森の動物、焼死。
たった一人で、この世界のオークを絶滅に追いやった王子、グラハム・ターナー。
それを召喚したのは私、フレイア・ミリンダ。
私の願いは、私の身体を弄ぶだけ弄んで、婚約破棄したパウエル・コウジィを、巨乳女チチョリーヌから奪い返すこと。
だったんだけど、王子のあまりに割り切った残虐っぷりに、ちょっと心が動き出したの……。
と乙女ぶったところで、オークは帰ってこない。もうこの世からオークはいなくなったのね。諸行無常だわね。
私と王子はドラゴンのドラ太郎の背中に乗って、死霊の森へ向かっている。
ドラ太郎のスピードはものすごく早くて、もう、死霊の森が見えてきた。
「ねえ、王子さん。死霊の森に行くのはいいけど、死霊には火も剣も効かないわよ。あいつら、死霊だから」
「どういう意味だ?」
「だからね、この世に恨みを残して死んだ亡霊が、あの森で死霊となるのよ。きっと、あなたが殺した無数のオークの魂も、死霊になっているわ。物理攻撃は全く無意味。熱とか冷気も平気」
王子が首をかしげた。
「ふつうアンデッドには火が効くのだが……」
「だから、ここの死霊には効かないの」
むう、と言って、王子が考え込み出した。
「じゃ、どうやって倒すんだ?」
私は死霊の倒し方を教えてあげた。
死霊は聖職者による祈りで成仏させるしかない。だから、戦おうとせず、このお守りの塚らを信じて、お守りを握りしめ、頭上に掲げながら、歩くしかない。
「お守り?」
「そう、これよ」
私は村の聖職者様からもらったお守りを王子に見せた。綺麗なクリスタル出来た、星形のお守り。聖職者様のお祈りが込められている。
「これがあれば、死霊から私は守られる……はず」
とは言ったものの、聖職者様も死霊の森に行ったことないらしいんだよね。古い文献見て作ったらしんだけど。
「はっはっは、笑わせんな、娘よ」
「あ、また娘といった!」
「すまんすまん、フレイア。あのな、そんな微々たるホーリーパワーしか込められていないお守り、何の役にも立たんぞ。虫除けにもならん」
「どういうことよ」
王子は「我が下僕のゾンビ」とつぶやき、ゾンビを一体召喚した。
「あ、ども、ゾンビっす。王子様、久しぶりっす」
ゾンビが王子に礼をした。
「おう、真っ昼間から悪いな。太陽光大丈夫か?」
「短時間なら大丈夫っすよ。で、どうしたんすか? あの娘殺せばいいっす? それともゾンビにするですか?」
ゾンビが私を指さしていやらしい眼で見た。
ちょ、ちょっと、何? 王子気でも狂ったの? もともと狂ってそうな気もするけど。
「いや違う。ちょっとした実験だ。あの娘が手にしているクリスタルを受け取って、俺のところに盛ってきてくれ」
ゾンビは「わかりやした」といって、すたすた私の方に来た。
ゾンビのわりには歩くの早いわね。
「えーと娘さん、これ、ちょっと借りますよ?」
あっという間にゾンビが私の目の前に来た。
ひょい、とゾンビが私のお守りを奪い取った。
ゾンビはお守りを持って王子のところへ戻った。
「あ、これ、ちょっとだけ祈りが込められていますね。ちくちくしますわ」
王子にお守りを渡しながらゾンビが言った。
「ありがとう。もう帰っていいぞ」
「ありやとやんしたー」
ゾンビが消えた。
「な、そのお守り、普通のゾンビにすら全く効かない。お前、あっという間に死霊に殺されるぞ」
くそう、あの聖職者。これ、結構な金額払ったのよね。騙されたわ!
ゾンビが普通に触ってるじゃないのよ!
「じゃあ、どうしたらいいのよ」
「簡単だ。ドラゴンで上空からピラミッドに行けばいいんだ」
はあ、また説明か。
「あのね、ピラミッドは低層建築で、森の木々に阻まれて上空からは見えないの」
「なら、森を焼き払えばよい」
「ちょっと、それはやめてよ! 森には死霊だけでなく、小動物その他豊かな生態系があるのよ? 自然破壊だわ!」
「知るかそんなの」
王子は私を無視して、ドラゴンを召喚しはじめた。
一匹、二匹、三匹……どんどん増えていく。
「王子さん、何匹ドラゴン召喚するつもりなのよ?」
「ドラ太郎の兄妹親戚友達、あわせて百匹だ。ドラ太郎とあわせて、百一匹ドラゴン大集合てとこだな」
百一匹のドラゴンが森を覆い尽くした。
「よーし、みんな、森を焼き尽くすぞ! あんまり火力あげるなよ! 森の小動物はミディアムレアで食うからな!」
「グワァウ!」「クエエエ!」「ギャース!」
ドラゴン達が雄叫びを上げて、青白い炎をはき出した。
「えええええ!」
あっという間に、死霊の森が火の海に包まれた。ドラ太郎に乗っている私たちのところまで火の粉が飛んでくる。
「安全なところへ行くか」
王子と私は下へ降りて、王子が魔法で作った耐火シェードの中で待った。
ゴウゴウという火の音に混じって、動物たちのもだえ苦しむ声が聞こえて……、
その……、
すごーく、罪悪感があるんですけど!
ドラゴンたちは燃えさかる森の中へ行って、いい具合に焼けている小動物を食べ出した。
ドラ太郎が、いい具合に焼けた鹿を私たちに持って来てくれた。
「ウギャ?」
「おお、ドラ太郎、おすそ分けか、いいやつだなあ、お前」
えーと、嬉しいけど、ちょっと無理かも。
王子は短剣で鹿をさばいて食べだした。
よく食べられるわね。デリカシーとかないのかしら。
あ、でも、そこに魅かれる私がいる……。
だめよ、フレイア! こんなクズ王子、全然魅力ないから!
「おい、フレイア。お前も食べるか?」
「いえ、遠慮しとくわ……」
王子はバクバク鹿を食べた。
「あー満腹満腹。よし、ピラミッドはっと……。あ、あそこだな。よし、火が落ち着いたら行こう。おーいドラゴンたち、帰っていいぞ、ここからは歩くから」
ドラ太郎たちはすーっと消えて行った。
「おい、フレイア。意外にピラミッドは近そうだ。今日はこのままテント張って寝て、明日の朝ピラミッドに行こう」
「そ、そうね……」
そのとき、森の中から、地獄の底から叫ぶような声が聞こえた来た。
「恨みはらさでおくべきか!「恨めしやあ!」「憎い、あの王子が憎い!」「復讐してやる!」
あ、これ、死霊の叫びだ。
どうすんの、王子!
「ほほう、これは面白くなって来た!」
面白くないって!




