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妖怪白記  作者: 風風風虱
4/12

その四 骨傘

気分が悪くなるかも知れません。

申し訳ありません。

 重苦しい鉛のような雲から雨がボツボツと落ちてくる。

 梅雨の季節らしく、一週間程雨が降り続けていた。


ニィー


ニィー


 街の貧民窟を流れるドブ川に微かな鳴き声が響く。

 暗緑色で異臭を放つ水面(みずも)をゆっくりゆっくり流れる木の箱があった。

 鳴き声はそこから漏れ聞こえてくる。

 箱の中には薄汚れた布にくるまれた子猫が4匹。

 その内の1匹が助けを呼ぶようにしきりに鳴いていた。残りの3匹はピクリとも動かない。既に息絶えている。

 木の箱は打ち捨てられた命を乗せて、淀んで腐った川を流れていく。

 ゆっくりとゆっくりと流れていく。




 雨は止むことなく降り続け、はや二週間が経っていた。例年なら梅雨の明ける時期になってもお構い無く降り続けていた。

 増水した水面を朽ちた(からかさ)が流れていく。

 心棒は半分に折れ曲がり、傘布を突き破り親骨が何本も突き出ていた。赤茶けた染みは血糊のようだ。

 水面から顔を出している杭や破棄されたガラクタ等に引っ掛かったり、再び流れたり、フラフラしながら川を下る。

 と、コツンと木の箱にぶつかった。

 木の箱が震え、中からうわーんと不愉快な羽音と共に沸き上がる黒いモヤのような蝿の集団。

 その蝿のモヤの合間から猫の死体が垣間見えた。目玉の溶け腐った眼窩の中に白い蛆がのたくり、皮膚は破れ赤紫の膿が溶けた蝋のようにしたたり無惨な姿を晒していた。


カツン コツン


 朽ちた傘が川の流れに押され何度も木の箱を打つ。


カツン コツン カツン コツン


 粗略に扱い、壊れたら無慈悲に棄てられた事への苛立ち


カツ カツ カツ カツ


 命を物が如く遺棄する者への怒り


カツカツカツカツ カツカツカツ

カツンカツンカツンカツン


 傘が箱にあたる周期が早まる。

 水の力とは違う力が作用していた。


カツカツカツ カッカッカッカッ ツーーー


 木箱と傘を中心に奇妙な波紋が水面に広がる。

 耳障りな音が大きくなっていく。

 ザバンと激しい水飛沫が起き、傘が空に飛翔する。

 傘はクルクルと回転しながら夜の空へ高く高く舞い上がる。

 どんどん、高く、高く。

 そうして、やがて見えなくなった。


 その後、その川周辺では奇妙な熱病が流行り、多くの人が命を落とした。








2018/05/12 初稿

2018/08/17 形を整えました


次話は 火消婆(ひけしばば)の予定です

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