エルフ虐殺
もうすぐ完結です。
というわけで、焼け焦げの死霊の森を歩いて三十分。私たちはピラミッドに着いた。
オークから奪った鍵で内部に侵入。
内部にはミイラや巨大蛇や巨大クモ、あとスライムとスケルトンが多少いたけど、ぜーんぶ王子がぶった切りました。
で、あっという間にダンジョンの鍵をゲット。サクッとダンジョンへ。
ダンジョンの中にはスライムたくさん。
あとゴブリン。
全部王子が倒しました。
ダンジョンを出ると、目の前にエルフの住む谷があり、その奥にエルフ達が「聖なる山」と呼んでいる山があった。
「おい、フレイア。おそらく、あの山のどこかにあるぞ、エルフの宝」
「ええ、そうね」
王子はエルフの谷へスタスタ歩いていった。
「エルフに聞こう。宝のありか」
教えてくれるかしら?
私たちはエルフの谷に入り、エルフの集落を訪ねた。
人間が来るのは久しぶりらしく、エルフのこどもらが物珍しげに私たちを見に来た。
「人間のカップルだー」
「カップルだー」
え? 違うけど、そう見える?
「おい、ガキども。間違えんな。俺は王子、この貧乳にして貧しい村娘は俺の召使だ」
ちょっと、その紹介はひどくない?
ほんとクソ王子ね。
「ひんにゅーってなあに?」
エルフのガキが聞いた来たけど、無視。
私たちの姿を見て、エルフ村の長老が出てきた。村長でもあるという。
「これはこれは。この谷に人間が来るのは何百年ぶりじゃろう」
エルフのこどもが「人間だー」「数百年ぶりだー」とわいわいきゃいきゃいはしゃぐ。
王子は鼻でフン、と笑った。
「何百年ぶりなのか。よほどこの谷には来る価値がないと見えるな」
ちょっと、喧嘩売ってどうすんのよ!
「ほっほっほ。相変わらず人間族は乱暴じゃのう」
エルフの長老はおおらかに対応した。
ほんと、この王子乱暴よね。
私はひじで王子を小突いた。
「なんだ?」
王子が小声で聞いてきた。
「ちょっと、もう少し丁寧に応対できないの?」
「エルフといえど、魔族だ。隙を見せては舐められる」
「宝の場所を聞かないとダメなんだから、そんなんではだめでしょ?」
「フン」
エルフの長老がニコニコしながら、「これこれ、こそこそ話はいかんぞ」と警告した。
「す、すみません」
私は謝った。
「で、人間族が、こんなところに何のようじゃ?」
王子がずずずい、と前に出た。
「単刀直入に言おう。俺はとある国の王子だ。この近くの山にあるという『エルフの宝』を探している。なんでも願いを叶えるというやつだ」
本当に単刀直入ね。
「あーあれ。山にあった。あれか。あれのう。うーん」
エルフの長老が困った顔をした。
どうしたんだろ?
「あれはのう、もうないんじゃ」
え?
「ないって、どういうことですか?」
私は動揺を隠しつつ、長老に聞いた。
長老によれば、百年ほど前に、オークが強引に持ち帰ったという。今はオークシティの中央公園にあるそうだ。
王子の顔が真っ青になった。
そりゃそうでしょ。オークシティをこの世から消し去ったんだから。
私もがっかりよ。パウエル、もう私のところに帰ってこないの? チチョリーヌのものなの?
どうしよう。
「この腐れエルフめ! なんでオークなんかの言うことを聞いた!」
王子が逆ギレし始めた。
もう、本当に短気ね。
「仕方ないのじゃよ。オークは百万人以上おる。わしらは千人程度じゃ。寿命が長いぶん、数は少ない。わしも九百歳。人間の十倍、オークの二十倍長生きなのじゃ。その代償として、わしらの繁殖能力は低いんじゃ」
魔法も使えて、賢くて、聖霊とも会話のできるエルフ。数さえ多ければ、オークなんか相手にならないのにね。
「俺は……俺は……元の世界に帰れないのか!」
あ、王子が泣き出した。
泣き虫ね。ちょっとかわいいかも! なぐさめてあげよーかな?
「許さん。お前らみたいな軟弱魔族、種族ごと滅びるがよい」
ちょっと、なんかとても不穏なこと言ってんですけど、この男子。
「おい! そこのエルフのガキ!」
「ぼく?」
「そう、ぼくだ。こっちこい!」
てけてけ。エルフのこどもが王子の方へ歩いて行く。五、六歳にみえるけど、本当は五十歳くらいなのかしら?
「おい、お前、責任という言葉を知っているか?」
「ううん、しらない」
エルフのこどもは無邪気に答えた。
「なら教えてやろう。これが! 責任だっ!」
ドヒュ! という音がして、エルフのこどもの頭が私の足元に飛んで来た!
ひええええ! ちょ、なに? 何が起こったの?
あ、王子が手刀でこどもエルフの首を斬ったのね? すごい手刀!
って、そんな場合じゃないわよ!
「お、お主、なんてことを!」
長老の目が怒りと悲しみでいっぱいよ!
「うわああん、エルビンにいちゃーん!」
あ、あれ弟ね。かわいそうに。
「うるさい、この亜人!」
王子の右足がエルビンの弟の腹を直撃した。
「ぐうう……」
数メートル吹っ飛ばされたエルビンの弟は、苦痛のあまりうずくまる。
「兄のもとへ行くがよい」
王子が指の先から青白い閃光を発した。
あ、その光がエルビンの弟の額からうなじを貫通したわ……。
即死よね。
「ふん、下等な亜人のくせして、なにがお兄ちゃーんだ」
王子がエルビンの弟を蹴りながら言った。
こいつ、クズとかゲスとかそういうの超えている。ほとんど悪魔よ。
「うわああん、リバイくんが、リバイくんが!」
何人ものこどもエルフがリバイという名のエルビンの弟に駆け寄る。
あーだめ、あんたたち、死ぬよ……逃げた方が……。
「ふんクソガキめ。まとめてあの世行きだ。『デスホール』」
王子が叫ぶと、リバイの周りに真っ黒い穴が空いて、数人のこどもとリバイが一瞬の間に吸い込まれてしまった。
「ふん、下等亜人が友情だの愛情だの、しゃらくさいわ」
王子が笑う。
「ゆ、許さん! 貴様だけは許さん!」
あ、長老が怒った。
まあ、怒るわよね、普通。
私なんとなく王子のキャラになれたから、ひでーくらいの感想だけど、普通に考えて、残忍よね。
続々と大人のエルフが集まって来た。
「人間族め! 殺してやる」「よくもエルビンを!」「リバイ! リバイ! 私の息子を返して!」「エレエン! エレエンはどこ!」「ミキャサ! あたしのミキャサああああ!」
こども達を殺されたエルフの悲痛な叫び。わ、私は関係ないけど、なんか心痛いわ。
「ふん。下等亜人め。また生殖行為に励めばよかろう。そろそろ繁殖期か? ほれ、ここで繁殖行為やれ。見てやる。手伝おうか? ハーフエルフは有能な戦士になるというぞ」
まあ、下ネタね。やらしいわ。
「き、きさま!」
長老が激怒している。
「目にもの見せてやろう!」
長老がロングソードで王子に斬りかかる。
王子は自慢のドラゴンソードで剣を受けるけど、なんと、ドラゴンソードが折れてしまった!
「な、なに!」
王子が狼狽している。
「許さん。エルフの本気を見せようぞ!」
長老が王子の突進! あーこれ、王子死ぬわ。
「どはう!」
ほら。
あら? 「どはう!」って言ったの、エルフの長老?」
「なーんちゃって。ドラゴンソードがそんなに簡単に折れるかバカ」
王子のドラゴンソードが十メートルくらいの長さに伸びて、長老の心臓を貫いている。
どゆこと?
「このドラゴンソード、幻覚を見せることくらい朝飯前。さらに、長さは可変。最長百メートルまで伸びる。ライバック王家、なめんな!」
シュパン、と音を立てて、ドラゴンソードが元の大きさに戻る。
どさ、と音を立てて長老が倒れる。
死んだわね。ちーん。
「長老の仇!」
屈強なエルフがレイピアで斬りかかる。王子は巧みにかわす。
他のエルフが弓矢で王子を狙撃する。王子はそれもかわす。
「な、なんでだ……」「人間族とは思えない……」エルフが狼狽する声が聞こえる。
そうなのよ、あの王子、本当に人間離れしてんのよね。よっぽど、元の世界が過酷なんだろうけど。
レイピアとドラゴンソードの戦い。互角ね。
「おい、そこの人間!」
私?
「お前、あの男の仲間だな!」
ちょっとやばい展開ね。どうしよう。
「えーと、仲間でなく、捕まってひどい目に遭っていた捕虜です」
これで助からないかな?
「ふざけるなああ!」
あ、火に油を注いだみたい……。
エルフがささっと私の後ろにきて、私を羽交い締めにした。
「おい、そこの人間族の男! 大人しくしないと、この女を殺すぞ!」
「ごめーん、王子さん、捕まっちゃった」
私ってドジよねえ。
「いいぞ、殺せ」
え?
「その女、別に俺には関係ない。勝手に殺せ」
ちょ、なに?
「ちょっと王子さん! 私死んだら、あんた元の世界帰れないよ!」
「うるせー貧乳ブス。エルフの宝はないんだ。どうせ帰れねー。だからお前が死のうと犯されようと、俺には関係ねー。あ、エルフの皆さん、あいつやっちゃっていいよ。貧乳だけど」
王子が戦いながら叫んだ。
はあ? なに? 本当に人間のクズね! 最低!
「エルフはレディを辱めることはない!」
私を羽交い締めにしているエルフが答えた。
まあ、エルフって紳士だわぁ。
そのとき、死んだと思っていた長老がゆっくり起き上がった。
「貴様のような人間は、生きる価値なし!」
あ、長老、まだ生きていたのね。
「ふふふ、ワシは命を二つ持っているのじゃ。それゆえ……ぐはう!」
王子が再びドラゴンソードで長老の心臓を貫いた。王子と戦っていたエルフも、すでに絶命している。
「うぜーな、死に損ない」
やだ、かっこいい……んなわけない!
王子は二つのエルフの死体をまるで粗大ゴミのようにどけた。
「おい、エルフども。俺は今、最高に怒っている。なので、貴様らを滅ぼすことに決めた。悪く思うな」
なんかすごいこと言ってる……。
「お前らが一番苦手とするのは……オークだ」
へーそーなんだ。
「バトル・オーク部隊!」
王子が召喚魔法をかけた。あたり一帯に百人ほどのオークが現れた。
次々とエルフを襲う。
オークなんか呼べるの? 本当に人間?
「ねぇ、なんでオークなんか呼べるの?」
私は聞いてみた。
「このオークは人間に服従したオークだ。だから召喚できる。ていうか、お前の世界の人間弱すぎだぞ。じゃ、俺はエルフ殺してくるわ」
「へっへっへ、エルフの女はやはり具合がいいぜ!」「締まりが違うな!」あ、オークが女エルフを犯しているわ。
「や、やめてえ!」「いやあ!」「やめて、こどもが見てるの!」……うーん、ちょっと酷くない?
二時間後。エルフは全滅。王子はドラ太郎を召喚して、エルフの村を焼き払った。エルフの死体はドラ太郎が食べちゃった。
「で、どうする?」
王子が私に聞いた。
それはこっちのセリフよ!




