった。悔しかった。悲しかった。そんな悔やみ切れない想いが、私の中でずっと根付いていました……でも、そんな時ある人が言ってくれました。『人の生き死にで大事なのは、その人が幸せだったかどうか』って、その時から心に決めたんです。例えどんな結果になってしまったとしても、悔いの無い生き方をしようと!!」


 「お前……」


 この時、真緒の脳裏には師匠であるエジタスの顔と亡き母の顔が思い浮かんでいた。


 「…………ははは、そうだよな。悔いの無い選択をしないといけないよな」


 そう言うと、ケイは寝ているイウの側へと寄った。


 「兄ちゃん、また出かけて来るよ。自分が犯した過ちに対してちゃんとケジメを付ける為に……我が儘な兄ちゃんを許してくれ」


 優しく髪の毛を撫でると、ゆっくりと立ち上がり真緒達に向き直した。


 「俺も、そのスゥーさんの所へついて行くぜ」


 「「「「えっ、ええーー!!」」」」


 突然何を言い出すかと思えば、一緒にスゥーの所へついて行くと言い出した。


 「いったい、どういう風の吹き回しですか!?」


 「いや何、俺もそろそろ前に進まないと行けないと思っただけさ……」


 「ケイさん……」


 ケイの天井を見つめるその目は、覚悟を決めたと同時に寂しげな目をしていた。


 「よろしいんですか、妹さんの事……」


 「勿論、諦めた訳じゃねぇぞ!!だけどもし、イウが目を覚ました時にこんな汚れた兄は見せたく無いなって、そう思っただけだよ」


 「そうだったんですか……思い切って決断したんですね」


 「へへ、違うな。これは単なる俺の我が儘だ…………何てな!」


 「「「「「あはははは!!」」」」」


 ケイの言葉に、真緒達の心は和やかになっていった。


 「そうと決まれば、善は急げ。だけど、色々準備もしたいから明日の朝に出発してもいいか?」


 「構いませんよ」


 「よし、それなら今日は俺の家に泊まっていってくれ!!」


 「そんな、本当にいいんですか?」


 「ああ、只この小屋だと狭いから外での野宿になってしまうけど……」


 「「「「あ、あははは……」」」」


 先程の笑いとは打って変わって、渇いた笑いが小屋に響き渡る。そんなこんなで、真緒達は明日ケイを連れてスゥーの待つ“アンダーダウン”に戻る為、一日野宿する事になったのだ。












 






 その夜、真緒達とケイが小屋の外で寝ていると、一つの人影が小屋の中へと入って行った。


 「…………」


 誰であろう、エジタスである。エジタスは、寝ているイウの前まで歩み寄る。


 「少し、失礼しますよ……」


 そう言うと、エジタスはイウのおでこに手を乗せた。


 「“メモリービュー”」


 するとエジタスの脳みそに、イウのこれまでの出来事が映像の様に送り込まれて行く。


 「空間魔法、応用技の一つ。他者の記憶部分を自分の記憶部分に転移させる事で、他者の記憶を読み取る事が出来るのです」


 ぶつぶつと独り言を述べるエジタスは、次々とイウの記憶を読み込んで行く。赤ちゃんの頃のぼんやりとした記憶、幼い頃の両親が亡くなってしまった時の記憶、そして兄であるケイと一緒にこの“ダイヤモンドレイク”で楽しく暮らしている記憶と、様々な記憶が流れ込む。


 「…………見つけましたよ」


 その中でエジタスが見つけた記憶は、林の中でイウの目の前に羽の生えた不気味な姿をした紫色の小さな悪魔がいた。その悪魔は、イウの体へと入って行くとそれっきり出て来る事は無かった。


 「やっぱりですか……」


 エジタスが呟くと、今度はイウの左胸辺り心臓部分に手を乗せた。


 「ここですかね……“転移”」


 すると空中に、先程の記憶で目撃した紫色の悪魔が出現した。


 「ギ?……ギッ、ギギ!!?」


 突然外へ放り出された紫色の悪魔が戸惑っていると、エジタスがその悪魔を鷲掴みにする。


 「“ピクシーデビル”……妖精と悪魔の間に生まれた非常に珍しい魔物。その能力は、取り付いた相手を深い眠りに落として楽しい夢を見させ、その幸福な思いと、もっと楽しい夢が見たいという欲望の二種類をエサとしている。取り付かれたら最後、自身が望まぬ限り永遠に目が覚める事は無い…………全く、これでは目が覚める筈ありませんね」


 「ギ……ギギ……」


 徐々に掴む力が強くなっているのか、苦しそうにするピクシーデビル。


 「呪いでも悪霊でもステータス変化でも無い。まさか、悪魔が取り付いていたなんて誰が予想するでしょうか?」


 「ギギ……ギ……ギ……」


 「苦しいですか?すみませんね~実は私今、とてもイラついているのですよ…………」


 「ギギ!!」


 掴む力が急に強くなり、悲鳴をあげるピクシーデビル。


 「自分の元の性格を、払拭出来ていなかった…………それがとても腹立たしくて腹立たしくて……」


 「ギギ……」


 「でも、あなたには感謝しているのですよ~。あなたのお陰で早くに気づく事が出来た。本当に感謝しています……そのお礼と言っては何ですが、苦しませて殺して差し上げましょう!!」


 「ギ……ギギ……!!!」


 ギュッ、ギュッと、力を入れたり緩めたりを繰り返した。


 「でもやっぱり…………」


 何を思ったか、エジタスは小屋の外へと出て行き、空目掛けてピクシーデビルを投げ飛ばした。


 「ギギギギ!!?」


 「下級魔物の分際で、私をイラつかせました。その罪、死を持って償わせてあげましょう~“圧縮”」


 「ギャ………………」


 空中に投げ飛ばされたピクシーデビルは、“圧縮”の力で肉と骨がぺしゃんこになってしまい、大量の血と肉と骨が“ダイヤモンドレイク”にドボドボと落ちていく、すると湖は血と肉で真っ赤に染まった。辺り一面に物凄い死臭が漂い始める。しかしその時、“ダイヤモンドレイク”が光輝き瞬く間に元の美しい色の湖に戻り、死臭も既にしなくなっていた。


 「“ダイヤモンドレイク”その名前の由来は、どんなに汚されようとも元の色を保ち続ける為、一瞬で元に戻るその様子から、何者も寄せ付けない湖、“ダイヤモンドレイク”と呼ばれる様になりましたが……その昔、この湖の力を利用した死体捨てが流行したとかしなかったとか…………さぁ~て、あの妹さんは時期に目を覚ますでしょうから、私は林の奥でマオさん達が戻るのを待ちますかね~」


 こうして、眠り続ける少女の事件をあっさりと解決してしまったエジタスは、お馴染みの鼻歌混じりに林の奥へと消えて行くのであった。

万能過ぎる道化師……。

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